アズカバンの囚人編 12
昼食を食べてから、はハーマイオニーと一緒に「古代ルーン文字」の教室へと向かった。
ハリー達は「古代ルーン文字」を取っていないので、もっとゆっくりと昼食を食べるらしい。
「古代ルーン文字」を選択している生徒はどうやら結構少ないようだ。
教室へと向かう生徒達が殆どいない。
ハッフルパフの生徒などはかなり少ないようだ。
教室に入れば、そこは沢山の本が並ぶ紙の臭いに満ちている部屋だった。
気分的には図書館にいるような感じだ。
「この雰囲気…すごく落ち着くわ」
「うん、同意。勉強するのに向いている感じだよね」
「でも…ちょっと早く来すぎたかしら?」
「かもしれないね」
教室内はガランとしていた。
選択している生徒達が少ないのか、それともまだ来ていない生徒達が多いのか。
どちからかなのかは分からないが、今教室にいるのは、とハーマイオニーを含め6人ほど。
「丁度いいわ、予習しましょう、」
「相変わらずだね…グレンジャー」
さっそく席について教科書をぺらぺらめくり始めるハーマイオニーに苦笑する。
もハーマイオニーの隣の席に座る。
「『穢れた血』は予習をしないと授業にもついていけないほど馬鹿らしいな…」
ハーマイオニーに習っても教科書をめくろうとした時、頭上の方から降ってくる聞きなれた声。
ハーマイオニーがばっと顔を上げてその声の主を睨む。
ニヤニヤと笑いながらハーマイオニーとを見下すように見ているのは言うまでもなくドラコだ。
「『純血一族』は予習もなしで授業にすんなりついていける天才なんだね、ドラコ」
「それは褒めている言葉なのか、」
「いや、どう考えても遠まわしに馬鹿にしてるだろ」
はドラコの真似をして嗤いを装いながら言った。
それに顔を顰めたドラコだが、ドラコの後ろにいたヴォルがすっぱりと否定してくれる。
「何だって?!!」
案の定ドラコはに対して怒鳴りだした。
「…ヴォルさんがいると上手くからかえない…」
「僕をからかうな、!」
「と言われても…」
楽しいからやめたくない。
というのが正直な感想である。
とにかくはヴォルの方に視線を移す。
「ドラコもヴォルさんも「古代ルーン文字」選択したんだね」
「ああ…。とにかくこの授業はまともであることを願うのみだな」
ため息交じりのヴォルの言葉。
午前の授業で何かあったのだろうか…?
「、隣いいか?」
「あ、うん。こっち側なら空いてるし…」
現在ハーマイオニーの隣に座っているは反対側の隣をさす。
席は基本的に自由なのだからどこに座っても構わない。
ヴォルはの隣の席に座る。
ドラコはそのヴォルの隣に席をとった。
「その前に、はじめまして…と言っていいのか?ハーマイオニー=グレンジャー?」
少しだけ笑みを浮かべるヴォル。
ヴォルの言葉に話しかけられるとは思っていなかったのだろうハーマイオニーは思いっきり驚いた表情をしている。
「あ、ええ。はじめましてでいいと思うわ。リドルと呼べばいいのかしら?それともと同じように……ヴォル、と呼んでもいいかしら?」
「どちらでも。”トム”とさえ呼ばれなければ構わない。グリフィンドールには勿体無いほどの優秀さだな、グレンジャー」
「何のことかしら…?」
「いや、なんでもないさ」
ハーマイオニーがヴォルと話すのに少し緊張しているのがには分かった。
事情を多少なりとも知っているからなのか…。
それでも対等に接しようと努力しているハーマイオニーは凄いと思う。
「ヴォルさんって、グレンジャーの事は嫌いじゃない?」
ハリーやロンに関しては嫌っている様子を隠しもせずに言動にでている気がする。
「俺は優秀なヤツは嫌いじゃないさ。言葉に見合うだけの実力を持っている魔法使いならば対等に接するのが礼儀だろう?それがどんな血族であれ」
「それなら、言葉に見合うだけの実力を持っていない魔法使いに対しては対等に接する必要はない?たとえ純血であれ」
「さぁな…」
否定はしない。
だが、肯定もしないヴォル。
ヴォルの隣でドラコが睨むようにこちらを見ていた。
「リドル!お前なんでそんな『穢れた血』相手に…!」
「ドラコ、お前な…」
呆れたような表情をするヴォル。
「『純血』を誇るのは悪くない。俺だって自分の血を誇っている所もある。だがな、それに見合うだけの実力を持たなければ…、相手が『穢れた血』だと侮っていたら、いつか足元すくわれるのはお前の方だぞ。認めろとは言わないが、自分よりも上のものを見下すのをやめろ、そのままだと狡猾なスリザリンの恥になりかねない」
「なっ!!」
ドラコは同じスリザリン生にここまで言われるとは思っていなかっただろう。
ハーマイオニーもヴォルの言葉に驚いている。
グリフィンドールを否定ばかりするスリザリンが当たり前だと思っていたがヴォルはそれを覆すかのような発言をした。
マルフォイ家のドラコを貶めるようなことを言ったのだ。
スリザリン生でそんなことを言える生徒はまずいない。
これでもマルフォイ家の力は相当なものなのだから…。
「スリザリンの恥だって?!僕が…マルフォイ家のこの僕がそんなことになるわけないだろう?!君は絶対にこっち側の人間だと思っていたが…まさかその『穢れた血』と同じ考えを持っているんじゃないのか?!」
「考え方は全く同じじゃない。ドラコ、確かに俺はお前と同じ側の人間だ。それにお前よりも闇からは近い場所にいる。だが、お前はを認めたんじゃなかったのか?」
「…?」
「も確かに純粋なマグル出身の『穢れた血』だぞ?」
『穢れた血』を嫌ってはいたものの、を認めたドラコ。
それなのにハーマイオニーは認められないのか。
自分よりも優秀な点が多いだけという理由で…?
