秘密の部屋編 62






とりあえず避難所は今日はセブルスの部屋である。
セブルスには睨まれているが、強引に居座れば追い出すことはしないセブルス。
こういうところが優しい。

「教授は何をやっているんですか?」
「テスト問題の作成だ」

に背を向けて机でカリカリ羽ペンを動かしている。
そういえばテストが近いな…と思い出す。

見るなよ。
見ませんよ。

ジロリっと睨んでくるセブルス。
は苦笑するだけである。
別にホグワーツをいい成績で卒業したからといってに何があるわけではない。
進級できる程度の成績で十分なのだ。
最も、魔法薬学は結構面白いが…。

「実力で満点を取ってみませますよ、教授」

点数を稼げるのは筆記テストの教科のみ。
実技系教科に関しては、はあの『力』を使って最低限のことをしてみせるだけである。

「ほぉ…、すごい自信だな、。それならば期待していようか」
「グリフィンドールだけ難しい問題とかに摩り替えないで下さいね」
そんなことはしない!

やっぱり、教授と話しているのは楽しいな。
あの双子と話すと疲れるだけだけど。
教授って実は癒し…?

そんなことを思うのはだけだろう。
いや、その昔、セブルスが学生時代の頃はそんな考えの人もいたかもしれないが…。


かたん…


セブルスが羽ペンを置く。
ふぅ…と息をついての方を向いた。

「それで、。まさかウィーズリーから逃げるためだけに我輩のところに来たわけではないだろうな…」

集中できないのか、それともひと段落ついたのか、セブルスはテスト作成を中断したようだ。
はにこっと笑みを見せる。
確かにあの双子から逃げる為にここが一番いいだろうとは思っている。

「でもですね、教授。ウィーズリー先輩方はほんとしつこいんですよ。いくらマクゴナガル先生から言われたといっても…。それにドラコのことをファーストネームで呼ぶのを何故かってしつこく言ってくるし…」

がドラコを”ドラコ”と呼ぶのがかなり気に入らないらしい。
監視役云々を抜きにしても、かなりしつこい。
逃げたくもなる。

「自業自得だろう」
「あ、教授。それって酷いですよ。しょうがないじゃないですか…、まさかあの”マルフォイ君”が知ってるなんて思わなかったんですよ…」
「何がだ?」

セブルスはがよほどの理由がない限り相手をファーストネームで呼ばないことを知っている。
どうしてか、という理由までは分からないが、それでも何か理由があるのだろうと思っている。

「ちょっと賭けみたいなことをしたんですよ。ドラコが知っているとは思わなかったから、できないだろうと思って」
「ならば、やはり自業自得だろう?」
「そうなんですけどね……」

は困ったような表情をする。
本当はマルフォイ家の人間に関わるつもりはなかったのだ。
いや、マルフォイ家だけではない、ヴォルデモートに仕えるだろう純血一族にはあまり関わるべきではないと思っていた。

「ドラコはもっと嫌な子かと思っていたんですけどね」

ハーマイオニーには平気で『穢れた血』と言う、ハリーに対しての馬鹿にした口調は変わらない。

「でも、なんか普通に可愛いし、いろいろ手助けもしてくれるし…」

ふぅ…と大きなため息をつく
本で読んでいた時はハリーの視点だったから、あまりいい子だとは思わなかったけれど…。

「特にスリザリンの人たちの見方が第一印象と全然変わってしまっているんですよね〜。教授もそうなんですけど」
「我輩も…?」
「そうですよ。だって、一番最初の授業のこと覚えてます?ハリーが絶対分からない質問ばかりして、あれでグリフィンドール生は全員教授の事嫌いになりましたよ?」
「それはも含むということか?」
「いえ、僕は違いますけど…。あれってよく考えれば教授の優しさなのかなって思ったんで」
「優しさ?」
「だって、そうでしょう?有名で英雄であるハリーがちやほやされないように、他の人と同じなんだって分からせる為にやったんじゃないんですか?」

の言葉にセブルスは黙る。
沈黙は肯定とされるということが分かっているのだろうか…?
不器用な優しさ。
スリザリン生にはそういうのが多いのかもしれない。

「そういう優しさを見ちゃうと、いざ敵対した時に困るなって思うんですよね」
「まるで敵対する予定でもあるような言い方だな」
「いえ、仮定の話ですよ」

マルフォイ家はヴォルデモートに仕える一族だ。
恐らくシェリナの家、リロウズ家もそうなのだろうと思う。
マルフォイ家とかなり懇意にしているようだから…。
シェリナとドラコとは敵対したくない。
だからといってヴォルデモート側に組するつもりはにはない。


