秘密の部屋編 67






迫り来るバジリスク。
何故か怖いとか、そういう気持ちはにはなかった。
ハリーを守らなければ…ただそれだけ。
だが、バジリスクをまっすぐ見つめるの視界を遮るものがあった。



がすっっ!!



「…ぐ…っ…!!!



大きな音。
骨が折れたかもしれないだろう。
だが、には痛みはなく、視界に広がるのは……黒いローブだけだった。


「リ…ドル……?」


呆然としたように呟く
目の前にはバジリスクの頭をその身で受け止めたリドルの背。
リドルがの前にでて、バジリスクの頭を抱えるように受け止めたのだ。
はリドルにゆっくりと手を伸ばす。

どうして…リドルが私を庇った…?

リドルはずるりっとバジリスクの頭から崩れるように倒れる。
は慌ててリドルを支えた。
しかし、成人男性並みの重さのあるリドルをが支えきれるはずもなく、リドルを床に倒さないように座り込むだけで精一杯だった。
だが…バジリスクは暴走を止めたわけではない。
はバジリスクと向き合う形になる。

これはマグル出身の魔法使い全てを憎み一掃する化け物。
それから……ドラコを石化させた!!


『馬鹿な主だな…。穢れた血を庇うなど……今度こそ貴様を…殺してやる!』


バジリスクがに突撃してくる。
はゆっくりと顔上げてすぅっと目を細めた。

『転移』


どぉぉぉんっ!!


バジリスクの突撃にのいた床が崩れる。
床の破片がハリー達の近くに散らばる。
リドルがハリー達から少し手前でバジリスクを受け止めた為に、バジリスクの攻撃はハリー達には当たらなかったようだ。


!!


叫んだのはハリー。
しかし、バジリスクは首を傾げるように起き上がりまわりを見回した。
バジリスクの突撃した床に人影はない。


『どこだ…?!!』


バジリスクは見えない目での姿を探す。


「何をしている、バジリスク…?貴様の相手は俺だ」


ヴォルが呪文もなく杖を振ると風が舞う。
風はバジリスクに小さな傷をいくつか負わせる。
といってもそれは大したダメージにはならないようだ。


とリドルはバジリスクから離れた場所へ移動していた。
ここならば目が見えないバジリスクはよほどの事がない限り気がつかないだろう。
何よりもヴォルは達が移動したことに気付いて、バジリスクの気を逸らしてくれている。
はぎゅっとリドルの体を抱きしめる。

回復はできない。
なぜなら彼を回復させることはできないからだ。
肉体を持たないリドルを回復させる方法はただ一つ、ジニーの命と引き換えにリドルを完全に復活させること。

「リドル……」
「……なんだい?」

ぱちっとは瞬きをする。
てっきりリドルは気を失っているかと思っていたが…。

「大丈夫…なわけないよね?」
「そうだね…。流石にこれはやばいね」
「…の割にはかなり余裕がありそうに見えるけど…」

はリドルをゆっくりと離し、リドルの顔を覗きこむ。
リドルは僅かに微笑んでいた。
ダメージは大きいはずなのだが、元々人でない為か、傷はできないし血もでない。

「これじゃあ、『契約』を使えないかもしれないね…」
「『契約』…?」

ヴォルとリドルのみが分かる『契約』。
バジリスクの主となったからこそあるものなのだろうが、にはさっぱり分からない。
ハリーが知らないところを見ると、リドルはハリーに話してはいないのだろう。

があのジニーって子の命を奪ってもいいって言うなら出来るけどね」
「それは駄目だよ、リドル」
「分かってるって、君ならそう言うと思ってた」

苦笑するリドル。
は首を傾げたい気分である。
何なのだろう…?
このリドルの親しげな感じは…。


『そこか…?!!』


「ちっ…!逃げろ!


匂いと気配で人を感じ取るバジリスクが、とリドルをずっと見逃してくれているわけでもなく…やはり見つかってしまう。
達は隠れているわけではないのだ。

「リドル」
?」
「移動するよ」

はリドルのローブをがしっと掴む。
バジリスクが迫ってくる。
十分に引き寄せて移動する。
バジリスクを倒す手段が今は思い浮かばない。

私の力でバジリスクの動きを封じることが出来ればいいけど…ピクシー数匹で僅かな時間しか持たなかったようじゃ、多分無理だ。

万能なようで、意外と使い勝手が悪いの力。
精神面が左右されることが多いのでもっと心を強く持たなければならないということなのだろう。

『転移!』

バジリスクが襲い掛かると同時にふっととリドルの姿が消える。


ずごぉぉん!


