秘密の部屋編 72
2年生の年がもうすぐ終わる。
大広間では、バジリスクに襲われた者たちの復帰を祝い、そしてバジリスクが倒されことの安心もあり、盛大なパーティーになっていた。
生徒達は思う存分騒ぐ。
ダンブルドアの計らいで、今年は期末テストはなしだという。
それに生徒達の歓声が上がる。
1人、ハーマイオニーだけはテストがなくなったことにがっかりしていたようだった。
ハリーはロンと一緒に秘密の部屋で見たことを得意げに話している。
はそれを遠目で見てから、スリザリンの席の方へと向かった。
ハリーの態度はというと、には普通に挨拶をして普通に話しかけてきた。
いつもと変わらない態度。
それにはほっとしたと同時に、騙しているという罪悪感が少しあった。
「ドラコ」
グリフィンドールの制服で、は何の抵抗もなくスリザリンの席へと近づく。
むっとした表情のまま食事をとっているドラコに話しかける。
「グリフィンドールが何の用だ?」
ハリーが他の生徒達に英雄扱いされているのが気に入らないのだろう。
ドラコの表情は不機嫌そのもので、言葉もそっけない。
は思わず苦笑する。
「うん、特別用はないんだけどね。一応、無事を確かめに来ただけ」
「そんなもの、見れば分かるだろう?」
確かに、見れば分かる。
でも、ドラコには分からないだろう。
本来石になるはずではなかったドラコが石化してしまった。
元に戻ると分かっていても、大広間にドラコの姿を見たときには、はすごくほっとしたのだ。
「見てもやっぱり、ちゃんと話をしないと不安だからさ…」
「なら、さっさとグレンジャーのところへと行けばいいだろう」
「グレンジャー…?グレンジャーなら今ポッター君達と話してるし…」
ドラコはの方を見ない。
「ドラコ…?」
は首を傾げながらドラコを見る。
ドラコは怒っているように見える。
「うりゃ」
ぺしっ
はドラコの額をぺしっと軽く叩いてみる。
いまどき珍しいオールバックのその髪型は、額が丸見えで叩きやすい。
勿論、そんなことをされてドラコが怒らないはずがなく…。
「!!」
呼び方が元に戻ってしまっているが、それは無意識なのだろうか…?
顔を真っ赤にして怒鳴るドラコ。
怒鳴り声が聞こえれば自然と視線は集中してくる。
「何?」
にこっとは笑みを向ける。
ドラコはむすっとした表情のまま…
ぺしっ
お返しとでもいうように、の額を軽く叩いた。
「痛いじゃない、マルフォイ君」
は額を押さえてドラコを見る。
別に全然痛くはないのだが…。
「ドラコと呼んでくれるんじゃなかったのか?」
「僕を””って呼んだから、”マルフォイ君”って呼んだだけだよ、ドラコ」
お互い様。
ドラコはむっとする。
のことを名前で呼び始めたのはつい最近の事で、とっさのことだとやはり呼び慣れた方がでてしまうのだろう。
「何を怒ってるの?僕が何かした?」
「別に…」
ドラコはふいっと顔を逸らす。
やはり何か怒っている様に見える。
いや、怒っていると言うより拗ねていると言った方が正しいのだろうか…?
「あ、そういえば、ルシウスさんに会ったよ」
ぱっとドラコの顔がの方を向く。
「父上にか?!」
「うん。………相変わらずだったけど…」
は思わずあの時の事を思い出して顔を顰めてしまう。
口元を右手で覆って、どこか睨むような表情。
「何かされたのか?」
「別に、何も…」
「それが何もされていなかった、という表情か?」
「ん〜…、と言われても…」
とてもではないが人に言えるようなことではない。
は軽く息をついて気を取り直す。
少し笑みを浮かべて視線をドラコへと移す。
「とにかく、その時用事済ませちゃえば良かったんだけど…、忘れれてて…」
「用事?父上にか?」
「うん。渡すものがあるというか…、だから、休暇中ドラコの家に行くかもしれない」
「僕の家にか?」
「そう」
『イレイズ』を渡さなければならない。
が今後ルシウスに会うとしたら、休暇中しかないだろう。
流石に来年はそうそうホグワーツで会うこともないだろうから…。
「基本的に僕の家は純血主義で、マグル出身は良く思われないぞ」
「それは分かってるんだけど…。嫌なことは早く済ませたいからね」
苦笑して答えたはふと気付く。
今のドラコの言葉はを気遣ってくれたのだろうか?
