アズカバンの囚人編 1
ホグワーツから手紙が届く。
新学期がもうすぐ始まるということなのだろう。
ばさばさっと来たフクロウは、何故か3匹だった。
「なんで3通…?」
一通は、もう一通はリーマス宛だろう。
でも、もう一通は…?
たまたま一緒に届けられた誰かの手紙だろうか…?
「ああ、それは俺のだ」
3通の手紙をフクロウから受け取っていたの手から、ヴォルは自分の分だけ抜き取る。
しかし、全てホグワーツからの手紙だ。
ホグワーツの校章がついている。
「ヴォルさん…?何で、ヴォルさんにホグワーツから……?」
「気にするな。そのうち分かる」
にやりっと笑みを浮かべるヴォル。
これは絶対に何かを企んでいる笑みだ。
「何企んでるのさ」
「別に、大したことじゃないさ。ああ、そうだ。ホグワーツ特急へはルーピンと一緒に行けよ?俺は一緒に行けないからな」
「へ?何で?」
「迷子にならないために決まっているだろうが。今年はルーピンが教員として一緒に行動するから俺は別行動させてもらう」
は顔を顰める。
どうも最近別行動が多い気がするヴォル。
別にそれはそよそよしい行動ではない。
やっぱり、何か絶対に企んでいるような気がする。
「別にから離れるつもりは全くないからな。少し行動しやすくするために準備しているだけだ」
「そう…。別に、危ないことしてないならいいんだけど…」
面白くない。
隠し事をされるのはあまり気分のいいものではない。
それがたとえ、にとって不利益にならないものでも…。
そこまで考えてははっとなる。
人の事、言えるのだろうか…?
ヴォルには色々な事情を話してはいるが、隠している事もある。
それに対しては教えるつもりはないのだ。
お互い様…なのかもしれない。
「ちゃんとリーマスと一緒にホグワーツ特急に乗るよ」
そう言ったにヴォルは少し顔を顰めた。
「俺が今やっていることはそのうち分かることだからな。思いつめるなよ、」
「別に思いつめてないけど…」
「だったら、その表情は何なんだ。…ったく、お前は……」
ヴォルはすっとの頬に手を伸ばす。
顔を近づけて、の額に軽く唇を押し当てる。
「ヴォルさん?!!」
顔を赤くして額を抑える。
未だにこういうことになれないである。
その様子にヴォルは思わず苦笑してしまう。
「無理するなよ。何かあったら、俺を呼べ」
笑みを浮かべるヴォル。
そう言われると、頼り切ってはいけないと思いつつも嬉しくなってしまう。
も笑みを返した。
大丈夫だから。
だって、今年はヴォルデモートが現れるわけじゃない。
気をつけるべきなのは、私にとって予想外のルシウスさんが仕掛けてくることだけだ。
あ、でも…シリウスさんが飢えないようにも気をつけないと。
まだ少し顔色の悪いリーマスと一緒にはホグワーツ特急へと乗り込んでいた。
昨年は迷ってギリギリになってしまった為に、ハリー達に巻き込まれてしまった。
リーマスがその件を心配して今年は早めに行こうと言ったのだ。
今年は去年のようなことにはならないとは思うが、リーマスの様子からは早めに行った方がいいと思って早めに家を出た。
予告通りヴォルは側にはいない。
「リーマス、大丈夫…?」
少年の姿のは、コンパートメントの中に疲れたように座るリーマスを心配そうに見る。
リーマスの顔色が悪いのはあの日からだ。
決して満月が近かったからではない。
シリウス=ブラックが脱獄した日から…。
「そんなに心配しなくても平気だよ、」
「でも、まだ顔色悪いよ?学校に着いたら教授に薬をもらった方がよくない?」
「大丈夫だよ、は大げさすぎるな…」
苦笑するリーマス。
リーマスの体調が優れないのは寝不足なせいだ。
シリウスが心配なのか、それともハリーが心配なのか、夜はよく眠れていないらしい。
「少し休めば平気だよ。それよりアレは本当にが持っていて大丈夫かい?」
僅かに笑みを見せるリーマス。
リーマスの言うアレはあの本のことだ。
