アズカバンの囚人編 10
授業はすぐに始まる。
ハリー達の最初の授業は占い学だが、占い学をとっていないは変身術までは図書館で自主学習をしていた。
選択科目が増えると空き時間も増えるのである。
古代ルーン文字は変身術の後だ。
こんなことなら、占い学か数占い学でもとっておけばよかったかな?
それともマグル学でも学んでこの時代のイギリスはどうなっているのか知るのもよかったかも。
確かここは私がいたところよりも昔のはずだから…。
ぱらぱらっと本のページをめくる。
読んでる訳でなく眺めているの隣に誰かが腰掛けるのが分かった。
図書館は比較的空いているのに誰だろう…とは隣を見る。
全く見覚えのない生徒達だった。
『達』というのは1人だけではないからなのだが…。
「こんにちは」
「はじめましてよね、」
にっこりと優しく微笑んできたハッフルパフの少年…いや青年に近いかもしれない…と、その少年の隣に座っての方を覗き込むように挨拶をしてきたレイブンクローの東洋系の顔立ちの可愛らしい少女。
「あの?僕のことご存知なのですか…?」
どう考えても二人は先輩に当たるだろうと思って敬語を使う。
西洋人は特に成長が早いので学年が上か下か区別がつかないことがあるので、困りものだ。
彼らは上の学年だろうとは思うが…。
「昨日あれだけ注目を集めておいて自覚なしなの?」
「昨日の一件以前でも結構有名だったけどね。スリザリンのマルフォイと親しい変わったグリフィンドール生としてさ」
驚いた様子を見せる少女と苦笑する少年。
「あの?」
一体この2人は誰なのだろうか…?
誰かのか想像はつくが、彼らとは話をしたことは一度もないはずである。
「ああ、悪かったね。君の方は僕らの事を知らない?」
「そう言えば貴方、あまりクイディッチ見ないものね。競技場でも見かけないわ」
クィディッチの試合。
なんの偶然か必然かは分からないが、は1年の時も2年の時もロクに試合を見ていない。
勝敗は聞いているものの、観戦をしたことがないのだ。
「はじめまして、=。僕はセドリック=ディゴリー、ハッフルパフ5年でクィディッチのシーカーだよ、よろしく」
「私はチョウ=チャン、貴方と同じ東洋出身よ。レイブンクロー4年でセドリックと同じシーカーよ、よろしくね」
思わず驚いてしまう。
この2人の顔立ちと寮からしてそうではないかとは思っていたが…。
2人についてはあまり深く考えずは笑みを返す。
「こちらこそ、僕は…」
「自己紹介はいらないよ、君の事は知っているからね」
「そうよ、随分有名だもの。いつか話をしてみたいと思ってたの」
「図書館の入り口でチョウとばったり会ったはいいんだけど、話題がなくて困っていたら君を見かけたから…」
「一緒に話しかけてみましょう!って事になったの」
嬉しそうに話すセドリックとチョウ。
的には、放っておいて欲しかったところだが…話しかけて来たのにそっけなくするのは悪いだろうと思う。
そういうところが甘いからこそ、面倒ごとに巻き込まれやすいのだろうが…。
「僕と話しても別に何もいいことなんて…」
「でも、は日本人よね。ってどういう字を書くの?」
「チャン先輩は、「チョウ・チャン」はどういう字なんですか?」
「私?私の字は…」
チョウは羊皮紙と羽ペンを取り出す。
セドリックはにこやかな表情でそれを見守っている。
カリカリっと羊皮紙に漢字が書かれる。
羊皮紙に書かれるのは英語ばかりなので、漢字をみると懐かしいような可笑しいような奇妙な気分になる。
『張・秋』
「張はよく見る姓ですけど、チョウは『秋』なんですね。秋生まれなんですか?」
「そうよ。の字は?「・」はどう書くの?」
「えっと、僕のはですね…」
チョウの羊皮紙とペンを差し出されたのでそれを借りて、『張・秋』の隣に書く。
『・』と。
「随分と可愛らしい字を書くのね。女の子向けじゃない?」
「はは、分かる人にはそう言われます」
普通に女の子につける名前なので仕方ないです。
とは言えない。
日本人ならば女の子っぽい名前と男の子っぽい名前が、どれがどれか分かる。
他の国の人には慣れないので分からないだろうと思うが…。
「って、女装すれば似合いそうね」
「はい?!」
どうしてそんな言葉が出てくる…?
