アズカバンの囚人編 24
夜空に浮かぶ満月。
満月の夜は明かりもいらないほどに明るい。
でも、満月…?
今日は満月じゃなかったはずだけど…。
ジョージと月明かりの元話した時は満月ではなかったはずだとは思う。
きちんと確認してなかったのではっきりとは言えないが…。
「おや、客人はわしのことを知っておるようじゃの」
優しげな声のダンブルドア。
その言葉にが首を傾げる。
何を言っているのだろう…?
「客人?だって、ダンブルドア先生ですよね?アルバス=ダンブルドア」
「いかにも、わしはアルバス=ダンブルドアじゃ。しかし君とは初対面のはずじゃがの?」
「へ…?初対…面?」
きょとんっとする。
でも…と言葉を続けようとするが、もう1人の少年の方を見て言葉をとめる。
スリザリンのネクタイをした、黒い髪、深紅の瞳の少年。
いや、もう青年に近いか…。
「ヴォルさんじゃ…ない?」
去年ならいざ知らず、今年のヴォルの姿はもう少し幼い姿だった。
最も去年であっても決してダンブルドアと共に行動することなどありえない。
となるとこのスリザリン生は誰になる?
のことを知らないダンブルドア、ヴォルそっくりのスリザリン生。
「はは……まさか…」
は不安そうに辺りを見回す。
ジョージがいない。
それが何よりの証拠なのかもしれない。
「どうしたのかね?」
ダンブルドアが問いかけてくる。
その問いには苦笑を返す。
僅かな不安を含めて。
「なんか、どうやら…僕、過去に来てしまったみたいです」
過去に飛んでしまったということなのだろう。
それしか考えられない。
「それは困ったのぉ…。どうしたらよいかね?トム」
ダンブルドアは隣の少年に話を振る。
少年は一瞬顔を顰めるがすぐに表情を戻す。
「元の時代に戻れるまでホグワーツにいてもらうのが一番いいと思います」
「そうじゃな。今は丁度クリスマス休暇中じゃ、残っている生徒達も少ないしの。さて……君の名前はなんじゃったかな?」
「あ……です、=、グリフィンドール3年です」
「じゃな。しかし、グリフィンドールかの…グリフィンドール生は全員家に帰省してしまっておるんじゃよ。はスリザリン寮で過ごすのは嫌かのぉ?」
「いえ、全然構いませんけど…」
何度かスリザリン寮には行った事はある。
それに場所もある程度分かっているので迷わないだろう。
むしろハッフルパフやレイブンクローの寮の場所などさっぱりなので、どちらかにされても困る。
「トム、頼んでもよいかね?わしは専門家を呼ぶ手はずを整えるでの」
「はい、分かりました」
「への説明も頼めるかの?」
「大丈夫です」
少年の受け答えにダンブルドアは満足そうな笑みを浮かべてそのまま、ホグワーツ城へと向かっていった。
置いてかれたには事情がさっぱり分からない。
ちらっとスリザリンの少年の方を見る。
賢者の石の力を取り込んで人の姿になった頃のヴォルの姿そのまんまだ。
「トム=リドル先輩…ですか?」
びくっと反応してを睨んでくる少年…リドル。
その反応からして大正解のようである。
「紹介がまだだったね。そう、僕はトム=リドルだよ。呼び方は好きに呼んでもらって構わないよ」
「じゃあ、リドル先輩って呼びますね。上級生ですよね?」
「うん、7年だよ。少し歩きながら話そうか」
「はい」
笑みを浮かべるリドル。
としては妙な気分だ。
優しげに接してくるリドルなど可笑しい事この上ない。
カナリアの小屋であったことを思えば今の状況に思わず心が軽くなっていた。
歩きながらリドルの事情説明を聞く。
『カナリアの小屋』で白い光を見たリドルがダンブルドアを呼んだということである。
「『カナリアの小屋』は「時」に関する魔法…この場合は呪いかな?が掛けられていて、近づくことは禁止されているんだ。そのうち人を寄せ付けないような魔法をかけるつもりだったらしいね。君の時代ではそれが掛けられていたはずだけど…?」
「かけられていたと思いますよ。それでも見つけてしまう生徒っているんで…」
「そうだね、そこに存在する以上存在自体を消すことは不可能に近いから見つかってしまうこともありえるよね…。それで君が来た時の光のことだけどね、誰かが「時」の呪いに掛けられたんじゃないかって思っていたんだよ。だから、君が未来もしくは過去から来たんじゃないかってのは想像がついていたんだ」
それでダンブルドアはあまり驚かなかったのか。
『カナリアの小屋』には”時”に関する力が働いている。
の時代ではその”時の力”が働いて、過去の自分の映像が現れるという珍しい現象が起きていたのだろう。
ただ、それはあくまで”時の力”の一部であり、”時の力”はその力が強い時は、タイム・ターナーのような働きをしてしまうことがある。
それでも、そこまで離れた過去や未来には飛ばないはずなのだが、それはがそこから離れたいという想いが相当強かったのだろう。