「うん、大丈夫だよ。だって、僕の方が人が多いところにいるでしょう?その方がジェームズさん達の為にいいし」
「そうかい?ジェームズのことだから、勝手にとんでもない行動しそうだけど…」
「大丈夫。ジェームズさんもリリーさんも分かってるよ、ハリー達の前に姿を見せてはいけないことくらいは…」
そう、あの本はジェームズ達の記憶の本である。
定期的な魔力の供給が必要なため、リーマスの家に置きっぱなしというのは良くないだろうということで今回は持ってきたのだ。
教師のリーマスが持ち歩くよりも、の側にあったほうが生徒達には近いからいいだろうということである。
つまり、生徒たちから魔力を頂こうと言う事なのだが…。
「そうじゃなくて…、ハリー達の事でなくてセブルスとかダンブルドアに、だよ。ジェームズのことだからとんでもない悪戯しそうで…。」
「……確かにありえそう。」
言われてみれば、セブルスやダンブルドアなどにはしそうだ。
あの2人にならば事情を話しても大丈夫かもしれないからこそ、ジェームズが何かやらかしそうな気がする。
セブルスの元に突然出現するジェームズ&リリー。
驚くセブルス。
………ちょっと見てみたい。
「面白そうだけど…」
思わず本音がこぼれる。
ダンブルドアならば、多少驚いても楽しそうに笑ってくれそうだ。
けれども、セブルスならさぞかし面白い反応をしてくれるだろう。
「セブルスに対してならばとっても面白そうだけど…。それを勧めちゃ駄目だよ?」
「リーマス。そんな楽しげな笑顔で言っても説得力ないよ」
顔色が少しはよくなり楽しそうな笑みを浮かべているリーマス。
前半の言葉にはばっちり本音が出ている。
「もしやる時は僕の目の前でよろしく、って伝えておいてね」
「リーマス……結局リーマスも楽しみなんじゃないの?」
「勿論だよ。」
そんな爽やかな笑顔で肯定しないで。
ちょっぴり教授が哀れになってくるから。
流石、元祖悪戯仕掛け人というべきか…。
「それじゃあ、僕がジェームズさん達と関係がないとちゃんと思わせるようにやってもらわないとね」
「そのあたりは大丈夫だろう、ジェームズだしね。昔の悪戯の発案は殆どがジェームズだからね」
「ジェームズさんがブレーン?」
「そうだね。ジェームズが考えて、僕がアイディアを補足して、ピーターが細かいところを指摘してくれて、特攻隊が……」
そこでリーマスは悲しそうな表情を浮かべる。
ははっとなる。
悪戯仕掛け人の話は駄目だ。
シリウスの話題を出していけなかったのに…。
「リーマス、ホグワーツまで随分時間があるしちょっと休んだ方がいいよ?」
は無理やり話を終わらせる。
今はきっと何を話しても駄目かもしれない。
「そうだね、休ませてもらうよ。もし、ホグワーツに着いても起きなかったら起こしてくれるかい?」
「うん、わかった」
リーマスは頭からローブを被り、明かりを遮断するかのように眠りにつく。
疲れきっているリーマス。
ジェームズはリーマスに以前言っていた。
シリウスを信じていないのか…?と。
リーマスはシリウスを信じているのだ。
だからこそ、今回の脱獄が堪えている。
『日刊預言者新聞』にはこうあった。
―『例のあの人』の忠実なしもべであるシリウス=ブラックは、英雄ハリー=ポッターを狙っているのでは?!!
親友の息子を、また別の親友が狙っているかもしれないという噂。
シリウスを信じているリーマスには辛いだろう。
「ごめんね…、リーマス」
小さくは呟く。
は事情を知っている。
シリウスが裏切っていないことも、どうして脱獄したかも。
真実は自分の目で確かめるべきだと自分の心に言い聞かせて、リーマスには何も話さない。
事情を話して巻き込んでしまうことを恐れているのもあるが…。
ごめん…ね。
心の中でもう一度謝罪の言葉を述べるだった。
何も言えない以上、それしか言えないことが少し苦しかった。