アズカバンの囚人編 5






そのままの雰囲気でホグワーツまでの馬車はドラコと相乗りである。
スリザリン生3人とグリフィンドール生1人。
これまた奇妙な組み合わせである。

はポッター達と一緒にいたんじゃないのか?」

クラッブの方がに話しかけてきた。
話しかけられるとは思ってなかったはちょっと驚く。
ドラコとはともかく、お付のクラッブとゴイルとは殆ど話したことがない。
見かけても挨拶も交わさないほどだ。
何しろスリザリンとグリフィンドール。
仲良く会話するなどまずはない。

「あ、うん。そうなんだけどね……」

確かにコンパートメントでは一緒だった。
ハリー達も馬車でも一緒になるつもりだっただろう。
けれどの方から離れたのだ。

「ポッター君達がハグリッドに挨拶しに行ったからさ…、邪魔かな〜と思って」
「邪魔?なんでが邪魔になるんだ?」

質問してきたのはドラコ。

「いやね、僕ってハグリッドにはちょっと疎まれているかもしれないからさ。ポッター君達だけならともかく、僕が一緒じゃ彼が不機嫌になるかもしれないでしょ」
「何でがあのデカブツに疎まれるんだ?」
「ノクターン横丁を平気で出入りしているところを見られたからかな?ポッター君に悪影響を及ぼすとでも思われたんだと…」

ハグリッドのことだから、きちんと話し合えば分かってくれるだろうことは分かる。
しかし、彼から盲目の信頼をもぎ取ってどうする…?
後々のことも考えてこのままでも構わないだろうと思った。
それにはノクターン横丁を出入りすることをやめらない。
ハグリッドと仲良くなれば、絶対にノクターン横丁への出入りの禁止を言い渡されそうだ。

ってノクターン横丁に出入りしているのか?」
「あそこって確か子供1人で出歩くにはちょっと危険なところだぞ?」
「でも、正規の方法じゃ間に合わないし…」
「「何が?」」

クラッブとゴイルそろって尋ねてくる。
素直に答えていいものか。
けれど、分かったところでどうもならないか。

生活費稼ぎ。
「「「は?」」」

の答えに今度はドラコを含めた3人の声が重なる。

「諸事情で両親からは送金がないからさ、生活費、学費、諸々全部自分で稼がないとならなくて…、本来なら売ることが出来ないものとかでもノクターン横丁なら法外な値段で買ってくれるし」

例えば、魔法界の法律で取っては駄目なものとかもある。
そして立ち入り禁止区域にしかないものなど。
大抵そういうものが高価に取引されているので、が取ってくるものは殆どがそんなものばかりだ。

「大体違法でもしない限りは、一攫千金なんて出来ないわけだからさ。違法で手に入れたものをダイアゴン横丁で売ることなんてもっての他。だからノクターン横丁に出入りしてるだけ」

なんでもないことのように言う
これでも今現在の年齢は20歳。
ある程度の冷静さはあるし、何よりもノクターン横丁に出入りし始めた頃は、その手のエキスパートが側にいた。
姿は猫だったが。

「ノクターン横丁の人たちも結構気さくでいい人たちばかりだよ?頭固くないし、なんでも素直に受け入れてくれるというか…」

いいことするにしても悪いことをするにしても抵抗がないのである。
それが自分にとって利益になるならば…。
やることが違法で犯罪行為であっても、あっさり容認してくれるような場所である。

…、普通の生徒はそんな感想を持たないと思うぞ?どうしてそこまで順応できるのか僕にはさっぱりだ」
「そうかな?慣れればいいところだよ」
「僕はまだ怖いな…あそこは」
「僕もだよ。いつ行ってもまだ慣れない」

ドラコは比較的平気そうだが、クラッブとゴイルはノクターン横丁はあまり好きではないらしい。
平気そうにしているの方がおかしいのだが…。

が皆に構われる理由がわかった気がする」
「退屈しないってのもあるけど…何より……」
は否定しないんだよな」
は…?

きょとんっとなる

は忠告めいたことは言うけども、決して相手を否定しないだろ?何でも当たり前のように受け入れてくれそうな感じがするんだよな。闇でも光でも…」

大げさな…とは思った。
確かにヴォルデモート側も、ダンブルドア側も関係なくいろんな人たちと接していきたいとは思っている。
決して相手を否定しないことない。
とて人間なのだから…そこまで寛大じゃない。
ただ、相手がホグワーツの生徒ならば年下の子供だ。
多少寛大にもなるだろう。

「なんか、ポッター君達もそうだけどさ、変に買いかぶられているような気がするんだけど……。僕、そんな寛大じゃないよ?」

子供相手ならいい。
これがルシウスやベラトリックスのような大人相手だとこうもいかないのだ。
絶対に態度がトゲトゲしくなってしまう。

「そうか?ならあの編入生もあっさり受け入れそうだけどな」
編入生…?編入生なんているの?」

初耳だ。
こんなところで早速話の食い違いが出てきてしまった。
今年は編入生などいないはずである。

「ああ、列車で一緒になったぞ。随分話があってな…、寮は本人も言ってたが絶対にスリザリンになるだろうな」
「スリザリン気質な子なの?」
「考え方が完全にスリザリン寄りだった。闇の魔術に関してはホグワーツで学ぶことはないとも言っていたくらいだから…」
え……?

どきりっとした。
闇の魔術が得意なスリザリン気質の編入生。

「聞いたことがない家名だったが、随分と純血一族の事に詳しい。断言できる、あいつは確実にこっち側だな」

自信満々のドラコ。
クラッブとゴイルもドラコの意見に同意するように頷いていた。
闇の濃い編入生。



そんな話の途中でがたんっと小さな揺れで馬車が止まる。
ホグワーツに着いたようだ。
クラッブとゴイルが先に降りた。


、君は以前僕に本当の友人を作れと言っただろう?」


降りようとしたところにドラコの言葉。
は少し考える。
そういえば随分前にそんなことを言ったような…。
結構前の事だ。

「それって1年の時の事じゃない」

1年半ほど前の事だ。
もすっかり忘れていた出来事。
一応覚えていたのは、あの時ドラコの記憶を操作したから。
何しろ魔法が効かないところを見られてしまったのだ。


「僕はあいつなら友人として付き合える気がする。も友人だけどな…、あいつとはまた違った関係ができそうだ」


にっと笑みを作るドラコ。
その笑みはとても嬉しそうな笑みだった。
隣に並んでくれるものをやっと見つけたような笑み。
そのままドラコは先に馬車から降りていった。

とドラコは確かに友人と呼べる関係かもしれない。
けれども、ドラコは無意識に感じている。
は決してドラコの隣には立たないことを。
下にいるのでもなく、上にいるのでもなく…ただ、は隣に立つことはしない。
それがの壁。
隠し事があるゆえのの壁なのだ。


真の友を得るだろう…。


それはスリザリンという寮の特色。
そこで得た友は生涯の友となる。

クラッブとゴイルのようにいつでもドラコの下に控えている友人ではなく、ドラコの隣に立てる相手。
闇の濃いスリザリン気質の編入生。

一体どんな人なのか……?
なんかすっごく嫌な予感がするのは私の気のせいかな?

ドラコに親友ができるのはいいことだ。
けれども、思わずため息がでてしまうのは予感が当たって欲しくないからか、予感が当たっていると分かるからか…。
どちらにしろ、もうすぐ分かることだ。