秘密の部屋編 64
は走ってマートルのいるトイレに向かった。
ロックハートのところに寄っていくだろうハリー達に走っていけば追いつけるだろうからだ。
息が弾む。
目的の場所はそうそう遠い場所じゃない。
しかし、ハリー達には会わずにそこについてしまう。
「…すれ違ったかな?それとも早く来すぎたかな…?」
「いや、少し遅かったようだな」
かつっと踏み出した足音を立てての隣に立つのはヴォル。
人の姿である。
も猫の姿に戻れとは言わない。
17-8歳の少年の姿、スリザリンのホグワーツの制服でなく全身黒一色の服装。
ローブも真っ黒である。
「…みたい…だね」
とヴォルの前にはぽっかりと中心に大きな穴となった水道。
本来の鏡台は6つに割れてそこに大きな穴がある。
この状態を見るのはは2度目だ。
「…でも、これって自動に閉まらないんだね。こんな状態でよく今まで見つからなかったね」
「そんなわけないだろ。そこまで抜けてないさ、アイツも…。開くと同時に中から閉めることも出来なきゃすぐにばれるだろ?ここを開いたヤツ…ポッターが閉めていかなかっただけだ」
「なるほど」
いくら人が殆ど来ないと言っても、こんな状態ではすぐに見つかってしまう。
開いてすぐに閉じれば目撃される心配もなく、誰もここが入り口だとは気付かない。
ハリー達は開くことだけを考えていたのでここが開きっぱなしなのだろう。
「行くか?」
「うん」
先にヴォルが穴に飛び込む。
続いてが穴に飛び込んだ。
飛び込む際、トイレのドアの影からマートルが覗いていたのが見えた。
どうして話しかけなかったのかは分からない。
前の事で少し怯えさせちゃったかな…?
前の事とは、ハーマイオニーを医務室に連れて行く際、ハリーへの伝言を強制的にお願いしたことである。
あれは力を使って伝言させたのから…未知なる力は恐怖を呼ぶのだから…。
滑り台をすべるかのように下へと下っていく。
どこまで下りるのだろう…?
がそう思っていると出口が見えてきた。
ぺいっと吐き出されるように出た場所は上から。
「ぅえ?!」
着地の態勢をとろうにも突然の事では慌てる。
特に落ちても落ちたときの姿勢が悪くなければ打撲だけで済みそうな高さである。
どさっ
衝撃を覚悟してが目をつむっていれば、思っていた衝撃は来ない。
ゆっくりと目を開けてみれば、随分と近くにヴォルの呆れたような顔。
衝撃が来なかったのは、ヴォルが受け止めてくれたからだ。
ヴォルはゆっくりとを降ろす。
「あ、ありがと、ヴォルさん…」
「別に構わないが…こんなところで怪我してどうする?」
「う…。」
まだまだバジリスクの影も見えないところで傷など追って体力を消耗してしまっては困る。
ヴォルは深くため息をつく。
「ほら、行くぞ」
「あ、うん。…あ、そうだ、ヴォルさん」
「何だ?」
は何かに気付いて自分の懐から杖を出し、それをヴォルに差し出す。
この杖は自分が持っていても仕方がない。
購入する際、ヴォルの杖として選んだもの。
「杖、あった方がいいでしょ?」
「ああ…」
ヴォルは杖を受け取る。
ヴォルほどの魔法使いならば杖がなくとも魔法は使えるらしい。
その点の原理がどうなっているのかにはさっぱり分からないが、ダンブルドアもヴォルも杖なしで魔法を使える。
ヴォル曰く、杖は魔力を制御する為と魔法を使う為の補助的な意味合いがあるとのこと。
慣れと経験で、杖なしでも魔法を使うことも可能らしい。
魔法を全く使えないにはさっぱり分からないことだが…。
ぴちゃん…
水滴が落ちる音。
パイプを繋いだ入り口と、そして元は地下水路だったのか随分湿っている。
歩く場所も湿っていて、たまに足を踏み出すと同時にぴちゃりっと水の跳ねる音。
「貴方が私を助けてくれたのですか〜?」
進む先から声がする。
この声は…。
ヴォルは歩みを止めてを止める。
「ロックハートとウィーズリーか…」
ヴォルが呟く。
2人の姿はまだ見えない。
ヴォルは気配か何かで分かったのだろうか…。
にちらりっと視線を移してくる。
は軽く首を横に振った。
「ここにロンとロックハート先生だけってことは、この先は進めないよ。多分、ハリーだけが先に行ったんだと思う」
ロックハートを引き連れて秘密の部屋の入り口に入ったハリーとロン。
