黒猫と黒犬とノクターン横丁 10






食事をマルフォイ家と。
時間的には昼食だ。
豪奢な屋敷なのだから、当然出される食事はかなり豪華なものだったりする。
はっきりいって食べた気がしなかったであった。


………基本的にこういうのは合わないのかも。


平気そうに食事をしているドラコを見て、は一種尊敬の念を抱いた。
巨大なダイニング、食事は勿論屋敷しもべ妖精が作ってくれるようで味は美味しい。
もくもくと食べる食事はかなり微妙。
音を立てては駄目な気分になり、かなり緊張した。


「どうした?

きょとんっとしたように問うドラコ。
平然としていられるこのお坊ちゃまに対して、無性に悔しくなる

「いつもこんな食事なの…?」
「そうだが…、の口に合わないか?」
「いや、そんなことないけど…。美味しいし」

ただ、こういう食事は慣れてない。
ナイフとフォーク。
しかもかなり豪奢な食事。
高級レストランでも行かない限りはこんな経験はできないだろう。

「僕はてっきり貧しい暮らしばかりしているには、僕らの口にするものは合わないないんじゃないかと思ったよ」

ふんっと馬鹿にするような口調でなく、からかうような口調でドラコが言う。
は別にそれに腹をたてることはしない。

「貧しいとか関係なく、基本的にやっぱりイギリス食よりも日本食の方が口に合うかな?ナイフとフォーク使うよりも箸を使った方が食べやすいし」
「ハシ…?」
「そう、2本の細めの棒。使い慣れないと大変らしいけど、僕はホグワーツでも箸使うことがあるし」
「どこからそんなもの…」
「え、勿論ダンブルドアに頼んで用意してもらったんだけど…?」

ナイフとフォークでご飯を食べるのは考えられない。
一応昔、作法としてやり方は学んだものの、はっきりいって上手くできない。
食べるのに一苦労である。

「それで食べ方がぎこちなかったわけか?」
「そうなるね。ナイフとフォークなんてめったに使わないからさ」

日本人はもっぱら箸である。
ナイフとフォークを使って食事する家庭はあまりないだろう。
の家庭はごくごく普通の一般家庭だ。
たまに料理によってはナイフとフォークを使うことがあるにしろ、箸がメインである。


「ごちそうさまでした」


こんな豪勢な食事で満腹になるはずはないが、とりあえずは手を合わせて食事を終わらせる。

さんと言ったかしら…?お口に合わなかったのかしら…?」

食事を終えようとしたに声をかけてきたのはナルシッサだった。
ルシウスの奥さんで、ドラコの母親。
とても綺麗な人だとは思った。
さらりっとした金髪を綺麗にまとめてあり、上品な奥様という感じ。
本の中ではそんな綺麗な人だとは表現されていなかったが…。

やっぱり、純血一族…というか闇の陣営の人たちって美形ばかりだ…。

マルフォイ家も例にたがわず美形一家。
これではヴォルデモート面食い説が浮上してくる。

「あ、いえ。とても美味しかったですよ」

は笑みを浮かべてナルシッサに答える。
そういえば、ナルシッサと言葉を交わしたのはこれが初めてだ。
きちんとした紹介もしてないし、挨拶もしてない。

「まぁ、それはよかったですわ。本当はマグルの方のお口には合わないと思ってましたの。こんな素晴らしい食事はなさらないのでしょう?」

にっこりと綺麗な笑みを浮かべるナルシッサ。
これは嫌味なのだろうか…?は思ってしまう。
どう返していいのか分からない。
が困ったような笑みを浮かべているとナルシッサは笑顔のまま言葉を続ける。

「貴方のお食事だけマグル用に作らせようと思ってましたのよ。けれども、たかがマグルごときにそんな手間をかけるとしても「しもべ妖精」に悪いでしょう?いくら「しもべ妖精」とはいえ、マグル為に仕事を増やすのは可哀想ですもの」


こ、これは遠まわしに嫌いだと言っているのかな…やっぱり。


「私、ドラコの友人が来ると聞いていたのでとても楽しみにしてましたの。当然気高い血を引くご友人かと思っていたら……貴方のような穢れた血なんて…。穢れた血がこの屋敷にいるだけで気分が悪くなってきますわ。お分かりになります?さん」
「は、はぁ……、すみません」

笑顔のまま話を向けてくるナルシッサには困ったような笑みで曖昧な返事を返す。
ちらりっとルシウスを見れば、特に口出しする様子は見えない。
ドラコは複雑そうにとナルシッサを見ている。

「ルシウスが珍しく褒めていた子のようだから、少しは楽しみにしていたのですよ。たとえ穢れた血でもね。でも、平々凡々のなんでもないその辺りの転がっているような子にしか見えないんですもの…」
「はぁ…、まぁ、平々凡々なのは十分承知してますが…」
「というのが、初対面の感想よ」
………は?

