マルフォイ家のクリスマス 2






会場はマルフォイ家の大広間だ。
巨大な屋敷のマルフォイ家の大広間には、かなりの人数が納まる。
ホグワーツの大広間並みの広さだ。
狭い日本に住んでいたから見れば、どうやればこんな大きな屋敷に住めるのだろうと思ってしまう。
屋敷しもべ妖精がいるため、家事はやってもらっているのだろうが、それにしても巨大だ。
は隅っこでヴォルを肩に乗せたまま、次々と来るお客様達を眺めている。
最初は”何か手伝いましょうか”と近くの屋敷しもべ妖精に申し出たのだが、頭を下げて盛大に断られてしまったのだ。
そのため、用もなくお客様観察を続けている。

「やっぱり、純血一族の皆様は綺麗な人が多いなぁ…」

ぽつりっと呟く
というよりも、からみれば西洋系の顔立ちの人たちは殆ど綺麗に見える。

「不公平な気分になってくる…」

世の中にはこれだけ綺麗な人たちがいるものなのだ。
元の世界にいた頃は、本当に綺麗な人というのを生で見てみたい!と思ったことはあるが、これだけ沢山いるとなると世の中の不公平さを感じてしまう。
そこで、ふと思い出す
以前も思ったことだったのだが、死喰い人には綺麗な人が多い。
そして、演技が必要とされる場面が多い。

「ねぇ、ヴォルさん」
「何だ?」

勿論会話は小声である。

「死喰い人になるのに、オーディションとかあるわけ?」
はあ?
「いや、だって、やけに綺麗な人多いし。周りを欺く為に演技を求められる事多いみたいだし…」

勿論も冗談半分で聞いているだけだ。
まさか本当にあるわけではないだろう。
ヴォルデモートが利用価値があるかないかを決めているだけだと思っている。
しかし、なんとなく気になっていたことなのだ。

ぺしんっ

「っ…?!」

後頭部に軽く何かが当たる。

「馬鹿か?」
「酷っ」

呆れたようなヴォルの視線。
どうやら先ほど後頭部にあたったのは、ヴォルの尻尾だったらしい。

「お茶目な冗談のつもりだったのに…」
「くだらない冗談を言うな」

でも、やる事ないし。
人が集まるまでは暇なんだよね。
お手伝いも却下されちゃったし。
そう言えば、ドラコはどこにいるんだろう?


?」


は名前を呼ばれてふいっと顔を上げる。
声はヴォルの声でもドラコの声でもなかった。
きょろきょろっと周りを見回すが、知っている顔などいない。
を””と呼ぶ人は少ないのだが…。

「呼ばれた気がしたんだけど…」

声の主が見つけられずに首を傾げる

「酷いな〜、こっちだよ」

すぐ真横で声がしたかと思えば、横から腕が伸びてきてその腕に抱きしめられる。
突然の事で腕の中から抜けだそうとしただったが、次の言葉に動きを止める。

「なんか、縮んだ?
「え……?」

声は少年のような青年のような、男の人にしては少しだけ高い声。
聞いた事があるかもしれない声。
は顔を横に向けて、相手を見る。

「本物のだね〜。う〜ん、50年ぶりだよ」

横からを抱きしめていた彼は、ぎゅっと正面からを抱きしめ直す。
よりも頭2つ分くらい高い背。
癖のある髪の質は、魔法薬学教授と同じもの。
黒のシンプルなドレスローブが良く似合っている。


「セウィル…君?」


にこりっとに向けて見せた笑みは、昔の笑みと同じもの。
顔立ちは大人びたものだが、面影がある。
手紙の映像で少しだけ見たことのある青年の姿そのままだ。

「本物…?」
「嫌だな〜、本物だよ?」

セウィルはすっと右手を伸ばしての頬に触れる。
の頬に手の感触が伝わる。
少しだけ冷たい手。
その手に、は自分の左手を重ねる。

「うん、本物だね」

にこっとは笑みを見せる。
くすくすっとセウィルは笑いながら、にすっと顔を近づける。
そのまま、掠めるように触れるだけ唇を合わせた。

っ…?!!

は顔を赤くして、自分の左手の甲で口を隠す。

「本物の感触でしょ?」
セウィル君!

楽しそうな笑みを浮かべているセウィル。
変わってない。
いや、こういうところが平気で出来るようになったところをみると、昔の性格からグレードアップしている気がする。

「だって最後、リドル先輩ばっかりずるいって思っていたんだよね」

セウィルはちらりっとの肩の黒猫を見る。
黒猫のヴォルは僅かに目を細めるだけ。

「ずるくないから!」
「僕だってしたかったのに…」
「しなくていいよ!」

はあ…と思わずため息をつく

「でも、何でここにいるの?」

会えるのはイースター休暇になってからだと思っていた。
セブルスから体調があまり良くないも聞いていた。

「セブルスから話を聞いてに会えるかもしれないって思って来たんだ。今頃、セブルスは怒っているだろうけどね〜」
「もしかして黙って来たとか…?」
「え?違うよ。行ってくるってちゃんとホグワーツにまで行って伝えて来たよ。でも駄目だって言われたから、その後魔法で強制的に眠らせて黙らせたけどね」
「………………セウィル君」