「けど…!グレンジャーは………!」
ふとは思いつく。
ドラコは必要以上にハーマイオニーを貶める傾向がある。
それは何故か。
とハーマイオニーの違いは…?
「もしかして、女の子に負けるのが悔しいだけ……とか?」
「っ?!!」
顔をほんのり赤くするドラコ。
どうやら図星っぽい。
「何よそれ!この男女平等のこの時代で、私が女だから負けるが悔しいですって?!侮辱だわ!」
「それとも意外とドラコはグレンジャーの事が好きで、好きな子に負けるのがかっこ悪いと思っているとかだったり?」
「それは違う!!」
茶化すの言葉に間髪いれずにドラコは否定する。
その否定も真っ赤な顔色ではあまり説得力がないということが分かっているのか。
本当にドラコがハーマイオニーのことが好きかどうかなどは分からない。
「そいう時だけすぐに否定するなんて、失礼だわ!」
「否定してなにが悪い!」
「別に悪くないわよ!私は貴方みたいなのに好かれるのはゴメンですからね!」
「僕だって君みたいな相手は断固お断りだ!」
やや圧され気味のドラコである。
「意外だが、根本では分かっているんだな…」
「ドラコのこと?」
とヴォルを挟みながら口喧嘩を続けているハーマイオニーとドラコ。
ヴォルはドラコを見てぽつりとそう呟いたのだ。
一見、何もしらない純血のお坊ちゃまのように見える。
でも、分かってはいるのだ。
『純血』を誇っていても、『純血』だけでは駄目なのだと。
努力なしでは出来ることなどないのだと。
「認めているからこそ、相手を認識している。それが、ドラコなりの表現の仕方なんだろうな」
「意地っ張りな部分が多くて子供らしいというか何と言うか…だね」
「まったくだ」
自分よりも年下の子供達。
ヴォルから見ても、から見ても、ハーマイオニーもドラコも子供である。
「何をのんびりしているんだ、リドルもも!大体リドル、君の言葉が発端じゃないか!関係なさそうな顔してるな!」
「も無関係な顔しないで!この純血馬鹿に分からせてやるのよ!マグルの素晴らしさを!」
「マグルの素晴らしさなんて分かるか!魔法も使えない人間のどこか素晴らしいんだ!」
「電気も電話も知らない、世間知らずの純血主義なんて魔法がなくなればただの田舎者よ!」
「僕が田舎者だって?!田舎者はそっちだろう?!変なことに詳しいくせに、魔法界の基本的なことを何も分かってないようなとか!」
「私は違うわよ!魔法界の基礎はしっかり勉強済みだわ!をそこの辺りのマグル出身と一緒にしないで欲しいわ!は変わり者だもの!」
話がちょっと別方向にいきつつある。
「あの…グレンジャーもドラコも…それは僕を貶めているの…?」
褒めているようには聞こえない。
2人そろってばっとの方を見る。
「「貶めているも何も…」」
「事実だろう?」
「事実でしょう?」
2人の意見が始めてあった瞬間ではないのだろうか。
同時に口にした言葉に互いに顔を見合わせるドラコとハーマイオニー。
笑い合う事はしないが、顔を見合わせた2人はどこか認め合ったような表情をしていた。
なんだかな〜…。
はちょっぴり複雑な気分だった。