アズカバンの囚人編 2
ガタリっと揺れを感じたところからすると、ホグワーツ特急が出発したようだ。
窓から見える風景が少しずつ動き出す。
リーマスは静かに眠っているようだ。
眠りは浅いものだろう。
けれども、休息が何もないよりもマシなはずだ。
「ここしか空いてないわよ」
がらりっとコンパートメントの扉が開いて声が聞こえてきた。
がコンパートメントの入り口を見るとそこには予想通りというか…ハーマイオニー、ハリー、ロンが立っていた。
「…?一緒にいいかしら?」
「うん、いいよ。ギリギリかな…?」
ハーマイオニーがすぐにに気付いて同席していいか尋ねる。
勿論断る理由などにはない。
少し狭いが大丈夫だろう。
「…もしかしてその人…」
ハリーがリーマスに気付く。
去年のクリスマス休暇の時に、訳あってハリー達とリーマスとは面識があったりする。
「うん、そう。リーマスだよ。今年から『闇の魔術に対する防衛術』の先生」
「まぁ、本当に!」
「やっとまともな『闇の魔術に対する防衛術』の授業が受けられそうだね」
「ロン!言い過ぎよ!」
喜ぶハーマイオニーとほっとしたようなロン。
ロンの言葉にハーマイオニーは顔を顰めたが…まぁ、仕方ないと言えば仕方ないのだろう。
ハリーもロンと同意見のようで特に口を挟まないようだ。
「何を言うのさ?君はまだあのロックハートが素晴らしい先生だったと思っているのか?」
「ロックハート先生はちょっと……だったけれど、授業は素晴らしかったわよ!」
「どこが!!まだあのヘボ教師を信仰してるのか?!」
「信仰なんてしてないわよ!」
「どうだかっ!顔がよければ君は誰にでもそうやってなびくんだろ?!」
「なんですって!!」
仲が悪い。
それも予想以上に…。
は困ったようにハリーを見る。
するとハリーも困ったように首を横に振るだけだった。
クルックシャンクスとスキャバーズの一件があったにしろ、ちょっと仲が悪すぎだ。
「グレンジャーもウィーズリー君もそのくらいにしてくれないかな。リーマス疲れているみたいだから起こしたくないんだけど……」
の言葉に言い合いを止めるハーマイオニーとロン。
むすっとした顔で互いに顔を逸らす。
苦笑するしかない。
「グレンジャーもウィーズリー君も元気そうでなによりだよ。ポッター君は変わりない?」
休暇中手紙での連絡は1度したものの、今日まで3人とは会ってなかった。
長い休暇とはいえ、もいろいろすることがあって会いにいけなかった。
の言葉にハーマイオニーが何か思い出したようにはっとなる。
「そう!聞いて!ももう知っていると思うけれど…」
ハーマイオニーが少し声を潜める。
「シリウス=ブラックが脱獄してハリーを狙っているらしいのよ」
「ポッター君を…?」
「ええ…、ハリー、本当に気をつけないと駄目よ。貴方はいろいろトラブルに巻き込まれやすいから…」
「別に僕が進んでトラブルに近づいているわけじゃないよ。あっちから近づいて来るんだ」
心配そうなハーマイオニーの様子にハリーは少しむっとしたように答える。
トラブルに巻き込まれるのは自分のせいではないと言いたいのだろう。
「一種の体質のようなものだよね。気をつけていてもどうしようもなく巻き込まれちゃうこともあるよ、グレンジャー。そんな時はウィーズリー君とグレンジャーでポッター君を助けないとね」
「勿論さ!僕はいつでもハリーの助けになるよ!」
「私もよ!勿論もでしょ?」
「僕?僕はウィーズリー君やグレンジャーほど優秀じゃないから足手まといになるだけだよ」
先ほどの仲の悪さはどこへいったのか、随分気が合った様子で答えるロンとハーマイオニー。
ハーマイオニーの問いには曖昧な笑みを浮かべる。
ハリーが少し悲しそうな顔をするのが見えてしまった。
「何言ってるの?!の知識は頼りになるわ!去年の魔法薬学のテスト!私より上だったじゃないの!」
「グレンジャー、どこから僕のテスト結果なんて…」
「テスト結果に応じて寮への点数へ加点がされるから想像はつくわ」
魔力を使わない教科でのみでしか点数を稼ぐことができないは、こういう教科で点数を稼がなければならない。
何よりも魔法薬学は教師がセブルスだ。
やはり悪い点は取りたくない。
「君、あのスネイプの授業でそんな凄い点数取ったのか?」
「いや…すごいって程じゃないけど」
「十分凄いわよ!私なんて100点満点中105点だったけれど、は120点取ったのよ!」
「うわ!それは凄いや!!」
…そんな細かい点数情報を何で知ってるの…?