「そうそう、教授。聞きたいことがあったんですよ」


は話題を切り替えてノートを取り出す。
羊皮紙と羽ペンでないのは少し大目に見て欲しい。
やはり未だに慣れないのだ。

「何をだ?」
「ここです。ここのところ、どうしてこれを混ぜたらこういう反応になるかが分からなくて…」

はノートを広げて分からない箇所を指で示す。
勿論セブルスに聞く用に英語で書いてある。
セブルスはノートを覗き込むが、内容をみて顔を顰めた。

…」
「何です?」

ギロっとを睨み

これは学生がやるような内容ではないと思うが?
「そうですね」

は平然と肯定する。
これは学生が習うには高度すぎるものだろう。

「我輩には「脱狼薬」の作り方に思えるのだが……?」
「はい、まさにそうですが?」
「あれは一介の学生が作ろうと思って作れるものではない。には必要ないものだろう」
「別にこれをこのまま作るわけじゃありませんよ。理論聞きたいんです、悪い点が改善できればもっといい薬が作れるかもしれないでしょう?」

理論を組み立てて何かを創り上げるのはなかなか難しい。
けれども薬学は数学的なのでにとっては得意分野だ。
今すぐというわけでもないのだから、時間をかけてじっくり理解していけばいい。
こういうものは納得いくものができたときの満足感がなんともいえないのだ。

「ルーピンの事を知っているのか…?」

セブルスはを睨むように見る。

「知ってる…と言ったらどうするんですか?」
馬鹿な!ルーピンのヤツは何も言ってないと…満月のたびに薬をもらいに…!
「そうですね、リーマスからは何も聞いてませんよ」

教えてはもらっていない。
リーマスは何も言わないのだ。
休暇中、が帰ってきても満月の時にはどこかにでかけると言って行くだけ。
も何も聞かない。
こんな生活では長くは続かないのかもしれないとは思っている。

「私は、リーマスの方から言うまで知っていることは言いませんよ。リーマスが一生言わないというのなら、私も一生知らない振りをするだけです」

にも知られたくない秘密があるように、リーマスにも秘密がある。
その秘密をは知っている。

「怖くは……ないのか?」
「何がですか?」
ルーピンのことだ!

大抵は人狼を恐れる。
は首を横に振る。

「私にとっては、「穢れた血」と聞いてなんとも思わないのと同じように、リーマスが「人狼」だと知っても、それの何がいけないのか感覚で分からないですよ」

子供の頃なら素直にこれが怖いのだと思ってしまうだろう。
けれど、はありのままを全て感じるほど子供ではない。

「実際、リーマスが狼になった姿を見てしまえば怖いのかもしれない。けれど、知らない状況では「人狼」だという事実を知っても別に変わりませんよ」

セブルスは全てを知ってもリーマスを受け入れた一人なのだろう。
ジェームズ達がそうであったように…。
でも、はいざリーマスが狼になった場合はそれをまったく恐れないとは言い切れない。


「……作り方が間違っている。5分加熱して混ぜるのではなく、1時間ゆっくり煮込んでから混ぜるだ」


セブルスはため息をつきながらのノートをトンっと指で叩く。
は思わずきょとんっとしてしまう。

「どうした?何が違うか聞きたかったんだろう?」
「え?あ…。はい、ありがとうございます」

カリカリっとシャープペンでノートにメモをとる。
こんな難しい調合の方法をいちいち羽ペンでなど書いていられない。
シャープの方が使い慣れているのでそれを使用。
とりあえず、この時代にシャープペンとノートがあってよかったとほっとしている。


「………一線引いているのはの方…か」

ぽつりっとセブルスが呟く。

へ…?

がペンを止めてセブルスを見る。
だが、セブルスはすでに自分の机に戻って作業を再開していた。

は自分で気付いていないのだろう。
リーマスが人狼でも怖くないと言いつつも、そのまま受け入れない。
それは、自身がリーマスから一線引いているからだということに…。
セブルスは学生時代、リーマスが他の人たちから一線引いていたのを知っている。
全てを知りながらもは決めた線から中に踏み入れることを許していない。

ルーピンよりも悲しい孤独ではないのだろうか…?

セブルスはそう思っていた。