秘密の部屋編 55
なんとか、『伝道の書』について確認を取りたいと思ったはジニーに会おうとしたのだが、ことごとく避けられている気がする。
全く会えないのだ。
ヴォルに頼んでバジリスクの動きを聞くものの、動きはないと返事が返ってくる。
バジリスクを動かしてない…つまりは秘密の部屋には行っていない…だろうということだろうが…。
「はぁ…」
は図書館で深いため息をついていた。
やることは、図書館で調べることだけである。
今日は丁度クィディッチの試合で人気は全くといっていいほどない。
本当ならばハリーが出るクィディッチの試合を見たかったのだが…確かこの時期にバジリスクが動くはずなので、試合観戦などしてられない。
バジリスクが出るまで、図書館で恒例の調べものである。
「何をぼうっとしている、。調べるんだろう?」
ばさっとの隣に本を置いて座るのは何故かドラコ。
いつも図書館に入り浸っているのことを聞いたのか、今日はドラコが手伝ってやる、と調べものの手伝いをしてくれている。
珍しいこともあるものだ。
「ごめんね、マルフォイ君、手伝わせちゃって…」
「別に気にするな。協力はするって言っただろう」
むっとした表情ながらもドラコは本をぺらぺらとめくりだす。
ドラコの成績はハーマイオニーには及ばないものの、いいほうらしい。
らしいというのは、はドラコの成績がどんなものか知らないからなのだが…。
「はいいのか?」
「何が…?」
「クィディッチ…、今日はグリフィンドールの試合なんだろう?」
「ああ、うん」
苦笑しながらはドラコを見る。
ドラコはむっとした表情で本とにらめっこしている状態である。
「別に僕が応援に行かなくても変わらないよ」
「どうだろうな…。はグリフィンドールの選手達に気に入られているんだろう?行かないと後で五月蝿いんじゃないか?」
「それは考えてなかったな…。まぁ、でも大丈夫だよ。大事な試合に僕が応援に来てるかどうかなんてわざわざ確かめないだろうしさ」
クィディッチの試合を見ないことは結構ある。
なんだかんだと去年も殆ど応援に行かなかった気がする。
今年も全ての試合を見ているわけでもない。
「マルフォイ君こそ、敵情視察は必要ないのかな?」
「はっ…!この僕にそんなことが必要に見えるか?」
「そう言うと思った」
くすくすっと笑う。
純血を誇ってるプライド。
ドラコは他を見下す部分がある。
そのせいで意地っ張りになっているのか、見なくても教えてもらわなくても知っている、という姿勢を取ることが多い。
「君は本当に誰に対しても変わらないんだな…」
「は…?」
唐突な言葉にきょとっとはドラコを見る。
ドラコは視線だけをの方に動かしてをちらりっと見ている。
「最初は本当に気に入らなかったんだよ。ポッター達と仲が良かったしな…」
「マルフォイ君…?」
「けど、君は僕が何を言っても怒らないし、さらっと受け流すし…それはそれでかなりムカついたけどな…!」
「マルフォイ君って過剰に反応するから面白いんだよね〜。教授と一緒」
「面白っ…?!」
「そうそう、そういう所。からかうと過剰に反応するのが面白くてつい…ね」
「僕は君のそういうところが大嫌いだ!!」
ドラコは顔を真っ赤にして怒鳴る。
はそれをくすくすっと見ているだけである。
からすれば、ドラコは可愛いだけである。
ヴォルのように、ルシウスのように、冷めた目で見られ、静かに「嫌い」と言うようなタイプの方が苦手だ。
最も、ヴォルやルシウスにそんなことを言われたことはないが…。
「それでも……、君は…どんな時でも僕を『僕』としか見ないから…」
「何言ってるのさ、マルフォイ君はマルフォイ君じゃない」
当然のように言う。
その言葉にドラコは頭を抱える。
「どうしたの?マルフォイ君…」
ドラコはちらっとに視線を移す。
腕の隙間から見える表情はむっとしてどこか怒っているような感じである。
おかしなことでも言っただろうか…?
「」
「うん?」
ドラコは顔を上げてに向き合う。
何かを決めたような表情。
は少し微笑みながらドラコを見る。
すっとドラコは手を差し出す。
「君と友達になりたい。…僕と友達にならないか?」
はあまりの驚きで目を開いたまま固まる。
今、何て言われた…?
初対面では純血を誇り、次にあったホグワーツ特急の中では、友達の付き合い方を教えてやろうなどと偉そうなことを言ってたドラコ。
どこをどうしたらこういう態度に変わるのだろう…?