確かに、確かに、これはジェームズさんより酷いかもしれない。
教授、よく耐えて生活して来れましたね。
尊敬します。

「それに、このクリスマスに会えなかったら、のことだからイースター休暇まで会いに来ないつもりだと思ってね。やっぱり早く会いたかったし、何よりも……」

すぅっとセウィルの雰囲気が変わる。
の後ろの方を覚めた目で見ている。
後ろに何があるのだろうかと、はゆっくり振り向く。


「ルシウスには身の程を知ってもらった方がいいかなって思ってね」


セウィルの視線の先、の後ろにはルシウスが立っていた。
不機嫌そうなのが少しだけ分かる。
それでも、その感情を隠そうとしている。

「セウィル殿、貴方をお招きした覚えはありませんが?」
「そうだね、僕も君に招かれた覚えは全くないよ」
「それならば、ご退場願いますかな?このパーティーは選ばれた者のみが出席を許される場ですよ」
「選ばれた者?自らの地位とプライドに固執しているだけの純血馬鹿の集まりじゃないの?」

ぴくりっとルシウスの口元が引きつるのが見えた。

セ、セウィル君!
言いすぎだってばー!

「やるべきことは他にあるよね?ルシウス。こんな所で呑気に待っていても、あの人は何もしなかったと怒るだけだよ?あの人が帰って来た時君は果たして生きていられるかな?」
「何を言っているか分かりませんな、セウィル殿」
「そう?よく分かっていると思うけど…?」

く、空気が怖い。
セウィル君は笑顔だけど怖いし、ルシウスさんはちょっと顔が引きつっているし。
ここから抜け出したい!

「それから、ルシウス。僕は君に招かれた覚えはないけど、黒の花嫁からの許可をもらっているよ。今日ここに来たのはのこともあったけど、彼女とゆっくり話をしてみたいと思ったからなんだ」
「シェリナか……」

ルシウスの険悪な雰囲気が少しだけ和らぐ。
スリザリンの6年であるシェリナ=リロウズが”黒の花嫁”と呼ばれることはも知っている。
だが、それが何を意味するのか分からない。


「あら、あたしがどうしたのかしら?」


噂をすれば何とやら、黒の花嫁の登場である。
ルシウスの斜め後ろに、にこりっと笑みを浮かべて立っている。
金色の綺麗な髪を上でまとめ、黒のドレスローブを着こなしている。

「お久しぶりだね、黒の花嫁」

セウィルがにこりっと笑みを見せる。

「貴方には名前を呼ばれたいわ、セウィル」

シェリナはすっと右手を差し出す。
セウィルはから離れ、シェリナに近づきその右手をとる。
その右手の甲に挨拶のキスを落とす。
はその光景に思わずほぅっとため息。
絵になりすぎて綺麗だとすら思えたからだ。



ひょいひょいっとセウィルが手招きしてくる。
はシェリナとセウィルの側にそのまま警戒なく近寄る。

「お久しぶりです、リロウズ先輩」
「そうね、

くすくすっと笑いながら、シェリナはすっとに顔を近づけ、頬に軽くキスをする。
頬に触れた感触に思わず顔を真っ赤にして、触れた頬を手で隠す

「可愛い反応ね、
ってこういう事慣れていないみたいだからね」

何度も同じような事があっても慣れるのは難しいだろう。
がこちらに来てから3年目だが、やはりこういう行動は慣れない。
長年生活してきて得た感覚から、そうそう抜け出せるものではないのだ。
互いにの反応に笑みを見せているシェリナとセウィル。

「そう言えば、セウィルはと知り合いなのかしら?共通点が全く見えないわ。それには純血じゃなくてよ」
「うん、知っているよ。でも、どこでどうやって知り合ったかは内緒。こればっかりは貴女の頼みでも教えられないな」
「まあ、そんな秘密な仲なの?」
「一つ屋根の下で何日か一緒に過ごした仲だからね」
「ちょ…セウィル君!」

果てしなく誤解を招く台詞を言うのは止めて欲しい。
確かに一つ屋根の下だが、ホグワーツのスリザリン寮の部屋の1つで過ごしただけだ。

「もしかしていく所までいってしまった仲なのかしら?」
「うん、そうだよ」
「違います!!セウィル君!あっさり肯定しないでよ!」

にこりっとシェリナの言葉を肯定するセウィルには思いっきり否定をする。

「でも、がそんな風に話すなんて相当仲がいいって事でしょう?」
「え……?」
ってば、あたしが先輩だからって言葉遣いも呼び方も最初から全然変わらないもの。それに同級生相手にも一線引いているものね。それなのに、セウィルには違うように見えるわ」

自身、自覚がなかったようだ。
シェリナ言葉に驚いている。
セウィルの言葉にノリで言葉を返してしまうのは、セウィルの性格ゆえだとは思うが…。

「羨ましいわ」

シェリナは優しげに微笑んだ。
はその笑みにさらに驚きの表情を浮かべた。
が見たことのあるシェリナの笑みは、自信溢れるような笑みか、何かを企むかのような笑みばかりだった。
こんな笑みを見たことがなかったからだ。

だが、驚いたと同時に、僅かな不安も心の中に生まれていた。
それは小さな予感だったかもしれない。