黒猫と黒犬とノクターン横丁 12
はパーティーというものははじめてである。
勿論日本人にそんな経験があったらそれはかなりの上流階級の育ちということになるだろうが…。
ドラコの忠告に従ってしばらくは壁の端っこの方で眺めていたのだが…。
「ホグワーツで見たことのある顔ぶれがちらほらいるような…」
パーティーと言っても特別なことはないだろうから、こじんまりとしたものかと思っていたのだが、意外と大々的なものだった。
純血一族総出ではないのだろうか…?とすら思ってしまうほどだ。
普段とは違うの格好と、こんなところに居るはずがないという思い込みからか、隅にひっそり居るの存在には気づかれてないようだ。
「…というか、こんな姿…あんまり見られたくない」
はぁ〜と深いため息をつく。
自分の姿を改めて見る。
眼鏡がない、髪型が違う、服装がいつもの服装とは全然雰囲気が違う。
「あら、?」
突然かけられた声にはびくっとする。
隅っこに隠れるようにいたのに良くぞ見つけてくれたものだと思う。
声の主を見れば、それはやはり予想通りのスリザリンの先輩、シェリナ=リロウズだった。
「お、お久しぶりです、リロウズ先輩…」
「そんな表情しなくても、とって食べたりしないわよ。可愛いけれど…」
「…とって食べ…って」
ニコニコと機嫌がとても良さそうに近づいてくるシェリナは、黒いドレスローブだ。
露出度もそれなりに高いものだが、彼女のプロポーションの良さがあるのでとても似合っている。
しかし、黒。
あまり黒にはいいイメージがないものだが、シェリナにその色がしっくりくるような気がするのは何故だろうか…?
「どうしたの?こんなところに居るなんて珍しいじゃないの。知り合いでも…?」
「いえ、ルシウスさんに用があってきたんですが…何故かこのような事態に…」
「もしかしてナルシッサ小母様に遊ばれたのかしら?」
「う……。」
まさにその通りです。
とは言えまい。
「ということは、ナルシッサ小母様にも気に入られたのね。大変ね、。小母様って気に入ったものをいじめるの大好きなのよ。ルシウス小父様とある意味似てるわね。あそこまでは酷くないけれども…」
「不安要素を増やすようなこと言わないで下さいよ…。ただでさえこの状況を乗り切るのに精一杯なんですから…」
いじめるとは昼の食事の時のあの嫌味のような言葉もそうだったのだろうか…?
にっこり笑顔でひたすらあんなことを言われるのはちょっと嫌だ。
今のところ自分が、ホグワーツグリフィンドールのだと気付いている人は目の前のシェリナだけ…だと思う…いや、そう思いたい。
不安な気持ちを少し抱えていると、ドラコが誰かを引き連れてこちらにやってくるのが見えた。
ドラコの腕にすがりついて無理やりついてきているような感じだ。
「いい加減離れろ」
「嫌よ」
顔を顰めながらもドラコはそのままの前まで来る。
ドラコにひっつている少女には見覚えがある。
というか、見覚えがあるなんてものじゃない。
黒髪の可愛らしいスリザリンの少女。
「パーキンソン…?」
そう、パンジー=パーキンソンだ。
ドラコが石にされた時に、ちょっとつっかかれたからスリザリンの中でも印象は強い方だ。
なにより想像していたよりも可愛いのが。
「誰よ、あんた……?」
パンジーはの声に顔を顰める。
が、すぐに何か気付いたように驚きの表情を見せた。
「あなた…?!!嘘っ、何で貴方みたいなのがここにいるのよ?!」
パンジーの声は予想以上に大きかった。
せっかく隅にいたというのに視線が集まる。
最も、シェリナがに近づいた時点で、いくつかの視線は向けられていたが…。
「穢れた血の貴方がこんなところにいるなんてっ!!」
ざわり…
パンジーの言葉にへの視線が侮蔑を込めたもになる。
ひそひそと小さな声で話し始める周囲の人々。
嗤うようなクスクスとした声すら聞こえてくる。
「場違いよ!どうしてこんなところにいるの!早く出て……!」
「お黙りなさい、パンジー!」
びしりっと響いた声はシェリナのものだった。
場の雰囲気が一気にしんっとなる。
怒鳴っていたパンジーもはっとなって口を閉じる。
「を否定することは、このあたしが許さないわ。他の方々もご承知くださいな。彼を貶めるような発言はこのあたしが許しません」
シェリナが周りを見回しながらそう言うと、しぶしぶながら認めるほかの者たち。
パンジーはどこか悔しそうな表情をし、ドラコは盛大に顔を顰めていた。
だけがよく分からず驚いている。
ちょっと待って…リロウズ先輩ってどういう人?
