アズカバンの囚人編 26
スリザリン寮で就寝。
しかし、朝起きてみれば何故か、ネクタイとローブがなかった。
寝巻きはセウィルのものを借りて…サイズがあまり変わらないことから彼も小柄な方なのだろう…なんとかなっている。
ズボンを履き、シャツを着てそこでストップしてしまう。
いつもならばここからネクタイ、ローブと着ていくのだが…。
冬の寒い日ならば上にセーターなども着る。
「はい、」
着替えが途中でストップしていたの前に差し出されたのはスリザリンのネクタイとローブ。
にっこり笑顔でセウィルが差し出してくる。
「あの…セウィル君?それってスリザリンの…」
「うん、そうだよ。スリザリンの中にグリフィンドールの制服じゃ目立つでしょ?ネクタイとローブくらいは変えよう」
「いや、あの…」
「大丈夫、大丈夫!これ僕のだし、僕は予備が結構沢山あるからさ」
「そういう問題じゃなくて…」
しかし、ネクタイはともかくとしてローブがないのは今の時期つらい。
がいた元の時代はまだ夏の後半だった為、ローブがなくても良かったが、ここは今冬真っ只中である。
セーターもなし、ローブもなし、ではかなり寒い。
「ああ、もう!いいから着る!朝食に遅れるよ!」
くいっとスリザリンのネクタイを首にひっかけられ、ローブを肩にばさっと掛けられる。
そのままぐいっと右腕を引っ張られ、をつれて部屋を出るセウィル。
引っ張られている状態ではローブがずり落ちそうなので、とりあえず左腕を通す。
それを見逃さないセウィルは、の右腕から左腕に持ち替る。
つまり、もう片方の腕もきちんとローブを通せと言うことなのだろう。
軽くため息をつきながら、はスリザリンのローブを着ることになってしまったのであった。
大広間にいた生徒達は極僅かだ。
グリフィンドール生は一人もいない。
ハッフルパフもレイブンクローも2〜3人くらいだ。
スリザリンのテーブルには、昨日談話室にいたメンバーくらいしかいない。
クリスマス休暇中とはいえ、これは少なすぎではないのだろうか…?
それともこの時代はこれが普通なのか。
「おはようございます、先輩方」
にっこり挨拶するのはセウィル。
は肩に引っかかっただけのネクタイをどうするか悩み中である。
一応視線が向けられたので軽く会釈はする。
だが、ケルトとミストにはぎろりっと睨まれる。
「何やっているんだい、?」
ネクタイをどうするか考えていたに呆れたようなリドルの声。
軽くため息をついて、座っていた場所から立ち上がり、の後ろに回る。
「は?え…?あの…?」
「まさか、ネクタイを結べないわけじゃないだろうに…」
「え?ちょっと…あの?」
両肩の後ろからリドルの手が伸びてくる。
の肩にかかったままのネクタイを器用にしゅるしゅるっと結ぶ。
あっという間にスリザリンのネクタイが結ばる。
「さすが、リドル先輩です!手際いいですよね。ってば、スリザリンのネクタイするの嫌がっていたんですよ」
「そうのかい?でも、流石に大広間できちんとネクタイを締めないのはまずいだろう、?」
セウィルの言葉に後ろから顔を覗きこむように言うリドル。
この体勢で顔を覗きこむような仕草をしないでほしい。
顔が近くなる。
しかし……。
リドルってこんな感じだったっけ…?
