黒猫と黒犬とノクターン横丁 2






しばらくすると2階からセブルスが降りてくる。
疲れたようなため息をつきながら…。

「教授、リーマスは…?」

セブルスはへとちらっと視線を向け、テーブルに小さなビンをひとつ置く。

「教授…?」
「安定剤だ。ルーピンのヤツが目が覚めてもまだ様子が変わらないようなら飲むように言ってくれ」
「わかりました」

リーマスを嫌いだと雰囲気で言いながらも、セブルスはこうやって放っておくことはない。
本当に面倒見がいいというかなんというか、律儀というか…。

「見たのか?」

セブルスはテーブルに広げられた『日刊預言者新聞』に目をやる。
シリウスの一面記事の事を言っているのだろう。
は頷いた。

「シリウス=ブラックさんは、リーマスの親友ですよね?だから、リーマス、あんなに顔色が悪かったんですね」
「…………ブラックもアズカバンから脱獄など馬鹿なことを……!」

確かに。
は心の中で思いっきりセブルスの意見に同意する。

「教授は…、シリウス=ブラックはデス・イーターだったと思ってます?」

本の中でのセブルスの行動は果たしてシリウスを疑っていたからなのか、シリウスが嫌いだったからなのかあまり区別はつかない。
デス・イーターだったセブルスが、シリウスがデス・イーターでなかったことは知っているのか?

「我輩にはやつがそうであろうと、そうでなかろうと関係ない。やつはアズカバンの囚人であり、犯罪者には違いないだろうからな」

答えになっていないことがセブルスは分かっているだろうか。
ヴォルはヴォルデモートであったから本当の裏切り者が誰なのかを知っていた。
勿論自分の部下を把握してない上司などどうかと思うので知ってて当たり前だろうが…。

「我輩はこれで帰るが、
「はい?」
「あまり外に出るなよ。ブラックの脱獄騒ぎで変に動き出すやつがいるかもしれんからな…」
「分かりました」

苦笑しながらはセブルスを見送る。
セブルスは納得したのかどうかは分からないが、そのまま帰っていった。
はセブルスが出て行った扉を見る。

でも教授、そうもいかないんですよ。




は早めに行動を起こすことにした。
リーマスの部屋を覗き込めば、リーマスは当分目を覚ましそうにないように見えた。
一応ダイアゴン横丁へ行くと書置きをして。
勿論ダイアゴン横丁へと行くわけではないのだが…。

、これも持って行った方がいいだろう?」

ヴォルが差し出してきたのはジェームズ達が眠る本。

「初対面のやつが逃がしてくれると言って誰が信じる?こんな状態の知り合いでもいた方が事はスムーズに行くと思うぞ」
「あ、そうだね」

小さなバックを持って、はその中に本を大事そうに入れる。
バックも服も、は金銭面でリーマスを頼ることはしない。
リーマスもどこからか収入があるようで、生活は厳しいものの飢える事はない程度だ。
食費と家賃だけはどうにもならず、リーマスは受け取らないので、その分をグリンゴッツにてリーマス名義で貯金をしてある。
いつかそれを返すために…。
ヴォルが教えてくれた場所やものは、慣れてくれば取ってくるのは意外と簡単だ。
そして意外と高く売れるのである。
最も、それでなければ生活などしていけないのだが…。



「ん?」

バックに携帯食料と飲み物、それから多少の現金。
準備をしているに話しかけてきたヴォル。

「お前、いつまでこの状態でいるつもりだ?」
「…いつまでって…どういうこと?」

ヴォルは迷うように…だがいつもより真剣な表情で話す。

がどこまで知っているのか俺には分からないが…、そう遠くないうちにヴォルデモートは甦るだろう。その時、この場所で今と同じように暮らしていける保障はないぞ」

ぴたりっとの手が止まる。
それは分かっている。
リーマスと一緒に暮らすことが出来るのはあと少しだろう。
リーマスはヴォルデモートと敵対するダンブルドア側につく。
はまだ自分の立場を決めかねているからこそ、ダンブルドア側にはいられない。

「分かってる…。でも、まだ考えられないよ、…今年は今年の事で精一杯。私はいろんなことを一度に考えられるほど、まだ大人じゃないんだよ」

本当は犠牲者がでてしまう先の事は考えたくないかもしれない。
それでも、今は今出来ることを…。

「とにかく今はシリウスさんに脱獄をさせること」
「それでアズカバンへ…か。吸魂鬼がいるのに怖くないんだな」

呆れたようにヴォルが言う。

「私は吸魂鬼を知らないから、だからそういうことが言えるだけだよ、ヴォルさん。もし、倒れちゃったり動けなくなったりしたらごめんね」

魔法が効かないだが、吸魂鬼の能力が効かないという保障はない。
ハリーのように辛い過去があるわけではないが…が自分で思う限りは…震えて動けなくなってしまうかもしれない。
行って、吸魂鬼に会って見なければ分からないこと。

「大丈夫だ。心を閉じろ、無理ならお前の力で心を閉ざせ。吸魂鬼は相手が持つ負の感情を引き出す。動物にはあまり感心を示さず人にのみ感心を示すのは、人の感情が強くそして感じやすいからだ。動物の感情は人のそれに比べれば弱い」
「それじゃあ、アニメーガスとかで動物の姿になってもあまり変わらない?」
「いや、動物の姿になれば、感情の伝達はできにくくなるからな…。何故そんなことを聞く?」
う……。

ヴォルはぽんっとの頭を撫でる。
の隠し事は今に始まったことではない。
特に追求することをしないヴォル。

「深くは聞かないが、あまり1人で抱え込むなよ」

少し変わり始めたヴォル。
がヴォルを頼るようになったからか、ヴォルはに対してあまり深く追求しなくなった気がする。
それとも想像がついているのだろうか…。

「…うん」

は止めていた手を動かして支度をする。
手が杖へと向かうが、杖はには必要がない。
そもそもこの杖を買うときはヴォル用の杖を選んだつもりなのだ。

「そうだ、ヴォルさん。この杖」

は杖を差し出す。

「杖、あった方がいいでしょ?」
「確かにそうだが…」
「私には必要ないものだし、ヴォルさんがずっと持っていいよ」
にも飾りでも杖は必要だろう?」
「うん、だからあとでノクターン横丁にでも行って、適当に作ってもらうよ」
「そうか…」

ヴォルは杖を受け取る。
杖なしでも多少の魔法は使えるとはいえ、あるとないとではかなり違う。
しかし、ノクターン横丁で杖を作ってもらうといえるも随分ノクターン横丁に慣れたものだ。

ノクターン横丁か…。

ヴォルがぽつりっと呟く。

「ヴォルさん…?」

どうしたの?とが尋ねる。
ヴォルはその言葉に笑みを向け、首を軽く横に振る。
何でもないと言う様に。

「行くぞ」
「あ、うん」

アズカバンへと向かうとヴォル。
目的はシリウスの脱獄。
吸魂鬼の影響を受けないためには心の中で『壁』をイメージする。
自分の中を守るイメージの『壁』。
目を閉じ、集中する。

心を閉じ込める。
外部から影響を受けないように…。

次に目を開いたの雰囲気は少し変わっていた。
感情を閉じたは、いつもよりも存在が冷たく感じられるように見える。
それを感じたヴォルは、少しの安心と、寂しさを感じたのだった。