アズカバンの囚人編 25
通された部屋は、以前行ったドラコの部屋とたいして変わらない広さ。
4人部屋のようである。
セウィルの同室の子達は全員帰省しているようであり、空いているベッドを使っていいと言われた。
クリスマス休暇が終わっても帰れなかったらどうするつもりなのか少し疑問だ。
ダンブルドアのことだ、何とかするだろうとは思うが…。
「ねぇ、グリフィンドールの寮とはどう違う?」
ぽすんっと自分のベッドに座ってセウィルはを見る。
は自分のグリフィンドール寮とこの部屋を比べてみる。
「う〜ん…、特に寮の場所が地下か地上かってだけで内装は変わらないと思うよ」
「ふ〜ん。僕は他の寮の部屋なんて行かないからな〜」
「談話室の雰囲気は寮ごと違うみたいだけどね」
オレンジ系統の色が多いグリフィンドールは冬でも暖かい感じがする。
対するスリザリンは、冬は寒そうだが夏は涼しそうな感じだ。
だが、何よりも談話室に集まる人の雰囲気が全然違う。
「それで、。君は過去?未来?どっちから来たの?」
にこにこ可愛らしい笑顔を浮かべて、ずばっと聞いてくるセウィル。
「僕は未来からだよ。…って、これは言ってもいいことなのかな?」
苦笑しながら答える。
言ってしまった後では遅いが、でも口止めはされていない。
「未来からか…、でももうちょっと時期的にあと2年くらい前に来てくれれば面白かったのにね」
「2年前?何か面白い出来事でもあったの?」
「うん、あったんだよ。僕は1年だったから詳しいことを聞いたのは後なんだけど…」
くすくすっと笑うセウィル。
無邪気な笑みだが、目が笑っていない。
そこでは気付く。
これは同級生同士の楽しい会話ではないのだと。
「2年前なら、『穢れた血』の君を簡単に始末することもできたのにね。」
すっと表情を消す。
セウィルは相変わらずの笑顔である。
2年前。
リドルの今の学年から考えると、2年前のリドルは5年生。
そう、秘密の部屋が開かれた時期と一致する。
「はスリザリンの秘密の部屋って知ってる?」
「うん、知ってるよ…」
「2年前にね、スリザリンの秘密の部屋が開かれたんだ。偉大なるサラザールの残した遺産が穢れた血を一掃するためにね」
「でも、できなかった。石化した生徒達はマンドレイクで元に戻り、ただ1人ハッフルパフの女子生徒が犠牲となり、同じハッフルパフ寮の少年が犯人として退学となった」
セウィルは驚いたように目を開く。
ぱちぱちっと瞬きをして、を見る。
からそんなことが聞けるとは思わなかったのだろう。
「あれ?知っているの?知っている人少ないはずなんだけど……もしかして、未来では有名な話?」
「そんな有名じゃないよ。ただ、ちょっと事情があって知っているだけ」
「な〜んだ…、それじゃあこの話じゃ怖がらないよね〜」
「怖がる?怖がらせようとしてたの?」
ふぅっとため息をつくセウィル。
「だって、僕、『穢れた血』は基本的に嫌いなんだよね。嫌いなものはいじめないと」
「だから僕をいじめようとしていたってこと?」
「うん」
きっぱりとした答えが返ってくる。
即答だった。
そこまではっきり言われるとなんとも言いがたい。
「スリザリン寮にいても動じないし、自分から『穢れた血』って自己紹介するし、僕の脅かしにも全然動じないし………君って変」
「…何故か変わっているとは言われるよ」
よく、ね。
どこか遠い目をする。
「でも、セウィル君も変わってるよ。僕の知り合いのスリザリンにはいないタイプだし」
「うん、よく言われる。本当はグリフィンドールの方が合ってるんじゃないかってね。でも、グリフィンドールなんて冗談じゃないよ、暑苦しい」
「………暑苦しい」
はふとグリフィンドール寮の生徒達を思い浮かべる。
親世代から子世代のグリフィンドール陣。
意味なくテンションが高かったり、なんでも一生懸命に取り組んだり…。
「確かに、暑苦しいかも……」
彼らなりに一生懸命ひとつの事に向かっているだけなのだろうが、そういう時は傍観者に徹しているからすれば暑苦しいとも思える。
「でしょう?!意外だな〜、まさかグリフィンドール生に僕の意見に同意できる相手がいるなんて」
「それに、たまについていけないテンションの時とかあるし…」
「うん、あるある。何そんなに張り切っているんだろう?!っていうのとかね」
セウィルはに近づき、の手をがしっと取る。
