黒猫と黒犬とノクターン横丁 7
桜花はシリウスを見送ってから、リーマスへと宿から借りたフクロウで手紙を出した。
宿で一晩休んでから、ノクターン横丁をうろうろしていた。
ヴォルはまだ戻ってこない。
ふと、思い出してあるものをリーマスの家から取り寄せる。
『白き花の雫』と『イレイズ』だ。
どちらともルシウスに渡すもの。
ここで会えると決まっているわけではないが、ルシウス御用達の店に行けば何か分かるかもしれない。
もしくは、家の場所を教えてもらえるかもしれない。
「でも、確かマルフォイ家の方に迷い込んだことはあるんだよね…」
それは去年の事。
ここから暖炉を使わずに帰ろうと適当に行動していたら、案の定迷ったのだ。
あの時は迷ったのでどこをどう行ったのか良くは覚えてない。
とりあえず向かう先は「ボージン・アンド・バークス」だ。
桜花も御用達のお店。
「すみません~」
ダイアゴン横丁のようにドアに鈴などついていないので、声をかけるしかない。
薄暗く気味悪い店内へ桜花は慣れた様に平気で入っていく。
ここへ来るようになってもう3年目だ。
さすがに慣れてくる。
「おや、キサラギ様?どうしましたか?」
奥からボージンがにこにことやってくる。
「こんにちは、ボージンさん。ちょっとマルフォイ家に用があるんですが…マルフォイ家がどちらか知ってますか?」
「マルフォイ様のお宅ですか…?一体どんな御用………ああ、もしかして以前マルフォイの旦那様がおっしゃっていた、『白き花の雫』の件ですか?」
「え?あ…そうです」
以前ルシウスが言ったのだった。
今度、白き花の雫が手に入ったら直接持ってくるように、と。
それをボージンがどこからか聞いたのかそれを覚えていたのだろう。
「マルフォイ様なら、今日こちらにおいでになるようですので少しお待ちになりますか?」
「いいんですか?」
「ええ、構いませんよ。キサラギ様もたまには何かお買いになりませんか?」
「…そうですね、少し見させてもらいます」
桜花は苦笑しながら答えた。
ここには売りに来るばかりで買うことはない。
あるのは闇の魔法に関するものばかりで、他に珍しい薬草やアイテムなどは、ヴォルに利けばある場所を教えてくれるので自分で取ってこればいい。
アイテム取りの時は迷い無く力を使えるのに、ホグワーツではどうしても集中力が乱れることがあるのは、どこかに自分の迷いがあるから…かな。
桜花は思う。
ヴォルが教える珍しい薬草やアイテムがある場所はかなり危険な場所だ。
事前知識をヴォルが教えてくれるとはいえ、普通の魔法使いでは出入りできない危険な場所。
そこへ桜花はよく行っている。
慣れれば慣れるほど、怪我を負うことはほとんどなくなる。
今はホグワーツで負う怪我の方が酷いほどだ。
それはやっぱり、あれらの場所にいる獣達や植物達の意思は弱く、桜花の力ならば比較的簡単に従わせることができるのと、もし意思の強い相手がいても逃げればいいだけの話だ。
対してホグワーツでの事件は桜花は立ち向かわなければならない場合が殆ど。
「もっと……強くならないと駄目だな」
はぁ~と軽くため息をこぼす桜花。
制限がないように思える桜花の力。
すべては桜花の心の強さだ。
「壊す力を防ぐ為に必要な守る力は、壊す力よりも大きなものでないと駄目だろうし…ね」
同等の力では駄目なのだ。
どれだけの力が必要?
