アズカバンの囚人編 17
今日は「闇の魔術に対する防衛術」の授業がある日だ。
リーマスの授業を初めて受ける日である。
しかし、その前に魔法薬学の授業あったりする。
グリフィンドール生が大嫌いな、スリザリンとの合同の魔法薬学だ。
「今日は『縮み薬』を作る、各人4人組になりたまえ。作り方は去年教えたはずだ、教科書56ページを参考にしろ」
生徒達は一斉に教科書の準備と材料の準備を始める。
セブルスは教室内を見回す。
スリザリンの方で手がひとつ上がる。
「スネイプ先生、僕、怪我が痛むので上手く材料を扱えないのですが…」
「成る程…それもそうだな」
ドラコの言葉にセブルスはグリフィンドール生のほうを見回す。
まだ4人組になっていない生徒達がちらほらいる。
は、とりあえずネビルと組もうと一緒にいた。
「ウィーズリー、マルフォイの所へと行け。マルフォイの変わりにきちんと材料をきざんでやれ」
「なっ…!」
ロンは心底嫌そうな顔をする。
「何か言いたいことでもあるのかね?ウィーズリー」
言う事をきかなければ減点が待っている。
ロンは顔を顰めながらも嫌々移動しようとする。
ぎろっとセブルスを睨むのを忘れずに。
「教授。ドラコの手伝いなら僕が…ドラコの怪我は僕のせいですし」
はセブルスにそう進言する。
ロンの少し期待するような嬉しそうな顔が見えた。
しかし、セブルスはギロっとを睨む。
「…」
「はい?」
「怪我人同士で組ませてどうする?貴様は大人しくしていろ」
ぎくりっとなる。
「ぼ、僕は怪我なんて、してませんけど…」
「ほぉ、それならば…、から我輩が以前調合した打撲の薬の臭いがするのは気のせいか?」
どうしてそんなことが分かるんですか?!
昨日の授業で見た目の怪我は全くないように見えただったが、やはり打撲があったようで後から痛みが来た。
魔法薬が効かないということで、医務室での治療ができないはセブルスからいくつか魔法薬ではない薬を調合させてもらっている。
その薬の一つを使わせてもらったのだ。
使ったところ、そこまで強い臭いがある薬ではなかったはずだが…。
ちらっとヴォルの方を見れば、どうして黙っていた…とでも言うような視線を送ってくる。
ヴォルさんが怒ってる…。
大した怪我じゃなかったし、とか言えばさらに怒るんだろうな。
ヴォルに対してはどうも強く出れない。
それは頼っているのと、信頼しているのがあるからなのだろうが…。
「も1人では無理だな…。リドル、の手伝いをしてやれ」
「な…、教授!僕は平気です!」
「貴様の”平気”は信用できん。特にロングボトムと一緒に組むなど無謀なことをするようでは、怪我が悪化しないとは限らないだろう?」
「大丈夫です!」
「…グリフィンドール1点減点。」
ぼそっとセブルスの減点に流石に黙らざるを得ない。
セブルスの配慮はありがたい、ありがたいのだが……相手がヴォルなのがちょっと問題なのだ。
一見全く怒ってないように見えるヴォルがの隣にやってくる。
だが、目が怒ってる。
「あ、あの…ヴォルさん?」
「どこだ?」
「へ…?」
「どこを痛めた?」
打撲はどこだ、とヴォルは聞いてきた。
一瞬きょとんっとしただが、左手で右肩の後ろの方を指す。
じっとしてれば痛みはない。
「右肩のあたり、かな。動かさなければ痛くないし、大したことないよ」
「それならば材料を切るのは俺がやろう。ロングボトム、お前は煮詰める鍋を用意しておけ」
「え?あ…うん」
とヴォルが隣同士で、向かい側にネビル。
ネビルは慌てた様子で鍋を用意する。
セブルスは4人組になれと言った。
好き好んでスリザリン生がいるグループに誰か来るだろうか…?
