秘密の部屋編 71






!!

ハリーの強い呼び声にはっとなる。
ルシウスと話していただが、側には確かにハリーもいたのだ。
ルシウスを吹き飛ばしたのは、ハリーを守ったドビーなのだから…。

「あ……、ポッター君」

の口から出た言葉は、間抜けなものだった。
先ほどの緊張した様子は見られない。
ルシウスと対峙しているは、ハリーからみると遠く見えて不安だった。
けれども、今のを見てほっとする。

「大丈夫??」
「へ…?何が…?」
「マルフォイの父親に……」

ハリーはそこで気まずそうに言葉を止める。

「あ〜、うん」

は目を泳がせる。
ばっちり見られていたようなので、何とも言えない。
仕方なく苦笑して、ハリーを見る。

「大丈夫だから…」

ハリーに余計な心配を抱かせるわけにはいかない。
ハリーは納得いかなそうな表情をしながらも、何も言わなかった。
変わりにの手を掴む。

「じゃあ、、聞かせてよ」
「うん?」
のこと、リドルのこと……」

ハリーの目は真剣だ。
ごまかしはきっと通じないだろう。

「そうだね……、答えられることだけでいいなら…」

全ての真実を話すわけにはいかない。
けれども何か話さなければハリーは納得いかないだろう。


「それならば、立ち話もなんじゃし…校長室へ戻らんかね?」


ダンブルドアの声がした。
振り向けばダンブルドアがにこやかな表情で立っていた。
ハリーとは頷いて、校長室へと入った。



校長室で、ダンブルドアとハリー、は温かい紅茶を飲みながらリラックスしていた。
ふぅ〜と安心したように息をつくのはハリーと
はふと気付いてダンブルドアに『伝導の書』を差し出す。

「ダンブルドア、これありがとうございます。お返ししますよ」
「おお、もういいのかね?」
「いいも何も……、ダンブルドアが何を言いたいのかは分かりますが、僕には必要ないものですよ、これは」

魔力のない自分には使えないもの。
だからといって、魔力のある誰かに頼るつもりもない。
ダンブルドアは少し困ったような表情をしたが、それでもから『伝導の書』を受け取った。
ハリーの視線がへと注がれる。
色々聞きたくて仕方がないのだろう。

「で、ポッター君。まずは何を聞きたい?」

にこっと笑みを見せて話を向けてやる。
ハリーは少し顔を顰めたが…意を決したように顔を上げてを見る。

って……、本当は女の子…なの?

なるほど、まずはそこから来たか。
一番最初はヴォルさんの事を突っ込んでくるかと思っていたんだけどな…。

は苦笑しながらハリーを見る。
ダンブルドアはにこにこ見守るのみ。
口出しはしないつもりなのか…。
は軽くため息をついて、右手にはめられた指輪を抜いた。
指輪を抜けば、勿論姿は少女のものへとなる。

「そう、実はこっちが本当の姿だよ」

グリフィンドールの男子生徒の服装のままの少女の姿。
その姿はハリーよりも少し大人に見えるかもしれない。
本来のの年齢はハリーよりもかなり上なのだから…。

「なんで、男になってるの…?」

やはりハリーからは予想していた質問が来た。
どうしようかとが考えているとダンブルドアが答えを話し出す。


「ハリー、はヴォルデモートに見つからない為に偽りの姿でいるんじゃよ。


にっこりと笑顔で、そして少し悲しげな、寂しげな表情で…。
がダンブルドアを見れば、ダンブルドアは軽く片目をつぶってみせる。
任せろとでも言いたいのだろうか…?

「見つからない為って…、どういうことですか、ダンブルドア先生」
はヴォルデモートに見つかってしまったら、確実に命を狙われてしまうんじゃ」
「え…?…あ……。

ハリーは驚いたように、けれど何かを思い出したかのようにを見る。
ダンブルドアが何を考えてこう言ってくれるのかは分からないが、ごまかすのを手伝ってくれるようだ。

「私が他の生徒達とあまり仲良くしないのも、私がヴォルデモートに見つかってしまった時、他の人たちを巻き込みたくないからだよ。だから、ポッター君をハリーとは呼べない」
「で、でも!ネビルは?ジョージは?!2人は違うの?!
「そういうわけじゃないよ。あれは本当に私の油断というか…ね。今更2人をファミリーネーム呼びに直してもおかしいだけでしょ?」

だから、これで納得して欲しい。
本当は物語はハリーを中心に進んでいくから…ハリーにあまり深くかかわりすぎて、影響を与えてはいけないと思うから…。
だからハリーだけは駄目なのだ。

がどうしてその姿なのかは分かったし、ファミリーネームで呼ぶ理由も分かる…けど、けど!の猫のことはどうして?!だって、あの猫はリドルにそっくりだよ!それに…!
「うん、でも、ヴォルさんはヴォルデモートじゃない」
「ハリー、彼はを守ってくれる1人じゃ」

とダンブルドアはヴォルを弁護する。
ハリーはそれに信じられないような表情をする。
リドルは、ハリーの親友であるハーマイオニーも石化してしまった。
ハリーにしてみれば許せない相手だろう。

