アズカバンの囚人編 22
暗がりの中、とジョージはカナリアの小屋に向かっていたりする。
折角だから『カナリアの小屋』の場所を教えてくれると言うのだ。
場所だけ確認して、後でまた行けばいい。
ヴォルの知らないうちに行動を起こせば、絶対にヴォルが怒る。
指輪はとりあえず返してもらったので、の今の姿は少年の姿である。
どうもホグワーツではこの姿でないと落ち着かない気分だ。
「ところで、」
「何です?」
今、何故かジョージとは手を繋いでいる状態である。
軽くつながれた手がぶらぶらと揺れる。
「の本当の姿を知っているのは僕の他に誰がいる?」
その問いには少し考える。
「そうですね…。ダンブルドア、ヴォルさん、教授、リーマス、ポッター君…かな?」
は繋いでいない方の手で指折り確認しながら数える。
最初はヴォルだけだった…ダンブルドアに事情を話し、セブルスに少し協力を頼み、リーマスと同居。
去年はハリーの前で指輪を外すことになった。
「ハリーが知っているのかい?」
「ええ、知ってますよ。事情があって、指輪の魔力が必要だったので…」
「しかも、スネイプも知っているんだね…」
思いっきり顔を顰めるジョージ。
セブルスが知っていると言うことが、よほど嫌なようだ。
他には記憶のジェームズとリリーも入ることになるのだが、この2人に関しては存在自体をジョージが知らないので言う必要もないだろう。
「ハリーがやけに大人しくなった理由がわかったよ」
「は?大人しくって何がですか…?」
軽くため息をつくジョージ。
「が何か隠し事しているってのは、結構いろんな人が知っている。でも、その隠し事が何なのかは誰も知らないんだよ」
「まぁ、僕は誰にも言ってませんしね」
「ハリーが何度か僕にから秘密を教えてもらうのにいい案はないか、って言ってきたことがあるんだよ。ほら、僕らってこれでも誰かにそういう話をさせるのは上手い方だろ?」
「ですね、口が良く回ると言うか頭の回転が早いと言うか…、何度かあせりましたし…」
「それじゃあ、もう一押しでの秘密を知ることが出来た時もあったってことかい?」
う、しまった。
思わず正直な気持ちが出てしまった。
「じゃあ、今度は追撃の手を緩めるのはやめることにするよ」
「勘弁してください…」
あれ以上しつこくされたらたまらない。
が苦し紛れに言っている理由にはどこか矛盾が出てくる。
ヴォルデモートに狙われているから…云々のことなのだが。
その矛盾点を突かれてしまえば言い訳のしようがない。
「大体、あれだけの秘密を知ろうと躍起になってたハリーが突然大人しくなったのがおかしかったんだよね。『例のあの人』に狙われているから…っていうのをダンブルドア先生に聞いたから、ってだけじゃおかしいしね」
「はぁ…、でも、ポッター君、そんなに僕の隠し事知りたかったのかな?そういうそぶりなかったように見えたんですど…」
「が気付かなかっただけだよ。去年もいろいろあってそれどころじゃなくなってきた時もあったから、なかなか調べは進まなかったようだけどね」
去年ノクターン横丁で宣言した通りの事をハリーはこそこそやっていたようだ。
の秘密は自分で調べる!ということを。
ダンブルドアの説得で納得したのか、それともの本当の姿を知ることが出来た事で何か納得できたものがあったのかは分からない。
そんな話をしながら歩いているうちに小さな小屋が見えてきた。
ハグリッドの番人の小屋よりも少し小さめの小屋。
作りは木。
扉は思いっきり力を込めれば壊れてしまいそうなほどに脆そうに見える。
「ここが、カナリアの小屋って呼ばれているとこだよ」
「へぇ〜。ホグワーツにこんなところがあったんですね…」
「意外と皆知らない穴場さ。中には結構面白い仕掛けがあってさ、おいでよ、」
「は?へ…?」
ぐいっと握られたままの手を引っ張られる。
場所確認だけのためにここに来ただったのだが、ジョージは中に入る気分満々のようである。
引っ張られるまま、はカナリアの小屋の中に入ってしまうことになる。
ぎしっ
古いのは扉だけではないようだ。
中に一歩踏み入れたとたんに軋む床。
一歩踏み出せば、とたんに崩れてしまいそうな床をジョージは平然と進む。
