秘密の部屋編 60






「ごめん!逃げないとならないから!」

授業が終わるとは一目散にどこかへと行っていた。
ハリーとロンが、「秘密の部屋」について調べようと誘ってもは付き合わない。
普段一緒にいるネビルも置いてきぼりだ。
何から逃げるかといえば、双子からだ。

「でも、!これ以上犠牲は出させないって言ったじゃない!」
「そう言われても、ウィーズリー先輩方が監視についてるもんで下手に動けないんだよね〜」
!!
「ってのは、冗談。あの先輩方に捕まると思うように動けないから、とりあえず当分は1人で行動するよ!」

そう言って、は授業が終わるたびにすぐ教室からでていった。
勿論、ヴォルにバジリスクの監視は頼んである。
ヴォル曰く、

「いざとなったら俺が足止めくらいはしておく」

だそうである。
無理しないで、とは返したがやっぱり嬉しかった。
だが、自分が何もしないわけにはいかない。


監視役が双子といっても学年が違うので授業中まで一緒にいるわけではないのだ。
その点は安心したからこそ、休み時間や休日には捕まらないように逃げている。
だが、それもあまり上手くいってない。
何故かといえば、双子は「忍びの地図」を持っているのである。
あの地図は誰がどこにいるか分かってしまうものだ。
となると、とれる手段は限られてくる。
授業をサボッて行動を起こす分には双子には分からない。
…とは普通の学生にあるまじき考えをしていたのだが、その考えは甘かった。

、今日の午後はどこに行っていたんだい?」
「どこかに行くならば僕達の許可を取ってほしいね」
「何しろ僕らは!」
「君の側に張り付くように!」
「「頼まれているからね!!」」

早めの夕食を大広間で口に運びながらは眉を寄せた。
いつもならばハリーやロンも一緒なのだが、ハリーとロンはハーマイオニーのところによって来ると行って今はいない。
はハーマイオニーが石化していることを知っているので、ハリー達はそう伝言していった。
の隣にはネビルのみである。

「何のことですか?ウィーズリー先輩方」

すっとぼけてはそう返事を返す。

「…でも、午後の授業って、いなかったよね」

ぽつりっと呟いたのはネビルだった。
何で?と不思議そうに首をかしげているネビルだが悪気はないだろう。
ないのだろうが、それを双子の前では言わないで欲しかった…。

「やっぱり授業を抜け出していたんだね!!」
「流石!だね!」
「別に褒められることはしてないと思うんですけど…」

それはそうである。
だが、魔法学校の授業などにはどうでもいいのだ、実際は。
サボることになんの躊躇もない。
そもそも魔法は全く使えないことは分かっているのだし。

「それはさておき」
「どこに行っていたのか、白状してもらおうか、
「だから、別にどこに行った訳ではありませんって」
「とぼける気かい?」
「そんなことをしても無駄だね!」
「僕らに隠し事なんて!」
「「10年早いさ!」」

ならば10年経てば隠し事をしてもいいのか…?
と突っ込みたくなるが、そうするとまた変な屁理屈が返ってくるだろう。
は気にせずに食事を続ける。

「学校中をうろついて何をやっていたんだい?3階と4階に何かあったのかい?」

ぴたりっとの食事の手が止まる。
ちらっと双子の方を見れば、にこにこ笑顔である。
確かに今日の午後は授業を抜け出して、ホグワーツをうろうろしていた。
1年の時にメモ程度につくった地図を参考に水道のパイプがどこを通っているか調べていたのだ。
ここ最近のの行動はほとんどそれである。
パイプを通って動くのならば、パイプを押さえて動けないようにしてしまえばいい。
だからといって、パイプを塞ぐことはできないが…。
パイプがどこにあるかは把握しておきたい。
あとは、ジニーの動きを…。

「別になにもありませんよ、ジョージ先輩」

問うてきたのがジョージだったので、はそう返す。
ジョージとフレッドは互いに顔を見合わせる。

「相変わらず、僕達の見分けがつくんだね、は」

少し寂しそうな表情で言うのはフレッドの方。
ジョージのみファーストネーム呼びだからだろうか…?

