時の代行者 21







月明かりの下、見えるのは少女の姿に戻った
そしてそれを呆然と見るジョージ。


…なのかい?」


ギクリっとする
この状態では隠しようがないし隠れようがない。
はぎゅっと袖を握り締める。

「ジョージ先輩、指輪を……指輪を返していただけませんか?」

努めて冷静な声を絞り出す。
が嵌めていた指輪はジョージのすぐ横に落ちているのが見える。
指輪がなくても短時間ならば姿を変えることは可能だが、感情が乱れればすぐにその姿は戻ってしまう。
ジョージははっとしたようにすぐ近くに落ちているの指輪を拾い、じっと見る。

は女の子なんだね」

ジョージは自分の手の中の指輪をぎゅっと握り締めてを見る。

「『例のあの人』に見つからない為に姿を変えているのかい?性別を違えれば、確かにそう簡単には見つからないだろうね」
「…そうですね」
のその姿を知っているのは誰かいるの?ダンブルドア先生は知っているんだよね」
「言う必要はありません。とにかく返してください」

はすっと右手を差し出す。
ジョージはの差し出してきた右手を指輪を持っていないほうの手で掴んでぐいっと引き寄せる。
その勢いに倒れこみそうになるの体を更に強く引っ張り抱き寄せる。

「あ、本当に女の子の体だね」
っ?!!…どこを触ってそれを言っているんですか?!
「別に変なところなんか触ってないだろ?体の作りがやっぱり女の子は軟らかいんだよね、ジニーもそうだから」

ジョージの言葉に思わずほんのり顔を赤くする
確かにジョージは変なところを触っているわけではない。
右手には指輪がある為にの体には触れてない、左手を肩に回して抱きしめているだけだ。

、ちょっと聞いて欲しいんだ」
「…何をですか?」
「あ、機嫌悪い?話聞いてくれないと指輪返さないよ?」
「ジョージ先輩っていっつも卑怯ですよね…」
「頭を使った手段を用いてるって言って欲しいな」

ため息をつく
ジョージの性格ではこう言えば絶対に説得は難しくなる。
別に話を聞くくらいならばいいだろう。

「で、話って何ですか?」
「うん、実はさ。今気付いたんだけど…」
「…だけど?」
「僕、のことが好きなんだ」

一瞬何を言われたのか分からなかった。
少しジョージの言葉を頭の中で繰り返してみる。


………はい?


は思わずジョージを見上げてしまう。
のきょとんっとした表情にジョージはくすくすっと笑う。

「最初は『悪戯仕掛け人』に協力してもらいたくて、その発想が楽しそうだし反応が面白かったから追いかけていたんだけど…、去年くらいからかな?が僕だけファーストネームで呼んでくれるようになったよね」
「ジョージ先輩だけじゃありませんけどね。ネビルもそうですよ」
「そうだけどさ、あれって結構嬉しかったんだよ。にファーストネームで呼んでもらうようになるとって態度変わるから」
「そんなこと…ないと思いますけど」

前もそんなようなことを言われた覚えがある。
は自覚はないし、そうしているつもりもない。
だが周りはそう感じているようである。

「実際、って去年は結構僕に対しての態度変わってたよ?頼みごとしても仕方ないな〜って言いつつもきいてくれることが多かったし」
「それはジョージ先輩の押しが強すぎるから断るに断れなかった場合のみです」

無意識かもしれない。
ファミリーネームで呼ぶということは、他人行儀さを感じる。
呼びなれてしまってもそれは変わらないものだ。
だからこそ、ファーストネームで呼ぶ相手には自然と親しくなってしまうのかもしれない。
そしてが寂しいと思う気持ち、壁を作っていても寂しいと思う気持ちが無意識にそうさせるのか。

「ハリーにが『例のあの人』に狙われていることは聞いたよ。その時、フレッドは深入りしないほうがいいという選択を選んだ。それはがそう望んでいるし、の安全の為にもその方がいいと判断したから」
「ウィーズリー先輩の選択は正しいですよ。相手は、まだホグワーツすら卒業していない魔法使いの卵では敵う者じゃありません」
「うん、それは僕も頭では分かっているんだ、足手まといになるんだろうってことが…。でも、は僕に対して態度が変わった、の事が少しずつ見えてきたらもっと知りたいと思ったんだよ」
「それは何度も言っていますが危険ですよ…」

ジョージは右腕でを挟むように抱きしめ直す。

「どうしてこんなにもに拘るのか僕自身全然分からなかったよ。フレッドの言うことの方が正しいだろうって何度も納得しようとした。でも、感情は納得できないんだ…!」
「っ…!」

抱きしめる力が強くなる。
僅かに苦しい。

は男の子だから、フレッド以上の親友を見つけてそれで失いたくないからだって、ずっと思ってた」
「僕はそう簡単にやられたりませんよ。そんなに弱くないんですから」
「分かってる、実技の成績は良くないけど、は何か隠していて多分それを使えば強いんだろうって事。でも、それ以上に…はいつか僕たちの前から何も言わずに消えてしまうんじゃないかって………不安なんだ」
「消えたりしませんってば」
「そうかい?でも、は自分で気付いているかい?君、お祝い騒ぎの時っていっつもいないか離れた場所で見てるだけだろ?まるで傍観者みたいだ……危険な時だけはいつも駆けつけるのに…」

