アズカバンの囚人編 31
シアンがまず始めにしたことは、リドルの魔法によって燃え広がろうとしていた炎を止める事だった。
ぱちんっとシアンが指を鳴らせば、炎は嘘のように掻き消える。
まるで最初から炎の存在などなかったかのように…。
それにリドルはやはり驚いた表情を見せる。
は、指を鳴らす直前にシアンが何か小さく呟いたのが聞こえた為にそう驚きはしなかった。
だが、あれだけの炎を一気に消し、なおかつファンダールと対峙しても傷一つないのは、彼女の方が力を使い慣れているからか、想いの強さからか…。
「誰…ですか?」
リドルはシアンを見て警戒する。
突然現れた自分の知らない力を使う女性を警戒するのは当たり前だろう。
はシアンが先代…この時代の時の代行者であり、信用に値しする人物であることを知っているから警戒はないのだが…。
「そう警戒しないで欲しいね、あたしは怪しいものじゃない。アルバスから言われて来ただけよ」
苦笑しながらリドルを見るシアン。
「リドル先輩、彼女は「時」の専門家の人ですよ」
「でも、さっきの魔法は…」
「あれはちょっと特殊な力なんですよ。…ですよね?」
最後の言葉はシアンに向けたものだ。
リドルに対して詳しく説明するつもりはにはない。
の問いにシアンは苦笑しただけ。
「詳しい話は明日ということになっているわ。今日は2人ともゆっくり休みなさい、城まで送るわ」
あたりは薄暗い。
グリンデルバルドの合成獣や先ほどのファンダールなどがまだいるかもしれないのだ。
「あ、でも…セウィル君が…」
はセウィルがまだリドルを探しているかもしれないと思った。
別方向に分かれて探していてが、はリドルのいるほうにたまたま来た。
リドルを見つけられないセウィルはまだ探しているのではないのだろうか…?
「もう1人城の外をうろうろしていた少年なら、先に城に帰らせたわ。随分と警戒されたけれどね…」
シアンの言葉にほっとする。
無事ならばいい。
合成獣ならともかく、魔法が効かないファンダールと対峙などしたら…と思うとセウィルのことが心配だったのだ。
とリドルはそのままシアンに城まで送ってもらった。
また、明日…と別れたシアンの姿をはずっと見ていた。
自分とは違う先代の時の代行者。
力の使い方も、想いの強さもきっと違うのだろう…と思ってしまう。
私は、シアンさんほど上手く力は使えてない…。
スリザリンの談話室でセウィルが1人待っていたようだ。
とリドルの姿を見つけて、ぱっと嬉しそうな表情になる。
「よかった、がリドル先輩を見つけたんですね。思ったよりも変なのがうようよしているから、流石のリドル先輩も機嫌悪くなっちゃうんじゃないかって思っていたんです」
どこかズレたようなセウィルの言葉。
心配だったのはリドルの機嫌だけなのだろうか…。
突っ込みたい気分だったが、「そうだよ」とあっさり肯定されたらちょっと怖い気がするのでやめておく。
「ああ、セウィル。今日、は僕の部屋で寝ることになったから」
「そうなんですか?寝具とかは平気ですか?」
「大丈夫だよ、僕の予備があるしね。魔法を使えばサイズをあわせることも簡単だよ」
「それなら大丈夫ですね」
にこっと笑みを見せるセウィル。
「って、ちょっと待ってください!どうしてそんな話になっているんですか?リドル先輩!」
いつそんな話題がでたのだろう。
慌てる。
「側にいてくれるって言ったのは嘘だったのかい?」
「そ、それはそういう意味で言ったわけではないです!」
「けれど、ずっとセウィルと一緒の部屋だったんだから、今日は僕の部屋でも構わないだろう?」
構いまくりです!!
どうしてそんな方向に進むの?!
そういうとこ…ヴォルさんそっくり!
「大丈夫だよ、。リドル先輩は紳士的だから、初めての夜からそんな酷いことはしないよ。」
「セウィル君!何勘違い発言してるの?!」
「え?違うの?そういう意味で言っていたんじゃないの?」
「違うよ!!」
とんでもないセウィルの発言に取り合えず思いっきり否定しておく。
このまま行くと話しがとんでもないことになりそうだ。
ここは突っ込まずに素直に今日はリドルの部屋にお世話になるべきなのだろう。
「僕だってといろいろ話しとかしたいのに〜。リドル先輩だから仕方ないけど…、ってずっとここにいるわけじゃないんでしょう?」
「うん…そうだけど…」
「だから、がいるうちに色々話したいことあるのに…」
「あ、でも、今日明日すぐにいなくなるわけじゃない…と思うよ?」
少し寂しげなセウィルに、は少し慌ててそう言う。
そんなをじっと見るセウィル。
「って、それもそうだね。何よりのネクタイとローブ、僕が持ってるし。」
寂しげな表情などまったく見せない笑顔になるセウィル。
「やっぱり、ネクタイとローブ隠したのってセウィル君だったんだね…」
「勿論だよ!!だってその方が面白そうだし」
「面白そうって…ちゃんと後で返してよね」
「え?記念にもらっちゃ駄目?」
「何の記念なの?!何の?!僕は裕福じゃないから、返してももらわないと困るの!」
ネクタイとローブが一つずつしかないわけではない。
予備もあるし、一つ無くなっても支障はない。
けれども、制服、教科書はじめ、学生生活で使用するもの全てはが自分で稼いだお金で買ったもの。
今でこそ金銭的に余裕はあるものの、無駄遣いはしたくないものである。
「漫才はいいから、部屋に戻るよ、」
呆れたようなリドルの声。
「漫才って何ですか!僕は漫才なんてしてませんよ!」
いや、もはやとセウィルの会話は漫才もどきである。
本人それに全く気がついていないようだが…。
少しむっとしながらも、部屋に向かうリドルについていく。
何だかんだといいながら、今日はリドルの部屋への泊り込みは認めてしまっているようである。
談話室に残されたセウィルは、困ったような悲しげな笑みを浮かべていたのだった。
7年生ともなると1人部屋が与えられることもあるそうである。
リドルは監督生ともあって、1人部屋らしい。
だが、1人部屋ということは、ベッドは勿論一つ。
セウィルの部屋に居候されてもらった時は、他の人のベッドを使わせてもらった。
「あ、あの…、リドル先輩。僕は床で寝ればいいんでしょうか…?」
与えらたパジャマの大きさは、リドルが魔法で直してくれた。
それでも少し大きめだが、それは仕方ないだろう。
「僕がを床で寝かせるわけ無いだろう?」
この時期床で寝るには少し寒い。
この時代の季節は真冬だ。
魔法で暖を取っているといっても、石の床は寒いだろう。
「このベッドはそんな狭くないからね。一緒に寝ても不都合は無いはずだよ」
「へ…?」
一緒に…?
