アズカバンの囚人編 4






チョコレートをかじったハリーは少し落ち着いたのか、顔色が良くなってきていた。
他の皆もである。


「落ち着いた?」


は尋ねる。
同時に皆で頷く。

は平気なの?僕、すっごく怖かったよ…。未来が真っ暗で何もないような感じに思えた…」

まだ震えの残る声で呟いたのはネビル。
ハリーほどではないにしろ、かなり怖かったのだろう。
ハーマイオニーやジニーは平気そうなを一種尊敬するかのように見る。
ロンはその様子にむっとする。

「全然ってわけじゃないけどさ…、こういうのは人によって違うんだよ」

そう、吸魂鬼の影響は人によって違う。
過去、気絶するほどの恐ろしい目にあった者と平和でのんびり過ごした者にとっては影響は全く違うのだ。

「ハリー…、大丈夫なのか?」
「うん、今は平気。ロンは……その、平気だったの?」
「あ、ああ、僕は君ほど酷くはなかったから…」
「そう…、じゃあ気を失ったのって僕だけ?

気まずそうに口を閉じるロン。
ハリーはイライラした様子で皆の顔を見る。
1人だけ気絶したのは自分が弱いからだと思ってしまっているのだろう。

は全然平気なのに、僕は…」
「僕の場合はポッター君とは体質違うからね」
え…?

くすりっとは笑みを浮かべる。
ハリーと目を合わせてにこっと笑えば、ハリーは何か気付いたような表情になる。
ほんの少しだけの秘密を知っているハリー。

「もしかして、それも狙われる理由のひとつ…?」
「そういうこと」

優秀で助かるよ、ハリー。
嘘はついてないけど、確かに吸魂鬼が平気なのは『力』のお陰だからね。

ハリーが知っているのはになんらかの秘密があってヴォルデモートに狙われるということだけだ。
どうして狙われるのかは知らない。
けれども察してくれたのだろう。
吸魂鬼に対して平気な体質だったら、ヴォルデモートには厄介かもしれないということを。

「狙われるってどいうことなの?ハリーはのこと何か知ってるの?」
「ハリーにだけは何か話しているって訳かい?」
「別に僕だって、そう沢山知ってるわけじゃないよ。去年君達には全部話したよ」
「「あ……。」」

そこでロンとハーマイオニーも何かに気付いたような声を上げた。
ハリーがフレッドとジョージに話をしたのは知っていたが、やっぱりロンとハーマイオニーにも話してあったようだ。
がヴォルデモートに狙われる存在であることを…。
どういう風に話が伝わっているのかは分からないが。
事情を聞いてないらしいジニーとネビルは首を傾げていた。



「どうやらもう大丈夫なようだね?チョコレートはまだ必要かい?」



運転士のところから戻ってきたリーマスがコンパートメントの扉の所でにこやかな笑顔で立っていた。
ざっと様子を見て大丈夫だと判断したらしい。
一番吸魂鬼の影響を受けていたハリーの方に視線を向けるリーマス。

「大丈夫かい?ハリー」
「はい…。でも、さっきのは一体…?」
「ああ、あれは…」

リーマスは少し顔を顰め、言いにくそうに口を開く。

「アズカバンの看守の吸魂鬼だよ。魔法界でも嫌われている相手でね……どうしてこんなところまでに……」

呆れたようなため息をつくリーマス。
けれども内心は複雑だろう。
シリウスを追うために放たれた吸魂鬼。
その吸魂鬼がここに現れたのは、魔法省がシリウスはハリーを狙うからと判断した為だ。

「僕、叫び声を聞いたんです。それは…」
「詳しい話は後にしようか、ハリー。吸魂鬼についてならば後でに聞くといいよ、私が持っている吸魂鬼の情報くらいならも知っているだろうから…」
「リーマス……、僕に押し付けないでよ。どうせなら授業でやればいいじゃない。『闇の魔術に対する防衛術』で教えてもおかしくない内容でしょう?」

悪戯をするような笑みを浮かべているリーマスに、はため息をつく。

「授業でやるよりも、ハリーは早く知りたいと思うよ。何しろあの2人の息子だからね」

苦笑しながらのリーマスのその言葉に納得してしまいそうになる
ジェームズのあの性格を考えれば分からないでもない。

「さぁ、もう少しでホグワーツに着くよ。寮に着く前でも着いた後でもゆっくり話すといい。何か話していた方が気がまぎれるだろうしね。それから、
「何?」
「ホグワーツに着いたら僕は一応先生だからね」
「了解、ルーピン先生。言葉使いには気をつけますよ」

