黒猫と黒犬とノクターン横丁 11
は鏡の前でげっそりしていた。
上質な布のドレスローブを着せられて、髪の毛までセッティングされている。
鏡の中の自分を見る。
「はぁ〜〜〜」
大きなため息をつかずにはいられない。
鏡に映る自分。
前髪を少しだけ残して掻き揚げた形に固定。
眼鏡は強制的に外され…と言っても伊達眼鏡なので支障はないが…薄水色のドレスローブ。
かっこいい感じにしたというよりこれは…。
「?何しているんだ?」
自分の支度を終えたドラコがの後ろから鏡を覗き込む。
ドラコは紺を基準としたドレスローブだ。
完全に男性用だろう。
正装したドラコはカッコいいと思う。
「にしても、のそれは母上の趣味か?」
「ナルシッサさんが全部やったんだよ…。ドラコのはかっこいい風なのに、僕のは何でこれ…?」
「飾り甲斐があるからじゃないか?僕も少し前までは母上にそうやって中性的な格好をさせられて遊ばれたからな」
「嬉しくない…」
「気持ちは分かるが、僕には何も出来ないから我慢しろ。母上に気に入られたが悪い」
そう、の服装は見ようによっては女の子にも見えるのだ。
本来の姿が少女なので少年の姿でも女装してもおかしい格好ではないのだが…それはそれでなにか悲しいものがある。
何故に女装もどきをしなければならないのだろうか…?
「」
少ししょんぼりしているにドラコは少し真剣な表情で声をかける。
ん?と顔を上げて見えたドラコは何か言いたそうな表情だ。
「は…母上のアレを……気にしないのか?それとも知らない…いや、君に限ってあの印の意味を知らないわけはないだろうが…」
「アレって、腕の印のこと?」
ドラコは無言で頷く。
はどう答えていいか少し困った。
気にしてない訳ではない。
けれどもルシウスがデス・イーターであることは知っていた。
だからこそ、その妻であるナルシッサも印があっても不思議は全然ないだろうと思っている。
「正直言うと、気にしてないわけじゃないんだよね」
「そうか…?」
「そうは見えない?」
「全く見えない。」
きっぱりと言い切られてしまう。
闇の陣営の者だと言い切れる印を見せられ、は殆ど動じてないから。
「僕はさ………きっと…」
は考える。
自分はきっとどちらか決めることはできないだろう。
ハリーの視点としてこの先の未来を少しだけ知っている。
でも、闇の陣営の人たちにもいい人たちはいる。
それは、善人であるという意味ではないが…。
「ヴォルデモートにもダンブルドアにもどちらにもつくことは出来ないと思うんだ」
は静かにドラコを見る。
多分、この先の全ての未来を知ったとしても、自分はどちらかにつくことは出来ないと思っている。
「だから、誰が死喰い人(デス・イーター)だとか、誰がダンブルドア側の魔法使いだとかは気にせずに話をしたいと思ってるだけなんだ。でなければその人の本当の姿は見えないと思うから…」
そう、はそう思っている。
一番最初にヴォルに会わなかったらこんな考えはしなかったかもしれない。
ヴォルと話して、ダンブルドアに会って、ハリーに会って…。
知っているけれど話してみると違うようなこの世界の人たち。
「だって、ドラコがこんなにからかい甲斐があるなんて思ってなかったしね」
「からかい甲斐?!君は…っ!」
「そういうところが可愛いんだよね、ドラコって」
くすくすっと笑みをこぼす。
嫌味な坊ちゃんというイメージを持っていたが、意外と悪い子じゃない。
「なにしろほら、純血主義のスリザリン生はマグル出身を完全に見下しているから話もしたくないと思っていたんだけどさ、ドラコはちゃんと僕と話しをしてくれるし。教授だって何だかんだ言ってても面倒見がいいし」
「それは君だからだろ?」
「え……?」
ドラコは少し顔を顰める。
「『穢れた血』と言われても動じない、ノクターン横丁に平気で出入りする、スリザリン生にも嫌な顔しない……、がだから僕もシェリナも…父上も母上も君を気に入っているんだ」
少し嫌そうに言っているのは何故だろう…?
