アズカバンの囚人編 16
スリザリン生達はハグリッドのやる「魔法飼育学」に不安を持ち、グリフィンドール生達は別の意味で不安になった。
日頃グリフィンドール生達に、嫌味の数々を言っているドラコが怪我をしたからといって同情などしないグリフィンドール生が殆どなのだが、ハグリッドの事が大好きな生徒達は多い。
「まさか、マルフォイ…。自分が怪我をしたからってハグリッドをやめさせたりしない…わよね」
夕食を食べながら、ハーマイオニーが不安そうに呟いた。
その言葉にぎょっとするロンとハリー。
は、夕食はハリー達と一緒にいた。
ハリーに引っ張られて一緒に座らせてしまったのだ。
先ほどの授業でヴォルに引っ付かれていたのが、気に入らなかったらしい。
「まさか…、マルフォイはを庇ったんだぜ?自分が怪我することくらい承知だったんじゃないか?」
「そうだよ、実際に被害を受けそうになったのはだし…。はそんなことしないもんね」
ハリーが確認するように尋ねる。
は苦笑しながら頷く。
「でも、問題は怪我をしたのがマルフォイで、マルフォイの父親に権力があるってことなのよね…」
「大丈夫だよ、ハーマイオニー。医務室のマダム・ポンフリーはあんな怪我なんかすぐに治すさ!」
「そうだよ。僕だって去年あんなのよりも酷い怪我したけど、すぐに治ったし!」
生徒が怪我をしてその親に権力がある場合は、その親が黙っていないことが多いだろう。
幸いなのがここが魔法学校で、ある程度の怪我ならばすぐに治ってしまうということだ。
魔法使いの感覚は少し違うのかもしれないとは思う。
マグルの学校では、魔法生物のような生き物を扱う教科は危険だということで殆どないのだから…。
「ところで……、って随分とリドルと仲がいいんだね」
ハグリッドの事を心配していたと思っていれば、ハリーが突然話題を変えてに話をふる。
「ど、同居してるしね…。家族みたいなものだからさ」
「ふ〜ん…。」
の答えに納得していないような返事を返すハリー。
嘘は言っていない。
ヴォルとはホグワーツに通う少し前からずっと一緒なのだから。
家族というのは少し違う関係だが…。
「でも、。貴方過剰に反応するのはやめた方がいいわよ。別に家族のように一緒に育って仲がいいなら抱き合うことくらい珍しくないのよ、普通」
「へ…?」
さらりっとハーマイオニーが言う。
はその言葉にきょとんっとする。
「の国ではあまりスキンシップってないのよね、確か」
「え、あ…うん」
「でも、ここでは家族同士や仲が良ければああいう行動は珍しくないわよ、同性同士でも。が過剰に反応するとおかしな噂がまた増えるわよ」
「ぐ、グレンジャー?!!」
くすりっと笑うハーマイオニーの言葉には慌てる。
言葉の内容から、ハーマイオニーはセブルスとの噂を知っているような感じだ。
いや、セブルスとの噂ではなく以前ドラコが言っていたが相手をファーストネームで呼ばない理由の噂かもしれない。
「のおかしな噂って何だよ?」
「ロンは知らなくていいことよ」
「なんだよ、それ…」
顔を顰めるロンだが、ロンは意外と普通の感覚の持ち主なのでそういう噂は好きではないだろう。
ハーマイオニーは結構そういう偏見はないらしい。
マグルの中で育って自分が魔法使いだという事を受け入れた時点で偏見はあまりないと思えるだろう。
「普通そういうものなの…?」
は確認するようにハーマイオニーに尋ねる。
確かに日本人はスキンシップが少ない。
日常的に抱きしめる行為などしないものだ。
「そうよ。別に変じゃないわよ」
「そ、そうなんだ…」
はぁ〜とため息をつく。
言われて見ればここに来て2年以上が経つが、感情を表わす時の動作が大げさすぎるくらいだと思うときがある。
彼らにとってはそういう表現が普通なのだろう、きっと。
ヴォルがの姿構わず色々仕掛けてくるのは、スリザリンならではの感覚でなくてこの国の人だからか。
いや、まてよ…と思う。
確かに抱きしめたり、肩を組むくらいなら友情でもあるだろう。
それ以上の過剰なスキンシップはやっぱり同性同士ではおかしい。
抱きしめて耳元で囁いたり、キスしたりは普通はない。
やっぱり、スリザリンは感覚がおかしいんだ……。
改めて認識してしまっただったりする。
ヴォル1人の行動でスリザリン全ての傾向がこうだと思うのはどうかと思うが…。
夕食後、ハリー達はハグリッドに会いにいくと言って小屋のほうへと向かった。
大丈夫だと思いつつも心配なのは変わらない。
ハーマイオニーとロンが、シリウスの関係の事で不安そうな表情を少ししていたが、ハリー自身が大丈夫と言った事と。
「ホグワーツほど安全な場所はないから平気だよ、不本意だけど吸魂鬼もいることだしね…。何かあったら叫べば誰か駆けつけてくれるよ」
がそう言った事で安心したのか出かけていった。
も誘われたのだが断った。
ドラコの様子を見に行きたかったからだ。
そのまま医務室へと向かう。
まだ医務室にいるのかな…?