にっこりと笑みを深くするナルシッサ。
はきょとんっとする。

「ふふ、私もドラコもマグル出身の子は大嫌いなのよ。でも、貴方は例外になりそうだわ」

何故に…?

が不思議がっていると、ナルシッサは笑顔で袖をまくった。
まくられた袖、見えたのは右腕である。
その右腕にある印…それは。
は一瞬驚くが、そうそう驚くべきことでないと思い直す。

母上!それを人前で見せては……!!

ドラコががたんっと席を立つ。
顔色を少し青くして、ドラコが慌てて見たのはの反応だった。
が驚いた表情を見せたのは一瞬で、すぐに普通のなんでもない表情に戻っている。

「ベラが言っていた””は貴方の事かしら?」

にっこりと笑みを向けたナルシッサの言葉に流石のは目を開いて驚く。
冷や汗が背を伝う。

「ナルシッサ…?私はそのことを知らないがどういうことかね?」
「あら、言ってないもの、知らないのは当然ですわ。私とベラの秘密ですわよ、あなた」

ルシウスが口を挟むがナルシッサは教えようとしない。
”ベラ”の名での知り合いはただ1人。
昨日アズカバンで会ったベラトリックスだけだ。
昨日の今日。
しかも相手はアズカバンだというのにどうしてナルシッサが知っているのか…。

「どうして、いえ、どうやって……?…知り合い…なんですか?
「ええ、勿論よ。姉ですもの」
あ、姉?!ですか…?」
「そうよ」

言われて見れば、ベラトリックスもかなりの美形だった。
同じ種類の美形だといわれれば納得できる。
髪の色や瞳の色が違うのは両親から分けられたモノだからなのだろう。

「でも、どうやって…?」
どうやって?それは私が聞きたいわ」
え……?

ますます笑みを深くするナルシッサ。


「アズカバンにいるベラ姉様とマグル出身の平凡な貴方がどうして知り合うことができたのかしら?」
…っ?!!


びくりっと反応する
うかつだったのかもしれない。
ベラトリックスは純血一族の者だろう。
それならばマルフォイ家となんらかの繋がりを持っていてもおかしくない。
あそこで会話などすべきではなかった。

「ほぉ…アズカバンかね。興味深いな……」
「でしょう?勿論ベラ姉様はアズカバンで””に会ったと言っていたわ。ますます興味深いと思うわ」

は顔を顰めて黙るだけ。
答えようがないのだから仕方ない。

「別に貴方が何の目的でどうやってアズカバンに行ったのかなんてどうでもいいのよ。ごくごく平凡の半人前の穢れた血の魔法使いごときがアズカバンに平気で行けた、という事実が何よりも興味深いの。ベラ姉様から””の名前を聞いて、ドラコから””という友人がいると聞いて私は貴方に興味を持ったわ。アズカバンでベラ姉様に会ったのは貴方ね?」

視線がに集中する。
は諦めたようなため息をついた。
ここで言い逃れはできないだろう。

「そうです。確かに会いましたよ、『ベラトリックス』さんに。……まぁ、随分変わった方だとは思いましたけど…」

苦笑しながらも答える

…君はどこまで…」
「ドラコ…?」

ドラコが複雑そうな表情でを見る。
ノクターン横丁に平気で出入りしたりしていただが、アズカバンに行ったことなどと知られたら、流石のドラコもの事を変だと思うのだろうか…?

どこまでも馬鹿だな。
「うあ…酷っ!

だが、ドラコの視線は完全に呆れを含んだものになっていた。

「ノクターン横丁の次はアズカバンか?君の行動に関しては驚くことはないだろうと思ったが……何を考えているんだ?」
「…うう、何も言うことがないです」
「別に君が無事ならいいけどな」
へ…?

きょとんっとする
どうやらドラコは何気に心配をしてくれていたようだ。
そんなドラコの気持ちには嬉しくなる。


「ドラコも貴方の事は随分気に入っていようね。本当に珍しいわ……」


楽しそうな笑みを向けるナルシッサ。

「これなら、今夜のパーティーに誘うのにも依存はないわよね、ドラコ、あなた?」
へ……?

再びきょとんっとなる
今夜のパーティーとは何のことだろうか…?

「私は勿論構わないが?」
「僕も構わないけど?」
「じゃあ、決まりね

視線がに集まる。

ちょっと待って。
パーティーって…?
私はあとは帰るだけのつもりなんだけど…。