黒猫と黒犬とノクターン横丁 6







はヴォルとシリウスでノクターン横丁をうろうろしていた。
シリウスはヴォルを良く睨み、ヴォルはそんなシリウスに冷たい視線を返すだけである。
空気がかなり冷たい…。

なんか、性質が合わないのかな…?
仲良くなる気が全然ないみたい。

気にしながらも、まずは洋装店へと向かう。
ノクターン横丁の服はピンからキリまでだ。
高級品から、ボロボロのつぎはぎ布まで。
しかし、違反だろうがなんだろうがある程度まではここでは見逃されるために、かなりの性能のいいものもある。


きぃぃ…


きしむ音を立てて扉を開く。
薄暗い店内。

「こんにちは〜」

は薄暗い雰囲気など全然気にせずに店内へと入る。
ヴォルも堂々としたものだ。
シリウスは少し戸惑ってはいたものの、普通に店内へと入ってきた。

「おや、様ではありませんか?」

店の奥から出てきたのは、優しげな40前後の魔女である。
にこやかに微笑むその姿は一見普通の魔女だ。

「こんにちは、ちょっと服を探しているんですけど…」
様の物をですか?」
「あ、いえ、この人の…」

は苦笑してシリウスの方を指す。

「できれば丈夫なローブと、あと上下の服もお願いします」
「分かりました。それではサイズの方は………」

がシリウスの方に視線を向ければ、シリウスがぼそっと自分のサイズを言う。
それを聞いて魔女は奥のほうへと服を探しに行った。
ほんの数分たつと魔女はなにやら抱えて戻ってきた。

「これと、これとこれ…あとこれなどいかがですか?どれも目立たない服装ですよ」
「あ、いい感じですね。シリウスさん、どうですか?」

が服を広げてみせる。
紫がかった黒一色のローブだ。
もうひとつは青みがかった黒。

「どっちでも構わねぇよ…」

ぼそっと呟くシリウス。

「じゃあ、両方下さい」
「ありがとうございます、様」
「代金はいつものようにしておきますね」
「はい、お願いします」

魔女はにこにこと笑みを浮かべて包みだす。
そこでシリウスははっとなる。

「ちょっと待て。別に金ならオレが出す」
「いえ、いいですよ。…というより無理ですよ」
「何でだ?」
「ノクターン横丁では金銭の支払いが特殊なお店が多いんです。お金さえあれば買えるというわけではないんですよ」

はこの店に何度か来ている。
最初来た時は、きちんととある場所からの紹介状を持ってきた。
だからここでも買い物ができるのだ。
ここの店の魔女はシリウスだけが相手だったら売ってくれなかっただろう。
がいたからこうしてにこやかに対応しているのだ。

「どうしても支払うというのなら後にしてください。この場は僕が立て替えるしか支払い方法はないですから…」

はそう言って、魔女が差し出した羊皮紙にサインする。
これが契約書のようなものだ。
この契約書は魔法で縛られる。
といってもに無効なので意味がないと言えば意味がないが…支払いを忘れなければただの紙にしかすぎないものなので気にしてない。

「ありがとうございます、マダム。また、お世話になるかもしれませんが…」
「いいえ、いつでもきてくださいませ、様。ドレスローブでもなんでもありますよ?」
「そうですね…。では、失礼します」

苦笑しながらは荷物を抱えて、ヴォル、シリウスと店を後にした。
あの魔女はがホグワーツ生であることを知ってる。
来年、1年後にはドレスローブが必要になってくる。
それを言いたかったのだろう。


その後、携帯食料をいくつか買い込んでノクターン横丁の隅にある宿をとる。
これもダイアゴン横丁ではシリウスの姿を見られてしまうとまずいからである。

「シリウスさん、とりあえずこれに着替えてください。いつまでもそんなボロボロじゃ困るでしょう?」

は先ほど買ったローブと服を取り出す。
シリウスは長く伸びきった髪を掻き揚げて、を見る。
やつれた顔立ち、顔色はよくない。

「先にシャワーを浴びてくる。綺麗な服を汚すのはわりぃしな」
「そうですか?別に気にしませんけど…」
「いや、とにかく行ってくる」

シリウスは疲れたような息をはいて奥のバスルームへと向かった。
ノクターン横丁の宿屋とはいえ、そうそう悪いものではない。
も別にお金がないわけではないのだ。
リーマスの目を盗んで出かけるのはちょっと大変だが、ひとつふたつとってきて売るだけでもかなりの物になるのだ、ヴォルが言う貴重なものというのは…。
今は魔法薬学の勉強もして、そのうち魔法薬も売るようになりたいと思っている。

「先は長いな〜〜」

呑気に天井を見ながら呟くだった。
ベッドにぽつんっと座りながら上を向く。



名前を呼ばれては顔を下げる。
部屋の扉の所にヴォルが立っている。
相変わらずの真っ黒ずくめ。

「少し用を思い出したから俺は出るが、大丈夫か?」
「え?うん。別に構わないけど…」

用事って何だろ…?
まぁ、ヴォルさんにも何か事情があるかもしれないし、まだリドルの日記みたいに魔力の回収するかもしれないし。

「楽しみしてろ」

ふっと笑みを浮かべてそう言ってヴォルは出て行った。
は首を傾げるだけである。

楽しみにしてろって…何だろ?
ヴォルさん、何するつもりかな……?
ただ、シリウスさんと一緒にいるのが嫌だけだったりして。

まさかね…と思いながらも、その線もありかもしれないと思ってしまう。
かなり仲が悪いのだ、あの2人は。


「あ…?もう1人はどうした?」


奥の方からシャワーと着替えを済ませたシリウスが出てくる。
黒く長い髪は後ろでゆるく紐で縛ってあり、来ている服は無地一色でシンプルなものだ。
シリウスに良く似合っている。

「ヴォルさんなら、用事があるって出かけましたよ」
「………そうか」

は立ち上がって今度はシリウスの荷物の準備をする。
小さなバッグとその中には携帯食料、そして替えのローブ。
替えの服も入れたいところだが、荷物は少な目の方がいいだろう。

「シリウスさん、これを持っていてください」

はバッグを渡す。

「僕にはここまでしかできません」
「いや、十分だ。ありがとな」

シリウスはからバッグを受け取る。
にこっと笑顔を見せて…。
脱獄と少しの荷物。
に出来るのはここまでだ。
さすがにワームテールを殺す手伝いをするわけにはいかない。

「気をつけて…下さい。吸魂鬼が貴方を探し出しますから………」
「分かってるさ」

は辛そうな表情をする。
シリウスは安心させるようにの頭をぽんぽんっと軽く撫でる。
心配するな、とでもいうように。
シリウスから見れば、はハリーとそう年の変わらない少年に見えるのだろう。
子供を落ち着かせるような行為。

シリウスはそのまま僅かに笑みを浮かべて宿屋を後にした。
はそれを見送る。
ホグワーツでもなるべく手助けはしたいとは思う。
グリフィンドール寮に侵入する以外のことならば……。