魔法使いの間では、あの怪我は酷いうちに入らないということは、もう治って寮の方に戻っているかもしれない。
流石にスリザリン寮へは入れない。
いや、入ろうと思えば入れるには入れるのだが…。
いなければいないで、明日会えば構わないと思っていただったが、途中の廊下で前から歩いてくるドラコを見かけた。
何か得意げに話すドラコの話を聞いているパンジーと、一歩下がった所を歩いているヴォル。
ヴォルはドラコの様子を見に行ったのだろうか…?
ヴォルにしては珍しい行動に不思議に思いながらも、はドラコの方に歩いていく。
「ドラコ…!」
の呼びかけに気付いたのかドラコの視線がをとらえる。
右腕には白い包帯が巻いてあるのには心配になる。
「怪我…大丈夫?」
「ああ、平気だ。まだ少し痛むけどな」
軽く右手を上げてみせるドラコ。
ニヤニヤした表情から、どうやら怪我は本当は治っている様だ。
はそれが分かってほっとする。
包帯は嫌がらせなのだろう。
誰への…といえば、やはりハリーを含めたハグリッドを慕っているグリフィンドール生全員へのだろう。
「ヴォルさんもドラコの様子見に来てたんだね」
「いや、俺は……」
ヴォルにしては珍しくはっきりと答えずに苦笑する。
「リドルは僕が心配だったんじゃなくて、僕が怪我をして父上に手紙を書くだろうって思ってその手紙内容に付け加えて欲しいことがあるからって来ただけなんだよな」
「実際怪我は平気だっただろ?あの程度なら1時間もしないうちに完治するさ」
「あ、おい、リドル!それを言うな」
にまだ痛むと言った手前、完治されているとバレるはドラコとしては困るのだろう。
けれど、はそのことに関しては全然気にしない。
寧ろ完治したと確認できてほっとするくらいだ。
「でも、何でまたルシウスさんに…?何か聞きたいことでもあるの?」
「…お前忘れてるわけじゃないだろうな。『カナリアの小屋』はまだ終わってないんだぞ?」
「うん、ちゃんと覚えてるよ」
それが何か…?
の様子にヴォルはあからさまなため息をつく。
「、もう少し警戒心を持て。お前は決して弱くはないが、何にも負けないほど強くもないだろう?」
「そうだけど、警戒しろと言われても何に警戒すればいいのか分からない状況じゃ…」
「それを知るために、ドラコの手紙で探りを入れてみた。その探りにルシウスが気付くかどうかは5分5分ということろだがな」
遠回りに、探っているということが分からないような形の文章を書いたのだろう。
ドラコがまさかそこまでのことが出来るなどルシウスが思わないことも盲点になる。
ルシウスはヴォルデモートの片腕とも言われるほどに鋭い。
「ヴォルさん……、ドラコを利用するやり方、僕はあまり好きじゃないよ」
「存在するものを全て利用する、それがスリザリンのやり方だ、。グリフィンドール生には納得できないか?」
「頭では納得できるよ。でも、感情は納得しないかな…?ごめん、ドラコ。利用するようなことして」
後半はドラコに向けた台詞だ。
周りに存在するものを利用して生きていく。
そうやってずるく生きていかなければならない時もあることは、も幼い子供ではないので分かっている。
「いや、僕は構わないが……」
ドラコはどこか気まずそうに目を逸らす。
何かに後ろめたいことでもあるかのような感じだ。
「ドラコ…?」
は不思議に思ってドラコを見る。
「いいことを教えてあげるわ、」
今まで黙っていたパンジーが口を挟む。
嘲笑うかのような表情を浮かべながらを見る。
「貴方を襲ったヒッポグリフ、きっと処刑されるわよ。だって、ドラコに酷い怪我をさせたんですもの。ドラコの怪我は今も痛むほどに酷いのよ」
「バックビークが?」
「バックビークって言うの?あの乱暴なヒッポグリフは。ドラコが手紙にそう書いたからドラコのお父様がきっとそうなさるわ。それに、あの役たたずのでかぶつ教師!あれも絶対にクビだわ」
いい気味だとも言うようにパンジーは嗤う。
別にはこうなるだろうことが分かっていたので驚きもしない。
寧ろ、こうなったことにほっとしているのかもしれない。