キラキラっと顔を輝かせている。
よほど自分と同意見の相手がいて嬉しいのだろう。
「が同級生だったら面白かったのにさ。いっその事ここの時代に永住しない?」
「それは無理。だって、僕にはやるべきことがあるからね」
「え〜…、つまんないな〜。やるべきことって何?つまらないことなら強制的にここに永住させるよ」
「強制的って……」
苦笑する。
なにやら気に入られてしまったらしい。
「つまらないことじゃないと思うけど、言えないよ。だって、セウィル君は過去の人だからね」
「過去の人?えっと……それじゃあ、リドル先輩のヴォルデモート卿に関係あり?」
ぎょっとする。
セウィルの表情はにこにこ笑顔だ。
「あ、その表情は関係ありだね。ってどっち側?爺さん側?それともリドル先輩の方?」
「…爺さんってもしかして、ダンブルドアのこと…?」
「え?他に誰がいるのさ?」
きょとんっとするセウィル。
まったく悪気はないようである。
それでももうちょっと表現の仕方というものがあるだろうに…。
「僕はどっち側でもないよ。どっちつかずの中途半端な状態かな」
「ふ〜ん。でも、とりあえずはリドル先輩の野望は成功しているってワケなんだね」
「え…?」
「魔法界でその名を呼ばれるほど恐れられる存在になるって野望」
はっとなる。
のいる魔法界では、ヴォルデモートの存在は当たり前のように恐れられている。
だから気がつかなかった。
ここではまだヴォルデモートの名は誰にも知られていないはずである。
まだ、ヴォルデモートになるリドルが学生なのだから…。
先ほどのの「ヴォルデモート」の名を聞いたときの反応で分かってしまったのだろう。
「もしかして、僕、誘導尋問された…?」
「そんなつもりじゃなかったけど、意外とあさっり分かって吃驚。、一応僕のこと警戒してたのにね」
くすっと笑うセウィル。
やはり彼もスリザリン生だ。
何気ない会話から情報を引き出そうとする狡猾さ。
「セウィル君って今までいなかったタイプの性格なんだよね…、まだ、他の純血一族の先輩方のほうが分かりやすい」
「マルフォイ先輩とリロウズ先輩のこと?」
「うん…って、”リロウズ先輩”って言うと別の人の事思い浮かべちゃうな〜。同姓の人がいるって変な気分」
にとってリロウズ先輩はシェリナのことである。
スリザリンでも苦手な部類に入るシェリナ=リロウズ。
嫌な人ではないのだが、からかわれるはやっぱり彼女が苦手だ。
「ってもしかして、意外とスリザリン生と交流あり?」
「交流というと…どうなんだろ?マルフォイ家の子とは友達だよ。あ、勿論マルフォイ家の子はスリザリン生だけど」
「友達?!!あの純血マルフォイ家の血縁者と?!!」
「うん、いろいろあってね…。あ、そう言えば聞いてもいい?」
「うん?何を?」
ふと思い出す。
スリザリンと言えばあの考え方。
「スリザリンって、気に入った相手は性別拘らないの?同性同士での恋愛感情に抵抗がないというかなんと言うか……」
「うん。何で?はそういう偏見ありなの?」
「いや、別に偏見はないけど……ただ、自分に火の粉がふりかからなければ、の話で…」
現在火の粉被りまくりなのである。
同性同士と言われると、の場合は厳密には違うのだが…。
「へぇ〜、もしかして誰かと噂になってたりするの?。どこの家?リロウズ?マルフォイ?ブラック?」
「なんでそこで純血一族の家名ばかりなの?!」
「だって、純血一族じゃないとそういう考えしないだろうからさ。もしかしてウィーズリーとか?」
「違うよ!!」
こんな話題を向けるんじゃなかったとちょっと後悔する。
やっぱりスリザリン生相手にこういう話題に関しては、はちょっと苦手だ。
「ま、とにかく。が意外と面白そうな感じでよかった。『穢れた血』だから嫌だったんだけど、面白そうだからいいや。短い間だけどよろしく」
「…こちらこそ」
手を差し出され、はその手を握り返す。
にこっと笑みを向けられたのだが、その笑みの真意は見えない。
侮れないとは思いつつも、彼はまだ13歳の少年だ。
そうそう警戒する必要もないかもしれない。
「あ、ちなみに僕もそっち関係は純血主義の考えに大賛成なんだ。気に入ったら相手でも遠慮なく押し倒すからね」
「っ…?!!」
握手したままの爆弾発言。
前言撤回。
彼は13歳でまだ幼いが、警戒するにこしたことはない相手だ。