としては、マグル出身が嫌いなリドルには結構邪険に扱われると思っていたのだ。
確かに目は笑ってないし、本心から親切にしているわけではないことは分かる。
表面上だけでもこう接するほどの優等生だったのだろうか。
「どうしたんだい?。聞きたいことでもあるのかい?」
「い、いえ!何でもありません!ネクタイありがとうございます」
ばっとリドルの側から離れる。
顔立ちが同じなのに、態度が全然違うのが違和感がある。
ヴォルはそっけないけどもっと優しい。
ヴォルと比べるわけではないが、仮面優等生で接されるとどうにも可笑しくなってしまう。
いっその事、本性丸出しで思いっきり見下して接してもらった方が気が楽だ。
とりあえずは朝食だ。
セウィルはリドルの隣に、はそのセウィルの隣に座る。
そこでハタと気付く。
ここには箸がない。
なんとか、ナイフとフォークで頑張るしかないのか…。
軽くため息をつく。
朝食なので軽くパンとジュースだけでも良いだろう。
はオレンジジュースを取る。
「そういえば、リドル先輩。から昨日いろいろ聞いたんですよ」
「へぇ〜、何をだい?そういえば、セウィルがグリフィンドール生を気に入るなんて珍しいね」
「そうなんですよ!僕自身も結構意外に思うんですけど、って面白くて…!それにって元の時代ではスリザリン生にモテモテなんだそうですよ」
「…ごほっ!!」
セウィルの言葉に口に含んでいたオレンジジュースを噴出しそうになる。
なんとか堪えてむせるだけに耐える。
「けほっ……話を曲解しないでよ!セウィル君!モテモテじゃないってば!スリザリンの友人がいるって話をしただけでしょ?!」
「あれ?そうなの?だって、あんな話題だしたからてっきり純血一族の人たちにモテているのかと思ったんだけど…」
「モテてない、モテてない!あれは、普通に玩具として楽しんでいるだけだってば」
「それをモテてるって言うと思うよ」
「言わないって!」
話を変な方向に持っていかないでくれ…。
少し離れた席にいるケルトとミストの睨む視線を感じてしまう。
純血一族がマグル出身を気に入るなどありえないとでも思っているのだろう。
「へぇ〜、ってスリザリン生に気に入られているみたいだね」
「だから違いますってば!リドル先輩。セウィル君の事を鵜呑みにしないで下さいよ!」
「でも、セウィルのそういう洞察力って外れたことないんだよね。自分で気付いていないだけで、やっぱりは気に入られているんじゃないのかな?」
「昨日のあの会話だけで状況も見ていないのに洞察もなにもあったもんじゃないです。見当違いです!」
リドルに対してきっぱり言い切る。
何故こうまでして否定するかと言えば…、学生時代のリドルの記憶は全てヴォルが引き継いでいるからだ。
ヴォルさんに知られてないことだってあるわけだし、それがバレたら絶対に後で何か言われる!
その前にこの時代でバレてしまうことは、が元の時代に戻らなくてもすでにヴォルは知っていると言うことなのだが…。
はそれに気付かない。
「それだけムキになって否定するところが怪しい……」
「まぜっかえさないでよ、セウィル君。それに、純血一族が僕みたいな『穢れた血』を気に入るなんて、ケルト先輩とミスト先輩が嫌がるよ?」
「そうかな?」
「そうだよ。現に今、すっごい睨まれているし…」
ちらっとは2人の方に視線を向ける。
まさに憤慨しているという表現が相応しいだろう。
「そうかな……?」
そんな2人の様子を見ながらもセウィルはの意見に同意できないようである。
「なら平気な気がするんだけど…」
「どこをどうしたらそんな結論が出るのさ」
「僕がを気に入ったから。」
それじゃあ、セウィル君が気に入った相手なら血なんて関係ないの?
とは突っ込んでみたかった。
だが、そうそう話ばかりもしていられない。
とりあえず本格的な朝食に取り掛かることにする。
「あれ…?、その耳……」
パンを口に入れようとしたにセウィルが何か気付いたような声を出す。
僅かに驚いたようにすっとの右耳に手を伸ばす。
そのまま髪を掻き揚げて、の右耳をじっと見る。
「セ、セウィル君…?」
一体何なのだろう…?
「のその右耳のピアスって…」
「へ?ピアス?」
「ほら、紅いピアスついてるでしょ?」
言われて思い出す。
存在をすっかり忘れていたが、これはセブルスにつけられたものだ。
血の臭いに反応し、に危険が迫れば一度だけその身を守ってくれるというもの。
「あ、うん。これは……」
説明しようと思ったが説明が難しい。
スリザリン寮監にもらいました、とは言えまい。
また、話題が戻ってしまう気がする。
「僕のと一緒…?」
「え…?」
「ほら、僕もあるんだよ」
セウィルは自分の右耳を見せる。
そこにはの右耳についているのと同じ色、同じ大きさのピアス。
「リドル先輩。これって同じものに見えますか?」
セウィルは自分の右耳との右耳をリドルに見えるように体をずらす。
色形は同じ。
一見は同じものに見えるだろうが、のものは魔法の掛かったものだ。
セウィルのも同じなのだろうか…。
「珍しいね、同じ波動だよ。製作者が一緒なのか、それとも同じものを誰かが創り上げたのか…または、全く同じものか」
「全く同じもの…そうか、その可能性もあるんですよね。ねぇ、、それって誰にもらったもの?」
「へ…?あ、いや…」
どうしよう…。
かなり困る。
思わずセウィルをちらりっと見てしまう。
「ま、誰にもらったものでもいいけどね。とにかく、僕とはお揃いだね」
「え?あ…うん」
にこっと笑みを見せるセウィル。
あっさり引き下がったのはかなり意外だ。
「そう言えば、知ってる?」
「何を…?」
とにかく落ち着こうとはジュースを口に運ぼうとする。
「お揃いの紅いピアスを右耳につけてると、恋人同士の証になるんだって」
「…げほっ…!!」
げほっげほっと思いっきりむせてしまう。
ちらりっとセウィルを見てみればにこにこ笑顔のまま。
こ、この子は〜〜!
絶対わざとやってるな…!