まるでこの場ではこの人には逆らえないような感じ…。
「黒の花嫁様、それは少し厳しく言いすぎではありませんか?」
柔らかな笑みを浮かべてシェリナの前に進み出たのはナルシッサだった。
元がいい上にその美しさを引き立たせるかのようなドレスローブ。
きっと生地もかなりいいものを使っているだろうな…とが思うのは育ちの違いがあるからだろうか…。
「あら、ナルシッサ小母様。このくらいの我侭は構いませんでしょう?それとも小母様はが追い出されるのをお望みなのかしら?」
「勿論望んでないわ。もし無理やり追い出すような方がこの中にいるようでしたら…間違いなくマルフォイ家の不快を買ったでしょうに…」
ナルシッサの言葉にざっと青ざめる者が十数名。
それほどまでにマルフォイ家の影響は大きいということだろう。
「あの…リロウズ先輩?黒の花嫁って…?」
の問いにシェリナはにこりっと笑みを見せる。
だが、シェリナが答えることはなかった。
なんだろう…すごく嫌な感じがした。
こっちに来てから、こういう予感って当たるから嫌だ。
純血一族でかなりの発言力を持つ「黒の花嫁」。
そして以前、シェリナは婚約者がいると言っていた。
その婚約者と何か関係があるのだろうか…?
「そんなことより、。踊りましょう」
「は…?え…?ちょ……、リロウズ先輩、僕踊れないんですけど…!」
「大丈夫よvあたしがリードするわ」
「え?え……?リードって…、ド、ドラコ…」
シェリナにひっぱられながらもはドラコの方を振り返る。
ドラコは諦めたようなため息をついて、行って来いとでも言うように手を振っていた。
見捨てるな〜!
ダンスなんて経験皆無のは思いっきり不安である。
相手が相手だ。
なにしろ彼女は恐らく……ルシウスやナルシッサ、ヴォルと同類の人だ。
しかし、不安ななど全く気にせずにシェリナは中央のほうへとを引っ張り出して、腕を掴み、腰に手を添える。
はっきり言うと、身長はよりもシェリナの方が高い。
ゆるやかな曲が流れ出す。
周囲の人たちは、とシェリナを気にしながらもダンスをする者、興味深そうに見るもの、をうっとうしそうに見る者、色々である。
すっとシェリナのリードでも合わせる様に動く…が。
「あの…リロウズ先輩?」
「なにかしら?」
リードされているのはの方。
踏むステップがどういうものなのか、には分からないが、これではまるで…。
「男女逆の立場になっているような気がするんですけど…」
「よく分かったわね。その通りよv」
「そ、その通りって……」
「いいじゃない、楽しければ」
ひょいっとステップが早くなる。
「うわっ…!リロウズ先輩!」
「シェリナって呼びなさい、」
楽しそうな笑みを見せるシェリナ。
決して口調は高圧的なものではない。
「ですから、何度も言ってますが年長者をファーストネームで呼ぶわけには…」
「残念ね…、でもいつか呼んでもらうわよ。ドラコだけなんてずるいわ」
「ははは…」
かなり困った。
ファーストネーム呼びに関しては、ハリーとフレッドはなんとなく納得してくれているようだが、シェリナに同じ手は使えまい。
何しろ彼女は闇の陣営の者なのだから…。
ざわっ……
楽しそうなダンスの曲の中、扉の方だろうか…ざわつく声が聞こえてきた。
踊りを続けている者もいるが、大抵の者は足を止め、視線を向ける。
シェリナもダンスを中断されたのが嫌だったのか、顔を顰めながらもそちらの方へと視線を向けた。
「また、招かれざるお客様でも来たのかしら…?まったくしつこいわね」
「リロウズ先輩…?」
忌々しげに呟いたシェリナの言葉から誰かが来たらしいということが分かる。
それも初めてではないようだ。
純血一族のパーティーに現れる招かれざる客。
果たしてそれは一体誰なのか…?
人が込み合う中、それを掻き分けるように…いや、人々が自然と引いていくのか…現れたのはこの屋敷の主人であるルシウスと…1人の男性だった。