秘密の部屋編 69
秘密の部屋には、ヴォル、、ハリー、そして気を失ったジニー。
ジニーはまだ目を覚ましてはいないものの、顔色が真っ青だったのが赤みを帯びてきたのにはほっとした。
ハリーがを見上げたので、はにこりっと笑みを向ける。
けれど、ハリーはから気まずそうに視線を逸らした。
それには少し心が痛む。
ばさっ
ハリーの目の前に何かが投げられる。
それを見れば、リドルの日記だった。
「それはお前の好きにすればいい。もう”リドル”はいないからただの日記と変わらないがな。それと…」
ぱらぱら…
僅かな揺れと、天井の破片が降ってくる。
ハリーが不安そうに周りを眺めるが、揺れはだんだんと酷くなるだけだ。
「ここはもうすぐ崩れる。そのガキを連れてとっとと脱出しろ。ウィーズリーと記憶障害者も一緒にな」
ヴォルはちらっとハリーに視線を向けただけで、すぐにへと視線を向ける。
に手を伸ばす。
「、大丈夫か?」
ふわりっと微笑むヴォル。
ハリーに対する態度とは全く正反対だ。
は苦笑しながら、ヴォルの手を握る。
「うん、大丈夫だよ、ヴォルさん」
今回のバジリスクの件。
殆どヴォルが片付けたと言ってもいいだろう。
ヴォルならば、見なかったことにしてしまえることもできたのに…。
「ところで、ヴォルさん。ここからの出口は一つだけ?」
「…?」
「この姿でウィーズリー君のところへと行くわけにはいかないでしょ?だからポッター君達と一緒に脱出することはできないしね」
「ああ、それなら大丈夫だ」
ヴォルはぐいっとの手をひっぱって自分の腕の中に抱きしめるような形にする。
片手だけでを抱きしめて、ハリーへと視線を移す。
突然ヴォルに引っ張られたは慌てていた。
「行かないのか?ポッター。フォークスが連れて行ってくれるようだぞ?俺はお前がどうなろうが関係ないがな」
そのまま、ヴォルはを連れて、出口とは反対の方向へと歩き出す。
ハリーはリドルの日記を見て、そしてヴォルを見る。
頭の中はまだ混乱している。
リドルとヴォル。
の姿。
の猫と同じ声のヴォル。
「、何で…!!」
ハリーは叫ぶ。
今はそんなことを言っている場合じゃないことは分かっている。
けれど、訳が分からないのだ。
の名前を呼んで、何を問いたいのかすらも分からない。
けれども…。
はハリーの呼び声に少し振り向く。
それはハリーの知るの姿ではないが…声は同じ。
「納得できる説明は出来ないけど…。話せるところまで…少しだけでいいなら後で話すよ。…ハリー」
悲しげな笑みを浮かべてはそう答えた。
ハリーはその言葉に驚きの表情を浮かべて…そして嬉しそうに微笑む。
「絶対だからね!!」
ハリーはそう叫んで、フォークスを呼んだ。
天井の近くで旋回していたフォークスは、ハリーの声にハリーの元へと下りてくる。
ハリーはジニーを抱え…抱き上げるほどの力はないらしい…フォークスがどこにそんな力があるのか…?とでも言うようにハリーとジニーを持ち上げる。
そのまま、ハリーとジニーはフォークスに連れられて崩れかけた部屋を出て行った。
秘密の部屋は崩れかけている。
小さな破片だけでなく、大きな破片も少し降ってくる。
「ヴォルさん、間に合う?」
つかつかと歩くヴォルと。
ヴォルはちらっとを見て……何を思いついたのか、ひょいっとを横抱きにする。
「うぁ?!ヴォ、ヴォルさん?!!ちょ、…別に自分で歩けるし走れる…!」
「この方が早いだろ」
の抗議の声を無視してヴォルはを抱きかかえて走り出す。
1人を抱きかかえたからと言ってヴォルの走るスピードは変わらない。
ヴォルはそのまま、走り出して小さな個室にへと入る。
