秘密の部屋編 65






ぴちゃん…

が足を踏み出せば床が濡れているのか水音がする。
その音にはっとなったのはハリーとリドル。


「僕は来たよ、リドル」


は静かにリドルを見る。
リドルはを驚いたように見たが…ふっと笑みを浮かべる。
そして懐から取り出したのは一冊の本。

「これを取り返しに…かい?」

リドルが持つのは『伝導の書』
魔力を持つものに、その相手の魔力に相応しい知識を与えてくれる。
リドルはそれを使ったのだろうか…?

「え……?」

ハリーはの姿を目に留めて驚く。
右腕からは血が流れ…恐らくバジリスクの牙が刺さったのだろう。
はリドルに視線を向けたまま近づいていく。
だが、それをとめる様に後ろから腕を引っ張られる。

「それで、に何のようだ?トム=リドル?」

の隣に立ち、リドルを睨むヴォル。
ヴォルの姿に驚いたのはハリーだ。
思いっきり目を開き、ヴォルとリドルを交互に見る。

え?え?!何で…?リドルが…2人?!!」

ハリーが驚くのは無理ないだろう。
スリザリンの継承者が、後のヴォルデモートにあたるトム=リドルであり、さらに彼は記憶に過ぎなく、ジニーを操っていた。
それに加えて同じ姿のヴォルまで現れたのだ。

「何の用…?それは決まってるよ」

カツカツと足音を立ててリドルの方からに近づいてくる。
ハリーはバジリスクの毒が体中にまわっているだろうが、ふと床に転がっているリドルの日記に目をやる。
手にはバジリスクの毒の牙。
リドルがに近づいていくのを見て、が危ないと思った。
だって彼は…ヴォルデモートなのだから!!

に…近づくな!」

ハリーは苦しそうに叫びながらも、リドルの日記に毒の牙を振り上げる。
この日記が彼の依代ならば…これを毒の牙で刺せば…!!
リドルは慌てず笑みを浮かべた。


ばちっ!!


うわっ!!


振り下げた毒の牙は何かにはじかれる。
同時にハリーの体も衝撃で飛ばされる。

ポッター君?!!

駆けつけようとしたの腕をヴォルは離さない。
ちらりっとリドルがハリーに視線を移すして歩みを止める。

「本当に邪魔だね…ハリー=ポッター…。僕が自分の依代をそのままにしておくと思った?」

ハリーは息を弾ませながらリドルをギリっと睨む。

「ねぇ、

リドルがを見る。
何かを探るように探すかのように…。

「君にまた会いたいと…僕は思っていたんだ。あの子には悪いけど…僕は存在していたいから…」

ちらっとリドルがジニーに視線を向けた。
は少し混乱する。
リドルには確かに何度か対面した。
けれど、長く話をしたわけでもなく…。

「君が本当になら、もう一度……」

リドルがに手を伸ばす。
だが、それには大きく目を開いた。
リドルの行動にではない。
その後ろに見えたものに…だ。


ポッター君!逃げて!!


が叫ぶ。
ハリーは「え?」となり、ゆっくりと後ろを振り返る。
大きな影がハリーへとかかる。
の声にリドルも振り向く。

そこには、頭を貫かれて死んだはずのバジリスクがいた。
瞳は血に染まり開かれていない。
血も滴るように流れている。
それなのに、その巨大な体は間違いなく起き上がっていた。


がつっ!!


バジリスクがハリーのいた場所に頭を突っ込む。
ハリーはなんとか転がってその攻撃を避ける。
の叫びがなかったら知らずに潰されていたかもしれない。
バジリスクはハリーを狙ってやったわけではないようだ。
まるで物も人も関係なく、暴走するかのように暴れている。
ハリーは気を失ったままのジニーを引きずり、なるべく隅による。

『何をやってる!バジリスク!無駄に暴れるな!』

リドルが恐らく「パーセルタング」だろう言葉でバジリスクに叫ぶ。
これはリドルが分かっていたことではないのか…?