「今年は特に先輩方と接する機会が多いですからね。長い間接すれば接するほど違いは見えてきますよ。先輩方がわざと二人そろって似せようとしなくてもね」

双子とはいえ、1人1人は全く違う人間なのだ。
違いはでてくるだろう。
だから見た目だけで判断している人は見分けがつかないのだ。
口を開けばどっちがどっちかはすぐ分かる。
何よりも、彼らと出会ってからもうすぐ2年にもなるのだ。
それだけ長ければ見分けもつくだろう。

「そうだね、何しろはジョージはちゃんと「ジョージ」と呼ぶけれど、僕の事はまだ「ウィーズリー」だからね。見分けがつかなければ違う呼び方もできないよな」
「おい、フレッド…、お前何言ってるんだよ」
「だって、不公平だと思わないかい、ジョージ?僕らは何をしても一緒だったのに、は僕だけファーストネームで呼んでくれないんだぜ?」
「フレッドだけじゃないだろ?」
「ジョージはいいよな〜。にファーストネームで呼んでもらっているんだしな」

困ったように笑うジョージとちらりっと横目でジョージを見るフレッド。
別に険悪な雰囲気ではない。
何が言いたいかといえば、恐らくに対してフレッドも平等にファーストネームで呼べということなのだろう。

「じゃあ、ジョージ先輩の呼び方、戻しますよ?」
それは駄目だよ!
「でも、そうでないとウィーズリー先輩が納得しないようですし…」
がフレッドをファーストネームで呼んでくれればいいんだよ」
「そう言われてもですね……」

困った笑みを見せる
尚も何か言おうとジョージが口を開くが…。


ばしゃっ!


突然に何か液体がかけられる。
は流石に驚いて目を開く。


穢れた血!!アンタみたいなのがドラコの側に寄るから、ドラコが巻き込まれたのよ!!」


声の方を向いてみれば、スリザリンの女子生徒がゴブレットを手に持って、泣きそうな表情でを睨んでいた。
どうやらぶちまけられたのは、ジュースか何かのようだ。
臭いからしてオレンジジュース…?

「果汁100%…?」

ペロっと顔にもかかっているジュースを舐めての一言。

「何言ってるんだよ、!」
「どうして怒らないんだ!」

双子の方が怒っているようである。
が彼女の方をみれば、彼女はどこかで見たことあるような気がする。
肩よりも短めにそろえたおかっぱの、顔立ちは可愛いに入るだろう女子生徒。

「えっと…、パンジー=パーキンソン?」
「何よ!あんた見たいな穢れた血にあたしの名前を呼ばれたくないわ!!」

怒鳴り返してきたパンジーに、は怒りなど全く沸かなかった。
なぜかと言えば、彼女の方が傷ついているように見えたから…。

ああ、この子、ドラコのことが本当に好きなんだろうな…。
最初は家柄もあったんだろうけど、今はドラコのことが本当に心配で、純血なのに襲われたのは私と一緒にいたからと思ってるんだろうな。

「うん、ごめんね」
「何よ!あんたがいたから!あんたがドラコにまとわりついたから!ドラコまでっ…!」
「そんなの関係ないだろ?」
「寧ろ纏わりついていたのはマルフォイの方じゃないかい?」
何ですって?!!

ジョージとフレッドの言葉に怒りを増幅させるパンジー。
にジュースを吹っかけられて、双子はかなり怒っているようだ。

「ごめんね、パーキンソン。確かに僕のせいだと思う」
「謝ってもドラコは戻らないわ!」
「分かってる。怒りも罵倒も受けるから…、マンドレイクが育つまで待ってくれないかな?ドラコは石化したから、マンドレイクが育てば治るよ?」
「そんなこと分かっているわ!でも、あんたみたいな穢れた血が側にいるのは気に入らないのよ!!」
「ごめんね…。僕には謝ることしかできない」
「何よ…何よ何よ!!あんたなんか!!

