アズカバンの囚人編 27
「同じものだね、これは…」
のピアスとセウィルのピアスを見比べて、リドルははっきりと断言した。
ここはスリザリンの談話室。
朝食を終えてここに戻ってきたのは、セウィルとリドルとである。
他のスリザリン生2名はクリスマス休暇中の課題をやりに図書館へと向かったらしい。
「魔力の波動も一緒、形も一緒。違うのは使用年数くらいだね。のつけている方が古い」
「それじゃあ、僕のこれが最終的にの手に渡ることになるんでしょうね」
「それか、僕がもう一つ全く同じものを近いうちに作ったか…だね」
「え…?」
リドルの言葉にはきょとんっとなる。
リドルが作る…?
それはつまり…。
「これって、リドル先輩が作ったものだったんですか?」
セブルスからもらったものだったので、セブルスが作ったものだとばかり思っていた。
だから、セウィルがしているものもセウィルが自分で創ったものか何かだと思っていた。
の問いに苦笑しながら頷くリドル。
「セウィルがどうしてもって言うからね…」
「いいじゃないですか!どうしても形が欲しかったんですよ!」
何のことだろう…?
リドルとセウィルの会話がには分からない。
そのの様子が分かったのか、リドルが説明する。
「セウィルのピアスはね、セウィルが僕との繋がりが形で欲しいって言うから作ったんだよ」
「繋がり……?」
セウィルとリドルを見比べる。
「繋がりって…それじゃあ、セウィル君とリドル先輩って……。」
まさかまさかと思いながらも、結構仲が良さそうな2人の様子でその可能性を考えたに責任はないだろう。
何しろ、リドルはセウィルには甘い気がするのだ。
「のその考えは違うよ。僕、そういう相手で同性選ぶなら、みたいな子の方がいいもん。押し倒されるのは嫌だよ」
「そうだね、セウィルは顔立ちは可愛いけれども、性格上は押し倒したい派だよね」
「そうなんですよ。やっぱり、リドル先輩は分かってますね〜。リドル先輩もそうですよね?」
「そうだね、押し倒されてもいい相手っていないから、やる以上は自分が押し倒す方がいいよね」
「ですよね!……って、、何で後ずさっているの?」
話についていけないって!
どうしてそういう話を平気でできるのさ?!スリザリンはっ!!
押し倒すとかどうとか…。
その年代で話すような内容じゃない気がするんだけど!
「の友人はこういう話題はしないのかい?」
「友人…っていうとスリザリンの友人ってことですよね。…そこまであからさまなことが話題に出たことはありませんよ。彼の認識からして平然と言いそうな気がしないでもないですけど、そんな話題がでないことを祈ってます」
切実に…!!
話題がでたらどうなるか本当に分からないが、はそんな話題を出す気は更々ない。
「それより、セウィル君とリドル先輩の繋がりって何なんですか?」
話を戻そう。
押し倒す云々話題はにとっては鬼門だ。
さっさと話題を戻すに限る。
「あ、それはね…このピアスって僕が忠誠を誓った証なんだ」
「え…?」
日常会話でもするかのようにさらっと言われた言葉。
にこにこ笑顔から、瞳のみをすっと鋭くするセウィル。
口元は笑みの形を浮かべたままだ。
「僕がヴォルデモート卿に忠誠を誓い、自らの手を汚すことすらいとわないという証」
忠誠を誓った者と誓われた者の関係。
セウィルの瞳は怖いほど真剣なもので、それが真実だと分かる。
「ヴォルデモート卿の考えに共感し、人柄を感じてこの人になら全てを捧げてもいいって思えたんだ。信じてもらうまでにちょっと時間はかかったけどね」
苦笑しながら言うセウィル。
これが13歳の少年の言う事なのか…?
全てを捧げる、それはこれからの人生も何もかも。
リドルが殺せといえば、躊躇わずに何者にでも手をかける。
人の命を殺めることには相当の覚悟が必要だ、そして己の人生を全て捧げることにも…。
「僕は僕自身を裏切らせないための束縛の形が欲しかった。それが、これ」
「僕がセウィルを認めた証でもあるよ。僕は僕の望む道を進む限り、セウィルを使い続けるからね」
「そう言ってもらえるのは何よりです」
にこっとリドルに笑みを向けるセウィル。
そのやり取りに、は泣きそうになった。
これが13歳と17歳の少年の会話。
闇に魅せられてしまった少年達。
「?どうしたの…そんな顔して…」
の表情を見てきょとんっとした表情になるセウィル。
先ほどの闇を感じさせる瞳は全く見られない。
「僕とリドル先輩のこのやり取り見て、そんな表情されたのって初めてだよ」
「そうだね。怖がってしまう子達はいたけれども、のような泣きそうな表情は初めてだよ」
怖いから泣きそうだという表情ではない。
悲しくて泣きそうな表情をはしていた。
平然と話す少年達。
闇に染まってしまうにも理由があるだろう。
けれど、大切な相手を亡くしてしまった人にとっては、闇に染まったものたちの理由などどうでもいいのかもしれない。
そうやって…、2人一緒に闇に染まっていくつもりなの…?
