秘密の部屋編 66
に襲い掛かるバジリスク。
の側にはヴォルがいる。
ヴォルがの前に庇うように立ちふさがる。
杖を構え……。
「エクスペクトパトローナム!!」
呪文を唱えた。
は思いっきり驚く。
ヴォルがを庇ったことではなく、ヴォルが使った魔法にだ。
守護霊の呪文。
魔法としてはかなり高度なものに入るが…それは自分の幸せな気持ちを思い浮かべて使う魔法だったはずだ。
ヴォルのイメージには到底合わない魔法。
「うぁ…」
出てきたのは白銀の小さな猫だった。
その大きさにバジリスクに倒されるだろうと思っただったが、その小さな猫はバジリスクの体を吹っ飛ばした。
ずどぉぉん!!
吹っ飛んだバジリスクはハリーのすぐ側の壁に叩きつけられる。
吸魂鬼に有効といわれる守護霊の呪文はバジリスクにも有効のようだ。
それはヴォルが使っているからなのかは分からないが…。
「ポッター君、そこは危ないから…!」
「でも、ジニーが!」
ジニーを何とか動かそうとハリーはジニーを抱き上げる。
そうするとどうあっても行動速度が遅くなる。
はそんなハリーを手伝おうと駆けつける。
その行動はさすがのヴォルも止めなかった。
いや、止めるほど余裕がなかったのだろう。
再び動き出したバジリスクに注意を払わなければなからなかったから…。
「ちっ…流石にしぶといな…。おい、どうにかならないのか?目覚めさせたのはお前だろう?」
ヴォルはリドルに視線を向ける。
リドルは肩を竦めるだけ。
「弱らせることができれば命に従うことはあるかもしれないけど…。『伝導の書』で力を増幅した分、弱らせるのは厄介だね」
「契約を使うことはできないのか?」
「…契約…そうだね。『契約』を使えばもしかしたら動きは止められるかもしれないね」
「動きさえ止まれば無に帰すことくらい簡単だ」
妙な光景である。
リドルとヴォルが会話をしているというのは…。
元は同じ人間である。
しかし、同じ記憶を持つからこそこういう会話が成り立つのだろう。
『契約』が何なのか、にもハリーにもさっぱり分からない。
「ポッター君、とにかく移動を…」
「う…ん」
ジニーの右腕をの肩に回し、左腕をハリーが肩に回した。
しかし、ハリーは額に汗をかきはじめている。
かなりつらいのだろう。
「ポッター君、腕」
「え…?あ………大丈…夫」
ハリーは無理したように笑みを浮かべる。
しかし、顔色はかなり悪い。
「ポッター君、無理してる…?」
「本当に大丈夫だよ、」
どこが大丈夫なの…?
は泣きそうな表情になる。
きょろきょろ周りを見回してフォークスを探す。
いるはずなのだ。
不死鳥のフォークスが。
「あ……フォークス!!」
天井に近い場所に赤い鳥が飛んでいるのが見えた。
が名を呼んだからか、フォークスはこちらに近づいてくる。
フォークスはハリーの肩にとまり、ハリーの右腕に涙を流す。
涙はハリーの傷を癒していく。
がフォークスを呼んだことで、フォークスはが何を望んでいるか分かったのか。
「不死鳥の涙には癒しがあるんだよ、ポッター君」
ハリーの顔色が少し良くなってくる。
体内に回った毒まで解毒されたのだろうか…?
はハリーに笑みを見せる。
「じゃあ、早くここから離れよう!」
「うん、そうだ……!後ろ!!」
ハリーが驚いたように後ろを指で指す。
はっとが振り返ればすぐそこにバジリスクの姿。
に向かって顔を突っ込んでくる。
『壁よ!!』
とっさには叫んだ。
力を込めて。
今の状態では、ハリーとジニーも巻き込んでしまうかもしれなかったから。
がつ…
何か見えない壁でもあるかのように、バジリスクの突撃はの少し手前で弾かれる。
それでも諦めないバジリスクは何度も何度も突進してくる。
とっさに作った『壁』だが、そう長くは持たないだろう。
イメージを固めてから作り出した壁ならともかく…。
がっがっがっ!
