秘密の部屋編 63
マンドレイクの収穫時期がやってきた。
先生方はほっとした表情を見せている。
それはそうだろう。
これで、石化した生徒達に聞けば犯人が分かるかもしれないのだから…。
「そろそろ…かな?」
は寮の部屋でぽつりっと呟く。
部屋には誰もいない。
ハリーもロンもネビルも談話室だ。
バタバタバタ……バタンっ!!
「「!!」」
顔色を変えて部屋に戻ってきたのはハリーとロン。
息を切らしている。
ハリーの手には何かが握り締められている。
「どうしたの?何かあった…?」
はにこっと笑みを見せて聞く。
「どうしたの?じゃないよ!ジニーが浚われたんだ!」
「スリザリンの継承者に!秘密の部屋に!!」
先の言葉がハリー、その後にロン。
2人とも随分と慌てているようだ。
ロンだって、まさか自分の妹が浚われるとは思っていなかっただろう。
「でも、助けにいくつもりなんでしょう?」
「勿論だよ!僕の妹だよ?!」
「でも、分からないんだよ!秘密の部屋がどこにあるのかが!」
ぎゅっとハリーは手に持っていた羊皮紙を握り締める。
恐らくそれはハーマイオニーがバジリスクに襲われる前に握り締めていた本の1ページ。
「ハーマイオニー達を襲ったのが何なのかは分かったんだ。ハーマイオニーが教えてくれた」
そう言ってハリーは握り締めていた羊皮紙をに差し出す。
がそれを開いてみてみれば、そこに記述されているのはバジリスクについてのもの。
下の方に「パイプ」と書いてあるのはハーマイオニーが書いたものだ。
「バジリスクの視線は相手を殺すものだけど…、ハーマイオニーとマルフォイのヤツは鏡で見たから、ジャスティンはニックを通して見た、コリンはカメラ…。でも、ミセス・ノリスだけは分からない」
ハリーは首を横に振る。
「それ以外のこと。例えば誰かが襲われた直後に沢山の蜘蛛が見えたのは、蜘蛛は蛇が嫌いだから…。あてはまることは多いのに…」
ミセス・ノリスの事だけが解けない。
本来ならばあの時は水が漏れていて、その水に映ったバジリスクの姿を見たから、ミセス・ノリスは石化したということのはずだった。
「ポッター君、その謎は解けるよ。あの時、ミセス・ノリスの側に『イレイズ』の欠片が転がっていたからね。それを解して見たか、それによって威力が落とされたか…だと思うよ」
「『イレイズ』…?」
「魔力を無効化する鏡みたいなものだよ、ハリー。かなり高価なものなんだけど…」
ハリーの疑問に答えたのはロン。
ロンの言葉には頷く。
「でも…秘密の部屋がどこなのかが分からない…!!ねぇ、はどう思う?」
ハリーとロンが期待するように見る。
「と言われてもね…。僕はポッター君たちほど事情は知らないし…」
他の一般生徒よりかは確かに詳しい。
なにより何度も発見者となっているのだから…。
は考える。
ここでハリー達には動いてもらわないと困る。
「ヒントは沢山あると思うよ。化け物はバジリスクという蛇、この羊皮紙には「パイプ」と書いてある、それはどういう意味?」
「バジリスクはパイプを通って移動していたからだよ」
「そうだね。構内のパイプは大抵水道かトイレには繋がっているのは分かるよね?」
こくりっと同時に頷くハリーとロン。
「過去に秘密の部屋が開かれた時…犠牲者は出た?」
ヒントはパイプはトイレに繋がること。
過去の犠牲者は一体誰?
ロンは首を傾げるが、ハリーは少し考える表情になる。
「アラゴグは犠牲者はトイレで見つかったって言ってた…」
「50年前の犠牲者ってやっぱりマートル?」
ハリーが呟き、ロンが問う。
はそう聞かれても肯定はできない。
そうであるとは分かっているが…。
「でも、ハリーとも何度も考えたけれども、あのトイレに何があるって言うんだよ」
「トイレとパイプは繋がっているんだよ?ウィーズリー君」
ハリーがはっとなる。
ロンも何かに気付いたようにハリーを見る。
「「トイレが入り口?!!」」
声を合わせて叫ぶ。
正解。
は心の中で笑みを浮かべる。
最も、表情には出せないけれども…。
「でも、どうやって…なんであそこが入り口になるんだ…?壁を掘ってパイプの中にでも潜り込めっていうのか…?」
「違うよ、ロン。「スリザリンの継承者」って言うくらいだよ、だから…キーワードは「パーセルタング」だ」
「そうか…。そういえば…あそこの水道の蛇口には蛇のシンボルがあったよ」
「きっと、そこだよ。「パーセルタング」が合言葉みたいになっているんだよ、きっと」
ハリーとロンが頷きあう。
そう考えれば全て辻褄が合う。
トイレが入り口であり、キーワードはサラザール=スリザリンと同じ「パーセルマウス」であること。
「パーセルマウス」でなければ扉は開かない。
「行こう!」
ばっとハリーは立ち上がる。
「行くって言っても、僕たちだけで学校内をうろうろすることなんてできないよ?ハリー」
「ロックハートが秘密の部屋に行くとかって言っていたから、一緒に行けばいい!」
自信過剰のロックハート。
彼ならば、自分が助け出すからご心配なくと言い張っていただろう。
だが、急がなければ…ロックハートはホグワーツを逃げ出すつもりなのだから…。
「急いだ方がいいんじゃないかな?」
は一応そう言ってみる。
「そうだね、行こう!ロン、!」
「へ…?」
なんで私も…?