スリザリンには止める者がいない。
純血一族は闇の魔法に魅せられている者が殆どだ。
そんな中で、どうして普通の魔法の世界にいることができようか…。
「リドルさん、ディペット校長が呼んでます!」
シリアスムードを一掃するような声が談話室に響く。
寮の入り口を見れば、ミストがリドルを呼んでいた。
リドルは「分かった」と返事をして、寮の外へと向かう。
その動きを目で追う。
リドルの表情はいつもの仮面笑顔だ。
セウィルを認めたと言ったときのリドルの表情は決して仮面ではなかった。
それはつまり…本心の言葉なのだろう。
談話室がしんっと静まり返る。
とセウィルの2人きりだ。
「僕はずっとリドル先輩の側にいるつもりだけど…、きっと僕はずっと側にはいられないんだろうね」
ぽつりっと呟くセウィル。
「セウィル君…?」
不思議そうにセウィルを見る。
セウィルは先ほどリドルに忠誠を誓っていると言った時の、自信ある表情が消えていた。
苦笑しながらを見る。
「僕はリドル先輩の事が好きなんだ。あ、恋愛感情とかじゃないよ?尊敬するっていう意味でね。世界を恐怖に陥れる目標が一緒だからとかじゃなくてね、その生き方が本当に凄いと思ったんだよ。だから、僕は、ヴォルデモート卿に忠誠を誓ったんだ」
「セウィル君…」
「でも、僕はの生きている時代では卿の側にいないと思う。だって、がそのピアスつけてるしね」
「え?あ……」
のピアスとセウィルのピアスが全く同じものだというのならば、どうしてがそれをつけているか。
理由は簡単。
セウィルがそのピアスをつけられない状態にいるからだろう。
尊敬するリドルからもらった大切な繋がりを持つピアス。
セウィルがそれを外すはずはない。
「僕はさ…、リドル先輩が本当に望むのは世界を恐怖に陥れることじゃないと思うんだ」
「……うん」
もそれは思ったことがある。
ヴォルの存在がある。
マグルが大嫌いなヴォルだけれども、闇の魔法に魅せられてはいるけれども、快楽殺人者のような狂った思考を持っているわけではない。
恐怖や憎しみを沸き立たせるが好きなわけではないと思う。
「望んだのは、魔法界にその名を忘れぬほどに刻み付けること。それには恐怖が一番だったから…じゃないかな」
は呟く。
きっと求めていたものは違ったものだったはず。
それが世界への憎しみに変わるほどに求める想いは強かった。
「やっぱ、には分かってるんだね。うん、僕が気に入っただけのことはあるよ。だから期待してもいいかな?」
「期待…?」
「そう、期待。僕の大切な主の支えになってくれること」
「セウィル君じゃ駄目なの?」
「僕は純血だから…最期の最期できっと駄目だと思うんだ。純血には混血の苦しみは分からないってね」
悲しそうに笑みを向けるセウィル。
混血だけれどもスリザリンのリドル。
純血であればどんなによかったかと自分でも思ったことがあっただろう。
それ故、純血の相手には何かしらの壁ができてしまうのかもしれない。
「ただ、ちょっと問題が一つあるんだよね…」
ふっと真剣な表情で呟くセウィル。
「問題…?」
「うん、そう。これが結構重要な問題なんだ」
セウィルはをじっと見る。
そして軽くため息。
「僕、のことすっごく気に入っているんだ」
「へ?あ、うん」
「今まで回りにいなかったタイプだし、からかうと面白いのもあるんだけど、って純血一族が好きそうな目しているし」
「目って…、それ、前にも似たようなこと言われたことあるけど、普通の目だし」
「や、そうじゃなくてさ。真っ直ぐ見てくる目でさ、って偏見なしで自分の直感で相手を判断してない?」
「そんな大層なことはしてないつもりだけど…」
ただ、誰にでも事情があるものだと思っているから、先入観で見ようとはしないだけである。
純血主義にも純血主義の考えがある。
最初っから受け入れないという考えてみてしまっていては、見えるはずだったものまで見えなくなってしまうかもしれない。
「それで、大問題はそこなんだよ」
「何が…?」
「リドル先輩に渡すのは勿体無い!って思っちゃうほどに僕、のこと気にいってたりするんだよ」
……………。
「…はい?」
思わず疑問系になってしまう。
今、とんでもない事を聞いたような気がするのだが…。
「あ、あのさ…、セウィル君と会ったのって昨日だよ…ね?」
「うん、そうだよ、。僕はそんなこと忘れるほどボケてないよ」
「会ってちょっとしか経ってないのに、気に入るとかって……」
「え?ってもしかして無自覚?!よく今まで平気だったね」
「な、何が…?」
聞きたくない言葉が返ってくるような気がする。
「の目の表情ってさ、僕ら純血一族にとってすっごい好みの感情してるんだよ。偏見なしの真っ直ぐな目」
「好み…?」
「うん、そう。だから、惚れる惚れないは別としてさ、思わず構いたくなっちゃうんだよね。だから、今までよく純血一族の人たちに襲われずに済んだね〜って思ったんだよ。純血一家の中には、ただの純粋な興味だけで相手を押し倒すような性格の人もいるしさ」
それでやけに構われていたのか?!
ルシウスさんとか、ナルシッサさんとか、ベラトリックスさんとか…!
「あ、心当たりあったりする?ってマグル出身だから、そのせいでのことを見ようとしない人も多いだろうけど、暇つぶしならマグル相手だろうと構わないって考えの人にとっては格好の玩具だからね。でも、僕は違うからね!ちゃんとのこと本気だから、安心してね」
「え?あ……ちょっと待って、セウィル君。それってあまり安心できない」
「何で?遊ばれる方が嬉しいの?」
「嬉しくない、嬉しくない!」
「それじゃあ、本気の想いのほうが嬉しいでしょ?大丈夫、僕これでも上手いから。」
「上手いって何が上手いの?!!」
「え?言わないと分からない?ちゃんと説明した方がいい?」
「い、いらない!説明要らない!言わなくていい!」
ぶんぶんっと思いっきり首を横に振る。
どうしてこうなる?!
こんな会話をするくらいならば、リドル交えてシリアスにヴォルデモート卿について話していたほうがましのような気がする。
セウィルとの会話にこの手の話題はつきものなのかもしれないと、短い間だとはいえ、ちょっぴり先行きに不安を覚えるだった。