アズカバンの囚人編 34







はふぅ…とため息をこぼす
目の前の食事をフォークでつつきながらも口に運ぼうとはしない。
ここは大広間であり、今は食事の時間だ。
帰ることが出来る日まで、あと3日程。
シアンと話をしてから4日間、はふっきれていなかった。

分かってはいたんだけどな…。
自分で迷っていたりするから、ピクシー数匹を少しの間しか止めることが出来ない程度の力しかでないってこと。
油断と自惚れが大きくて、そして覚悟がほとんどできていないんだよね、私は。

はぁ〜ともう一つ大きなため息。
本の中の物語だという考えが全くないわけではない。
それがいけないのかもしれない。

でも、実際言われると思った以上にショックだったかも…。

自覚はしていたつもりだったのだ。
このままずるずるしていては駄目だということが…。
シアンに言われたことで、ふっきることが出来ればどんなに楽だろう。


?食べないの?」
「う〜ん…」


相変わらずフォークで目の前のものをつつくだけ。
そんな様子を呆れたように隣で見ているのはセウィル。
食事をしない様子ののフォークを取るように後ろから伸びた手があった。
さすがに持っていたものを取られてはっとする

「全く…一体何を悩んでいるんだい?その悩みが僕と離れるから寂しいっていうのならいいんだけどね」

顔を上げてみれば、セウィル同様呆れた表情のリドル。
だが、どこかからかうかのような口調だった。
は自分の後ろに立っているリドルにぽすんっと寄りかかる。

「色々複雑すぎて迷っているだけです…」

ぼぅっと前を見る
そこにはがらんっとしたホグワーツの大広間。

ってそうやって自分の中でぐるぐるしているのが駄目なんじゃないの?」
「そうだね。溜め込みすぎだよ、。別に僕らを頼ってもらっても構わないんだけどね」

あ、なんか、リドルの台詞。
ヴォルさんにも前に似たようなこと言われたことある気がする。

思わずくすりっと笑ってしまう。
同一人物と言えばそうなので似たようなことがあっても可笑しくはない。
でも、そんな共通点を見つけてちょっと懐かしくなる。

「この場所で話すのがまずいようなら移動するかい?」

カタンっとが持っていたフォークをテーブルに置くリドル。
後ろからの顔を覗き込むように見る。
はリドルの顔を見る。
ヴォルにそっくりなリドルの顔と声。
今は、その表情までも似てきている。

「あんまり優しくしないでください、リドル先輩」

悲しげな笑みを浮かべる
ヴォルとは違うリドル。
でも全く違うわけでもなく…同じような存在でもある。

「どうしてだい?」
「だって…貴方に頼ってしまいそうになります」
「僕はそれで構わないよ。短い間だけれども、それがの助けになれるならね」

短い間。
そう、リドルと一緒にいられる時間は本当にあと少しだろう。

「僕はここにいて欲しいって思うけれど、は帰るんだろう?」
「そうですね…」

自分からリドルの側にいると言った癖に、は結局は元の時代に戻る。
再び気分が沈みこみそうだったの耳に、ぱんっと大きな音が聞こえる。
びくっと音のした方を見てみれば、セウィルがにっこり笑みを浮かべて手を合わせていた。
先ほどの音はセウィルが手を勢いよく合わせた音なのだろう。

「暗くなるような話はやめましょう。僕、のことを色々知りたいな。だって、、未来に戻ったら会いに来てくれるんだよね?僕のことも知ってほしいし」
「それじゃあ、談話室に戻ろうか」
「いいえ、リドル先輩。天気がいいことですし外に行きましょうよ」

大広間からわずかに見える外の空は明るい。
天気もいいし、何よりも今のホグワーツには人が少ないから人目を気にすることもないだろう。
外に目を向けたをセウィルが引っ張る。

「さぁ、行こう!って飛行術は得意?」
は?え…?飛行…?」

腕をひっぱられ、外へと向かわされる
の隣をリドルがゆっくりと歩く。
セウィルが先導するように前を歩いている。

「ぼ、僕は…箒で飛べないんだけど、セウィル君」
「あ、そうなの?それじゃあ、リドル先輩」
「そうだね、僕の前に乗るといいよ」
「………なんで前なんですか?」

普通後ろだろう。

「だって、ってどっか危なっかしくて…」
「後ろに乗っていたら落ちそうだからね」

セウィルとリドルは気が合ったように言った。
まさかここに来てまで言われるとは思ってなかった。
以前もヴォルの箒に載せてもらう時は前に乗れと言われたのだ。
後ろに乗っていたら落ちそうだから…という理由で。

なんか…やっぱりリドルはヴォルさんになるんだな…。




ホグワーツ城を出て、箒で飛ぶこと数分。
箒は魔法で呼び寄せた。
セウィルとリドルの勧めではリドルの前に乗って移動である。
箒に乗る気分は悪くない。
風をきって飛ぶとやっぱり気持ちのいいものだと思う。
は相変わらず授業では飛べない状態でほとんど見学であったから…。