「大丈夫、そんな変なことをするつもりはないよ」
くすくすっと笑うリドル。
そうは言われても抵抗がある。
迷っている様子のをリドルはぐいっと引っ張りベッドに押し込む。
「え?リドル先輩?!」
ぼすんっとベッドに押し倒される。
そのままリドルもの隣にもぐりこむ。
「とりあえず、のその眼鏡は邪魔だね」
普段何気にかけている眼鏡だが、それをひょいっとリドルに取られる。
確かに寝るときには邪魔だが…。
リドルは本当に別段何をするわけでもなく、ベッドの中でと向き合う。
少しドキドキしていた自分が自意識過剰だったんだと恥ずかしくなる。
普段のヴォルの行動があれなので、どうしてもこういう場面では警戒心が出てしまうのだ。
「ねぇ、」
「な、なんでしょう?」
思わずどもってしまう。
その様子にくすくす笑うリドル。
「本当に何もしないよ。そうやって警戒する方が誘っているように見えるから気をつけたほうがいい」
「さそ…?!」
そんなつもりは断じてない!
もう、とにかく寝よう。
余計なことを考えない方がいい。
反論はせずには眠ることにする。
目を閉じて、しばらくそのままじっとしている。
「…?眠ったのかい?」
大人しくなったにリドルが呼びかけてくる。
答えるべきか答えないべきか迷う。
が迷っているうちにリドルは、を引き寄せ抱きしめた。
危うく声が出そうになるがなんとか堪える。
って、何で抱きしめるのー?!
何もしないんじゃなかったの?!
その前に別に寝たフリなどはしなくても構わないのだが…。
なんとなく、実は起きてました…と言い難くなってしまう。
「側にいてくれると言ってくれたのは嬉しかったよ、。でも、君は僕を知らない。僕が今まで何をして、これから何をしようとしているのか…分かってその言葉を言ってくれたのかい…?」
セウィルは全てを知っていて、尚且つリドルに従おうとしていた。
だが、は未来からひょっこり現れただけの存在だ。
ヴォルデモート卿=リドルとは知っているかもしれない。
「本当の僕を知った時、君は離れていったりしないかい…?」
その声に込められた感情には悲しくなった。
側に居るといったの言葉を信じ切れていない。
それは、自分のしたことが受け入れるものではないと分かっているから。
でも、は知っている。
ヴォルデモート卿は多くの魔法使いを死に至らしめた。
そして、闇の陣営の者にやられた多くの魔法使い達は未だに病院にいることも。
その中にハリーの両親であるジェームズとリリーも含まれ、ネビルの両親であるフランクとアリスも含まれる。
どちらもグリフィンドール寮のルームメイトだが、リドルを憎むことはには出来ない。
「離れることなんてできませんよ…」
寂しそうなリドルからどうして離れることができるだろう。
はぎゅっとリドルの腕を握る。
「…?」
の顔はリドルの胸辺りにあるのでリドルからは見えない。
「知っているんです。ヴォルデモート卿が何をしたかも、これから何をしようとしているのかも。でも、僕はリドル先輩の側にいたいと思っているんです。ルームメイトにこれを言ったら絶対に嫌われちゃいますけどね」
ハリー達とヴォルやリドルを両天秤にかけることはできない。
ハリーのことは命を懸けて守ることは決めている。
でも、リドルの側にはいたいと同時に思う。
多くの迷いがにはある。
「ルームメイト?グリフィンドールのかい?」
「勿論グリフィンドールのですよ。僕の友人達は、ヴォルデモート卿が嫌いですからね」
困ったような笑みを浮かべる。
あれは嫌いというレベルではないだろうが…。
「側にいるって、僕は言ったでしょう?貴方の側にいますよ」
この言葉を撤回する気はない。
たとえ役目があっても、側にいることはできると思うから…。
感じるリドルのぬくもりは、ヴォルのと全く同じ。
それは勿論同一人物だからだろうけれども。
貴方という存在を悲しませたくないと思うから…。