「ポッター、貴様もウィーズリーと一緒にマルフォイの手伝いをしてやれ」
作業をしようとするの耳にセブルスが当然のようにハリーにも移動を命じる声が聞こえた。
ハリーはセブルスを憎々しげに見つめながらも移動している。
ドラコのいるグループはグリフィンドール生2人、スリザリン生2人という奇妙なグループになっていた。
ロンとハリーは嫌々ながらも、ドラコに言われたとおりに作業せざるを得ない。
でなければ減点されてしまうからだ。
「私が『萎び無花果』の皮をむくわ。協力してきちんと4人分作りましょう」
にこっと笑顔で話しかけてきたのはハーマイオニー。
スリザリンのヴォル相手にも変わらず笑みを浮かべている。
「あの、僕は何をすれば…?」
「はロングボトムと一緒に鍋でもかき混ぜていろ」
「タイミングはなら分かるでしょう。任せるわ」
「うん、わかった」
手際よく材料を用意していくヴォルとグレンジャー。
さすが首席でホグワーツを卒業した者と、現首席である。
どこのグループよりも手際がいい。
あっという間に『縮み薬』が出来上がっていく。
も魔法薬学は得意な教科だ。
ネビルだけが魔法薬学が苦手なのである。
しかし学年トップレベルの実力を持つ3人のフォローがあれば、ネビルの苦手や失敗など問題にならない程度にはカバーできる。
鍋の中の液体の色は綺麗な明るい黄緑色になっていった。
「できたのかね」
セブルスは大抵回りの生徒達を見てまわっているが、達のグループが出来たようで近づいてきた。
鍋の中を覗き込むセブルス。
「ほぉ…、完璧のようだな。スリザリンとグリフィンドールに5点ずつだ」
セブルスの言葉に驚いたのはグリフィンドール生全員だ。
スリザリンにだけ点数を与えるのなら分かる。
けれども平等に点数を与えたのだ。
「教授…?どういう風の吹き回しですか?グリフィンドールに点数くれるなんて…」
「、教師に口応えする生意気さでグリフィンドール1点減点。」
………ちょっと教授を見直そうとした、私が間違ってました。
教授は、確かに教授です。
「、黙って点数もらっておいた方がいいわよ」
「グレンジャー、無駄なおしゃべりはやめたまえ。グリフィンドール1点減点。」
こそこそっとハーマイオニーのアドバイスにセブルスが減点を下す。
どうやらグリフィンドールに点数を与えたのは、その分きちんと減点するつもりだからのようだ。
どちらにしろグリフィンドールには不公平ということになる。
セブルスらしい。
普通はありえない減点方法にハーマイオニーは文句を言わないものの、セブルスをきっちり睨んでいる。
「ね、ねぇ、」
見事なまでに完成した『縮み薬』を驚きながら見ているネビルが声をかける。
鍋から目を逸らして、ネビルはちらっとヴォルを見る。
ネビルの視線に気付いたヴォルがネビルの方を見るので、ネビルはすぐに視線を逸らす。
「どうしたの?ネビル?」
小さな声では尋ねる。
「あの…スリザリンのリドルって…の知り合いだよね?」
「うん、そうだけど…」
「僕、あの声どこかで聞いたことがあると思うんだけど…」
ネビルは少し考える仕草をする。
どこで聞いたことがあるのかは思い出せないけれども、以前絶対に聞いたことがある声だと確信しているようだ。
流石ネビル、一度聞いた声を絶対に聞き間違わない。
どこの誰の声でいつ聞いたかを覚えていれば完璧だ。
「それ、気にしないでもらえるとありがたいんだけど…、ネビル」
「え?何で?」
「説明すると長くなるし、ちょっと表ざたに出来るようなことじゃないというか…」
「詳しく聞かれると、は困るの?」
「うん、困る」
きっぱりと言う。
ハリーは知っている、ハーマイオニーも知っている。
けれどこれ以上事情を知る人を増やすことは出来ない。
ヴォルの事情を話すということは、の事情も多少なりとも話すことに繋がりかねないからだ。
「じゃあ、聞かないことにするね」
「ありがとう、ネビル」
にこっとネビルは人の良さそうな笑みを浮かべる。
素直に人のいう事を聞く、そしてとっても優しい子だ。
としてはありがたい。
「のほほんとしてるな、2人とも。薬をビンに入れて提出しろ、だと」
「そうよ。こっちがの分、こっちがネビルの分よ。ネビル、こぼさないように注意して」
「あ、うん…」
ハーマイオニーから小瓶を受け取るネビル。
鍋から薬をすくって小瓶に入れるだけの作業。
それだけの作業なのだが、ネビルはこういう時こそ失敗しやすい。
ハーマイオニーが注意を向けていたので失敗はしないだろうと思い、は自分の分を小瓶に入れることにした。
明るい黄緑色の液体。
こんな不思議な色は普通のマグルの薬では存在しない。
は注意深く自分の小瓶に薬を流し込んで蓋をする。
それをセブルスの元へ提出をする。
教壇の所にいるセブルスの元へ一人一人提出するのだが…。
が小瓶を差し出してそれを受け取ったセブルスは、小瓶を受け取った手とは反対側の手をのばす。
「教授…?」
一体何をするつもりだろう?
