アズカバンの囚人編 32
ダンブルドアの部屋で、ダンブルドアを交えてシアンと話をするという。
森にいた合成獣たちはそのままで平気なのだろうか…と思いつつも、はシアンと話をするのが楽しみだった。
話し合うのはが元の時代に返るためことについてなのだが…、時間があれば是非他の話も聞きたい。
「改めまして…。初めまして、シアンさん。=と言います」
ぺこりっと頭を下げる。
お辞儀はもはや日本人の習慣である。
イギリス人からみればおかしいのだろうがこればっかりは仕方がない。
「こちらも初めまして…というべきなのかしら?。シアン=レイブンクローよ、そして……貴方からは先代に当たるわね」
悲しげな笑みを浮かべるシアン。
も曖昧な笑みを浮かべる。
複雑な心境だ。
「時の代行者」が同じ時代に2人以上現れることは決してない。
それは、世界の混乱を招くことにつながりかねないからだ。
「アルバスからは話を少し聞いているわ。でも、驚いたわ。…先の未来でもこの時代と似たような状況が起こってしまうのね…」
「まだ、僕がいた時代はそこまで酷くなっていませんが…、これから酷くなっていくのではないかと…思っています」
まだヴォルデモートが蘇っていない。
グリンデルバルドが健在のこの時代よりもましだろう。
「シアン、まずは『カナリアの小屋』について話してくれんかの?その後の話はわしは席を外した方が良いじゃろう?」
「ええ、そうね…。それじゃあ、まずは座ってお茶でも飲みながらお話しましょうか?アルバス、緑茶はあるかしら?」
「勿論あるぞい」
何故に緑茶…?
の疑問など気にしないかのように、ダンブルドアは杖をさっと振る。
すると湯飲みに入った暖かいお茶が3つ。
ご丁寧にお茶菓子の羊羹付である。
「ふふ、最近ジャパンのお茶に凝っているのよ。お茶とお茶菓子がとても美味しいでしょう?」
「なかなかに種類が沢山あっての…、いろいろ楽しめて味も良いんじゃ」
和やかに会話するシアンとダンブルドア。
のいる時代でも、ダンブルドアは何故か日本茶を好んでいた。
まさか50年間ずっと飽きずに日本茶を飲んでいたのだろうか…?
だが、この疑問は今回の件に全く関係ないので気にしないことにする。
「それで、『カナリアの小屋』のことだけれどもね。昨日見させてもらったわ」
湯飲みのお茶を一口含んでからシアンは話し出す。
「その前に、あなたは自分の力のこと、『時の代行者』のこと、どれだけ自覚している?」
「え…?」
突然話題が飛ぶ。
先ほどダンブルドアが『カナリアの小屋』についてのことを…と言ったばかりなのに。
の戸惑いを汲み取ったかのように、シアンは苦笑する。
「ごめんなさいね、話が飛んでしまって。でも、これも関係があることかもしれないのよ。確かに『カナリアの小屋』には「時」の力が宿っている。でもそれは、過去の映像やこれから起こるかもしれない未来の映像を浮かばせるだけ…もしくはほんのわずか過去や未来へ転移できるという程度ものなの」
確かに『カナリアの小屋』には時の力が加わっているが、本来ならば50年以上も前の時を移動する力などないと言う。
がこうして50年程前の今の時代に来てしまったのは、他の要因があると言いたいのだろう。
「そして、いろいろな魔法使いに気になる所を調査してもらった結果。『カナリアの小屋』の「時」の力には波があるの。ちょうど未来に向かう波が、の時代では過去に向かう波と重なったからここに飛ばされてきたんじゃないかって思っているわ」
の時代の『カナリアの小屋』では丁度「時」の魔法の波が過去に向かっているものだった。
今のこの時代の『カナリアの小屋』では「時」の魔法の波が未来に向かっているものだった。
それが重なり合ってはここに飛ばされてしまったのだろう。
「結論から言うと、貴方が帰る事は十分可能よ。ただ、その「時」の力の波が、未来に向かっているときでないと駄目だから…、そうね、あと1週間後くらいかしら…?」