ほっとした自分に嫌気がさしたりするが…。
「ドラコ」
「な、なんだ…?」
「痛むの?」
「な、何がだ?」
「傷、痛みが残ってるの?」
「あ、当たり前だ!痛いに決まっているだろう!」
の問いに焦ったように答えるドラコ。
先ほどのヴォルの言葉でドラコの怪我など治っていると分かっていても聞いてしまう。
「じゃあ、後で教授に痛み止めの薬でももらってくるよ」
「は…?」
「痛みがなくなるまで薬飲んでおけば楽でしょ?痛くて夜眠れないのも困るしさ」
「あ…、いや…。別に痛み止めは…」
さらに焦るドラコ。
こうなるとからかいたい衝動がこみ上げてくる。
笑みがこぼれそうなのをなんとか堪えながらは続ける。
「痛みがあるなら、痛み止めはあったほうがいいよ。痛みでよく眠れなくて授業に集中できなかったりしたら困るしね」
「………そんなに気を…使わなくても…」
「気にしないで。元は僕を庇ったせいで怪我をしたんだし。必要なら授業のノートも取るし、食事も食べさせてあげるよ、ドラコ」
「食べさせる…?!」
にっこりとは笑みを浮かべるが、ドラコはわたわたしている。
ヴォルがため息をつくのが聞こえた。
「、その辺にしてやれ。わかっててやるなよな…まったく」
「あ、やっぱり、ヴォルさんには分かっちゃったか」
最初は本当に心配で聞いたのだが、途中からは完全にからかっていたである。
極力それを表情にださないようにしていたので、ドラコは全然気がつかなかったのだろう。
真剣なの表情が、がらりっと変わったのでドラコは一瞬あっけにとられていた。
「君は僕をからかっていたのか?!」
「うん、途中からはね。でも、心配だったのは本当だよ」
そう、心配したのは本当。
本とは違う怪我の仕方、本当に完治したのか少し不安だった。
「別にその包帯と痛がって見せる姿とかでポッター君達に嫌がらせするのはいいけど、ほどほどにしといてね」
「なっ…!分かっていたのか?!」
「うん。だって、ドラコがやりそうなことだし。あとね、ドラコ」
「なんだよ?!」
「そう、怒らないで聞いて」
くすくすっとは笑う。
ドラコが怒っているように見えるのは、に完全に自分の考えが読まれていたことへの怒りと、わざと怪我が酷いように見せたのにも関わらずが全然気にしなかったことに対してほっとしたということを知られたくなかったためだ。
怒っているドラコにはすっと真剣な表情になる。
「ドラコ、僕をもう庇うようなことをしないで」
真剣と言うよりも悲しげに見えるの表情。
「…?」
「もう、二度と…例え僕の状況が命に関わることでも僕を庇ったりしないで」
ドラコの怪我にぞっとした。
庇われて守られることは、にとって嬉しいことじゃなかった。
恐ろしいことだ。
自分によって、他者が傷ついていしまう。
「、その約束はできない」
「ドラコ!」
「君は分かっているのか?人より傷の治りが格段に遅いくせに、自分が怪我をする方を選ぶのか?!」
ドラコの言葉に驚きの表情を見せる。
そんなをドラコは目を細めて見る。
「それくらい誰でも気付くさ。君は何度か怪我をした、でも、その怪我の完治にどれくらいかかってる?」
「あ〜…ちょっと特殊な体質でね…。うん、でも大丈夫だから」
「何が大丈夫だ!」
「大丈夫だよ。ほら、何しろ今年はヴォルさんもいるしさ」
のその言葉はヴォルを信用しているからこそ出る言葉である。
ヴォルにだけは頼っているともとれる。
その言葉にヴォルは少し嬉しくなるが…。
「が俺をちゃんと頼ってくれればいいけどな…」
「うぐ…。」
鋭い意見に黙らざるを得ない。
確かにヴォルを信頼しているし、頼る場面もある。
だが、それはヴォルがその時側にいれば…の話だ。
「、あたしは貴方の事あまり好きじゃないけど…無茶しすぎは良くないわよ。だって、貴方そういわれるだけの事しているわ」
とどめの様にパンジーにまで言われてしまう。
パンジーには比較的嫌われているという部類だったはずだが…その相手にこうまで言われてしまうのはやはりが相当無茶をしていると捉えられているのだろう。
だからこそ、はホグワーツでも名の知られた存在になっているのだから…。