パンジーは手に持っていたゴブレットをに向かって投げつける。
距離は近距離なのでが避けなければ当たってしまうだろう。
だが、は動かなかった。


がつ…


「…っ!」


あのまま行けばの肩か顔に当たっていただろうゴブレットは、に当たらなかった。

ちょ…!ジョージ先輩?!!

の頭を庇うように腕をの顔の前に出したジョージの腕を掠めたようだ。
プラスチックのコップとかならばそんな痛くはないだろうが、ゴブレットは金属のコップなのだ。
投げて当たれば掠めたとはいえ、痛いだろう。

「何で…」
「何ではこっちの台詞だよ!どうして避けようとしないんだ!
「いや、でも…避けたら彼女がまた怒るだろうし…」
そういう問題じゃない!が怪我をするところだったんだ!あんなスリザリンの女の攻撃を素直に受けるなよ!」

最初はジョージ、反対側からフレッドの声。
は別にぶつかったくらいでは、痛いだろうが大した怪我にはならないと思っていたのだ。
ああいうタイプは、きちんと感情を受け止めてやるべきだと思う。
それにきっと、ゴブレットを投げたことを後悔する気持ちはあると思うから…。
はすっとジョージの腕から前に出る。

「な、なによ…」

びくりっとパンジーは一歩下がる。

「ごめんね、パーキンソン。でも……僕はドラコを石化させたヤツを許しているわけじゃないんだ」

許さないのは油断した自分自身と…そして、穢れた血の一掃を望むバジリスク。
どうしてもリドルを憎めないのは彼がヴォルでもあるからなのか…?

「そんなこと言ってもあんたが一緒にいたからドラコは……!」


そこまでにしなさい、パンジー。


静止の声が入る。
声の主を見ればそれはシェリナだった。
困ったような笑みを浮かべての方に歩いてくる。

「悪かったわね、うちの寮生が…」
「いえ、大丈夫ですよ。本当のことですしね…」

苦笑する
シェリナはに自分のハンカチを差し出す。
はそれを受け取ろうとしなかったが、シェリナはそれで濡れたの頭とローブを拭く。

「汚れちゃいますよ…?ハンカチ」
「そんなことは気にしないで頂戴。人の善意は素直に受け取ればいいのよ」

パタパタっとシェリナはのローブを拭いていく。
撥水などと高価なローブを着ているわけではないので、やはりしみこんでしまうものもある。
の髪も少し濡れてしまって甘い臭いがする。

「いいですよ、リロウズ先輩。これなら着替えてシャワー浴びた方が早いです。ありがとうございます」
「そう…?」
「はい、お手数をおかけしてすみません。それと…」
「何かしら?」
「パーキンソンを責めないで下さいね。彼女の言っている事は彼女にとっては当たり前の事で、僕もそれはそうだと思っていますから」
「だからと言って、を傷つけていいことにはならないわよ」
「でも…本当なんです。ドラコが僕の手伝いをしなければ、僕が側にいなければドラコは今頃普通に授業を受けることができていたんですから…」

何よりも後悔している。
ドラコと友達になったことをではない。
ドラコが手伝ってくれると言ってそれに甘えてしまってた自分をだ。

…貴方……」

シェリナは驚いたようにを見る。

「何です?」
「いつの間にドラコをファーストネームで呼ぶようになったの…?」
「ちょっと賭けに負けてしまったんで…」

苦笑する
まさか、ドラコがきちんと名前を呼べると思っていなかったから…。

「じゃあ、やっぱりあの噂が本当で、ドラコはの恋…」
違います!!
「そうなの?つまらないわね〜」
「別につまらなくなんかないです!どうしてそんな噂が流れるんですか!スリザリンは!」

そもそもスリザリンの女子生徒にはは嫌われているはずだ。
そんな噂が流れること事態珍しい。
男子生徒からそんな噂が発生するはずはない……だろうし。

「だって、あたしがその噂流したものv

にこっと笑顔でとんでもないことを言ってくれるシェリナ。
はその場で思わず頭を抱え込んでしまった。

この人、絶対ルシウスさんやヴォルさんと同じ人種だ!