ドラコの家が純血主義でマグル出身の魔法使いを嫌うのは検討がつくだろう。
しかもマグル出身を『穢れた血』と言わなかった。
「は父上が嫌いなのか?」
「は…?何でそうなるの?」
きょとんっとする。
「父上と会うのは「嫌なこと」なんだろう?ならば、父上のことは嫌いなんじゃないか?」
「あ、そういうことね。まぁ、嫌いというか…苦手なんだよね」
そう、苦手なのだ。
あの性格と…そして何を考えているのか分からない冷たい笑みが。
ルシウスの考え方や、やり方には迷いがなくて、その辺りは本当に凄いと思うのだが…。
その迷いのない隙のない行動がにとっては困る以外の何ものでもない。
「でも、珍しいな。が誰かを「苦手」だと思うなんてな」
「そう?」
「そうだろう。には他に「苦手」とか「嫌い」と思う相手はいないのか?僕はそんな噂も聞いたことないぞ?」
「う〜〜ん」
はしばし考える。
普段接する人達を思い出して、グリフィンドール生達に目を向けてみる。
ハリー、ロン、ハーマイオニー、ネビル、ジニー。
……それから。
「いや、いるけど…苦手な人達。あの人たちに関しては、ルシウスさんとは別の意味で苦手だけど…」
「生徒の中でか?」
「うん」
「誰だ?スリザリン生か?」
「ううん、グリフィンドール」
「グリフィンドール?!」
驚くドラコ。
けれど、ドラコもの答えを聞けば納得するに違いないとは思う。
「ウィーズリー先輩達。双子のね」
あの止まらない勢いと強引さは、けっこうキツいものがある。
秘密を抱えている身としては苦手なことこの上ない。
追求がかなり厳しいのだ。
「あら、。苦手なの?あの双子」
話が聞こえていたのか、飲み物のグラスのみをもって、シェリナが移動してくる。
にこりっとに笑みをむける。
「追いかけられれば、リロウズ先輩も分かりますよ」
『忍びの地図』を持った双子に追いかけられたら殆ど逃げ切れない。
の場合はいろいろ手段があるので逃げ切ることもできた時もあったが、それも半々である。
なによりも体力がもたいないことが多かった。
「ふぅ〜ん。……ですってよ。ウィーズリー双子?」
「え…?」
シェリナは面白そうな表情での後ろへと視線を移す。
が慌てて振り向けば、真後ろに双子の姿。
どうやら聞かれていたらしい。
「が気付かなかったなんて珍しいわね。てっきり気付いていると思っていたわ」
「2人が後ろにいるって知っているなら、教えてくれればいいじゃないですか、リロウズ先輩」
「は気付いて言っているのかと思ったもの」
実際、ドラコの怒鳴り声で周りの視線が2人に集中していたのだが、周りのざわめきが消えたわけではないので気付かなかった。
ざわめきは消えてはいなかったものの、近くの生徒達の殆どはとドラコの会話に聞き耳を立てていたのだった。
「って僕らの事そんな風に思ってたんだね」
「確かに僕らはしつこいかもしれないけど…」
「分かってるなら、自覚して二度と側に寄らなければいいじゃないの?」
シェリナは余裕があるかのように微笑む。
そこに突っ掛かったのはジョージだ。
「にファーストネームで呼ばれてもいない、スリザリンの女が偉そうに言うなよな」
「あら、ファーストネームで呼ばれてなくちゃ、の側にいてはいけないとでも言うのかしら?」
「ファーストネーム呼びでも、スリザリンのヤツが近づくなよな」
「寮だけで判断するなんて、器が随分と小さいのね?ウィーズリー双子片割れ?」
「何だって?!」
また始まった…。
は頭を抱えると同時に深いため息をついた。
スリザリン生に堂々と喧嘩を売るジョージもジョージだが、それを受けて立つシェリナもシェリナだ。
以前もシェリナとジョージで口喧嘩があったような気がする。
「」
「ん?」
口喧嘩中のシェリナとジョージを放り出してフレッドの方が話しかけてくる。
「ハリーに少し事情を聞いた。がファーストネームで呼ばない訳」
「聞いたんですか?」
「うん。ジョージとネビルだけが何で…?とかって思ったけど、そういう事情があるなら、僕は無理にに呼ばせるのはやめた方がいいと思ったよ」
「すみません」
真剣に話してくるフレッドには罪悪感を抱く。
ハリーに話した理由は全部嘘。
嘘をつくのはやっぱり心苦しいものだ。
「でも、クィディッチのチームと悪戯仲間への勧誘は諦めてないからね。」
「え…?」
にっと笑みを浮かべたフレッドは、ジョージの腕を引っ張る。
ジョージは一瞬驚く。
だが視線が合って、何か考えが通じたかのように二人は笑みを向けた。
「「リロウズ!」」
「何よ」
「「僕らはここに予告する!」」
「何を?」
双子は同時にシェリナを指差す。
人を指差してはいけません。
「「新学期一番の悪戯のターゲットは君だ!!」」
双子の言葉にグリフィンドールから何故か歓声が上がる。
は思わず顔を引きつらせた。
何を予告しているのやら…。
「楽しみにしてるわ」
シェリナは腕を組んで余裕すらにじませる。
スリザリンの生徒達はグリフィンドールを睨む。
はドラコを見る。
ドラコは他のスリザリン生と同様グリフィンドールの方を睨んでいた。
は思わず深いため息をつかずにはいられなかった。
大広間での祝賀会が終わるまでこのにらみ合いは続き、僅かにぴりぴりした空気のまま、時は過ぎていく。
グリフィンドールとスリザリンの溝が深まったことで、今年も無事に?終わったのだった。
なんでこうなるかな…?