「「時」に関しては、ダンブルドア先生が専門家の方を知っているようだから、そう時間はかからずに元の時代に戻れるはずだよ」
「そうですか、それを聞いてほっとしました」
にこりっと笑顔を見せる。
時の魔法自体は難しいもののはずだ。
けれど、専門家がいるというのだからそう遅くないうちに戻れるはずだろう。
何よりも、が望めばの力で帰る事も可能かもしれない。
でも、私の力では…今の私ではちょっと想いが足りないかもしれないけどね。
スリザリン寮は時代問わず地下室にある。
寒そうに見えるが、魔法がかかっているのでそれほど寒くないことをは知っている。
寧ろ地上にある寮のほうが外気に晒されるために冷えるから寒いかもしれない。
緑で統一されたスリザリンの談話室。
変わらないな〜。
そんなことを思いながらは談話室を見回す。
談話室には3人ほど人が残っていた。
3人とも少年であり、リドルが戻ってきてすぐにソファーから立ち上がる。
「結局あれはなんでした?」
「ただの呪いの暴走だよ」
「別に貴方が出向く必要などなかったのではないのですか?」
「けれど、例の件でダンブルドアには目をつけられているからね、こういう所でいい子だと見せておかないと駄目だろう?」
「それで、リドル先輩。そちらは…?」
談話室にいた少年達の視線がに集まる。
一斉に視線を向けられて少し驚く。
いずれも美形揃いである。
「あの呪いの暴走に巻き込まれたグリフィンドール生。しばらく預かることになったんだ」
「へぇ〜、純血ですか?混血ですか?」
「さぁ、どうだろう?、君は純血かい?」
一番幼く見える少年がリドルに尋ね、リドルはを見る。
相変わらずのスリザリンだと思い、苦笑する。
「僕は貴方達純血スリザリンの大嫌いな『穢れた血』ですよ。はじめまして、高潔なるスリザリン生の皆さん、しばらくお世話になります、=と言います」
にっこり笑みを向けてやる。
の言葉にぎょっとした反応を返したのは2人。
一番幼い少年はきょとんっとしたような表情だ。
リドルも僅かに驚いた表情をしている。
「皆さんの自己紹介はしてもらえないのですか?」
の言葉にはっとなる。
リドルが3人に促す。
「スリザリン5年、ケルト=リロウズだ」
金色の髪に蒼い瞳。
やはり純血主義にありがちな整った顔立ちだが、目つきがするどい。
雰囲気がシェリナに似ているから彼女の先祖に当たるのだろう。
「スリザリン6年、ミスト=マルフォイだ」
を見下すような視線はグレーの瞳、そしてサラサラの銀髪。
ルシウスそっくりの顔立ちのような気がする。
「スリザリン3年、セウィル=スネイプだよ。よろしく、」
最期ににっこり微笑まれた一番幼い少年は黒髪に蒼い瞳の可愛らしい顔立ち。
しかし”スネイプ”である。
スネイプということは、やはりセブルスの血縁になるのだろうか…。
「えっと…、ケルト先輩、ミスト先輩、セウィル君でいいですか?ファミリーネーム呼びはちょっと勘弁させてください。知り合いと同じになってしまうので…」
見事に純血主義代表の方々ばかりだ。
ここでは一線引くためにファミリーネーム呼びで、とは言ってもいられない。
それにそう長くはいないのだ。
別に構わないだろう。
「『穢れた血』に軽々しく我が家名を呼ばれたくないな。まぁ、名前を呼ぶ必要も全くないだろうがな。俺は貴様と会話する気はない」
「私もだ。同じ空間に『穢れた血』がいるだけでも吐き気がする…」
吐き捨てるような言葉はケルトとミストだ。
予想通りの反応で思わずは笑ってしまう。
ドラコも最初の頃はこんな感じだった。
「な、何が可笑しい!」
ミストの方が怒鳴る。
「いえ、すみません。純血主義らしい反応だな…って思っただけです。別に僕の存在自体無視していただいても構いませんよ。寝る場所を提供していただくだけで十分ですから」
の反応にふんっと顔を背けるミスト。
普通の純血主義の反応だな〜と思う。
ある意味扱いやすい。
「リロウズ先輩もマルフォイ先輩もと一緒は嫌ですよね?彼は僕の部屋で一緒に寝ますから。はそれで構わない?」
「え?うん。構わないよ。セウィル君とは丁度学年も一緒だし、時間あるときは教科書でも見せてもらいたいし」
「それならよかった。リドル先輩もそれで構いませんよね?」
「僕は構わないよ。セウィル、ほどほどするんだよ」
「何を言っているんですか、リドル先輩。僕は別に彼をいじめる気なんてありませんよ〜」
セウィルはの腕をぐいっとひっぱる。
自分の腕を絡ませて、を連れて行こうとする。
「それじゃあ、先輩方はごゆっくり〜」
ひらひらっと手を振るセウィルに連れて行かれては部屋へと向かうことになった。
まだ妙な感じは残る。
可笑しすぎるのだ、大人しいリドルなど。
なんか、思いっきり爆笑したい気分だな…。
でも、笑ったら絶対に変に思われるしね。
リドルやスリザリンの彼らは、がこんなことを考えていることなど全く検討もつかないだろう。