アズカバンの囚人編 23







『カナリアの小屋』は入室者の過去の姿を映し出すものではないのだろうか。
はそう思っていた。
崩れた床の下、が見たのはハリー。
それが幻のような存在の事は頭では分かっている。
分かっていても…は動けない。


うそつき!!、言ったじゃないか!僕の敵じゃないって!


びくりっと肩をゆらす

『今の僕がこんな状況にいるのは全部のせいじゃないかっ!ヴォルデモートの部下だったんじゃないか!!
「え?ち、違う…」
『何が違うの?!だって、僕の父さんと母さんを見殺しにしたくせに!

何も言えずには一歩後ろに下がる。
ぱきっと木の破片を踏んだことに気付かなかった。

『そう、ジェームズとリリーを見殺しにしたんだよね、…』
『無実だって分かってるのに、アズカバンにいた俺のことを馬鹿だと嗤っていたんだろう?』

ふっとハリーの後ろに現れたのは、同居人のリーマスと、今指名手配中のシリウスの姿。
2人の姿も幻だ。
そう分かっていながらも体を震わせる
言葉が……痛い。

『我輩は貴様を見損なったぞ…』
『所詮『穢れた血』なんだな、は…』

見下すような視線を込めて現れたのはセブルスとドラコ。
一歩一歩は後退する。


何…?
これは何…?
何のための……。


『やっぱ、君なんか友達だ何て思わなければよかった』
、僕の両親があんな状態になったの知ってたんだね。僕の両親をあんな風にした相手となんで仲良くなってるの?』

ロンとネビル。
軽蔑するような視線のロン。
僅かに怒りを込めて睨んでくるネビル。
ネビルの両親を病院送りにしたのは、ベラトリックスはじめとするデス・イーター達。

『全て知ってて私達を嗤っていたのね。最低だわ、…』

泣きそうな表情をしながらも怒りの感情がこもっている視線はハーマイオニー。



いつもいつも邪魔なんだよな…。



後ろからの声にぎくりっとする
一番耳になじむ声。
でも、言葉に込められた感情はどこまでも冷たい。
見たくない…でも、はゆっくりと振り返る。


何故俺がお前のようなマグルの小娘の側にいなければならない?


凍てついたような視線を向けてくるヴォルの姿がそこにある。
これも幻だ。
分かってるのだ、頭の中では。
けれど…けれど……!


いやだ!


耳を塞ぐ。
聞きたくない。
それでも声は頭の中に直接響いてくる。


『君が闇に組するとは残念じゃ……


今度はダンブルドア。
は頭を横に振る。

「違う!私は闇に組しているわけじゃない!」
『何が違うのかね?ヴォルデモートの支援をするつもりなのじゃろう?』
「そんなつもりはありません!私の役目は世界を闇に…!!」

時の代行者の役目は世界を闇に染めないためのもの。

『その為に僕の両親を見殺しにしたの?!』
『そんなくだらない役目の為にジェームズとリリーを見捨てたのか?!』

ハリーとシリウスの同時の怒りの声。
はその声に泣きそうになる。


『違うだろ、。お前の役目は全てを知っていながらも周りを嘲笑うことなんだろう?』


信じられない言葉がヴォルから出てくる。
くくくくっと笑うヴォルの姿。

違う!!違うよ!
『何が違う?未来を知りながら何もしないお前が』
「だって、変えちゃいけなんだよ!」
『自分が手を出したことで自分の知らない未来に動くのが怖いだけじゃないのか?自分の思い通りにしたいだけなんだろ?』
「そんなことない!変えられるものなら変えたいものだって沢山ある!」

幻相手にそんなことを言っても意味がないことは分かってる。
でも、言われるだけ言われて黙っていられるほどは忍耐強くない。
相手にするだけ無駄だと頭では分かっていても…違うと言いたくなる。
責めるような視線がに集中している。


これは幻なんだ!
実際こんなことを言われているわけじゃない。
だから冷静にならなくちゃいけない…!


