アズカバンの囚人編 6
新入生の組み分けが始まる。
それが終わるまで在校生は各寮の席で待機だ。
皆それをドキドキしながら見守る。
今年はどんな子が自分達の寮に来るのだろうかと期待しながら…。
ハリーとハーマイオニーの姿が見えないのは、マクゴナガル先生に呼ばれたからだろう。
ハリーは吸魂鬼の件で、ハーマイオニーは無茶苦茶な時間割の件で。
そうこうしているうちに組み分けが終わる。
丁度組み分けが終わった頃にハリーとハーマイオニーが戻ってくる。
の姿に気付いたハリーがに軽く手を振る。
席が少し離れているのでも軽く手を振り返すだけに留めた。
「新入生の諸君、入学おめでとう」
ダンブルドアの声が大広間に響き渡る。
いつ聞いてもこの声は聞き取りやすく、深い声だ。
「今年は悪い話と楽しい話がある。先に悪い知らせのほうからいこうかの。こういう話は先にさくさく終わらせてしまうのが一番じゃ」
ふっとダンブルドアの表情が真剣なものになる。
大広間の生徒達も少し緊張気味になる。
分かっている生徒達も多いだろう。
そう、恐らくホグワーツに着いてもちらっと見えたあの影だ。
「知っておる者もいるじゃろうが、今年はホグワーツにアズカバンの吸魂鬼を受け入れておる。魔法省からの以来じゃ…。吸魂鬼には無闇に近づくではないぞ?変装や悪戯、『透明マント』すらやつらには効かん。魔法省は、吸魂鬼は決して校内には入らないという前提での今回の受け入れじゃ。ホグワーツから許可なく出ることをしてはいかんぞ」
誰もがシリウス=ブラックのための吸魂鬼だと言うことを知っている。
シリウスがハリーを狙っているという噂があるからこその警備なのだろう。
ダンブルドアが監督生達にその見張りを頼み、監督生たちは頼もしく頷いていた。
「さて、楽しい方の話に移ろうかの。まずは、今年は新任の先生が2人おる。1人は空席だった『闇の魔術に対する防衛術』の新しい先生、リーマス=ルーピン先生じゃ」
教員席に座っていたリーマスが立ち上がりにっこりと笑みを浮かべる。
隣にいるセブルスの眉間のシワが一層深くなる。
なんでまたセブルスの隣に座っているのかと言えば、理由はリーマスの嫌がらせか、たまたまだろう。
前者の理由の方が正しい気もするが…。
「もう1人の先生は、『魔法飼育学』のケトルバーン先生じゃが、前年度を持って退職された、よって新任の先生として森番のルビウス=ハグリッドが教鞭をとってくれることになった」
グリフィンドール生は一斉に喜んだ。
ハグリッドは特にグリフィンドール生に人気があるようだ。
「さて、最後にもう一つ。非常に珍しいことじゃが、今年3年に編入生を迎えることになった。来なさい」
ダンブルドアの声に教師の席の影の方から1人の生徒が現れる。
「っ?!!!」
黒いサラサラの髪、深紅の瞳。
今年3年生だと言うからなのか、顔立ちには少し幼さが見える。
けれども、確実に整っている顔だと言えるだろう。
微笑みもせず、その場にたつ彼の顔には嫌というほど見覚えがある。
「彼はトム=リドルじゃ。さて、トムの組み分けをせねばならんの」
なんでもない顔でダンブルドア自ら組み分け帽子を彼に差し出す。
一瞬顔を顰めた彼だが、素直に組み分け帽子を被る。
ダンブルドアはかなり楽しそうである。
組み分けにはさほど時間がかからず…
「スリザリン!!!」
組み分け帽子の声が響き渡る。
彼は当然かのようにスリザリン席のほうへ向う。
ちらっとグリフィンドール席のほうに視線を向けてきた。
彼を目で追っていたとはばっちり視線が合ってしまい…笑みを向けられた。
その笑みを見た十数人の女子生徒達が小さく叫ぶの聞こえた。
って、ヴォルさんーー!!
そんなところで姿幼くして何やってるのーー?!!!