が自分は行かないと言う前にハリーに引っ張られる。
引きずられるような形で部屋を出て行くことになりそうだ。
「ちょ…ちょっと待って、ポッター君。僕は駄目だよ、ウィーズリー先輩方の監視もあるし…」
「じゃあ、はジニーが心配じゃないの?!助けたいって思わないの?!」
「そりゃ思うけど…。見つかったら困るのはポッター君達だよ?」
「忍びの地図」を持っている。
の居場所などすぐにわかってしまうのだ。
「「その通り!!僕らから逃げられるはずないのさ!!」」
ハリー達を遮るかのように部屋の扉の前に双子の姿。
流石に突然の登場でぎょっとするハリーと。
ロンは慣れたものなのか少し驚いただけだ。
「やっぱり来ましたか…」
はぁ〜とは大きなため息をつく。
本当に最近はしつこいものだ。
ダンブルドアがこの双子を監視役に選んだのは正しい選択だろう…。
だが、にしてみればやっかいなだけだ。
「ポッター君とウィーズリー君は行っていいよ」
「え…でも…」
「いいから、いいから。こんなところで時間をかけてる場合じゃないでしょ?行けそうだったら僕も行くよ」
ひらひらっとはハリーに手を振る。
ハリーとロンはを少し気にしながら、走っていった。
双子は2人の事を少し気にしていたがその場を動かない。
「ロンとハリー、どこにいくつもりなんだ?」
「今の時間、寮の外に出ちゃ駄目だと言われているはずだけどな」
それをわかっていながら注意もなにもしないのはこの2人が決まりを守らないことが多いからなのだろう。
こういう時こそ寮の外を出歩くのが面白い!という考えの人なのだ。
秘密の部屋が開かれて、危険だと言われているのにも関わらず。
「「は行かなくていいのかい?」」
声と顔を揃えて問う、ジョージとフレッド。
「残念ながら…、先輩方についてこられると困るので…ここで待機になりそうです」
だから、2人の後を追ったりしないで下さいね。
危険なので。
は言外にそう言う。
「行ってきなよ、」
「あの2人だけじゃ心配だ」
ジョージとフレッドは優しげな笑みを浮かべてを見る。
追うかは驚いたように2人を見た。
「何をするつもりなのは分からないけど…」
「は2人を守ってくれるんだろ?」
「けど、ロンは大切な弟だ」
「ハリーは大切なクィディッチメンバーの仲間だ」
「に危険な場所に行ってくれって言うようなものかもしれない」
「けれど、僕らは思うんだ」
「「きっと、なら大丈夫だって!!」」
ジョージはの右手を、フレッドはの左手を持ち上げて、自分の手を合わせてハイタッチ。
ぱんっと手のひらが合わさる。
「ジョージ先輩?ウィーズリー先輩…?」
そのまま手を握られる。
だが、2人の表情は楽しそうな笑みを浮かべている。
は驚いたように2人を見る。
「必要ならどんな手段を使っても」
「僕らがダンブルドアを連れてくるよ」
ニヤリっと悪戯を思いついたかのような笑み。
ホグワーツで最も頼りになる現校長ダンブルドア。
そのダンブルドアは今はホグワーツにいない。
そのダンブルドアをどうやって連れてくるというのか…。
「そうですね…。じゃあ、できればダンブルドアに連絡をお願いします」
は苦笑して答えた。
この双子ならば、それくらいやってしまいそうな気がしたのだ。
「その代わり、ポッター君とウィーズリー君は必ず無事に帰します」
強い意志の瞳では2人を見る。
どんなことがあっても、ハリーとロンは守る。
ジョージとフレッドは満足そうに頷いて、手を離しての肩を軽く叩く。
「「頼むよ、!!」」
は頷き駆け出す。
ちらりっと後ろを振り返れば、双子はもう別方向へと走り出していた。
さっそく行動を開始するのだろう。
にはのできることをするだけだ。
と、足元をと一緒に走る黒猫のヴォルは秘密の部屋の入り口を目指す。
何も言わずともついてきてくれるヴォルの姿には安心と嬉しさを感じながら…。