アズカバンの囚人編 11
やっとの3年生初授業の時間である。
ハリー達はもう先に向かっているようだが、も教科書を持って向かう。
変身術では、占い学の授業でのことが分かるだろう。
教室にはすでに数人の生徒達がいた。
は思ったよりも早くついたようだ。
適当な席に座って授業が始まるまで教科書をめくることにする。
「、早いね」
にこにこっとの隣に座ったのは、もはやの隣の席は当たり前というようなネビルである。
ハリーはロンと隣同士、その後ろがハーマイオニー、ということが多い。
授業中、は殆どネビルのお隣だ。
「ネビルは占い学とっていたんだよね。どうだった?楽しかった?」
「あ……。」
の問いに先ほどの占い学の授業の事を思い出したのか顔色を変えるネビル。
気まずそうな表情で顔を逸らす。
なんとも正直な反応である。
「もしかして何か良くない占い結果でもでたの?」
「…な、なんて言うか。ぼ、僕は「次の授業に遅れる」って言われたんだ。だから遅れないように早く来ようと思って…!」
「十分間に合ってるよ、遅れていないし。占いなんて曖昧な物、悪い結果がでたらその結果の通りにならないように行動すればいいんだよ、今のネビルみたいにね」
「う、うん…!」
少し明るい表情になるネビル。
「でも、当たった予言もあるのよ」
身を乗り出すようにの後ろからラベンダーが話しかけてきた。
ラベンダーも占い学を受けてきたのだろう、話すことに躊躇うかのような表情を見せている。
「当たった予言って…、ネビルがカップを割ると予言して実際割ったとか?」
苦笑しながらはそう言ってみる。
すると、案の定ネビルとラベンダーは驚いた表情になる。
「嘘、どうして分かったの、!」
「僕が近づいたら本当にカップが割れちゃったんだよ!」
2人の驚きように思わずくすくす笑ってしまう。
知っていたからこう言えたのだが、簡単な推理でも導けるだろう。
普段のネビルの行動と、占い学で何をやるかをあらかじめ知っていれば。
「ネビルが初めて使うものに対して不慣れなのは知ってるからね。占い学で最初にやるのは多分カップを使った占いかな…って思って、ネビルならカップ割ることもあるんじゃないかって思っただけ」
「僕なら…って酷いや、」
「ごめん、ごめん」
しゅんっとするネビルには謝る。
ネビルも自分がドジなことを自覚しているのか少し落ち込むだけだった。
が自分を責めているような言い方をしていないのが分かったのだろう。
はあえて「ドジ」とは言わずに「不慣れ」と言ったのだから。
「それでも凄いわよ、。どうして占い学とらなかったの?才能あるわよ!」
「ありがとう、来年は考えてみるよ」
が占い学を取らなかったことには一応理由がある。
自分が未来を知っているから、という理由である。
占いは占い、未来は未来、関係ないのだが先を知っているのに占いで良い結果がでてしまったら期待してしまうかもしれない。
占いの結果と自分の知る未来が別物であることは分かっているが…複雑な気持ちのまま受けることもないだろうと思ってやめたのだ。
雑談しているうちにマクゴナガルが来て授業が始まった。
授業中、上の空の生徒達が多かった。
マクゴナガルの説明に頷きを返す生徒が殆どいない。
「どうしたのですか、今日は…。いくら休み明けと言っても…」
マクゴナガルが困ったような表情を浮かべる。
休み明けで浮かれている様子には見えない生徒達に、どう対応したらいいのか分からないのだろう。
ちらりっとマクゴナガルがの方に視線を向けてくる。
「占い学で何かあったらしいですよ」
苦笑しながらはそう答えた。
その言葉にそういうことですか…とマクゴナガルは納得した表情を見せた。
「それで、今年は誰が死ぬ予定なのですか?」
呆れたように生徒達を見回す。
マクゴナガルの言葉に驚いた生徒達もいれば、真っ先にハリーに視線を送る生徒達もいた。
殆どの生徒達がハリーを見るという状況になる。