「ポッター君。別にヴォルさんを受け入れてくれなんて言わない、でも…ヴォルデモートと違うことだけは信じて欲しい」

ハリーはきっとヴォルを受け入れられないだろうと思う。
真実を知れば知るほど…。
今はヴォルがリドルと融合したとしか思っていないようなので、ヴォルが何なのかは知らないし、知りようがない。
ハリーがヴォルを嫌いで何かしてしまうのは、は嫌だと思う。
最も、ハリーがヴォルに何かしようとでもすれば、ヴォルならば余裕でハリーのことなどかわしそうだ。
ついでに10倍返しくらいはするだろう。

「ハリー、のことはあまりまわりに言わないで欲しいんじゃ。はそれだけ危険なんじゃよ。しかし、がそれだけ危険だと知る者は少ない……を守る者は少ないんじゃ…」
「それなら、僕だってを…!」
「ハリー…」

ダンブルドアは首を横に振る。

「ハリー気付いておらんのかね?」
何をですか?!
「ハリーは目立ちすぎるんじゃよ。も十分目立つ存在じゃがの…しかしそれはホグワーツ内だけでのことじゃ」
「目立ち…すぎる…?」
「そうじゃよ。魔法界でもハリーは有名は存在じゃろう?までも名を知られてしまっては困るんじゃ。特に日本の名前は珍しいからの」
あ…。

ハリーはダンブルドアの言いたい事に気付く。
魔法界でも有名なハリー。
は確かにホグワーツ内では有名だが魔法界では殆ど名は知られていない。
だからこそ、ハリーの周りにいる友人ということでヴォルデモートに名を知られてしまわないように気をつけたほうがいい。
だが、ハリーは気付かない。
それはハリーがの側にあまりいない方がいい理由であり、ハリーがを守らなくていい理由にはならないということに…。

「よいかね、ハリー。わしは別にと仲良くしてはいけないと言っているわけじゃないんじゃよ。ハリーが全力でを守ろうとすることは、魔法界にの名前を知らしめることに繋がってしまうということなんじゃ」
「…そうすると、が危険になるってことなんですね」
「そうじゃよ」

ハリーは顔を俯かせる。
自分が有名になりたくてなったわけではないけれど、その名前が邪魔をする。
ぎゅっと手でローブを握り締める。

「大丈夫じゃよ、ハリー。のことはきっと彼が守ってくれる」
「でも、あの人は……あいつは!リドルと…!
ハリー!!

ダンブルドアが強い声でハリーの言葉を遮る。
びくりっとなるハリー。

「彼は闇の者ではない。わしは彼がを守ってくれると信用しておる。勿論、も彼を信じているのじゃろう?」

はそれに軽く頷き苦笑を返した。
信じている。
側にいてくれる存在だから…。
甘えているとわかっていても…。

「ポッター君。私にとってヴォルさんはやっぱり大切な人なんだよ」

は悲しげな笑みを見せた。
ハリーは一瞬泣きそうに顔をゆがめたが、すぐにきゅっと唇を結ぶ。
少し視線を逸らし、そして再びに視線を合わせた。

がそう言うなら…」

少し納得のいかない表情をしながらも、ハリーは認める。
表情はむっとしたままだ。

「ハリー、君は疲れておる。ゆっくり体を休めてから気持ちを整理した方がいいじゃろう…?」

ダンブルドアの優しい言葉にハリーは僅かに頷いた。
確かに今日は色々なことが沢山あった。
秘密の部屋の事件の解決。
の姿、ヴォルとリドルの融合。
そして、がヴォルデモートに命を狙われてしまうかもしれないこと。
ハリーは頭の中で色々考えながら、ダンブルドアに促されて校長室を出て行った。




「ありがとうございます、ダンブルドア」

ハリーが出て行ったのを確認して、はダンブルドアに礼を述べた。
1人ではちょっと説得力がなかったかもしれない。
けれど、ダンブルドアが話すと何故か説得されてしまう不思議がある。

「いや、わしはに謝らなければならんよ」
「ダンブルドア…?」

悲しそうな笑みを浮かべるダンブルドア。

には味方が多い方がいいのは分かっておる。じゃが…、わしはこれ以上ハリーに大変な思いをして欲しくなかったんじゃ…」

ダンブルドアは、に関わりすぎることによってハリーがさらに危険にさらされるの恐れた。
だから、には普通の友人以上の付き合いを進めない。
ハリーの事を思ってこその事なのだろうが、よりもハリーを優先してしまったことにダンブルドアはかなり心が痛んでいるのだろう。
はダンブルドアの言葉に首を横に振る。

「いえ、ダンブルドア。貴方の選択は正しいものですよ。ハリーは子供です、私はこれでももう1人で暮らしていけるほどの年齢にまではなっています。それに私にはヴォルさんがいますし…。これからもハリーの安全の方を優先してください」
…」

ダンブルドアは悲しげな表情を浮かべた。
心配してくれるのは嬉しい。
けれども、はダンブルドアのその気持ちを裏切ってしまわないという保障が全くないのだ。
この先物語の進み方次第では、はダンブルドアが望む通りに動かないかもしれない。
ハリーを守る立場から攻撃する立場に変わってしまうかもしれない。
だからこそ、ダンブルドアはいつでもハリーの安全を優先して欲しい。