認めたくないのか。
言いたくなかったことなのか。
「でも、ドラコ」
「何だ?」
「そんな嫌そうな顔で言われても説得力ないんだけど…」
困ったような笑みを浮かべる。
ドラコは今度は思いっきり顔を顰めた。
「仕方ないだろう。僕はマグル出身は不要な存在だと言われてきてそれが当たり前だと思っていたんだからな。それの例外は君だけだ、本当は認めるのはかなりムカつくんだよ」
「はは、…ドラコらしいよ」
かなり不本意そうである。
それでも、認めてくれているということはドラコはそれだけ変わったということなのだろう。
『穢れた血』など断固として受け入れることはしなそうな感じだったドラコが、である。
「ところで、君はダンスは出来るのか?」
「は?…なんでダンス?」
突然変わった話題にはきょとんとする。
そんなの反応にドラコは深いため息をつく。
「パーティーでダンスは当たり前だろう?その反応だとやっぱり全くできないな」
「ぼ…盆踊りはダンスじゃ…ない…よね?」
「何だその”ボンオドリ”というのは?」
「日本の踊りでね〜」
こんな感じの…と、ドジョウすくいのような動作をする。
ちなみにそれは盆踊りではない。
何か違う。
「君は馬鹿か?」
案の定ドラコの完全に呆れた視線が降り注ぐ。
しかしは思う。
日本人は一般的にダンスは踊れない。
習ってでもいない限りは…。
「どうしても踊りたければ僕が相手をしてやる」
完全に呆れきったため息をこぼすドラコ。
「ドラコが相手ってことは……僕がやっぱり女役の方?」
「君にリードができるか?」
「………できません」
「嫌なら壁によってればいいだろう?最も父上か母上が無理やり誘ってくるだろうけどな」
「それは嫌だ……」
かなり嫌だ。
ルシウスさんに誘われるなんてもっての他だし、ナルシッサさん相手にリードなんて出来るわけないし…。
「よ…」
「よ?」
「宜しくお願いします」
ぺこりっと頭を下げてお願いする。
なにやらドラコにお願いとは変な感じだとも思いながら…。
それはそれでかなり失礼な思考だが。
ドラコは少し驚いたような表情をした。
「からそんな言葉がきけるとは思わなかったな…」
そんな言葉って…。
私だってお願いくらいするんだけど…どういう目で見てるのかな?ドラコは。
「ドラコ…?別に僕はなんでもパーフェクトにできるわけじゃないよ?」
「それはそうだろ。飛行訓練なんて散々じゃないか…。魔力があることすらも疑うほど酷いぞ」
「仕方ないよ。こればっかりは……魔力が少ないのは自覚してるし、だからこそ魔力が関係ない教科でなんとか点を稼いでるんだよ」
の成績は1年の時と変わらず総合では真ん中よりちょっと上あたりだ。
だからこそ、勿論ハーマイオニーよりも下。
ドラコよりも下、ロンよりも下、ハリーよりも下である。
意外と総合の成績はあの3人もドラコも結構いい方なのである。
「なんか、もしかしてドラコって僕の事かいかぶり過ぎてるとか…?期待持っても大したこと出来ないよ?」
そう、私はただ、ほんの少しの未来を知っていること、そして魔法とは別の力が使えるだけなのだから…。
「父上や母上が死喰い人(デス・イーター)だと知っても動じない、君は闇の者ではないというのにか?知っているか?ダンブルドア側につく魔法使い達は、僕ら闇の者を毛嫌いするんだ。初対面から敵としか見ないんだよ」
そう言ったドラコの表情は少し寂しそうだった。
闇の者に囲まれてそだったドラコ。
その考えが間違っているとは思ってはいないだろうが、それだけの関係だと寂しいのか。
「これでも僕だって、いろんな友人が欲しいと思った時期もあったさ。でも、『穢れた血』やウィーズリーのようなマグル贔屓の魔法使いは僕らを汚いものでも見るような目で見る。僕らも彼らを見下してはいるけどな……」
「でも、ドラコは僕とは友人関係になってるし、普通に話してるよ」
「だから、それはがだからだと言っただろ?君は普通とは違うんだよ、いい意味でも悪い意味でも…」
少し微笑むドラコ。
その笑みにはどういう意味があるのか分からない。
けれども、ドラコはのことを本当に友人だと思ってくれているのだということが分かる。
ハリーもドラコもいい子なのにな…。
純血と混血とマグル出身。
分かり合うことってやっぱり難しいんだろうな…。