混乱する
落ち着くように自分に言い聞かせても次々に投げつけられた言葉が頭の中でリフレインしている。
自分を責める言葉。


『黒猫君もハリーも…、最初から間違っているよ。にはこう言わなきゃ』


ふっと優しげな笑みを浮かべて現れたのはジェームズ。
他の人たちとは違う優しげな言葉にはふっとジェームズを見る。



『こことは何も関係がない君は、ここにいる必要はないんだよ?、君は邪魔なんだ、自分でも分かっているんだろう?』



びくっと震える
ジェームズの表情はどこまでも優しげな笑顔だ。


『この世界の事はこの世界の住人が解決すべきことだよ。なのに何故君がここに存在しているんだい?


別の場所から来たのは異質だと。
ここには必要ない。


言わないで、それを言わないで!
自分がここにいるのは異質なことは分かっている。
でも、言わないで。


耳を塞いでも聞こえてくる声。
この場所は何なのか。
何故こんなものが見えるのか。
自分を責めるのか。

向けられた視線は全てを拒絶するもの。
はヴォルへと視線を向ける。


『穢れた血が、近づくな』


見下すような視線。
それはかつてのヴォルデモートのようなものだろうか。
は泣きそうに顔を歪ませる。
幻だと分かっていても、ヴォルに拒絶されることはかなりつらいことが分かった。

そう、これは幻。
ヴォルさんはこんなこと言わない。
それは分かってる。
でも…でも………



もう、聞きたくないよ!!



ずっと聞いてて耐えられるような言葉ではない。
は叫んだ。
力の限りに。

もう、聞きたくない。
自分を責める言葉も、自分が異質であることも。

耳を塞いで力の限り叫んだの言葉。
それは力になる。
『言霊』の力。
の持つ力は意思を言葉に込めて具現化するもの。
『カナリアの小屋』がそれに反応を示し、光を放つ。

光があふれてくるのがなんとなく分かった。
それでも、は瞳を閉じて耳を塞いでいる。
僅かに聞こえたジョージの名前を呼ぶ声が現実の声だと、頭の片隅で認識していた。





瞳を閉じて耳を塞いでいただったが、周りが静かになり瞳を開けた。
見回せば、薄暗い部屋の中。
上には人が通れるほどの入り口。
だが、の周りに木の破片は散らばっていない。
ハリー達の幽霊の姿は何も見当たらない。
ほっと息を吐く
そして気付く。
僅かに制服のシャツが汗ばんでいたことと、手にも汗があったこと。
両手を握ったり開いたりしてみれば、まだ少し震えている。

「とりあえず…外に出ないとね」

口から出た声はいつものもので、それに安堵する。
自分の声で安心するのも変なのだが。
入り口らしき穴から梯子がぶら下がっているのが見える。
僅かに疑問を抱きながらも、外に出るのが先だとは梯子を上った。
上った先は、確かにカナリアの小屋の中で…しかし僅かに床や壁の木の材質が新しいように見える。
無意識に似たような小屋にでも転移してしまったのか?

違うのはが落ちた穴がなく、地下へのきちんとした入り口があったこと。
大きさは同じでも床や壁の材質がいくらか新しいこと。

そのまま扉へと向かっては外に出る。
外はやはりまだ夜のままだ。
すぐ側に大きな森とそして……ホグワーツ城。


「え…?ホグワーツだよ、ね?」


振り返ってみれば、が出てきたのはやはり『カナリアの小屋』らしい。
しかし、ジョージがいなかった上に少し不可解な点もある。
このまま寮に戻るべきか様子を見るべきか考えていたの耳に人の声が聞こえてきた。


「こっちの方角です」
「おお、ここには確か『カナリアの小屋』があったはずじゃの…」


どこか聞き覚えのある声。
が声の方を見れば、そこには1人の老人と1人のスリザリン生。


「ダンブルドア……と、ヴォルさん?」


月明かりに照らされた姿。
の呟いた声に2人は驚いたような表情をしていた。
夜空に浮かぶ月の形は満月である。