黒猫と黒犬とノクターン横丁 4
ベラトリックスとは別れ、シリウスのいる所へと向かうとヴォル。
先ほどのベラトリックスとの対面で、はデス・イーター達への考えが変わってきた。
なんか、やっぱ変だ。
何が変って……とにかく変な人ばっかり。
純血主義なのはともかく、マグル出身のに構おうとするのが分からない。
といってもヴォルデモート自身がすでに混血であるのだから、純粋なマグル出身と言っても全く受け付けられないわけではないのだろう。
だが、ヴォルデモートの元に集まったほとんどのものが純血主義を掲げている以上、表立って受け入れることはできないはずだ。
「なんで、あんなことになるのかな…」
少し顔を顰める。
「が無自覚に人を魅了しているからだろ?」
「魅了って……、別にこの顔ってヴォルさんとかルシウスさんに比べれば平々凡々の顔立ちだし…」
ぺたっと両手を頬にあててみる。
と言っても今の姿は少年のものである。
顔立ち自体はあまり変えていないが…。
「顔立ちは関係ない、の目だ」
「目…?別に普通の黒い目だと思うけど…?」
「…そうじゃない」
ヴォルは深いため息をつく。
わかってないに呆れてしまう。
「あの手のヤツラは、自分が睨めば相手は大抵こびへつらうか怯えるのに慣れている。だが、は臆することなく見返すだろう?」
「それが普通だ思うんだけど…」
「にとって普通でも、俺やあいつらにとってはかなり新鮮なんだよ。だから興味を持つんだ。例えそれが純血でなくても…な」
最初は玩具に対しての興味と同じものだろう。
飽きれば捨てればいい。
そんな感覚。
けれども、を知るうちに玩具の感覚でなくなる。
ベラトリックスも、今はまだ面白そうな玩具を見つけた程度にしか思っていないだろうが、この先どうなるかは分からない。
「よくわかんない…」
にはそういう考えはよく分からない。
ヴォルはそれに苦笑するだけだった。
シリウスがいるらしき牢を覗き込む。
中には座り込んだままどこかを見ている青年が一人。
黒く長い髪、ボロボロのローブ。
彼をここから連れ出すことくらいなら簡単だ。
シリウスを殴って気絶でもさせれば、の話だが…。
はこっそりと牢の鍵を開けて、キィ…と音を立てながらもドアを開ける。
「シリウス…ブラックさん?」
牢の中の青年はぴくりっと反応して、ダークグレーの瞳のみをに向ける。
その瞳からは光が失われていないことが分かる。
強い意志を持った瞳。
「誰だ…?」
警戒心をむき出しに声を低くしてシリウスが問う。
ヴォルの姿はシリウスからは見えないところになる。
シリウスにはしか見えないだろう。
「ここから出ますよ」
は牢の中へと入ってシリウスに手を差し伸べる。
しかし、シリウスはを睨むだけでその手をとろうとはしない。
それはそうだろう、突然現れた少年をどうして信用できると言うのか…?
「今は周りの警戒も以前より少し厳しいかもしれません。でも、それは僕がフォローします。だから出てください、シリウスさん」
は真剣な表情でシリウスを見るだけ。
「それが本当だと信じるものがどこにある?」
シリウスはを睨む視線を変えない。
伸ばした手を握ってはどうするか悩む。
警戒されるのは仕方ない。
けれども、シリウスには脱獄してもらわなければならない。
ひゅっ
悩んでいるのすぐ横を、何かが飛び去る。
「へ…?」
ごめすっ!!!
何かと思ってきょとんっとした顔をしたの目には、顔に本をめり込ませたシリウスがうつった。
ちなみに、その本はジェームズ達の本である。
「、説得なんてもんはそいつらに任せればいいだろう?警戒心むき出しの単純馬鹿は放っておけ」
いつの間にかが持っていたはずの本を取って、ヴォルがその本を投げたようだ。
呆れたように牢の外から中のほうを見ている。
ヴォルにしてみれば、シリウスが脱獄しようがしまいがどうでもいいのだから…。
「ヴォルさん、でも、ちょっとこれは…」
「いいんだよ、これくらい。この馬鹿犬が目を覚ますには丁度いい」
シリウスの顔にめり込んだ本を取り上げたのは、ほかならぬその本を媒体としているジェームズであった。
幽体同様のジェームズに物質へと触れることはできるのか…?
は疑問に思ったが、できるのだからできるのだろう。
それとも何か条件でもあるのか。
「目が覚めたかい?シリウス?」
ジェームズが腕を組んでシリウスを見下ろす。
シリウスは自分の見ている者が信じられないかのように思いっきり目を開いていた。
「嘘……だろ?なんでお前が…!」
「夢だと思うのかい?僕は今ここにちゃんといるよ」
にこっとジェームズは笑みを見せる。
「ま、僕の本体はとっくに死んでるけどね〜」
からからっと楽しげに笑ったりする。
明るく言うものではないと思うが…。
「本体が死んでるって…どういう意味だよ?」
「どういうもなにも、シリウスは見たんだろう?僕とリリーがヴォルデモートに殺された後の事。第一発見者はシリウスだってから聞いてるけど?」
何を今更…とでも言うようにジェームズは当たり前の事のように答える。
「僕は記憶だよ、シリウス、”僕”が死ぬ直前辺りのね」
本人ではない。
けれども記憶としての意思はあるし記憶もある。
考え方はジェームズそのものであるし、行動もそうだ。
偽者でも何もない。
「本当に……ジェームズ…なのか?」
「信じられないならもう一度目を覚まさしてあげるけど?」
ジェームズは笑顔のまま本を掲げてみせる。
シリウスはそれに思いっきり顔を引きつらせて、首を横にぶんぶんっと勢い良くふる。
「ジェームズ、お前!何考えてやがる!そんなもんぶつけられれば痛いに決まってるだろうが!!」
「痛くないと目は覚めないだろう?」
「当たり所が悪けりゃ死ぬぞ?!!」
「それはそれで運命だったということでいいじゃないか」
「良くねぇよ!!オレにはまだやることがあるんだよ!!死ぬのはゴメンだ!」
シリウスの言葉にジェームズは満足そうな笑みを見せた。
「それじゃあ、こんなところでじっとしている場合じゃないよね」
「は…?」
シリウスは何を言われたのか分からなかった。
そんなシリウスを気にせずにジェームズはヴォルの方を見る。
「あ、黒猫君。この馬鹿犬を連れ出してくれていいよ」
「俺がやるのか…?」
「にやらせるのかい?」
ヴォルは顔を顰めながら牢の中に入る。
シリウスを見下すように見て…
「出ろ」
そっけなく一言のみである。
「何で、てめぇにそんなこと言われなきゃなんねぇんだよ」
シリウスもそう言われて素直に従う性格ではない。
ガンとしてでも動かないと決める。
ヴォルは軽くため息をつき…ちらっとを見る。
「、こいつ連れ出すのに腕や足の一本や二本くらいなくしてもいいか?」
「何言ってるの、ヴォルさん!!駄目だってば!」
ヴォルを睨む。
初対面でのヴォルとシリウスの印象は、お互い最悪のようである。
「ごめんなさい、シリウスさん。でも、お願いします。やるべきことがあるのなら、僕を少しだけ信じてくれませんか?」
は改めてシリウスに手を伸ばす。
シリウスは迷ったようにの差し出した手を見つめる。
ちらりっとヴォルをみて、そしてジェームズを見る。
そしてに視線を合わせて、シリウスはの手を握り返した。
それには明らかにほっとした表情をしたのだった。