マルフォイ家のクリスマス 3
セウィルと再会して、ルシウスと会い、シェリナと会い、パーティーは始まった。
大広間の壇上ではルシウスが来客者に挨拶を述べている。
あの後、ドラコがルシウスを呼びに来てその場を何も言わずに去っていったのに、はほっとした。
現在は、セウィルとドラコに挟まれて隅っこでぼうっとしていた。
シェリナはシェリナでルシウスの後に挨拶の言葉を述べるようでここにはいない。
は右隣のセウィルを見る。
興味なさげにルシウスを見ているセウィル。
左隣のドラコに視線を移してみれば、ルシウスの方を見てはいるものの、セウィルの存在が気になっているようだ。
ちなみにヴォルは大人しくの右肩にのっかっている。
そう言えば、ドラコってセウィル君の事知ってるのかな?
くいっと左腕をひっぱられる感覚。
顔を向けてみれば、ドラコがセウィルの方を見ながら小声で話しかけてきた。
「、あの人にどこで会ったんだ?」
そう問われては正直に答える。
「どこって……、会ったのは一応つい最近なんだけど…」
「つい最近…?」
ドラコが顔を顰める。
間違った事は言っていないが、会ったのは50年前の時代である。
だが、そこまで説明していいものだろうか。
ドラコはセウィルとを見て、何か考えるような仕草をする。
この反応を見る限り、ドラコはやはりセウィルの存在は知っているのだろうと思う。
「よく気に入られたな、。あの人は僕らの中じゃマグル嫌いどころか、純血以外の魔法使いは決して認めようとしないって有名なんだぞ」
「そうなの?」
「異常なほどにな。純血の魔法使いでも実力のない魔法使いは相手にしないしな」
小さな声でドラコが語るセウィルの話はどうも別人のように思えてしまう。
確かにセウィルは純血主義だろう。
とはじめて会った時もそうだったし、少し話した限りは考え方は変わっていないように見える。
未だにヴォルデモート卿に忠誠を誓っているかどうかは知らないが…。
「それはちょっと違うかな?マルフォイ家のドラコくん」
「…!」
こちらに視線を向けずにセウィルが呟く。
どうやら小声で話していたのが聞こえていたらしい。
「僕が認めるのは僕が”認めた”存在と、あの人の益になる程の力ある魔法使いだけだよ。ああでも、力があってもあの爺さんみたいな考え方の相手は認められないけどね」
”あの爺さん”って、やっぱりダンブルドアのことなんだよね。
「僕がこれまで生きてきて認めた存在はあの人とだけ。それ以外はどうでもいいんだよね、君もルシウスも」
にこりっとドラコに向かって笑みを浮かべるセウィル。
その言葉にドラコは顔色が変わる。
セウィルが笑みを浮かべていると思えるのは口元が笑っているから。
ドラコを見る目は無感情なもので、怖いとすら思える。
「セウィル君」
「何、?」
そのままの表情でに視線を移すセウィル。
は小さくため息をつく。
「あんまりドラコを脅さないでよね」
「別に脅しているつもりはないんだけどな〜」
「十分脅しているよ。その怖い表情やめた方がいいよ?セウィル君顔がいいから無表情になると結構怖いよ」
「そう?」
「うん、そう」
のはっきりした返答に苦笑するセウィル。
消えていた感情が目に戻る。
「やっぱり、はいいな〜」
セウィルはに少しだけ寄りかかる。
寄りかかるといっても体重をかけてくるわけではなく、寄り添うといった方が正しいかもしれない。
右肩にいたヴォルがひょいっとの頭の上に移動する。
「わ…ちょ…ヴォ……!」
ヴォルの名前を呼ぼうとするが途中で止める。
セウィルはともかくとして隣にはドラコ。
この場で”ヴォル”の名前はまずいかもしれないと思ったのだ。
「僕が嫌いなのかな?その黒猫は」
くすくすっと笑うセウィル。
はなんと反応していいか困ってしまう。
セウィルのことだから気づいていてもおかしくないと思えるのだ。
この黒猫がの”側”にる”ヴォル”だという事を。
「ああ、ルシウスの話が終わったね」