そんなことは分からない。
「しかし、壊す力の方が扱いやすい。守らなければならないほど弱いものなど捨てればいいだろうに」
桜花はボージン以外の声に振り向く。
その先には、ルシウスとドラコが立っていた。
「いつから来ていたんですか?」
桜花はルシウスをまっすぐと見る。
「つい先ほどだよ。今日は買いに来たんだが…ボージンはいるかね?」
「ええ、いますよ。ちょっと奥に行ってるだけです」
ルシウスは桜花の言葉に奥のほうへと入っていく。
とりあえず桜花には用はないようで、何も言われることが無く少しほっとした。
扉の方を見てみればドラコと視線が合う。
「久しぶり、ドラコ」
「元気そうだな、桜花」
桜花はちょっと覗き込むようにドラコを見る。
ルシウスと一緒にいたからドラコだとわかったのだが…。
髪型が変わっている。
「何だ?」
ドラコがじろじろ見てくる桜花に顔を顰める。
桜花としてはデコのでていないドラコが珍しくて仕方ないのだが…。
先ほど見た瞬間に指差して叫びそうになったのは言わないでおこう。
「髪型変えたんだな~って。それにまた背が伸びたよね?」
「髪型は母上が……、背は前も言った気がするが桜花が小さいだけだ」
「…小さいって…。」
頭半分ほど背が違う桜花とドラコ。
今の桜花の姿の背は、元の姿と同じ。
つまりこれ以上は成長しないのだが…これで小さいとは。
「西洋人が馬鹿デカイだけだと思うんだけど……」
桜花からしてみればそうとしか言えない。
どういう成長をしているのだ、この国のお子様達は…。
それにしても…と思う。
「なんか、ドラコは随分と老けたね……」
「老けたとは何だ!老けたとは!!」
「よく言えば大人っぽくなった…だけど、だって今年で13歳だっけ?」
「だからなんだ?!」
「13歳にしては、子供っていうより青年に近い顔つきと体つきになってきたな~って思って」
日本人でも、この辺りの時期になると急激に体つきが変わってくる子もいる。
しかし、13歳といえばまだ中学生だ。
「ふんっ…。僕も大人になって来てるってことだ」
「大人って言うにはまだまだ早いと思うけどね」
少年らしさが雰囲気でも体つきでもまだある。
何よりもまだ言動が子供っぽい。
この子供っぽいままでいかなければいいが、ドラコなら大丈夫だろう。
とりあえずは、ルシウスのようにひねくれた大人にならないように祈るのみである。
「ところで、桜花はここに何の用があるんだ?」
「ん…、ああ、ドラコの家がどこにあるのか分からなくって、ボージンさんに聞きに来たんだよ」
「は?」
「前に迷ってマルフォイ家辺りまでは行ったことあるんだけど…。あ、ほら、ルシウスさんに用事があるから行くかもって言ったよね?」
「……聞いたが…、それだけの用でここに来たのか?」
どこか呆れたようなドラコ。
そうだけど…?と桜花が頷けばドラコはため息をつく。
「普通その程度の用事でノクターン横丁に来るか?」
「だって、ダイアゴン横丁よりもこっちの方が知り合い多いしさ」
桜花は買い物は大抵ダイアゴン横丁でなくノクターン横丁である。
ノクターン横丁の方が、日本のものなどが結構簡単に手に入る。
最も、偽ものもあるが…その辺りは日本人なので偽者かどうかくらいは分かる。
本物と似たような偽ものの場合は、使うに支障はないだろうからその点は気にしない。
「ドラコは結構こっちには来る方?」
「いや、僕は父上についてたまに来るくらいだ」
「そうなの?でも、結構便利なものが売ってるお店とかあるよ?機会があればまわってみると面白いよ」
「………ホグワーツの学生でノクターン横丁を1人平気でうろつけるのは君くらいだよ」
完全に呆れた様子のドラコ。
闇の濃いノクターン横丁。
興味半分、好奇心半分で覗きたい学生は何人かいるだろう。
だが、ドラコが知る限り、実際ノクターン横丁を平気で歩き店の中にも知り合いがいる学生などいない。
デス・イーターの息子や娘でも、だ。
「私に用があるのかね?キサラギ?」
ルシウスが奥から戻ってくる。
手には何か小さな箱を持っている。
それがルシウスの用だったのだろう。
「あ、はい。お返しするものがひとつと、去年言っていた『白き花の雫』を…」
「それならば家に来たまえ。支払いにしても今は手持ちがないのでな」
「あ、いえ…、別に支払いはすぐでなくても…」
「せっかくだから屋敷に招待したいのだよ、ついてきたまえ」
ばさりっとローブを翻してルシウスは歩き出す。
こうなると着いていかないわけにはいかないだろう。
ちらりっと店の奥を見れば、ボージンがルシウスを見送るように立っていたので桜花は軽くお辞儀をしてルシウスについていく。
その後をドラコがついていった。