黒猫と黒犬とノクターン横丁 9
向かった先は小さな墓地。
静かな森の近くにひっそりとある墓地だった。
そこにたてられた墓の数は少ない。
ここにくる途中で小さな白い花を買い、ここに来た。
ドラコが立ち止まったのは、ひとつの小さなお墓。
墓に刻まれた名は『Pettigrew,Via』。
「ドラコ、この人って誰なの?」
ドラコはこの墓に花を供える。
墓地にはドラコと以外は誰もいない。
「僕も良くは知らないが……昔父上が気に入った相手の中で、唯一父上自ら手を下した相手…らしい」
ざぁ…と風が吹く。
はドラコの言葉に目を開く。
ドラコの言い方は淡々としたもので、しかし決して嬉しそうでも馬鹿にした様子も見られなかった。
「自ら手を下したって……。ルシウスさんが殺したってこと?」
「そうらしい」
ドラコの答えは曖昧だ。
「昔」ということは、ドラコが直接見たわけではないのだろう。
「はどこか父上を甘くみているように見える。いいか、父上はそんなに甘くない、こうなった人もいるんだ」
複雑そうな表情でドラコは墓を見る。
以前はこの墓を見てもドラコは何も思わなかっただろう、否寧ろ馬鹿にしていたかもしれない。
けれども、を知って、と話をして…見方が変わった。
ここに眠る彼女もかつてはと同じ立場だったのだと。
「僕は君にこんな風にはなってほしくない」
「自覚しろって言いたかったの?」
「そうだ。父上のお気に入りってことは予想以上に危険だということだ」
危険なのはルシウスが仕掛けてくることに容赦がないから。
友人には危険な目にあってほしくない。
だが、ルシウスが仕掛けてくることが危険でないことはひとつもないだろう。
だからこそ、少しでも警戒を強めてくれればいいのだ。
そうすれば危険も減る。
かなり遠まわしな心配の仕方だが…。
「うん」
は頷く。
「分かってるよ、ありがとう、ドラコ」
「べ、別に礼を言われることじゃない」
少し照れた様子を見せるドラコ。
それにはくすくすっと笑う。
しかし、すぐにその笑みは消える。
「ヴィア=ペティグリュー……か」
墓に刻まれた名。
「ペティグリュー」という姓。
それはピーターの何にあたるのだろう?
親戚か、兄弟か……もっと大切な人か。
「もしかして、知ってるのか?」
「ううん、彼女のことを知ってるわけじゃないけど…。この人はどういう人だったんだろうと思ってね」
「それは僕も知らないな。ただ、このヴィアという人が亡くなったのは僕が生まれてすぐのことだ」
「ドラコが生まれてすぐ?」
ということは、闇の時代。
ハリーが生まれ、ピーターが裏切って…そしてヴォルデモートがポッター家を襲う時期の少し前。
嫌な予感がする。
「ルシウスさんに聞けば…分かるよね」
時期と、ペティグリューという名。
妙な符号の一致。
もしかしたら…。
「父上に聞くのか?!」
「え?なんで…?駄目かな?」
「駄目に決まってるだろう?!」
「だって、ドラコ知らないし。他に知ってるといえば……」
もしくはヴォルさんか…。
あの時はルシウスさんは、デス・イーターだったはずだから。
「とにかく父上はやめとけ。これ以上面倒ごとにしてどうする?」
全く持ってそうである。
だからは危機感が薄いのだと思われるのだ。
何も考えないで行動しようとしているように見える。
本人、何も考えていないのではなく、いろいろ考えているのだが…。
「う…ん」
納得したのかしてないのかよく分からない返事をする。
とても気になるのだ。
「ヴィア=ペティグリュー」という名に。
『裏切るくらいならば死を選ぶ!』と、最初はそう言っていたというピーター。
その言葉を変えたのが、このヴィアにあるとすれば…。
ただの偶然かもしれない。
何も関係ないかもしれない。
考えすぎならばいいと思う。
でも、きっと関係が有るとは思う。
「いろいろ…複雑だなぁ〜」
困ったようなため息を思わずついてしまう。
考え込んでも分からないものは仕方ない。
思った以上に自分のもっている情報は少ないのだと分かる。
はただ、先を少し知っている、事件の事情を少し知っているだけなのだ。
「何が「いろいろ複雑」だ。は楽観的過ぎる」
「そうかな?」
「そうかな?じゃないだろうが!何のために僕がここに連れてきたと思っているんだ!少しは警戒心というのを持て!」
「十分持ってるってば」
怒鳴るドラコをは笑顔でかわす。
ドラコはこれでものことを心配しているのだ。
それなのに全然警戒心を抱かないに対して苛立ちを感じてしまっている。
もドラコがいいたいことは分かっているつもりだ。
「そうじゃなくてさ…。この人自身の事は知らないけど……もしかしたら知り合いの関係者かもしれないと思って、いろいろ複雑だな…って思っただけ」
そう、ヴィアという人の事は知らない。
けれども彼女がピーターが裏切るきっかけになるような人だったら…?
命が惜しくて、優秀な彼らが妬ましくて裏切っただけのほうがまだ良かったかもしれない。
そうでなくて…彼女の為にピーターが裏切っていたら…?
「ドラコ」
「何だ?」
は墓を見る。
何も言わぬ墓。
ここに来たのは良かったことなのか…。
「悲しいのは嫌だね」
「…?」
裏切りの真実を知れば、そこに待っているのは知るべきでないことかもしれない。
でも、知ることで何かが変わるかもしれない。
未だにピーターを信じ続けているのは記憶のポッター一家。
「、君は何を隠しているんだ?」
墓地だというのに僅かに吹く風はとても優しいものだ。
ドラコは複雑な表情でを見る。
「君はいつも何か知っているような言動をする」
去年、比較的ドラコと一緒に行動することが多かったからか。
「うん。でも言えない」
は慌てもせずに肯定する。
ここで否定してごまかしても良かったのかもしれない。
けれども、きっとドラコと友人関係を続けていくのならば下手な嘘はやめた方がいいと思った。
「僕には言えないってことか?」
ドラコがとたんに不機嫌そうな表情になる。
はそれに首を横に振る。
「違う。ドラコだからとかじゃないよ。僕はこのことを元々誰にも言うつもりはなかったし、誰も巻き込むつもりはない。本当は隠し事をしてるってことも知られたくないんだけどね」
「あれだけ怪しげな言動をしておいて隠し事がないというのは無理な話だろう」
「う…怪しげって…一応気をつけてはいるつもりなんだけど…」
ドラコははぁとため息をつく。
諦めたような呆れたようなため息。
「ポッター達は知ってるのか?」
「…ポッター君?いや、知らないよ。僕に隠し事があるってことは知っているだろうけど」
どうしてここでハリーが…?
「はポッター達と仲が良いように見えるのにな」
「普通に友達のつもりだよ?ポッター君達とはね。ただ……」
はふっと表情を曇らせる。
いい子達だとは思う。
友達という関係だけならば上手くやっていけるだろう。
けれど、きっとはハリーとは仲間にはなれない。
「ただ…?なんだ?」
「ううん、なんでもないよ」
は首を横に振る。
そう、ただ…。
ハリーには、最後まで話すつもりは無い。
私はきっとハリーにとっては味方ではありえない存在になるかもしれないから。