『壁』を壊そうとバジリスクは諦めずに体当たりをしてくる。
後ろでヴォルが魔法を使おうとすれば、それに気付いたのか尻尾を振り回してヴォルに攻撃。
「ヴォルさん?!!」
ヴォルはその攻撃を飛んで避ける。
「俺の事は心配するな!!…リドル!『契約』はまだか?!」
「煩いな!やってるよ!」
リドルは何かぶつぶつつぶやいている。
それに気付いたのかバジリスクが今度は尻尾でリドルを攻撃。
頭の方はが作った『壁』を壊すことをやめない。
「『契約』って何なんだろ…?」
「さあ…?」
ハリーの疑問には首を傾げるだけ。
そもそも今はそんな疑問に答えている余裕はない。
この『壁』はが気を抜けば間違いなくすぐに壊れる。
なんか、私っていつも行き当たりばったりに力を使ってる気がする。
もっと使い方に慣れておけばこんなことにはならなかったのかも…。
力があると過信していたのかもしれない。
ヴォルが魔法を使おうとすればそちらへ攻撃が行き、リドルが何かしようとすればそちらに攻撃が行く。
2人が舌打ちするのが分かった。
「ちっ…!うざったいな……。アバダ・ケダブラ!!」
カッ!!
緑色の閃光がバジリスクに向かう。
防ぐことが出来ないはずの禁じられた呪文。
ハリーはその光に驚き、顔色を変えるが…
ばちぃんっ!!
光は弾かれた。
「ちっ…駄目か…」
ヴォルは特に驚いた様子もなく、バジリスクの攻撃を避ける。
予想をしていたのだろうか…。
「やっぱり、その呪文も駄目なんだね…。『イレイズ』の効果も取り入れられるように増幅させたから…」
「今となってはその増幅も余計なことでしかないがな」
「全く…、君の言う通りだっていうのがさらに腹が立つね!」
『イレイズ』の効果とは魔法が効かない効果。
全く効かないというのは無理だろうが、魔法の効果を薄くすることならできたのだろう。
あの巨体に効果の弱まった魔法は通じない。
『古の魔物、バジリスクよ!我が名はトム=M=リドル。サラザール=スリザリンの意思を継ぎし者である!』
ばしゃぁぁぁん!!
水しぶきが上がる。
リドルのいた近くに水が溜まっていたようで、バジリスクの攻撃がそこに命中したのだ。
リドルかかるはずの水はヴォルの魔法で防がれる。
本当に奇妙な光景だ。
ヴォルとリドルが協力している光景というのは…。
『契約は言葉によるものである!契約を違えたものはサラザールの名の元に…!』
ぴしっ……
リドルの言葉を遮るかのように何かがひび割れるような音。
「!!」
ヴォルが叫び、の元に駆けつけようとする。
それをバジリスクの尻尾が邪魔する。
ヴォルは魔法を使うがバジリスクはしつこい。
は目の前の『壁』を見る。
目に見え壁がひび割れてきている。
恐らく、もうすぐ壊れる。
「…?」
心配そうな表情のハリー。
はハリーに優しく微笑んで、ハリーとジニーを庇うように両手を広げて立つ。
集中が途切れるのでもう一度力が使えないのはがやはり未熟だからか…。
ぴしぴし……
壊れそうな『壁』
ヴォルはバジリスクの執拗な攻撃のせいで近づけない。
を守れない。
ぱきぃん!!!
『壁』が割れた。
迫り来るバジリスクに、はハリー達の盾となる覚悟を決めた。
そして…一番鮮明に聞こえたのは…
「!!」
何故かリドルの自分の名を呼ぶ声だった。