セウィルは壇上を見て話題を変えるかのようにそう言う。
壇上に次に現われたのはシェリナだ。
「彼女も随分と大きくなったよね」
「セウィル君、リロウズ先輩の事知っているの?」
「勿論だよ。だって、彼女を育てたのは半分は僕だからね」
一瞬きょとんっとしてしまう。
言われた内容を頭の中で理解して…。
「へ…?」
思わず間抜けな声が出てしまう。
年齢的にはおかしくないが思いもしなかった事だ。
少しだけ嬉しそうに目を細めてシェリナを見るセウィル。
「結構有名な話だよ?マグル出身のは知らないかもしれないけどね、ドラコなら知ってるよね?」
突然セウィルに話を向けられてびくっとなるドラコ。
ぎこちないながらも頷く。
「性格も随分似ている…と噂されています」
ぽそっと呟くドラコ。
ドラコの言葉に、はセウィルを見てシェリナを見て何度か頷く。
確かに似通っているところがある。
「〜?何でそんなに強く頷くの?」
「え?だって……………ねぇ?」
「ぼ、僕に話を振るな!」
ドラコに同意を求めてみたが、肯定はしてくれなかった。
「ま、でも否定しないけどね」
セウィルはまぁいいや、とばかりにあっさり肯定した。
リロウズ先輩のあの性格…セウィル君譲りなんだね。
なんかそれってすっごく先行き不安なんだけど…。
でも、寮が違うから大丈夫だよね。
がそんなことを思っていると…
「セウィル!」
シェリナがセウィルの名を呼び名ながら近づいてくるのが見えた。
どうやら挨拶は終わったらしい。
「踊りましょう」
にこりっと微笑んでセウィルの前に手を差し出すシェリナ。
その言葉に周囲がざわりっと騒ぐ。
ざわめきも気にせず笑みを見せているシェリナとセウィル。
「黒の花嫁に誘われるのは光栄だね」
「勿論よ。期待を裏切らないリードをお願いするわ」
「うん、期待に応えられるようにするよ」
セウィルはシェリナの手をとり、中央の方に向かう。
この大広間にいる客全ての視線がその2人に集中する。
見た目すごっくお似合いの美男美女カップルなんだろうけど…。
セウィル君って確か60過ぎなんだよね?
う〜ん、実年齢考えると素直に見とれる事ができないというか、なんというか。
はふと隣のドラコを見る。
周囲の客達は、ゆったりとした曲が流れる中自分のパートナーと踊り始めている。
「ドラコは踊らないの?」
家柄も顔立ちもいい方なのだから、相手がいないわけじゃないだろう。
同じスリザリン生のパンジーもこのパーティーに来ているはずだ。
はその姿を見ていないが…。
「………」
「何?」
の問いには答えず、ドラコはの名前を呼ぶ。
その口調にはどこか呆れたものが混ざっている。
「どうでもいいが、その頭の上のものをどうにかした方がいい。すごく間抜けに見えるぞ」
「へ……?」
の頭の上にはヴォルがのっかっている。
肩に乗っているのならばともかく、頭の上にのっているのはちょっと変だ。
周りでもちらほらだが、の頭の上にいる黒猫を見て、くすくす笑っている人もいる。
ヴォルはおそらく分かっていて頭の上に乗っているのだろう。
動く気はないように思える。
仕方がないので、は頭の上の黒猫をひょいっと持ち上げて腕の中に抱える。
「まったく君は…」
完全に呆れたようなため息をつくドラコ。
「、君は……」
呆れたような口調が少しだけ寂しそうなものに変わる。
その感情の変化に気づき、はドラコを見る。
「君には他にどんなカードがある?」
聞こえた声はドラコの声ではなかった。
この大広間の隅にいるに話しかけてきたのは、先ほど壇上で挨拶をしていたルシウス。
客人に囲まれて、にこやかに挨拶をしているかと思っていたが抜け出してきたらしい。
「父上…」
「こんばんは、ルシウスさん」
今回マルフォイ家に来てルシウスに会ったのは、これが初めてだ。
準備か何かで忙しかったのか、顔を合わせてはいなかった。
「このたびはお招き頂き、ありがとうございます」