『僕の命令が聞けないのか!』
『我が主はサラザールのみだ!!』
『何を…?!』


には何を言ってるのか分からなかった。
リドルとバジリスクが何か会話をしているらしい、ということしか。

『僕が君に力を与えんだぞ!僕に従え!』
『穢れた血が混じる相手に従う義務はない!!』


びくっと反応したのはリドルとヴォル。
リドルは信じられないかのようにバジリスクを見る。
一体何が…?
にはさっぱりわからない。


『高貴なるサラザールの血を穢れた血と混ぜるなど…そんな物は不要でしかない!!』


シャーとバジリスクはリドルに襲い掛かろうとする。

え…?

驚いたのはパーセルタングが分からないだけ。
リドルもヴォルもハリーも、この場で意識があってパーセルマウスでないのはだけだ。


がづっっ!!!


リドルは持ち前の運動神経で避ける。
顔を歪めながら杖を構えた。
それが誰の杖なのかは分からないが…。

インペリオ!!…従え、バジリスク!」

リドルは禁じられた呪文を使う。
しかし、バジリスクには全く効果はないようで、バジリスクはリドルを狙う。
舌打ちをしながらリドルはその攻撃を避ける。

「なんで、バジリスクがリドルを攻撃してるの…?」

呆然とそれを見る
リドルはバジリスクの主人ではなかったのか…?

「大方、『伝導の書』で余計なことでもしたんだろ。穢れた血が混じっているやつには従いたくないんだとさ」

吐き捨てるようなヴォルの言葉。
『伝導の書』は持つものの望む知識を与える。
持ち主がそれ相応の魔力を持っていれば…。
リドルは『伝導の書』に何を望んだのか…。

『何故!何故!継承者に相応しきものが、穢れた血に惑わされる?!!』
『何を言っている…バジリスク…?』


リドルがバジリスクを見る。
バジリスクは目が見えないのだろうが、リドルの方を見、そしてハリー、それからヴォルを見る。

『汝は主に相応しかった!だが…汝が我に命じたのは何か?!』
『この本を使っての君の力の増幅…だよ』
『それだけではないだろう?!汝の知恵のお陰で我は確かに以前よりも力を得た!だが、それ故見えるようになったこともある!』


静かに見詰め合うリドルとバジリスク。
ハリーは辛そうな表情でそれを聞き、ヴォルは隙を見せずに言葉に耳を傾ける。
はリドルを見て、ヴォルを見て、ハリーを見て首を傾げるだけである。

パーセルタングで会話しないで欲しいんだけど…。
全然事情が分からない。

『たとえ穢れた血が混じっていようとも…!志が同じならば主として認めるつもりだった!だが…だが!!汝は我に命じた!あれには手を出すなと!

バジリスクがの方を見る。
はきょとんっとする。

『穢れた血にそそのかされ、何を躊躇う?!何故、全てを一掃しようとしない?!』
だけは例外だからだよ、は他の穢れた血とは違うんだ』


ハリーとヴォルは同時に驚く。
と当時にヴォルにはなんとなく予想はついていたようだ。

『継承者に相応しき我の言葉を理解できる者が…穢れた血に誑かされる!汝は主ではありえない!我の望みは穢れた血の一掃!そして、汝のような穢れた血に誑かされた者の消去!ここにいる魔法使いの血族を含めて全て!!汝も所詮は穢れた血が流れる者!穢れた血と同様に過ぎない!』

警戒がリドル…そしてハリーにも広がる。
バジリスクは殺気を纏う。

…だから、何を言っているのか分からないんだってば…。

リドル達が警戒を抱いたのは分かるが、どうしてそうなったのかがには分からない。
代行者の力で特殊能力をカバーすることはできないようだ。
パーセルマウスは特殊なのだから…。


『まずは、最も目障りな………貴様からだ!


バジリスクが向かったのはの方。


!!
!!


リドルとハリーの叫びが重なる。
その時、はやっと気付いた。
リドルがを呼ぶ名前の発音がハリーとは違うことに…。

リドルはいつからの名を正しく呼ぶようになった…?