セブルスの手がそのままの右肩に伸びてきたので、は反射的に避けようとしたが…。
「…っ!!きょう…じゅ?」
セブルスの手はの肩へと少し触れただけだった。
ただそれだけなのに、は顔を一瞬顰めてすぐに右肩を引いた。
激痛が走ったわけではないが、それでも痛みに少し驚いた。
「以前渡した薬じゃ弱いようだな…、少し待っていろ」
まだ作業中の生徒が多い中、セブルスは少し席を外す。
すぐに戻ってきたが、持っていたのはグラス2つだった。
そのグラスを2つともに差し出す。
「打撲用の薬と痛み止めの薬だ、どちらとも調合は完璧だ。飲め」
拒否権はないのだろう。
片方は白いにごった色、もう片方はオレンジ色の透き通った色。
とりあえず白い濁った色の方を先に飲む。
こちらは多少苦いだけで悪くはない。
薬に味の評価をするのも変だが……。
「そっちのオレンジの方は痛み止めだ」
「痛み止め…」
じっとオレンジ色の液体の入ったグラスを見る。
セブルスが作ったものだから大丈夫だろう。
特に何も疑いもせずにそちらも飲んでみたが……。
「あ……甘っ…。」
なんなのだ、というくらい甘い。
この甘さの薬などリーマスは嬉しいだろうが、には甘すぎる。
今まで生まれ育ってここまで甘い薬などは飲んだだろうか…と思う。
思い返してみれば…あるにはある。
も、もしかして幼児用のシロップ……?
ちらりっとセブルスの方を見る。
知っていてそれを作ったのか、知らずに作ったのがたまたま甘いものになってしまったのか。
あえて突っ込もうとは思わなかった。
「ありがとうございます、教授」
「礼は必要ない。その代わり怪我をした時はどんな軽いものでも我輩のところへ来い。貴様の大丈夫ほどアテにならんものはない」
「ぜ、善処します。」
早々怪我をすることはないとは思いたいが…今年の後半はお世話になることになりそうだと思う。
見届けるにしろ、一緒に行動するにしろ、まったくの無傷でいれるほど事態は甘いものではないだろうから…。
セブルスから離れて、はハーマイオニーの元に向かった。
「グレンジャー」
「なにかしら?」
こそこそと小さな声をかける。
「グレンジャーの両親って歯医者だったよね」
「ええ、そうよ」
「悪いんだけど…、両親に頼んで痛み止めの薬とか分けてもらえないかな?」
「どうして?スネイプ先生の薬はちゃんと効くのよね?」
「いや、ちゃんと効果はある…けれど、さっきの痛み止めの味がちょっと…。普通の錠剤の方がいい」
あれは甘すぎる。
軽い痛み止めの薬なのだろうが、小さな怪我のたびにああいうものを飲まされてはたまらない。
甘いものが嫌いではないだが、あの甘さが頻繁になるのはちょっと嫌だ。
「頼むことはいいけれども、駄目だったら…」
「その時はいいよ。イースターに入ってから自分で市販のものを買いに行くから」
「分かったわ。後でフクロウ便で頼んでみるわね」
「うん、ありがとう、グレンジャー」
痛覚を消してしまえば痛みなど感じなくなる。
けれど、それは諸刃の刃でもある。
痛みを消すと言うことはどれだけ酷い怪我になっても自覚できないということだ。
痛みは自分の体の限界の危険信号を知らせてくれるもの。
そうぽこぽこ簡単に痛覚を消してしまうことはしないほうがいい。
我慢できる程度の痛みの時は普通に過ごそうと思っている。
それは怪我をした時も同様だ。
力にばかり頼っていてはいけないのだから…。
でも、あとで治しておこう。
ヴォルに怪我がばれてしまったは、そんなことをこっそり思ったのだった。