マルフォイ家のクリスマス 1
招待状としてなのか、ご丁寧に綺麗な封筒とカードがフクロウ便で送られてきた。
手紙の封を切ったとたんに、カードが光りだりしたが、それは魔法だったらしい。
「強制的に来るようにさせる魔法だな」
隣で一緒にカードを見ていたヴォルがそう言った。
別に逃げずに行こうとは思っているだったのだが、信用がないのだろうか。
顔が引きつってしまうのは仕方ないだろう。
だが、いくら魔法が掛けられていてもには意味がないので害はない。
「行くには行くんだけど…。何か持っていくべきかな?」
「別に何も持っていかなくていいんじゃないか?服装に文句つけられれば帰って来ればいいだろう」
「あ、そっか」
ぽんっと手を叩く。
ドレスローブに関して迷っていただったが、用意せずにそのままの普段着で行って何か言われれば帰って来ればいいだけなのだ。
ドレスローブは高い。
好んで行くわけでもないパーティーのために何故お金を使わなければならないか。
「来年クリスマスダンスパーティーがあっても、出るつもりないし。買うだけ無駄だよね」
の記憶が正しければ、クリスマスダンスパーティーの出席は強制ではなかったはずだ。
何よりも来年はそんな余裕もないだろうから、ダンスパーティーなどでないだろう。
となればドレスローブは不要だ。
「ヴォルさんも来る?」
「俺は誘われてないからな。あっちの姿でついてく」
「猫の方?」
「ああ」
ドラコがヴォルも誘っているかと思っていたが違うらしい。
「”高名な純血一族”のパーティーだからな。どこの家とも知れない輩は招待されないだろ」
「私もどこの家とも知れない輩なんだけど…」
「主催者の招待は例外だろうな」
「う…」
例外なんていらないよー。
内心は叫びながら、招待カードを睨むように見る。
そして、大きなため息をつくのだった。
結局がマルフォイ家に行くのに持っていったのは、ヴォルとルシウスから送られてきたあれだけである。
魔法使いらしくもなく、杖はちゃんとリーマスの家に置いてきている。
ちなみに黒猫ヴォルの定位置はの頭の上である。
肩に乗っけて変なことでもされたらたまらないからだ。
無駄にでかいマルフォイ家の屋敷に来たは、まず客室らしき場所に通された。
お客様が泊まる部屋なのだろう。
ベッドがひとつと大きなクローゼットがひとつ。
「日帰りのつもりで来たんだけど…」
「帰れると本当に思っているのか?」
「………思わない」
頭上から聞こえてくるヴォルの言葉は否定できない。
最低でも一泊はすることになるだろうとは思っていた。
でも、何も持っていかなければそれを理由にお泊まりは断れるかもしれないという、淡い希望を抱いていたりもしたのだ。
ばたんっ
「!」
勢い良く扉が開き、唐突に入って来たのはドラコだった。
「久しぶり、ドラコ」
「久しぶりじゃない!君は一体何を考えているんだ!」
「何って…」
突然なんだろう?
別に何もしていないはずだけど…。
「何も持ってきていないとはどういうことだ?!ドレスローブくらいは普通持ってくるものだろう?!」
「いや、だって持ってないし」
の言葉にドラコは脱力するように大きなため息をつく。
そのまま何も言わずにこの部屋のクローゼットの方に向かう。
ドラコがクローゼットを開けるとそこに何着かドレスローブらしきものと普段着と寝巻きが入っている。
「この中から着るのを選んでおけ」
「え…?」
「母上が、にはマルフォイ家の客人に相応しいものをと言って用意したものだ」
「用意って…」
「殆どが僕が昔着ていたものだけどな」
クローゼットの中にあるのはドレスローブが5着。
その中には、イースター休暇でが着たものもある。
普段着や寝巻きはともかくとして、ドレスローブが5着というのはやはりドラコがお坊ちゃまという事なのだろう。
「ドレスローブがないから、パーティーは出れないってのは駄目?」
「駄目に決まっているだろう!自分で選ばないと母上が選びに来るぞ。僕はどうなっても知らないからな」
「う……でも……」
はちらっとドレスローブを見る。
どれもこれも似たようなデザインばかり。
色は淡い色。
デザイン的にはシンプルだが、可愛らしいものが多い。
「このドレスローブはナルシッサさんの趣味?」
「そうだ。母上の趣味以外に何がある?僕の趣味じゃない」
もう少し格好いいデザインを望むのはいけない事だろうか。
色も黒か紺かがよかったんだけど…。
「早く着替えろよ。それとも、着替えに屋敷しもべ妖精が必要なら来させるけど…」
「え?いいよ。これくらい…」
ちらっとクローゼットのドレスローブを見る。
思わずため息が出てしまう。
これを着なければならないのか、と。
「頑張ってみる」
としか言えないだろう。
苦笑しながらドラコは部屋を出て行った。
どのドレスローブも高そうな布を使っていて、着るのにちょっと躊躇してしまいそうになった。
しかし着ないわけにはいかない為、はヴォルにはベッドのシーツをかぶせておいて着替えた。
勿論、ルシウスからもらったあれは忘れずつける。
本当はつけたくなかったのだが…。
「ヴォルさん、どうする?頭にいる?それとも肩に……」
肩に乗せてとんでもない事をされたとしては、頭にのっていてもらいたい。
黒猫姿のまま、ヴォルはため息をつく。
「パーティーで猫を頭に乗っける馬鹿がどこにいる?何もしないから肩にしておけ」
「……うん」
大勢の人がいる前で変なことは出来ないだろうと思う。
ひょいっとヴォルを抱え上げて肩に乗せる。
猫姿のヴォルは結構軽いし、暖かい。
「う〜ん、なんか、戦に行く気分だ」
「戦って…」
「気分的にそんな感じなの。こう、敵陣に突っ込んでいく気分と言うか…」
「死喰い人(デス・イーター)の巣窟だってのは間違っていないな」
にとって、誰が敵と言うわけではないが、死喰い人は決して味方ではない。
そういう意味では敵陣に突っ込んでいくという気分は、間違いではないのかもしれない。
「隅っこの方にいれば目立たないかな?」
「無理だろ」
すぱっとヴォルに否定されるとちょっと悲しい。
「…がんばろ」
何も起こることなく終わる事を祈るのみである。
嫌がらせの言葉くらいは覚悟しているが、それ以上は何もないと思いたい。
大きなため息をついて、覚悟を決めるだった。