不安になりながらも、引っ張られているもそれについていくしかない。
ふわ…
「え……?」
狭い小屋の中を歩き出すと、何かが横を通った気がした。
白い幽霊のようなもの…。
ジョージが足を止めて、小屋の中の中心に立つ。
「もう見えたのかい?」
「へ?何が……?」
ふわりっ…
とジョージの間を何かが通り過ぎる。
青白い幽霊。
一瞬びくりっと驚くだが、その幽霊の姿に更に驚いた。
黒く少し長めの髪に黒い瞳。
赤いランドセルを背負っててくてく歩く少女の幽霊。
「私…?」
見覚えのあるその姿は、の過去のものだ。
小学生…それも低学年の頃の姿。
随分と懐かしいものなのだが…。
ふわ…
今度は別の幽霊がの側を通り過ぎる。
赤い髪のやんちゃそうな7〜8歳くらいの少年。
楽しそうにはしゃぎながら駆けていく。
「あれは僕だよ」
「え…?」
ジョージには驚いた様子が見られない。
青白いふわふわした、とジョージの幼い子供の頃の幽霊。
それらは小さな小屋の中をふらふらしている。
「ここって不思議になことに、入った相手の子供の頃の姿を映し出すんだよ。子供の頃のって可愛いね」
「…お、お世辞言っても何も出ませんよ」
「お世辞じゃないよ、本気だからね」
くすくすっと笑いながらジョージはから手を離して、1人小さなの幽霊に近づく。
小さな少女は近づいてきたジョージに反応するようにきょとんっと見上げる仕草をした。
はそれを見て恥ずかしくなる。
自分の容姿に自信があるわけでもない。
どこからどう見ても平々凡々な顔立ち。
何が楽しくてそんなに見るのやら…。
はで小さなジョージの姿をした幽霊を見る。
すると、小さな少年はの方を見て小さく手招きしている。
『カナリアの小屋』
ここは恐らく入室者の過去の姿を垣間見える場所なのだろう。
入った相手を読み取って子供時代の姿を見せているだけで、決してこの幽霊に意識はないのだろうと思いつつも、は招かれるままに近づく。
部屋の隅のほうへと軋む床をゆっくりと歩く。
『ようこそ…………』
「え……?」
幼い少年の口からもれた言葉なのか、頭の中に直接響いてきた言葉なのか分からない。
けれども、その声をは確かに聞いた気がした。
その瞬間
ギギ…ばきっ…!
足元の床が腐っていたのか、の足元が崩れる。
「っ…?!!」
バランスの崩れる体。
一瞬体を襲う浮遊感。
落ちる…!と思い、思わず体に力がこもってしまう。
すぐに感じたのは背中の痛み。
ぱらぱらっと小さな木の破片が少しに降り注ぐ。
「?!大丈夫かい?!!」
上のほうからジョージの声がはっきり聞こえた。
は自分の状況を確認する。
僅かに痛むのは強く打ったらしい背中だけ。
それでも、そんな高いところから落ちたわけでもないし、何より腐りかけていた床がクッションになってくれていたらしい。
ぱたぱたっと木の破片を払って立ち上がる。
怪我もざっと見る限りはない。
「はい、大丈夫です。ちょっと床が抜けて落ちちゃったみたいです」
ほっとするジョージのため息が聞こえた。
声の大きさからしてそう高くはない距離である。
ロープでもあればすぐに登れるのだが…と思うがその前にここは魔法学校だ。
魔法のようなものを使っても構わないのでは?と思う。
浮遊魔法の応用を使ったような感じでいけば平気かな?
『うそつき……』
「え…?」
そう考えてるの耳にまた別の声。
きょろきょろ見回してみるが姿は何も見えない。
首を傾げる。
声と言えば、先ほどの声も気になる。
「、どうしたんだい?」
「いえ、何でもありません。とにかく上まで行きますから…!」
「いや、いいよ、僕がそっちに………うわっ!!!」
ばちっ
ジョージの叫び声と何かはじくような音。
「ジョージ先輩?!!」
何かがあったのか?
心配になるは急いで上に上がろうとするが…。
『うそつき…!』
先程よりもはっきりと聞こえた声にはっとなる。
今度は姿も見える。
けれど、その姿は青白い姿で幽霊のようなもの。
透き通った少年の姿。
はその姿を呆然と見る。
「ハ…リー…?」
を睨むハリーの姿。
その姿が本物でないことは分かる。
透けているし、何よりも色がないのだ。
ぼやっと浮かび上がっているだけ。
それでも、はそこから動けなかった。