あと1週間後に、「時」の波が未来に向かうと言うことらしい。
「ただ、『カナリアの小屋』には50年もの時を超える力がないわ。だから、、貴方に聞きたいの。貴方は「時の代行者」をどれだけ自覚しているの?」
本来ならばありえなかった過去へ飛んだこと。
それはが「時の代行者」であることと関係があるとシアンは言いたいのだろう。
がどれだけ自覚しているか、それが分からないことには説明も変わってくるだろうから。
は自分の中で少し考える。
知っていることははじめに与えられた知識と、シアンに教えてもらったこと、ダンブルドアに教えてもらったこと。
「魔法が効かない体質、魔法とは別の力。わずかながらも未来を知っていること、その未来は最良の未来だから、その未来へと導かなければならないこと」
魔力がない故、直接的な魔法は効かない。
魔法とは別の言霊の力がある。
シアンは夢で知ったと言う未来、が知ったのは元の世界で本を読んでいたからなのだが…これから起こりうるだろう事を知っていること。
その未来は最良の未来であり、出る犠牲もあるべくしてあるもので、最小限の犠牲ですむ最良の未来だということ。
「あとは…『闇の人形(デス・ドール)』という魔法だけは何故か効果があること、です」
ダンブルドアに教えてもらった。
『闇の人形』は、今目の前にいる彼女、シアンを殺すためにグリンデルバルドが作り出したものだと。
の言葉に、シアンは真剣な表情をする。
「それならば、私が知っていることを全て教えるわ。貴方はまだ知らないことがある」
が知らなくてシアンが知っていること。
それはシアンが「時の代行者」として自分で学んできたことなのかもしれない。
彼女はそれを教えてくれるというのだ。
でもそれは…、この先厳しい時を迎えるには必要だと思っているからなのだろう。
「シアン、わしは席をはずした方がよいかの?」
「いいえ、アルバス、貴方はここにて頂戴。未来で…貴方にはの助けになって欲しいから…事情を知っておいて欲しいの。…勝手な望みでごめんなさい」
悲しげな笑みを浮かべるシアンにダンブルドアは首をゆっくり横に振る。
そんなことはないと。
ダンブルドアの僅かに悲しげな様子から、すでにこの時にはシアンは『闇の人形』の魔法の影響によって長く生きられないと分かっているのかもしれないと思った。
全ての決着がつくのはおそらくあと少しなのだから…。
シアンは「時の代行者」について話し出す。
が知っていることは説明を省くつもりだったので、その為にどこまで知っているかを聞いたようだ。
「あたしたち時の代行者には役目があるわ。その役目を果たすための力、これは言葉に力を込めてそれを成すことができるもの。「力」と「魔力」はどちらも同じ力、魔力を利用して何かを成す事も可能よ。そう、、今の貴方がやっているようにね」
にこりっと笑みを浮かべるシアン。
どうやらのこの姿が偽りのものだと見抜かれていたようだ。
の右手にはまった銀の指輪を見れば分かるだろう。
この指輪はシアンも持っているはずなのだから…。
「魔法界ですごしていく為には時には「魔力」も必要になるからこそ、世界はそれをあたしたちに与えたのだと思うの。あたしも十分に活用させてもらっているわ、使い方は貴方と似たような感じだけれどね。長期間のどこかへの潜伏には丁度いいのよね」
「力」で姿を維持し続けることができないわけではない。
でも、その場合は常に気を張って、その姿を維持し続けることを自覚していなければならないのでかなり負担がかかる。
外部からの力を借りれば、自分で維持し続ける必要はない。
その外部の力を「魔力」として、姿を長期間維持し続けることができるようになる。
「魔力の宿る指輪、そして未来を知っていること。これに関しては特に情報を付け加えることはないわ。ただ…力について、いくつか。『闇の人形』という魔法があたし達には効くということは知っているのよね」
「はい」