達がいた床がバジリスクによって破壊される。
このホグワーツで姿現しなどは不可能。
けれど、の力は魔法でない為関係ないのだ。
とリドルはヴォルのすぐ側にふっと移動した。

「ヴォルさん」

ヴォルはを見て、それからちらっとリドルに視線を移す。
リドルの様子に僅かに顔を顰める。

「その様子だと、『契約』を使うのは無理なようだな」
「そのようだよ…。自力で何とかしないとね……僕でなくて君がね」
「分かってる。もうすぐお前は消えるんだろう?」

リドルは笑みを浮かべるだけ。
は驚いてリドルを見る。

「消えるって…?」
「だって、あのジニーって子が死ぬのは、は嫌なんだよね?」
「そうだけど…もしかして、僕を庇ったせい?そのダメージで…?」
「そうかもしれないけど、どっちにしろ、あの子の生命エネルギーまで完全に取り込まない限り、僕はいずれは消えた身だからね」

リドルはが嫌だと言って、簡単に引き下がってくれるような人だったか?

「俺の所に来ることは出来ないのか?」
「出来るけど…『契約』までは引き継げないよ?『契約』を含む全てを引き継ぐつもりなら魔力が必要だね」

リドルはヴォルの言葉に驚かずに言う。
それはヴォルが未来の自分であると知っていたかのような…。
これだけ似ているのだから関係があると想像は簡単についていただろうが…。

「『契約』って何?バジリスクと契約をしたのなら、50年前のリドルで、日記のリドルでもなく、ヴォルさんでも大丈夫なんじゃないの…?」
「契約ってのは、バジリスクと交わした『契約』だ。主としもべとしてのな」
「内容は、バジリスクは『主の命に全て従う』、主である僕は『穢れた血の一掃』。最初に裏切って主である僕を攻撃してきたのはバジリスクの方だ」
「契約を破って相手に牙をむいた場合は、『契約』が使える。つまり正式な契約の名の元に相手に処罰を下せる時間が与えられるというわけだ」
「『契約』を使えば、バジリスクの動きは嫌でも止まらざるを得ない」

それでヴォルは動きを止めるために、リドルに『契約』を使えと言ったのだ。
バジリスクは決して動きが遅いわけではない。
突っ込んで床に頭をめり込ませてそこから抜け出す場合は少し時間を要するが、その間尻尾の方で攻撃をされたら…?

「『契約』の施行が俺じゃできないのは、一度50年前にバジリスクとの『契約』を双方同意の下で解除しているからだ」
「新たに契約をしたのは記憶である僕。だから、僕じゃないと駄目なんだよ」

けれど、リドルは消えようとしている。
動きを止めずにバジリスクをしとめることは難しい。


「魔力があれば……大丈夫なの?」


はリドルとヴォルを見る。

「そうだね、魔力があれば『バジリスク』との繋がりが消えることなく彼と融合できるはずだよ」
「俺が望むのは『バジリスク』との契約」
「僕が望むのはの側」
「一応利害は一致するな…」

どうしてリドルがの側を望むのだろう?
けれどもそんなことを考えている時間はない。
バジリスクは再び動き出した。


「魔力があればいいんだね」


は迷うことなく自分の右手にはめられた銀色の指輪を引き抜く。
の力で姿を変え、その姿を維持し続けるためにこの指輪の魔力を使っている。
魔法とは相反する力だが、魔力とて『力』であることには変わりはない。
魔力を維持し続ける力に変換しての姿は維持されている。
だからこそ、指輪を引き抜けば元の姿に戻ってしまう。


「これを使って。私が普段使っている魔力はそこまで大きなものじゃないから…、魔力はまだかなり残っているはずだよ」


はリドルに指輪を差し出す。
ふわりっと舞うのは肩よりも少し長い髪。
グリフィンドールの男子生徒の制服のまま、は少女の姿へと戻っている。

リドルは驚いた表情のまま、けれどもしっかりとその指輪を受け取った。