先ほどの広い部屋から隠れるようにしてあった、暗い個室。
「ここ…何?」
「転移室だ。出口専用のな」
「転移室…?」
「入るときは誰もいないときにあそこから入ればいい。だが、出る時はあそこに誰かいるか確認が出来ない。だからこそ、外に出る専用の出口があるんだ」
「へぇ〜」
「ただ……この出口は『禁じられた森』のどこかへと出るだけで、場所は特定されていないからな…どこにでるかは分からない」
「へ…?」
ヴォルがなにやらパーセルタングを紡ぎだす。
どこに出るか分からないが…ここしか出口はないのだろう。
よほど危険な場所でなければ大丈夫だろう。
『導びけ……外界へと』
ヴォルのその言葉に、2人の姿はその場からふっと消えた。
と同時にタイミングよく崩れ落ちてくる天井。
ギリギリだったようだ。
秘密の部屋は崩れていく。
バジリスクの姿もなく、その部屋があったという痕跡もなく…。
全てを闇に葬り去るかのように……。
とヴォルが出たのはホグワーツ城から近い禁じられた森でも端っこの方だった。
外はすでに真っ暗で、月の明かりのみが唯一の光。
しんっと静かな森。
今までの秘密の部屋であったことが嘘のようだ。
「…ああ!!」
ふとが思い出したかのように大声を出す。
「どうした?」
ヴォルがを見る。
は困ったようにヴォルを見返す。
「ヴォルさん…『伝導の書』って持ってる?」
あれはダンブルドアから借りたものだ。
借りたものは返さなければならない。
たとえリドルに盗られてしまったものでも…。
「ああ、それならあるぞ」
「え?本当?!それ、やっぱりダンブルドアに返すから………その前にヴォルさん」
「何だ?」
「降ろして欲しいんだけど…」
『伝導の書』があると、ほっとしたがは自分の状態を思い出す。
ヴォルに抱き上げられたままの状態なのだ。
このままでは恥ずかしい。
「俺は別に構わないけどな」
「私は構うの!それに、ダンブルドアのところに行かないと!」
「俺も一緒に……は無理か。流石にこの姿でホグワーツ内を歩くのはまずいな」
生徒達が授業中ならば廊下を出歩くぐらいは構わない。
誰かが近づいてきてもすぐに猫の姿になればいいから…。
「今はこの姿でしばらく安定させないとまずいからな…、あっちの姿にはなるべくならない方がいいだろうし」
リドルと融合した状態で、しばらくなじむ為にこの姿を維持することが必要なようである。
はヴォルの胸を手で押して、すとんっとヴォルの腕から抜け出る。
このまま降ろしてもらうのを待っていたら、何時までたっても無理な気がしたからだ。
「待て、。その姿で行くつもりか?」
「え?あ……。」
指輪を外したは少女の姿だ。
最初から少女の姿でホグワーツに通っていればこの姿でもよかったのかもしれないが、それは過ぎてしまったことなので仕方がないだろう。
それに、少年でいるからこそ得られるものもある。
「少し魔力を込めておいた。それと、これも忘れるな」
ヴォルはの手に銀の指輪を握らせ、『伝導の書』を渡す。
には指輪の魔力は分からない。
最も、ホグワーツにいる生徒にも魔力を感じ取ることができる生徒などは殆どいないだろうが…。
「うん、ありがとう、ヴォルさん」
はヴォルに精一杯の笑みを浮かべた。
指輪を嵌め、小さく呟き力を使う。
姿は少年のものへと変わる。
『伝導の書』を持って、はダンブルドアがいるだろう校長室へと向かう。
ホグワーツにいないはずのダンブルドアだが、今はいるだろう。
秘密の部屋の騒動を起こした、今回の事件の最後を見届ける為…は走り出した。
そのの姿をヴォルは見つめる。
「俺も…お前を1人にしないからな……、」
ぽつりっと呟きながら…。