「なんだ?この僕の誘いを断るのか?」
顔を歪めるドラコだが、どこか不安そうで寂しそうな表情が垣間見える。
はふっと笑みを浮かべてドラコの手を握り返した。
「そんなことないよ。友達になろう、マルフォイ君」
と接するようになってドラコはきっと変わったのだろう。
最初はただの同情か、もしくは興味半分だったのだろうが…今は違う。
「ドラコ、だ。」
「へ…?」
「名前の方で呼べ」
「あ〜……でも、それはちょっと…」
「なんだ?君がファーストネームで呼ばないのはやっぱり噂が本当なのか?」
「噂って……?」
「知らないのか?」
「いや、だって…なんか色々な噂があるみたいだから…」
に関してはいろいろ噂が流れているようである。
自身が知る限りはいくつかあるが…。
ファーストネーム呼びはめったにしない、ファーストネーム呼びの相手には優しい、セブルスと妖しい関係もしくは親子である。
他にもあるのだろうか…?
「確かにいくつかあるが…、例えば、君がファーストネームで呼ぶと相手を魅了してしまう魔法を使うとか…。」
「はぁ?」
「家が実は名家で、ファーストネームで呼ぶ相手は家の者が認めたものでないと駄目だとか…」
「なにそれ…?」
「君と恋人同士にならなければ、ファーストネームでは呼ばれないとか…。」
「…げほっごほっ!!」
ちょっと待て!
激しくマテ!!
私がファーストネームで呼んでいるのは、生徒の中ではネビルとジョージ先輩のみ。
2人とも男だし!
「まぁ、最後の噂はスリザリン内でだけだが…」
「なにそれ!おかしいよスリザリン!なんでそんな噂が発生するわけ?!!」
そんな噂を平然と口にできるドラコもある意味変だ。
おかしい…魔法界は同性愛を普通に認めているのか…?
ドラコはの様子に…ああ、と何か気付いたような表情になる。
「そうか…、一般的にはそういう関係は普通じゃないんだったな」
「そうかって、そうかって何?!マルフォイ君の周りじゃあそういう関係は普通なの?!!」
「………も普通に慌てたり驚いたりするんだな…」
「っていうか、普通に話しているマルフォイ君の方が変なんだってば!」
「そう言われてもな…、父上も伯母上も、純血の一族は基本的に気に入った相手に対して性別関係ないからな…。気に入ったのならば男も女も関係ないというのが僕にとって普通だったから…。まぁ、子孫を残す為に異性との交わりは必要だということは分かっているが……。」
「っ…?!!?」
淡々と当たり前の事のように話すドラコに慌てる。
ドラコは慌てているにどうかしたか?と視線を向けてくる。
マルフォイ君って絶対ルシウスさんの息子だ!
「純血生まれは大抵こういう考え方だぞ?スリザリンは純血主義が多いから普通だと思っていたが…」
おかしい…。
絶対おかしいよ!スリザリン!!
はっ…まてよ…。
そう言えばヴォルさんも私の姿形なく、いろいろスキンシップをしかけてくるのはそういう理由から…?
「普通じゃない、絶対普通じゃないよ……。僕、やっぱり本当にスリザリンに行かなくてよかったかもしれない……。純血主義云々以前に、考えについていけないよ…」
はぁ〜と深いため息をつく。
「その様子だと、がファーストネームで呼ばないのは別の理由ということか…」
「別に特別な理由なんてないけどさ…。ああ、そうそう、それならマルフォイ君が僕の事をちゃんとファーストネームで呼んでくれたらいいよ」
「を…?」
「うん、ちゃんとしたファーストネームで、ね」
意地悪げな笑みを浮かべる。
の周りの子達は皆「」と呼ぶ。
それが悪いわけではないが、正しく「」と呼んでくれるのはダンブルドアのみだ。
声にしている分にはあまり分からないだろうが、日本の名前は漢字に意味がある。
ヴォルでさえ、「」と呼ぶのだからドラコには無理だろうとは思う。
「の名前…なんだっけか?」
「うあ…酷いな〜、マルフォイ君。、だよ、=」
くすくすっと笑いながら自分の正しい名前を教える。
「………ああ、違うな!…くそっ、難しい…!あ〜……」
「マルフォイ…君?」
ドラコはすぅっと息を吸って軽く吐く。
まっすぐにを見る。
「」
先ほどの比じゃないくらいは驚く。
「馬鹿にするなよ?が日本出身だということくらい知っている。日本の名前は特別なんだろう?」
確かに知っていてもおかしくないかもしれない。
けれども、ドラコの性格から言ってそんなことをわざわざ調べるはずがないと思っていた。
「あ…はは。うあ…、うん」
は困ったような笑みを見せる。
嬉しいような困ったような想いだ。
でも、本当の意味を込めて名前を呼ばれるのは嬉しいのは本当だ。
「ちょっとマルフォイ君のこと侮っていたよ」
できるはずがないから、からかうつもりで言ったのだ。
それがまさか本当にできてしまうとは…。
「僕は呼んだぞ、。僕の事も名前で呼べよ?」
「了解、ドラコ」
苦笑しては手を上げる。
少し甘く見ていた、ドラコを…。
今のドラコはの知っていた本の中のドラコ=マルフォイとは変わってしまっているのかもしれないのだから…。