チョウはにこにこした表情を崩さない。
「張先輩?僕、男…」
「ええ、分かっているわ。だから”女装”って言ったじゃない。セドリックくらいにまで成長すると駄目だけれども、くらいの年なら女の子の格好しても似合いそうよね」
「確かにね…」
「同意しないでくだい!ディゴリー先輩!」
「名前に合うような可愛い服を、今度私がホグズミードで探してきてあげるわよ、」
「冗談でもやめてください!」
性別がバレたらどうするのだ。
いや、そもそも性別を偽って入学したが悪いといえば悪いのだが…。
最初は本当に深い意味があってこの格好にしたわけじゃないから、あまり考えてなかったけど…。
流石にホグワーツ3年目になるのに、性別を偽ってましたなんてバレるのはやばいでしょ。
「ところで、は何やっていたんだい?」
にっこりと人好きしそうな笑顔で問いかけてくるセドリック。
話題を変えてくれて助かったとばかりに、は小さくため息をつく。
「いえ、普通に次の授業まで読書でもしてようかと思って…」
「朝から…?」
「そんな早くからではないですけど…」
「でも、朝大広間にはいなかったよね?」
「な、何で知っているんですか…?」
生徒1人いない程度ではたいして気にされないだろうと思って、は遅い朝食をとったのだが…。
ただ単に寝坊しただけである。
夜中ハリーに指輪を一度とられてあせったのがいけなかったのか、それで目がぱっちり覚めてしまっていたのだ。
寝付いたのが外が明るみはじめてから。
何度か声をかけられたのは覚えているが…よほど眠かったらしく思いっきり寝坊したのである。
「昨日アレだけ注目集めたんですもの。今日もスリザリンの席に行くのかと思って皆待っていたのよ」
「スリザリンの彼はきちんと来ていた様だけどね。敵が手ごわくなってハリーも大変そうかな?」
「今朝は惨敗していたものね…」
苦笑する2人。
確か今朝は、ドラコがハリーが気絶したことをからかうシーンがあったはずだ。
ヴォルもそれに加わったのだろうか…?
いや、ヴォルのことだから厳しい一言をずばっと言っただけのような気がする。
それも事実であって、反論しようにもできない一言を…。
ヴォルらしいといえばヴォルらしい。
「ところで、お2人は今の時間、授業はないんですか?」
「勿論ないからここにいるのよ」
「普段クィディッチで勉強が出来ない分、今しないとね」
「セドリックは優秀だから勉強なんて必要ないでしょう?」
「そんなことないさ、僕だって勉強しなきゃ優秀な成績は取れないよ。分からないところがあれば教えるよ、チョウ」
「…あ、ありがとう」
にっこりとチョウに笑みを向けるセドリック。
セドリックの笑みに思わず顔を真っ赤にするチョウ。
お似合いのカップルのこの2人の側に果たして自分がいる意味があるのだろうか…と思ってしまう。
「ディゴリー先輩と張先輩って付き合っているんですか?」
確か来年辺りは付き合うことになるはずだ。
すでに今年から結構いい雰囲気だったのではないのか。
「ち、違うわよ!!」
顔をさらに真っ赤にして否定したのはチョウの方である。
セドリックはそんなチョウの反応に苦笑して
「どうやら、僕はフラれてしまっているようだよ、」
そう答える。
チョウの耳まで真っ赤になる。
恥ずかしいのか俯いてしまった。
「そういう君の方はどうなんだい?皆君の好みに興味津々なようだけど…。やっぱり、好みはスネイプ先生みたいなのかい?」
「っ??!!!」
「それとも編入してきた彼のような感じ?ハーマイオニー=グレンジャーみたいなのが本命なのかな?」
「な、な、な……!!」
爽やか笑顔で普通に質問してくるセドリック。
笑顔でとんでもないことを言う人である。
「からかわないで下さいよ…!」
あくまで図書館なので小声で反論。
「それに僕は男なんですけど…」
「勿論知っているよ。でも、そういう噂があるから聞いてみただけなんだ」
「知ってるんですね…あの噂」
「変わった噂だよね。発生がスリザリンということろもまた」
「教授にその噂の事教えたときは、かなり面白い反応してくれましたけどね」
「スネイプ先生をからかえるなんて、すごいね」
「いえ、コツと引き際さえ分かれば楽しいものです。特にああいうタイプをからかうのは面白くて面白くて…!!」
ついつい本音が出てしまうである。
目下の楽しみは、セブルスとドラコをからかうことである。
結構素直な反応を返してくれる2人はとっても面白い。
「確かに、今まで僕も誰かをからかうなんてことしなかったけど、結構面白いよね」
笑みと一緒にに視線を向けるセドリック。
その視線と言葉に冷や汗が頬を伝う。
「あの…、ディゴリー先輩…?」
「セドリック」
「は、え…?」
「セドリックって呼んで欲しいな」
「あ、いえ…年長者をファーストネームで…」
「そんなの関係ないよ。セドリックって呼んでね」
「で、ですから…」
「そんな他人行儀な呼び方僕は嫌だな」
「そう言われましても、これは僕なりの事情というものが…」
「そんな事情、僕は知らないしね。だから、呼んで」
「あ…う……」
「セドリックって呼んでね」
「いや、あの…」
て、手強い。
双子も手強いと思ったけれども、この手強さは結構厳しい。
諦めないで言われ続ける方法が一番困る。
ファミリーネーム呼びの理由を明確に答えられない側としては。
しかし、なんとかしなければと思うが…
「冗談だよ」
あっさりと冗談宣言されてしまう。
きょとんっとする。
「をからかうのは面白そうだね」
爆弾発言まで落としてくれるセドリック。
にこにこ爽やかな笑顔を見せながら…。
隣のチョウはその笑顔に顔を赤くしたままなのだが…。
こ、この人は〜!
全然紳士的な優等生じゃない!
性格悪い…!
本の中でのイメージは一部に過ぎないものだと初めて思う瞬間であった。