ちょっと突っ込みたい気分の。
しかし、ハーマイオニーの点数も十分すごいのだ。
満点以上の成績などそうそう取れるものではない。
特にあのセブルスからは。
「でも、マクゴナガル先生には嘆かれたけどね。先生の授業の成績があまりにも悪かったから…」
ふっと遠い目をする。
他寮の寮監担当の教科がそこまでよくて、自寮の寮監担当の教科である変身術に関してはメタメタの成績だった。
なんとかギリギリ単位を取れたというところだろう。
「って凄いのか凄くないのか分からないね。変なの」
にっこりと笑顔を浮かべて言うロン。
悪気は全くないのだろう。
「ロン!その言い方は酷いわよ。確かには飛びぬけて優秀な成績の教科と。飛びぬけて成績の悪い教科のどちからよ、事実をはっきり言うなんて本人が傷つくわ。」
「……ハーマイオニー、君の言い方のほうが随分酷いと思うんだけど…。」
「…僕もそう思う」
きっぱり言ったハーマイオニーの言葉にロンが突っ込む。
ハリーもロンの意見に同意のようだ。
ハーマイオニーは目をぱちりっとさせて口元に手を当てた。
バツが悪そうな表情をしてを見る。
は気にしてないというように首を横に振った。
ヒュィィィン
突然、どこからか小さな音が聞こえてくる。
どこかに隙間があって風が吹き込んでくるような音だ。
「何の音だ?」
ロンが顔を顰めてきょろきょろ見回す。
ハリーが自分の手荷物をごそごそあさって、何かを取り出した。
小さなガラスのコマのようなものだ。
くるくるっとそれがハリーの手の上でまわっている。
「何?それ?」
にとって初めて見るものだ。
自動でコマがくるくる回っていて可愛い。
「スニーコスコープね。怪しい人が側にいたら反応をしめす魔法の道具だわ」
「でも、これ壊れているんだよ。ハリーの誕生プレゼントとしてエロールに届けさせようとしたんだけどずっとまわりっぱなしだし…」
呆れたようなため息をついて、ロンがハリーの手の上からスニーコスコープを手に取る。
すると、スニーコスコープは光を帯びて回転速度を上げる。
まるでロンのすぐ側に怪しい人物がいるかのように…。
はそのスニーコスコープが何に反応しているのか分かっていた。
ロンもハリーもハーマイオニーも壊れて反応を見せているだけだと思っているようだが…。
「シリウス=ブラックが脱獄したって聞いて、少しでもハリーの役に立てば…って思ってパパにねだって買ってもらったんだけどな〜」
「ダーズリー家からもらうプレゼントよりも、僕はロンからもらったものだから嬉しいよ。魔法界の道具なんて僕は全然知らないしね」
ロンは照れたような笑みを見せて、スニーコスコープをハリー返した。
ハリーはスニーコスコープのスイッチを切っておく。
ひたすらくるくる回っていても意味がないと思ったからだろう。
何よりも、ホグワーツについたらそれは意味がないものになる。
ホグワーツではスニーコスコープは回りっぱなしになるらしい。
「シリウス=ブラックって言えば、今年のホグズミードはそいつのせいで何か制限とかされなきゃいいけど…。僕らにとってははじめてのホグズミード行きなのにさ」
「そうね。でも、ホグズミードはとっても興味があるわ。だって、イギリスで唯一魔法使いしかいない村なんでしょう?」
ハーマイオニーが目をキラキラさせて言う。
「僕には関係ないけどね……」
少しふてくされた様子のハリー。
え?と表情を変えるロンとハーマイオニー。
「サインもらえなかったんだよ。サインないといけないよ…」
ぽつりっとハリーが呟く。
3年になるとホグズミード村行きができる。
けれども、そのホグズミード行きには保護者のサインが必要だ。
はリーマスのサインをもらっている。
リーマスは正式な保護者でないし、の保護者は厳密にはいない。
けれども笑顔のリーマスに脅さ…もとい説得されてサインをされたというべきか。
「でも、ハリー。マクゴナガル先生に事情を話せば分かってもらえるかもしれいないよ!マクゴナガル先生のサインをもらえば行けるかもしれないし!」
「そうだね。ウィーズリー君の言う希望はまだあるかもしれないよ?ポッター君。僕の持ってる保護者のサインはリーマスのサインだし」
はちらっとリーマスへと視線を向ける。
自分が持っているサインは育ててくれた両親のものではなく、今年教師になる人物のサインなのだからハリーも教師のサインで大丈夫かもしれない、と言いたかった。
まぁ、あの厳格なマクゴナガル先生のことだから駄目だとは思うけど…。
「そうだね。聞くだけ聞いてみるよ。今この状況で僕をホグズミードに行く事に許可を出してくれるかどうか分からないけどね」
皮肉をこめて言っているのだろうか?
ハリーはホグズミードに行けるとは思っていないのだろう。
でも、大丈夫。
正式なルートじゃなければ、行く方法なんていくらでもあるんだよ、ハリー。
先を知っているは、不機嫌そうなハリーの様子に苦笑をこぼすのだった。