箒から降りた場所は、ホグワーツを見渡せる小さな丘だった。
ここまで歩いてくるのは大変だろう。
ホグワーツを見渡せるだけあって、高度は高め、でもそれほど離れていない。
来るとしたら箒で来るのが一番安全だろう場所だ。


「すごい…」


思わず感嘆の声が出る
ホグワーツ城とその目の前に広がる大きな湖、そして禁じられた森。
全てが一斉に見渡せる。

「この景色の雄大さを見ると、意外と悩みも吹っ切れるものだよ、
「僕もリドル先輩も、何か嫌なことがあったり悩んだりすると結構ここに来るんだ」

は驚いたように二人を見る。
心配してくれていたのだろう。
そんな気遣いに照れたような笑みを返した。
この二人と一緒にいる時間も多くはないのだから、色々話をしよう。

「そうだね…。悩んでいても悩んでいても変わらないものは変わらない。これは自分で納得して、自分で整理をつけていかなきゃならないことだから」

迷いが大きいとか。
まだ想いが弱くて力が発揮できないとか。
少しずつ考えて、自分でどうすればいいか結論出して…出来るだけ後悔しない選択をしていけばいい。
起きてしまった過去の出来事は、きっと…変える事は出来ないだろうから…。

「悩むようなら僕が未来でも相談にのるよ。ま、僕が生きていれば〜の話だけどね」
「セウィル君…そんな縁起の悪いことを…」
「だってこれは事実だよ、。君がそれを持っているんだからね。僕はリドル先輩の元から動くつもりはないし」

セウィルはの右耳を指差す。
悲壮感は見られない、事実をごく当たり前に受け止めているようだ。

「じゃあ、僕が見事がいる時代までに生きていられたら……」
生きていられたらじゃないよ、生きていてよ!
「え〜、だって、がいる時代に僕が五体満足でいたら、それってその僕は”今の僕”を裏切っているってことになるんだよ〜。そんなの嫌だからね」

リドルに忠誠を近い裏切らないと決めている今のセウィル。
の時代にセウィルが普通に暮らしているのならば、それはリドルを裏切ったことに繋がる。
それは分かっていても生きていて欲しいと思う。

「それなら、セウィル君がいるところはアズカバンだろうね」
「何でアズカバン…?」
「だって、ヴォルデモート卿を裏切らなかった人たちは皆そこにいるから…」

シリウスを脱獄させるために一度行ったアズカバン。
もしかしたらセウィルはそこにいたかもしれない。
その時、セウィルのことを知らなかったには分からない。
厳重な警備のアズカバンだが、忍び込むことは出来るだろう。

「じゃあ、。会いに来てねv」
「……アズカバンに?」
「うん」

笑顔で即答である。
よくも平気でアズカバンに会いに来いと言えるものだと思う。
それでも…。


「いいよ」


軽くため息をつきながらも了承する
そんなに難しいことじゃない。
吸魂鬼(ディメンダー)の影響さえ受けなければ、アズカバンはそうそう厳重な場所ではないのだ。

「アズカバンにいても、どこにいても…セウィル君が生きているなら会いに行くよ。ただ、時期はクリスマス休暇かイースター休暇にならないと無理だけ……うぁ?!セウィル君?!

突然抱きしめられた。
とセウィルでは、セウィルの方が少し背が高い。
抱きしめられているというよりも抱きつかれているという方が正しいだろうか。
はこの状況に困ったようにリドルへと視線を向ける。

「本当に君は欲しい言葉を惜しみなく言うんだね」
「いや、あの…それはいいんですけど、助けてください、リドル先輩」
「それは無理かな?セウィルは細いようだけど結構力あるからね。魔法でセウィルを吹っ飛ばしていいならやるけど?」
それは駄目です!!

そんな方法は却下。
となるとしばらくこのままで、セウィルが満足するまで待っていなければならないということだろう。

「でも、
「…なんですか」

はぁ〜とため息をついて、リドルの言葉に答える。

「悩みがあれば、僕だってセウィル同様いつでも相談にのるよ?」

未来でも今でもね。
にっこりとリドルは笑みを浮かべる。
相談にのってくれるその気持ちは嬉しい…嬉しいのだが…。
ヴォルの性格がある為かどうも…。

「未来でリドル先輩に相談……」

未来のリドルとなると、ヴォルデモート卿かヴォルだろう。
ヴォルデモート卿はとてもじゃないが相談なんて出来る状態ではない。
となるとヴォル。

「なんか、借りを作ると後が怖いんだけど…」

ぽそっと呟く
真剣な悩みなら聞いてくれそうだが、忘れた頃にそういえば…と言って何か要求してきそうな気がするのだ。
最も、無茶なことは言ってこないだろうが…。