黒猫と黒犬とノクターン横丁 14







なんとかシェリナとルシウスの元からは離れた。
なんというか、あの2人の側にいるのはかなり目立つ。
”全ての視線を独り占め”という感じなのだ。
それで、堂々としていられるところがすごい。
途中、ナルシッサまで近づいてきたので、これ以上注目されるのは嫌だとばかりに退散。

いや、そもそも私は、マルフォイ家に来たらすぐ帰るつもりだったんだよね…。

思わず遠い目をしてしまう。


君?』


隅っこで避難中のにかけられた声。
それは日本語で、この場で日本語で話しかけてくるのは…。

「クラウチさん。どうしたんですか?」

は話しなれている…ことになっている…英語の方で対応する。

『日本語で構わないよ。母国語の方が話していて安心するだろう?』
『え…あ、はい。ありがとうございます』

本当に日本語が上手だと思う。
特に外国の人が日本語を覚えてもどこかぎこちなさが残ることが多い。
元から日本人だったかのように流暢に話せる人は少ないだろう。
けれども、バーテミウスはそれが才能なのか言葉がとても綺麗だ。

『それにしても、綺麗な日本語ですね。外国の方でこれだけ綺麗な日本語を使う人ってああまりいませんし…』
『職業柄他国の魔法使いとの交流には必要だと思ったからね。綺麗な言葉の方が聞き取りやすいだろう?』

そう言われてみればそうだ。
けれども、その国言葉をここまで綺麗に使えるようになるためには相当努力したのだろうと思う。


『君はどうしてこんなパーティーに参加しているんだ?マグル出身なのだろう?純血主義がマグル出身を嫌うことは知っているだろうに』
『いや、それはそうなんですけど。僕も最初はここに参加するつもりはなくて、ただマルフォイ家に来ただけなんですが、成り行きで…』

笑うしかないという感じだろう。

『ここは君のような子が来るようなところではない。もう二度と来ない方がいい』
『何かあるんですか?』

何かを忠告するような物言いに、は尋ねる。
言いたいことはなんとなく分かる。
ここは純血一族が集まるパーティーだ。
マグル出身を毛嫌いする純血一族の。

『命が惜しいのならばマルフォイ家には近づくな。今後、何が起こるか分からない、ルシウスはまだ……』
『まだ?』
『例のあの人を裏切ったとは、私は信じきれない』

すぅっと瞳を細めてルシウスの方へと視線を向ける。
ここからルシウスの場所までは遠い。
談笑しながら、恐らく他の純血一族の人たちだろう方々と話中である。

『今の私には決定的な証拠を掴まなければ、彼らを訴えるすべがない。部署が違うということはここまで勝手が違うものかと…』

軽くため息をつくバーテミウス。

『いや、すまない。君にこんなことを言っても仕方がないな』
『構いませんよ。きっと、お疲れなんですよ、クラウチさん』

何がそこまで彼をかきたてるのか。
恐らく、彼のことだから普段の仕事もきっちりこなしているのだろう。
はバーテミウスの事は、本の中での知識しか知らない。
あの、真面目なパーシーがいずれ信奉するであろう人。
その時は、彼は彼ではないのかもしれないが…。

『そんなに気を張らずに、もう少し楽に考えてもいいかもしれませんよ?』
『そうはいかない。一時たりとも気を抜くことは許されないのだよ』

鋭い眼光のバーテミウス。
魔法省でも、家でも彼は神経を使っているのだろう。


『どうして、そんなに闇の……、デス・イーターやあの人に拘るんですか?』


何か因縁でもあるのか。
年齢的にリドルとバーテミウスはそう離れていないだろう。
もしかしたらホグワーツ時代に出会っていたのかもしれない。
過去、ヴォルデモート全盛期は魔法省大臣になることに拘っていたバーテミウス=クラウチ。


『今は、大した理由はない。昔は拘っていたが、しかし、彼らはやはり存在させてはいけないのだよ』


最後の言葉がやけに低い声で聞こえた気がする。
バーテミウスの今の言葉では、はっきりとした理由は分からない。
でも、はこれ以上は聞くべきでないと思った。
個人個人の事情だ。
首を突っ込んでいいことではない。

『そうですか』

はそう一言だけ返す。

死喰い人達を完全な敵として認識する人。
マグル出身を完全に敵として認識する人。
魔法界にはどうしてこう隔たりがあるのだろう。
これは人が人である限りなくならないことなのだろうが。
譲り合わない彼らが、悲しい。
どちらも決して譲り合わない。


『もし、何か困ったことがあればフクロウ便でも寄こすといい。力になれるかどうかは分からないが、相談くらいは乗れる。これでも経験は誰よりも多いと自負しているからね』

ぽんっと軽く頭を撫でられる
その仕草には困ったような笑みを浮かべるしかなった。
内心は結構複雑なのである。

『ありがとうございます、クラウチさん』

この人も、的には「いい人」だ。
何か信念をもって行動している。
そういう人たちは強く……そして、いつかは誰かと敵対してしまう。
そう、反対の信念をもつ人たちと。




『最後に一つ聞いてもいいかな?君』
『はい?何でしょう?』

にこっと少し楽しげな笑みを浮かべるバーテミウス。
この笑みはこの場でははじめてみる笑みだ。

『君は本当は男の子かね?それとも女の子かね?』

ぎょっとする
不意打ちの質問だ。
の名前が母国では女性の名前であると彼は知っている。
思わず表情に出てしまうが…すぐににっこりと笑みを浮かべる。

『僕は男ですよ、クラウチさん』

の答えに苦笑するバーテミウス。

『そういうことにしておこう。だが…問いかけられてそういう表情をするのはよくないな。覚えておくといい』
『はは…、あ、ありがとうございます』

冷や汗が吹き出そうになった。
バーテミウスはそれ以上は何も言わずに笑みを浮かべたままから離れていった。
正直ほっとする。

ルシウスさんとは別の意味で恐い人だな。
敵にまわしたら容赦なさそうな人。
例え、誰が相手でも。
にしても…。

ちらっと、バーテミウスの動きを目で追う
話していてとても気分が楽になる話し方だったが、思いっきり最後に爆弾を落としてくれた感じだ。
忠告の意味で言ったのだろうが…。

バレたかな?
一応体つきも少年にしては細いとはいえ、胸は全くないし腰も丸みを帯びているわけでもないと思うんだけど…。
…これからはちょっと気をつけよう。

ふぅ〜とため息をつく




「何、ため息ついているんだ。そんなに疲れたか、?」

すぐ側で声がしたと思い顔を上げてみれば、そこには呆れ顔のドラコ。
腕にパンジーはいないようである。
振り切ってきたのだろうか?

「なんでもないよ」
「そんな疲れたような声を出して何がなんともないだ。ああ、でも…」

何か思いついたようにドラコがニヤっと笑みを浮かべる。

「注目はされたな、いい意味でも悪い意味でもな。何しろシェリナと踊ったんだからな。これからノクターン横丁とホグワーツでは気をつけろよ?」
「は…?何で?」
「まぁ、君のことだから全然平気だとは思うけどな」
「だから、何で?」

シェリナが「黒の花嫁」だということと関係があるのだろうか。
ドラコの余裕そうな笑みがなんとも悔しい。
闇の陣営の情報面では、やはりは情報不足が多いかもしれない。


しかし、この「黒の花嫁」という言葉。
闇の陣営の者達にとって、なぜあそこまでの力を持つのかを知るのは…まだ先のこと。