ぴくりっとの肩が揺れる。
寮杯獲得の騒ぎの時、クィディッチの勝利のパーティーの時、は大抵いない。
お祭り騒ぎの中、そんなことに気付いているとは思わなかった。
生徒達は殆どが騒ぎに夢中のはずだから…。

「その様子だと、自分でわかってやってるのかい?」
っ…ですから!駄目なんです!
「何がだい?」

どうして分かってくれない。
危険なのはジョージなのに…。

「危険なんです!僕は…ヴォルデモート側についてしまう可能性がないわけじゃないんです」
「でも、ハリーの敵にはならないんだろう?」
「ポッター君個人の、と限定すればそれは「Yes」です。例え、闇側についてもポッター君の命を脅かすことはさせません」
「それって、妬けるな」
なっ…!何を言っているんですか?!」
、もう忘れているのかい?僕はが好きなんだ。が闇側についてもきっとこの気持ちは変わらないよ」

好きだから。
自覚したのは今だけれども、好きだから。
きっとこの気持ちは変わらないから。

「僕だから駄目なのかい?スリザリンの編入生の彼はいいのかい?」
「ヴォルさんのことですか?」
「そう、その彼」

ジョージは知らない。
彼はただの編入生ではないことを。
最初は誰も巻き込みたくないと思っていた。
でも、それはきっと無理だろう。

「ヴォルさんは…ちょっと特別なんです」

の知らなかった存在だから。
影響を与えてもいいと思える存在だから、巻き込んでも最良の未来を崩すことはないだろうと思えるから。

「ジョージ先輩には兄弟も家族もいるでしょう?だから、巻き込みたくないんです」
「家族…?じゃあ、スリザリンのアイツは違うのかい?家族がいないとでも言うのかい?」
「はい、ヴォルさんにはもう血縁者はいませんよ」

ジョージが驚くのが伝わってくる。
母親は早くに亡くなった、父とその両親は自らの手で殺めた。
最も、今の肉体の血縁はと言われると、亡くなった人を含めても誰もいないということになるだろう。

「大体、何で僕にそういう気持ちを抱くことになるんですか?は男でしょう?」
「『想い』に性別は関係ないって言うよ。ま、これは純血主義の考え方だけどね、それだけは今は同意できる。それにが女の子だって今知るまで、恋愛感情だなんて思いもしなかったし…」
「そのまま自覚しなくて良かったですよ…」
「酷いな〜、結構本気なんだけど。は誰か好きな相手でもいるのかい?もう既にスリザリンのアイツのお手つき?」
「お手つきって…!どこからそういう言葉を覚えてくるんですか!まぁ…、恋人同士かといわれると違いますね。それにホグワーツ卒業するまではそういう甘い感情は抱くつもりはありません。そのうち、そんな余裕がなくなります」

ヴォルデモートが甦れば、世界は慌しくなる。
もホグワーツ以外で動かなければならなくなるだろう。

「それじゃあ、覚えていてくれるだけでいい。返事はまだいいから」
「校内ではそういう態度とるのはやめてくださいね、噂に加わることになりますよ」
「それってスネイプとの噂かい?」
「し、知っているんですか?!
「僕が知らないとでも思ってた?」

ジョージは『悪戯仕掛け人』だ。
その情報もすごいものだろう。
どこから仕入れてくるのか謎だが…他寮にも彼らのファンは大勢いる。

「噂に加わっても別に構わないけど、が望むなら…2人きりだけの時にするよ」
「それもやめて欲しいんですけど…」
「それって僕から口説く機会を全て奪う気かい?それは厳しすぎるだろ」

にっと笑みを浮かべるジョージ。
抱きしめた腕を緩めてと間近で向かい合う。


が好きだよ。

っ!


真剣な瞳で、いつもの悪戯をしているような面白がっている目ではない。
真っ直ぐ見つめられて照れないはずなどないだろう。
の顔は赤く染まる。
恥ずかしくて目を下に逸らす
くすりっとジョージの笑う声がすぐ側から聞こえた気がした。
影がの顔にかかる。


え…?


ふっと目を上げた時に飛び込んできたのはジョージの顔だった。
唇に冷たいものが何か重なる。
それがジョージの唇だと分かった時には、既にそれは離れていた。
ほんの一瞬触れるだけのキス。


っ…?!!ジョージ先輩!!


ばっと見上げればジョージも僅かに照れているのか顔を赤らめている。
それでも嬉しそうな笑みを浮かべていた。

「もしかして初めて?」
「……違いますよ」
「なんだ」

からかうような口調に小さく言葉を返す
それに少し不機嫌そうなジョージの声が返ってきた。
初めてではないが、やっぱりこういうことにはなれないだったりするのだった。