秘密の部屋編 58
はヴォルと一緒に校長室で待つ。
生徒の中では最も疑わしいをダンブルドアはそのままにしておくわけにはいかないのだろう。
ホグワーツにいられるのならば構わない。
ダンブルドアの処罰なり判断なりを待つだけだ。
静かに目を閉じてダンブルドアを待っていようと思っただったが…
ばたんっ
校長室の扉が勢い良く開く。
ダンブルドアが戻ってくるには早すぎる。
扉の方を見てみれば、つかつかっと遠慮なく足を踏み入れてくるルシウスがいた。
そういえば、魔法省大臣がハグリッドを連れに来た時はルシウスさんも一緒にいたんだっけ…。
驚きもせずにはルシウスを見る。
ダンブルドアとコーネリウスはハグリッドの小屋に行ったと教えるべきだろうか…?
が迷っているとルシウスがに気付いて視線を向けてくる。
「…?君がどうしてここにいる?」
はにこっと笑みを見せる。
「こんにちは、ルシウスさん、お久しぶりです。ダンブルドアをお探しですか?」
ルシウスはかつかつとの方へと歩いていく。
かつんっと音を立ててを見下ろす。
「ダンブルドアの居場所を知っているのか?」
「はい、知ってますよ。ダンブルドアに用があるんですよね?ダンブルドアは…」
「いや、いい」
「へ…?」
ルシウスは空いている椅子に腰をかける。
きょとんっとする。
急いでいるのではなかったのか…?
「君と少し話がしたいからな…。構わないだろう?」
「え?あ、はい…。僕は構いませんが、ルシウスさんは忙しいのでは…?」
「少しだけなら構わないだろう。コーネリウスのことだ、ダンブルドアに色々言われて時間がかかるに違いないからな」
何が?とは問わない。
ルシウスが何をしにきたかは分かっている。
おそらくホグワーツ理事全員の了解をとってダンブルドアの退陣を求めに来たのだろう。
「君は……、知っているのだったな確か」
「何がですか?」
ルシウスはすぅっと目を細めてを見る。
口元は笑みの形を浮かべる。
「あの日記の事だ」
「そんなこと言いましたっけ?」
一応とぼけてみせる。
確かにはルシウスに知っているようなことを言ってしまった。
しかし、そう簡単にルシウス相手に手の内をさらすようなことはしないほうがいい。
「『別にあれは僕が関与することじゃありませんから。…大丈夫ですよ、僕は邪魔しません。近いうちにコトはおきますよ』だったか?」
は静かにルシウスを見るだけ。
腕の中のヴォルがぴくりっと反応したのが分かった。
「事態はここまで来た、君も疑われている者の1人だ。これでもまだ何もしないのか?」
はルシウスを睨む。
挑発されているだろうことは分かる。
ルシウスのことだから、に行動を起こさせるために何かしたのかもしれない。
「君はドラコとも仲がいいのか?」
「そうですね、友達ですよ」
突然話題を変えて何が言いたい…?
「ミス・グレンジャー、それからドラコ。君は目の前で親しい者が襲われてそれでも何もしないつもりか…?」
はルシウスの言葉に目を開く。
今、ルシウスはなんと言った?
『目の前で親しい者が襲われて』…?
何故、がハーマイオニーとドラコが襲われた時に一緒にいたと知っている?
がたんっ
は立ち上がって、ぎゅっと拳を握り締めた。
きゅっと唇をかみ締める。
「どうした、?」
悠然と笑みを向けてくるルシウス。
は、どうして彼がそんな笑みを向けられるのか分からなかった。
「知っていて……やらせたんですか?」
「何をだ?」
「貴方がリドルにグレンジャーとドラコを襲わせるように仕向けたんですか?」
笑みを深くするルシウス。
この人は…っ!
自分の息子までも平気で使うのか?!
「そうだと言ったら…?」
「っ?!!貴方はっ!」
怒鳴りつけそうになっただったが、ヴォルにくいっとローブを引っ張られてはっとする。
軽く息を吐いて落ち着く。
そう、分かっていたはずだった。
ルシウスはそういう性格だと…。
「それで、君はどうするつもりだ?」
ルシウスは問う。
が動くつもりなのかを…。
「どうもこうもありません、これ以上の犠牲は僕が出させませんよ」
ルシウスがどう言おうと、ダンブルドアが何を言おうと、はそう決めている。
これ以上の犠牲を防ぐことは、の役目を全うすることでもある。
何よりも、目の前でドラコとハーマイオニーの石化を見て、これ以上は見たくないと思っているから…。
かたんっとルシウスは立ち上がる。
僅かに満足そうな感情を見せた表情である。
「、ひとつ忠告だ」
「なんですか?」
自然との声は低くなってしまう。
ルシウスはそんなに苦笑を返すだけだったが…すぐに真剣な表情になる。
「自分の手の内はあまりさらすな。”リドル”を知っていることをそう簡単に口に出すものではない」
先ほどは思わず『リドル』の名を出してしまった。
まだ誰も知らないはずだ。
リドルの記憶がスリザリンの継承者だとは……。
そう、仕掛けた本人であるルシウス以外は。
「君にそう簡単につぶれてもらっては面白くないからな…。もっとあがいて最後まで残って見せてみろ。でなければつまらん」
「僕は貴方を楽しませるために存在しているわけではありません。……でも、以後は気をつけます。忠告、ありがとうございます」
睨みながらも礼を述べることを忘れない。
律儀なものだと、ヴォルは呆れていた。
しかし、その忠告はヴォルにとってはありがたい。
は無理をしすぎるから誰でも忠告してもらえれば、少しは気をつけてくれるかもしれないから。
「それとひとつ付け加えておこう」
「何をですか?」
「私は、自分の息子がこの程度で死ぬほど愚かでないと分かっている。石化はマンドレイクで治る。あの程度の相手にドラコがどうかなるなど…あまり侮らないでもらいたいものだな。」
ふんっとルシウスはを一瞥してから出て行った。
ばさりっとローブを翻して…。
ぱたんっと校長室の扉がしまる。
はルシウスの言葉を聞いて思わずきょとんっとしてしまった。
立ったままルシウスの出て行った扉を見ている。
「………もしかして、一応ドラコのことは心配はしていたのかな…?」
意外だ。
息子までも平気で犠牲にしたかと思っていたが…。
「石化するくらいならいい経験になるとか考えて仕掛けたんじゃないか?最も、ルシウス自身が仕掛けたという証拠はどこにもないがな…」
がドラコが犠牲になったことを気に病んでいたのが分かったのか、それとも最初から息子が石化するくらいならばいい経験だろうと思っていたのかは分からない。
ヴォルが思うには、後者のようだが…。
思ったよりもルシウスはドラコのことを大切に思っているのだろう。
「狡猾なるスリザリンも子を持てば、ただの親馬鹿か…」
ふんっとヴォルは呆れたように言う。
はくすくすっと笑う。
ヴォルもも『親』の気持ちは分からない。
けれども、『親』にとって『子供』は大切な存在なのだろう。
「ま、親馬鹿というより、やっぱり子供が大切なんだろうと思うよ」
子供を溺愛しているわけではないだろうが、ドラコを大切には思っているだろう。
冷たいだけの損得しか考えていないルシウスだと思ったが、は少しルシウスへの見方が変わりそうな気がした。
そういえば、ルシウスさん。
ダンブルドアがどこにいるかは聞いていかなかったけど、居場所分かってるのかな…?