皆正直者だ。
「成る程、今年はポッターなのですね。いいですか、ポッター、シビル=トレローニー教授は、本校に赴任してからというもの1年に1度は死の予言をしています。そして、その予言が当たったことなど一度もありません。」
きっぱりと言い切るマクゴナガルの言葉にほっとする生達が数名。
それでもまだ疑いを捨てきれない生徒達もいるようだ。
「同じ教師であるトレローニー教授の占い学ですが、占い学というのは魔法学校の教科の中でも一番曖昧でわかりにくいものです。決して占い学を否定するわけではありませんが、魔法使いの中でも「真の予言者」はめったにいません。私が認める真の予言者は今も昔もただ1人だけです。トレローニー教授は、彼女のような予言者ではないと……いえ、これ以上はやめましょう」
ため息をつきながらマクゴナガルは話を止める。
これ以上言ってしまったら、トレローニーが先生に相応しくないという発言にもなりかねない。
同じ学校で教師をしている以上、同僚とも言える相手を否定するのはよくないだろう。
「ポッター、どんな予言が出ても、私は課題を免除しませんからね。今の貴方はどう見ても健康そのものにしか見えません。もしトレローニー教授の予言が当たるようなことがあれば、本日の私の課題は提出しなくて構いませんよ」
苦笑を交えてマクゴナガルはハリーに言った。
当たるはずのない予言なのだから課題はきちんとやりなさい、と言いたいのだろう。
「あの、先生…!」
ハーマイオニーが手を上げる。
「なんですか、グレンジャー。まだ何か他に問題の予言でもあったのですか?」
「いえ、そうではなくて…。先生が先ほど言った、先生が認める「真の予言者」というのは誰なのですか?」
魔法使いとして有名なマクゴナガルが、今も昔も認める唯一の「真の予言者」。
気になるのは当然だろう。
「彼女の名前ですか…?」
懐かしそうに目を細めるマクゴナガル。
ハーマイオニーはマクゴナガルの問いに頷く。
生徒達の何人かはその答えに興味を抱いているようだ。
「彼女の名前はシアン=レイブンクローですよ」
「レイブンクロー」の名に生徒達はざわつく。
しかし、はその名に驚いていた。
こんなところで聞くとも思っていなかった、先代の名前。
当時の闇の帝王に「闇の人形(デス・ドール)」の魔法をかけられてその命を縮めさせられ、長くは生きれなかった、魔法の使えない魔法使い。
先代の……時の代行者。
「先生、そのシアンさんはホグワーツ創立者の1人である「ロウェナ=レイブンクロー」の…?」
「ええ、子孫ですよ」
ハーマイオニーの質問に肯定を返すマクゴナガル。
さらにざわめきが増す。
レイブンクローの子孫であり真の予言者。
けれど、シアン=レイブンクローの名はどの本にも載っていないだろう。
「さて、この話はここまで、授業を続けますよ!」
ぱんぱんっとマクゴナガルが手を叩き、変身術の授業が始まる。
しかし生徒達は、マクゴナガルが言った真の予言者である「シアン=レイブンクロー」について興味津々のようだった。
ハリーの悪い予言など忘れてしまったかのように…。
彼女の名前はどこにもないだろうとは思う。
おそらくダンブルドア辺りが全て隠し通したに違いない。
彼女の名を知るのは当時闇の陣営に敵対していた側にいた、信頼されている者達のみ。
先をよみ、魔法でない力を使う予言者。
マクゴナガルはその時シアンの側にいた1人なのだろう。
シアンの事を話すマクゴナガルの表情に、なんともいえない悲しいものが含まれていたことに気付いたのはだけかもしれない。
マクゴナガル先生は、先を知ることは、必ずしも素晴らしいことだとは限らないということを知っているんだろうね…。。
生徒達が「シアン=レイブンクロー」の名に興味を持ったのはこの時だけだった。
彼女の名は、世界が望んだからか、彼女の自身が望んだからか……その名が世界に広まることはないのだろう。