「それじゃあ、その魔法はグリンデルバルドがあたしを殺すために作り出したってことは…?」
「知っています、ダンブルドアから聞きましたから」
あら…と、シアンは少し驚いたような視線をダンブルドアに向ける。
ダンブルドアはそれに優しげな笑みを返すだけだった。
未来の自分が言うことなのだろうが、今のダンブルドアにもどうしてそれを言ったか分かるのかもしれない。
「魔力のないあたし達には、魔力を使用した魔法は効かないはず…。でも例外があるのよ」
「例外…ですか?」
「魔法使いの使う魔法全てが魔力によるものではないのよ、。それでも魔力以外の力は一つしかないのだけれども…」
「魔力以外の力……それって…!」
一つだけある魔力以外の力。
それは時の代行者が使う「言霊の力」。
ダンブルドアが以前言っていた様な気がする。
この力は魔力と反発するものだが、魔法使いには決して使えないわけではない、と。
「そうよ、あたし達が使う「言霊の力」。この力は正確に言えば「時」の力というの、」
「「時」の力ですか…?」
「ええ、あたし達が「時の代行者」と呼ばれるのもそれが理由だからでもあるわ。「言霊の力」は全て「時」が私たちの意志を汲み取って力としてくれているの。魔力がある魔法使いにとっては魔力が邪魔をしてその意思を「時」に伝えにくい、そして、魔力自体はその「時」と反発しようとするから魔法使いには使えないと言われているの」
「時」は全てであり世界でもある。
その世界の代行を務めるのが「時の代行者」
時の代行をするから、そして「時」の力を使いこなすことができるから…シアンやは「時の代行者」と言われる。
「にも何度か経験はあるでしょうけど、転移魔法、時間移動の魔法は貴方には効くでしょう?」
「え?あ…そういえば…」
転移魔法で心当たりがあるのはフルーパウダー。
何度か使用しているが、これに関しては普通の魔法使いと同じように使える。
最もはフルーパウダーでの移動は嫌いなのでめったなことでは使わないが…。
もう一つは、ジェームズ達と会った時代に飛んだこと。
ジェームズは自分達のいる時代に招く「魔法」をかけたと言っていたのだ。
「あたし達が使う言霊の「時の力」と魔力が必ずしも反発するわけではないということよ。転移や時間移動の魔法は全て「時の力」が加わっているわ。そして…グリンデルバルドはそこに目をつけた」
「だから…」
「ええ、だから『闇の人形』はあたし達にも効くのよ。通常の効果は現れることはないけれど、無理に力を消し去ることもできない。あの魔法は「時の魔法」と魔力を組み合わせたものなの。使う方にもいろいろ条件がつくからかなり難しい魔法であって、解除するのには魔力のみで十分だって言うのが救いね」
だが、それをヴォルデモート卿は使っていた。
それだけ彼の魔法使いとしての実力が高い証拠なのだろうが…。
そして、『闇の人形』が「時の代行者」に効くと、シアンはその身をもって学んだ。
それゆえに長く生きられない体になってしまっているはずだ。
「話が少し逸れたわね…、そう『カナリアの小屋』の話だったわね。貴方が未来のあの場所でどんな状況になっていたのかは分からないけれども、あの場を離れたいと強く思わなかった?」
「…思いました」
幻だと分かっていても、自分を責め続ける親しい人たち。
彼らの言葉は何よりも痛かった。
もう聞きたくないと、ここにはいたくないと思った。
「「時の力」は意思の力よ、。貴方のその思いが強かったから『カナリアの小屋』の時の力が増幅されたの。だから、貴方はここにいる」
がいた場所では過去に向かっていた力、それを自身の力で増幅してしまった。
その力の行き先が、丁度この時代だったということなのだろう。
「帰る方法はただ一つ、力が未来へと向いたときに貴方が元の時代に帰りたいと強く願うこと。ただそれだけよ…」
シアンのその声は静かに部屋の中に響いた。
戻るためにはのその力と想い次第である。