あまりありがたいと思っていない口調だが、一応は言っておかなければ駄目だろう。
ありがとうどころか、本当ならば余計なお世話だと言いたいのだが…。
社交辞令というものだ。
「ノクターン横丁、アズカバン、それからセウィル殿。君は驚くようなカードばかりを持っているな」
その言葉には曖昧な笑みを向けるだけ。
ドラコ達のようなホグワーツの生徒達には見せない顔になっていることを、本人は気づいているだろうか。
警戒すべき相手に対して、は静かに答える事が多い。
「他にどのようなカードを隠し持っているのか、とても興味深いところだが教えてくれるかね?」
「何のことを言っているのか僕にはわかりませんが?」
ルシウスの言いたい事は分かる。
でも、とぼける。
ルシウスはのローブについているネクタイピン…実際ネクタイをしていないので意味のない飾りのようなものになってしまっているが…に触れる。
「そのカードの中に、あの方を蘇らせる案でもあれば教えて欲しいものだ」
ルシウスはすっとの頬に少しだけ手を触れて離す。
そのまま笑みを浮かべて、周囲への挨拶回り向かっていった。
はほっと息を吐く。
冷たい表情と冷たい手。
これほど緊張する相手は他にいない。
死喰い人達は、かのヴォルデモート卿を恐れるが、は”リドル”を知っているし、ヴォルも知っているからかもしれないが、ヴォルデモート卿は全然怖くない。
最初から怖いとも思っていなかったせいもあるだろう。
「、君は相変わらず父上が苦手なんだな」
の隣で肩をすくめるドラコ。
「こればっかりはね…」
どうしても慣れないし、油断ができない。
去年、そして今年すらも、厄介ごとを持ち込んでくれたルシウス。
あと残りの学期は何事もなく過ごせることを願うばかりである。
「父上に対してあんな反応するということは、隠し事があると言っているようなものだぞ。父上にその態度は、完全に逆効果だ、」
「うん、分かってはいるんだけどね…」
「それとも、父上の言葉が図星と言う事か?」
「へ?図星…?」
首を傾げる。
「あの人を蘇らせる案を本当に持っているとかな」
冗談交じりにドラコは笑った。
だが、の顔からはすっと表情が消える。
そのの反応にドラコからも笑みが消える。
「、ま、さか、本当に…、知っている、のか?」
ドラコの声が小さなかすれたようなものになっていても仕方ないだろう。
はドラコの方を見ながら独り言のように呟く。
「キーワードは彼が最も憎む相手の骨。血族、繋がり、そして血と肉」
ぴくりっと腕の中のヴォルがその言葉に反応する。
その言葉で何かの魔法を連想したのだろうか。
の言葉は、この広間の人々の声と音楽によってすぐにかき消されるほどに小さな声だった。
ドラコにやっと聞こえたくらいの。
「な〜んてね」
ぱっと表情を変えて笑みを浮かべる。
の変化にほっとするドラコ。
「冗談だよ、ドラコ。いくら僕がノクターン横丁に出入りしているからって、マグルなのにそんな方法知っているわけないでしょ」
「はっ…、そうだよな」
笑みを浮かべるドラコ。
だが、ドラコの頭の中にはの小さく呟いた言葉との表情がぐるぐるしていた。
ドラコは、後にのこの言葉が本当だったことに気づくことになる。
それは1年以上先のこと。
は、踊る人達を見る。
死喰い人たちが集まるパーティー。
ヴォルデモート卿を畏れながらも、その復活を望む人達。
中心で踊るのはセウィルとシェリナ。
セウィル君もリロウズ先輩も、ヴォルデモート卿が蘇ったら、死喰い人になっちゃうんだよね。
その時私はどうしているんだろう。
ハリーの側にいるのかな、ヴォルデモート卿の側にいるのかな、それとも中立の立場を貫けるのかな。
ぼうっとそんなことを考えるだった。
その後、はシェリナに引っ張り出されて、またしても一緒に踊ることになった。
その後はセウィル。
もう、パーティーなんて嫌だ。
マルフォイ家のクリスマスパーティーは、セウィルとの再会が唯一得られたものだったかもしれない。