黒猫と黒犬とノクターン横丁 8








マルフォイ家へはポートキーを使った。
どうやらノクターン横丁からマルフォイ家まで、ポートキーがあるらしい。
別にルシウスがノクターン横丁に出入りしていても構わないのだが、煩い相手に見つかれば厄介だからだろう。

マルフォイ家は純血一族の中でもかなり力のある一族だ。
故に権力も資産も魔法界ではかなり大きい。
はマルフォイ家のでっかい屋敷の応接間のソファーに座っていた。

「…中身も外見もごーじゃす過ぎて……すっごい居心地悪いんだけど…」

きょろきょろしながらは待つ。
向かいのソファーにドラコが悠然と座っている。
自分の家だから気を使うも何もないだろうが、よくもまあこんな立派なソファーでくつろげるものである。
リーマスが住む家でさえ大きいと思う
マルフォイ家はもはやレベルが違うとしか言いようがない。

「そうか?普通だぞ、普通」

全然普通じゃありません。
平然としているドラコに思いっきり突っ込みたい

「なんか、ドラコってすっごいお坊ちゃんなんだね…。改めて実感した気がする」
「純血の一族はこんなものだろう?…ああ、ウィーズリーを除けばだがな」

ふんっとどこか馬鹿にしたような口調。
好んでマグルやマグル出身と関わりを持つ、ウィーズリーの血筋をドラコは嫌う。
ルシウスも好んではいないだろう。

「でも、私的にウィーズリー君の家のほうがアットホームな感じで好きだけどな。最も、ウィーズリー先輩方がいたら煩くて大変だろうけど……」

大家族の割には小さめの家。
マルフォイ家に比べたら小さすぎるくらいかもしれない。
けれども、一度訪れたウィーズリー家は雰囲気的にはとても温かかった。

、ウィーズリーの家に行ったことがあるのか?」
「うん、まぁ…、あれは成り行き上だったけど……」

連れまわされたというかなんというか。


がちゃ…


応接間の部屋の扉が開く。
かつかつっとルシウスが入ってくる。
羊皮紙一枚と、羽ペンを持ってきているようだ。

「待たせたかね?」
「いえ、お構いなく」

ルシウスはの隣に腰掛けて羊皮紙を取り出す。
羊皮紙に書かれたのは、契約書のようなもの。
『白き花の雫』の買取値段とその代金の支払い方法。
一番下にルシウスはに見せながらサインを書く。

「現金即金、振込み、小切手、どれがいいかね?」
「どれでも構いませんが…、あの、現物確認しなくていいんですか?」

は持っていた小さなバッグから『白き花の雫』を取り出す。
小さな小瓶に入った透明でキラキラ光る液体。
その輝きは他では見られないもの。

「確かに本物のようだな。素晴らしい……ここまでのものはあまり見ないな」
「そうですか?」

別ににとってはいつでも取りにいけるようなものである。
珍しくもなんともない。
価値観の問題なのだろうが…。

「古いものならばよく見る。だが、新しい『白き花の雫』は最近ではかなり珍しいのだよ。雫の宿る花に魔法を使えば雫は枯れてしまう。今では取りにいくことの出来る魔法使いは殆どいない、ある場所は分かっていてもな…」

魔法使えないんだ、あの花って…。
でも、私の場合は使うのが魔法じゃないから全然関係ないけどね。

恐らく魔力に反応して変化してしまうものなのだろう。
魔力の全くないにとっては、最も取りやすいものなのかもしれない。

「あ、あとですね、ルシウスさん。お返しするものがひとつあるんです」

は『イレイズ』をルシウスに差し出す。
欠片を全て集めての力で修復したものだ。
虹色の鏡のようなものであり、魔法を遮断、もしくは威力の減少の効果がある。
それが『イレイズ』である。

「これは……、どこでこれを手にいれたのかね?」

ルシウスは受け取りながらも少し驚いた表情を見せた後、すぐに笑みを浮かべた。
を興味深そうに見る。

「ホグワーツで会った屋敷しもべ妖精が持っていたものですよ」

ドビーはもうマルフォイ家に仕えていないから言ってもいいだろう。

「マルフォイ家のものだと言っていたので…いえ、正確には言ってませんでしたが、多分そうでしょうから、僕の方から返すとその屋敷しもべ妖精に言ったので…」

それで返しに来たんですよ。
は苦笑しながら答える。

「確かにこれは私のものだ。まさか、こういう形で帰ってこようとはな……」

くくくっとルシウスが笑う。
何が楽しいのか面白いのか…。
ルシウスはちらっとを見る。

「やはり君は興味深いな」

ルシウスはの頬に手をかける。
するりっと手の甲での頬を撫でるように動かす。

「今日はここで食事でもしていくといい。まだ、時間はあるが………ドラコ」
「はい、父上。僕が一緒にいるよ、

ルシウスはドラコに目配せをして、ドラコは頷く。
そのままルシウスは部屋を出て行った。


ぱたん…


はルシウスが出て行った扉を見てほっと息をはく。
ルシウスに対峙するのに緊張するのはもう反射的なものになってしまっている。

「父上がそんなに苦手か?」

ドラコは緊張を解いたを珍しそうに見る。
普段落ち着いているを見ているドラコとしては、緊張するなど珍しいのだろう。
確かにはどんな人が相手でもルシウスほど緊張することはない。

「苦手は苦手だけど…緊張するというか警戒するのはもう反射的なもので…」
「まぁ…、の場合はその方がいいかもしれないが…」

ルシウスに気に入られてとんでもない試練の最中の
警戒するのは悪いことではないだろう。

「それで、何するの、ドラコ?時間あるんでしょう?僕は本当はすぐに帰るつもりだったんだけど……」
「ああ、そうだな…。は課題終わったか?」
「課題…?ん、まぁ大体はね」
「それならちょっと見せたいものがあるんだが…」

ドラコは少し迷うようなそぶりを見せる。
課題と何の関係があるのだろうか…?とは思う。
それとも課題が終わってなければやろうとでも言うつもりだったのか。

「あまり見せるものじゃないとは思うが、知っておいた方がいいとは思うしな…」
「何が?宿題と関係ありなの?」
「いや、課題とは全く関係ないことだ」
「じゃあ、なんで課題が終わったとか聞いたの?」

の問いにドラコは顔を少し顰める。

「別に…」

むっとするドラコに対しは首を傾げるだけである。
見せたいものが、ドラコが思うににとってはかなり衝撃的なことだと思うから、これを見たら宿題なんか手につかないのではないかという心配から。
しかし、ドラコが素直にそんなことを言えるはずがない。

「ところで、見せたいものって何?」

話題を切り替えてみる。
するとドラコは表情を変えてどこか複雑そうな表情でを見る。

「ここにはないんだ。少し外に行くことになるが…」
「構わないよ」

ドラコが立ち上がり、も合わせたように立ち上がる。
こんな豪奢な屋敷にいるくらなら外の方が気分的には楽だ。
はやはりここは落ち着かない。

「少し遠いけれども食事までは十分間に合うだろう」
「どこまで行くのさ?」

はドラコの後をついて屋敷の廊下を歩く。


「墓地だ」


そう言ったドラコの表情はものすごく複雑そうに見えた。
意外な場所に流石のも驚いた表情を見せるのだった。