叫びたい気分のだった。
言わずとも彼はヴォルである。
の知ってるヴォルの人の姿は17〜8歳の姿だが、今は3年生に合うように変えているようだ。
「さて、これで大切な話は全て終わりじゃ。さぁ、宴じゃ!」
ちりんっとダンブルドアが小さな鈴を鳴らすと、一斉にテーブルの上に料理が広がる。
生徒達は喜び顔になり、やっとのことのご馳走にかぶりつく。
雑談も聞こえ始め、人それぞれ食事をしながら楽しそうに過ごし始めた。
…が、はがたんっと席を立つ。
迷わずスリザリンの席へと向かう。
「…!!」
ハリーの何か聞きたそうな視線があったが、そんな余裕はない。
ハリーも恐らく驚いているだろう。
ロンやハーマイオニー達はまだ話を聞いているだけで、リドルの容姿などは知らないはずだ。
話すことは出来ないが、ハリーの方をちらっと見て人差し指を口元に当てる。
何も話さないで。
そういう意味合いを込めて。
ヴォルがリドルと融合したこと、リドルの容姿を知らない人から見れば、名前だけでは偶然だろうと思ってくれるかもしれない。
ハリーは聡い子だ、事情を知っているはずのダンブルドアが堂々とヴォルを紹介した時点で何を言っても仕方ないと考えるかもしれない。
そう考えて欲しいと思う。
はっきり言って、これはかなり予想外だ。
もう、何考えているの、ヴォルさんってば!
ずんずんっと周りの驚いた視線など気にせずにスリザリン寮生の席のヴォルが座っている場所へと近づく。
当のヴォルはドラコと会話中だったりする。
ドラコが言っていた、友人になれそうな編入生とはヴォルのことだったのだろう。
「?どうしたんだ…?」
ドラコが先にに気付く。
ヴォルもが近づいてきているのは絶対気付いていたはずだ。
の方に視線を向けてにやりと笑みを浮かべている。
むっとする。
「何企んでいるかと思えば………編入するなんて」
「そのうち分かるって言っただろ?」
「言ってたけど……!なんで編入?!…って、ちょっと待って。もしかして、リーマスとダンブルドアもグルだったりする?」
「まぁ、ダンブルドアの許可がなければホグワーツには通えないだろうな」
ばっと教員席のほうを見れば、にっこりとリーマスに笑みを向けられ、ダンブルドアに片目つぶってウィンクされた。
確信犯だ。
「一体いつからこんなこと企んでたのさ」
「いつだろうな…。少なくとも2ヶ月くらい前か?金銭面でも余裕があったしな」
「余裕…?もしかして、たまに1人で出かけてたのって、1人で取りに行ってたの?!」
「ああ、の知らない穴場にもな」
「ずるい!」
「ずるいと言われてもな…いろいろ試したい魔法もあったことだし、さすがに人相手に試して事件になるのは勘弁だしな」
「勘弁とかって問題じゃないよ!人相手に闇の魔術は禁止!」
「禁止されてもどうにもならない時は使うぞ?まぁ、あの禁じられた呪文を使うほどの相手とはそうそう会う事ないだろうが…」
は思いっきり深いため息をつく。
ヴォルはニヤリっと笑みを浮かべのネクタイをぐいっと引っ張る。
「の為なら何でもするからな、俺は…」
「っ?!!」
の顔が一気に真っ赤になる。
顔を近づけてこういうことを言わないで欲しい。
恥ずかしすぎる。
「それとな…」
「?」
「どうでもいいが、かなり目立ってるぞ」
ヴォルの言葉にはっとなる。
周りを見回してみれば、自分達のペースで食事をしているものは少数。
殆どの視線がこの場に集まっていた。
「君達、知り合い………なのか?」
呆然としたドラコの声。
そういえば、ヴォルの隣はドラコだったと思い出す。
「知り合いなんて関係じゃないな。同棲してる仲ってとこか?」
「同居って言ってよ、同居って!変な誤解されるでしょう?!」
ヴォルさん…!
そんな冗談こんなところで言わないで!頼むから!