特定の生徒と親しいのはあまりよく思われないだろう。
ただでさえ、リーマスは体質のせいで教師陣によく思われないだろうから…。
対先生用の言葉で話すように、ということなのだろう。

「勿論、事情を知る人の前だけでならいつも通りで構わないよ」

にっこりと笑みを浮かべるリーマスだった。
リーマスとしても堅苦しいのは好きではないだろう。
も同じだ。
一緒に暮らしていくようになってから、リーマスにはあまり気を使わなくなってきた部分もあるからである。





それからホグワーツに着いたのは10分もしないうちだった。
リーマスは教師なのでここからは別行動。
それにしても、全く姿を見せないヴォルが少し気になる
ホグワーツに来ないということはないだろうが…。

ハグリッドとの再会を喜んでいるハリー達を見て、は彼らから離れる。
どうも、ハグリッドにはあまりよく思われてないだ。
更に今年はバックビークの件もある。

ドラコが行動起こさないように止める事は出来るけど、そうするとシリウスさんが脱出する際の足がなくなってしまうしな…。

友人であるドラコには怪我をさせたくはない。
その前に、今のドラコが不用意にバックビークに近づいていくかも微妙だ。

いろいろ問題ありだな…今年も。

ため息をつかずにはいられない。
初めからこの調子では今年も大変だ。
せめてシリウスが予定外の行動をしてくれないことを祈るのみである。
これ以上厄介ごとを増やさないで欲しいと思う。


「何ぼけっとしてるんだ?


背後から声がかかる。
この声は…。

「あ、久しぶり、ドラコ」

マルフォイ家のパーティー以来である。
あのパーティーはとんでもなかった。
いろんな意味で。

「そう言えば聞いたか?ポッターが吸魂鬼に恐れるあまりに気絶したって」
「どこからそんな情報聞いたの…?」

それはそれは楽しそうに話すドラコ。
ハリーに対してはまるで親の仇かのように仲が悪い。
ドラコの後ろにはクラッブとゴイルがいつものように控えている。
そう言えば彼らもあのパーティーで見かけたような気がする。

「情けないよな…!お前らもそう思うだろう」
「うん、吸魂鬼に気絶するなんて本当に情けない」
「名前だけが有名なポッターだから仕方ないんじゃないか?」

ドラコの言葉に同意するクラッブとゴイル。
彼らも相変わらずだ。

「クラッブ君もゴイル君も久しぶりだね。ドラコとちょっと前に会った時も同じこと思ったけど……、2人とも成長したよね」

でかい。
それがの印象である。
1年の時は可愛いガキ大将のような感じだった。
それがの身長はあっという間に追い抜かされて、彼ら2人はドラコよりも背が高い。
顔立ちに子供らしさが残っているところがまだ可愛いものだが…。

は相変わらず小さいよな」
「貧しい食事ばかりで成長しないんじゃないか?」
「ヘルシーで体にいい食事と言って欲しいな。日本人はこってりしたものを好まないんだよ」

クラッブとゴイルの言葉には苦笑して答える。
の返答に顔を見合わせるクラッブとゴイル。

「何?」

何か変なことでも言っただろうか…?

「ドラコの言った通りだ」
って本当に変わってるよな」

どうしてそうなるのか。
そう言えばと2人の表情を見れば、に対して決して嫌悪感があるように見えない。
珍しいものだ、純血主義の人たちはマグル出身を嫌うものだと思っていたのに。

「ドラコ、一体この2人になに吹き込んだのさ?」
「別に僕は本当の事を言っただけだが?」
「本当の事って…?」
には何を言っても無駄、こっちが疲れるだけだから普通に接した方が精神衛生上いいぞ…ってことくらいか?」
まてやこら。

は反射的に突っ込んでいた。
これが突っ込まずにいられるか。
精神衛生上いいとはどういう意味だと問いたい。

「本当の事だろ?『穢れた血』と言っても何も反応しない、金がないことを貶めても当然のように肯定するだけ、相手をするだけ無駄だ」
「う〜ん、つまらないな…。そんな風に突っ掛かってくるドラコをからかうのって結構面白いんだけど…」
なっ…!!!

顔を赤くするドラコ。

あ、やっぱ可愛いや。

くすくすっと笑う
まだまだドラコはに遠く及ばない。
当分はにからかわれ続ける生活が続くのだろう。



「ドラコをからえるなんて、って結構凄い」
「怖いもの知らずというか…。一種尊敬するかな」

クラッブとゴイルがそんなことを呟いていたことをとドラコは気付かなかった。