バジリスクの抜け殻を見つけて、そこで油断したのかロックハートにロンの杖を取られてしまう。
しかしロンの杖はまだ折れたままのものを修復していないので、ロックハートが使った忘却魔法が逆噴射。
ロックハートは自分の事も全て忘れ、魔法の逆噴射でロックハートが飛ばされた衝撃からか、周りが崩れてきて、ハリーとロンは分断。
は小さな声でヴォルにそう話した。
「そういう出来事が起きたって証明はできないけど、多分そんな理由でロンとロックハート先生しかいないんだと思う」
「なるほどな…」
ヴォルはの手を引っ張り、ロン達がいる方向とは別の方へと歩き出す。
なるべく音を立てないようにゆっくりと。
「別の道を行くぞ」
「道、分かるの…?」
「誰に言ってるつもりだ?ルートはいくつかある。さっきの道が一番の近道だったがな…」
初めてここに入ったハリー達やとは違う。
ヴォルは学生時代”リドル”だった頃、ここにはよく出入りしていたからだろう。
今学期になってからも一度入り口を開いて入ったこともある。
「ねぇ、ヴォルさん」
「何だ…?」
黙って歩いているのもつまらないと思っては話しかける。
ロン達がいた場所からは離れたので、多少大きな声でももう聞こえないだろう。
「サラザール=スリザリンは、どうして秘密の部屋の入口を女子トイレになんかしたのかな?もしかしてサラザールって女の人だったの…?」
創立者が偉大なる魔法使いだったことは伝えられている。
性別までは、は詳しく知らない。
本に書かれていることまでしか知らないのだ。
「いや、サラザールは男だったはずだ。…入口に関しては……まぁ、噂でだが聞いたことはあるが…」
ヴォルが顔を顰めたのが見えた。
そんなに変な理由なのだろうか…?
「当初、あそこは別の部屋だったらしい」
「それって、途中で模様替えとかされて女子トイレになったってこと?」
「いや、途中ではなくて……」
不機嫌そうにヴォルは眉を寄せる。
そんなに言いたくないことなのだろうか…?
は首を傾げる。
「ゴドリックに女子トイレに改装されたらしい……」
むっとした表情のままヴォルは答えた。
「へ…?」
最初は普通の部屋だったのか、別の部屋だったのか分からないが…とにかくサラザールは女子トイレを選んで秘密の部屋の入り口にしたわけではなさそうだ。
だが…ゴドリックが改装…?
「ゴドリック=グリフィンドールが面白がって改装して…そこが部屋の入口と知っていたのか知らなかったのかは分からないが…、そのまま変更されずに今に至るという噂があってな…」
ゴドリックはよほど悪戯好きだったのか…。
しかし、規模のでかい悪戯好きである。
知っていてやったならばかなりタチが悪い。
確かに見つかりにくい入口だろうが…、スリザリンの継承者が男だったらどうするんだろうか…。
いや、すでにその継承者はリドルであり、男なのだが…。
ゴドリックの場合はそういうのも含めて面白そうだという理由で、そんなことをしたのかもしれない…とヴォルは語る。
「いや、なんか…、なんとも言えないんだけど…」
「だが、所詮は噂だからな。真に受けてないやつもいたもんさ」
でしょうね。
そんなふざけた理由。
実際の噂では、秘密の部屋の入り口がどこかなど伝えられていないわけで…。
噂では「スリザリンの秘密の部屋はゴドリックに変な部屋へと改装されたらしい」とのことである。
そうこう雑談しているうちに、丸い形の蛇が絡まったような扉のようなものが現れる。
ここが入り口のようだ。
しかしその扉も少し開いている。
ヴォルが手でその扉を完全に開く。
ばっしゃぁぁぁん!!!
と同時に派手な水しぶきの音が飛び込んでくる。
まるで何か大きなものが水の中に倒れこんだような音だ。
ヴォルとは顔を見合わせて急いで音の方へと向かった。
趣味の悪い祭壇のような場所。
じめじめして暗い。
1000年も経ったからなのか、それとも元々がそういう場所なのか…。
元々がこういう場所ならばサラザールの趣味はあまりよくないだろう。
駆けつけたとヴォルが目にしたのは…
右腕を押さえているハリーと、倒れたままのジニー。
そして悠然とハリーを見下ろしているリドルと、水の中に浮かぶように倒れているバジリスクだった。