「随分と仲がいいんだな、とト…いやリドル」
トムと言おうとして、ヴォルの視線に気付いて言い直す。
「もしかして、ファーストネーム呼び禁止した?」
「ああ、嫌いだからな。この名前は」
「それなら、別の名前名乗ればよかったんじゃないの?」
「名乗ってもいいのか?もう一つのアナグラムの名の方が良かったか?」
「絶対駄目!!そっちの名前名乗ったらとんでもないことになるよ!分かってて言っているでしょ?」
「勿論」
ふんっとヴォルは笑みを浮かべる。
はなんだかとっても悔しい気分だったりする。
どうもヴォル相手では言葉では勝てないのだ。
経験の差か、年の差か。
「じゃあ、リドルって呼んだ方がいい?」
「いや、別に今まで通りで構わないが?のことだから変えろといってもそのうちボロがでるだろ」
「そんなことないよ!」
むっとしながら言い返したものの、はっと気付く。
ここはホグワーツの大広間だ。
生徒達が全員勢ぞろいの。
さっきそれに気付いて目立つのは困ると思ったばかりなのに、ヴォルのペースに巻き込まれてしまう。
「どうした??」
「っ…!」
ヴォルは余裕そうな表情で、何もかも分かっていながらそんなことを言っているのだろう。
裏がありそうな笑みがそれを裏付けている。
「ぐ、グリフィンドールのテーブルに戻る」
「別に戻らなくてもいいだろ?ここで食べれば」
「そ、そうはいかないよ。一応僕はグリフィンドール生だし…」
「気にするな。構わないだろう?ドラコ」
突然話を向けられたドラコは慌てたように頷く。
ヴォルはの腕を掴んで、ドラコとの間に隙間を空けてそこへとを座らせる。
こういう時はヴォルに逆らっても無理なことが分かっているのでも大人しく従う。
「グリフィンドール生がスリザリン席にいるなんて前代未聞だよ」
「創立して初のことかもしれないな。貴重な体験が出来てなによりじゃないか」
「人事だと思って…。そんなこと言うとヴォルさんをいつかグリフィンドールの席にひきずり混むよ?」
「やれるものならやってみろ」
「う………。」
にやりっと笑みを浮かべるヴォル。
どう考えてもには、ヴォルをグリフィンドールに引っ張っていくことはできないだろう。
「が純血主義の相手を嫌わないのは、リドルがいたからなのか?」
ヴォルとは反対側からのドラコの声。
まだ少し呆然としながらの問いである。
編入生のヴォルとが親しいのが信じられないのだろう。
「それは違う。には単に偏見がないだけさ、ウィーズリーとは違ってな」
「ああ、ウィーズリーは純血一族といっても落ちぶれた一族だからな…、物分りが悪すぎる」
ああ、そんな大きな声できっぱりと…。
ちらっとがグリフィンドールの方をみれば、やはりロンをはじめとするウィーズリー家の方々に睨まれている。
「それにしても、どういう関係なんだ?とリドルは…。しかもはどうして君を「ヴォル」と呼ぶんだ?」
「同棲してるって言っただろ?」
「同居だってば!」
「呼び方に関しては、俺のミドルネームが「ヴォル」だからってだけだ」
いつからそうなったのさ…。
突っ込みたい。
「それなら僕も君を「ヴォル」と呼んで構わないのか?」
「呼べるならばな。トム以外の呼び名なら構わない」
そう、ヴォルデモートの名に近い名を呼べるのならば。
ドラコはその意味が分かったようで、息を呑んだ。
ちらりっとドラコはの方に視線を向けた。
はそれを平気で躊躇いなく言葉にしていた。
「はやっぱり、変な意味で凄いな」
「それって褒めてるの…?」
感心したようなドラコの言葉は、褒めていないような気がする。
小さく突っ込んだだが、ドラコには聞こえなかったらしい。
「そう言えば聞いてなかったが、君は純血なのか?」
ドラコが気軽にヴォルに尋ねる。
スリザリン的な考え方から純血だと疑っていないかのようだ。
ヴォルはちらっとを見る。
「マグルの人間の血は全く入ってないことは確かだけど…?」
「そういえば考えたことなかったよな」
「何なんだそれは?」
ドラコが顔を顰める。
しかし、ヴォルの元の姿は猫だ。
昔の肉体はすでに滅びて、ヴォルデモートもヴォルもかつての体を持ってはいない。
元の体は混血だったが今はどうなんだろうか…?
「マグルの血が入っていないなら純血なんだろう?」
ドラコの当然のような言葉に、苦笑を返すヴォルとだった。
しかし、ヴォルが純血であることを拘らなくなってきたのは、ヴォルが変わったからだと言えるだろう。
考え方が全く変わったとは言えないだろうが…
それでも、は少し嬉しかった。