秘密の部屋編 52
くしゅんっと小さなくしゃみをしながら、は寮に戻る前にマートルのトイレに寄って行くことにした。
作戦を決行しているのならば、今頃トイレではハーマイオニーがとんでもないことになっているかもしれないのだ。
ポリジュースの決行時期が違うことから、もしかしたらハーマイオニーの失敗は起こらないかもしれないが、念のためである。
ぴちゃん…
水滴の音がやけに大きく響き渡る。
マートルのいる普段は誰も近づかないトイレには足を踏み入れていた。
『あなた…じゃないの』
すぃっとマートルがどこか楽しげな表情での方に近づいてくる。
くすくすっと笑うマートル。
『そこの扉を開いて見てよ!面白いものが見れるわよ!!何が見れるかは見てからのお楽しみ〜♪』
マートルは楽しそうにふわふわ浮いている。
はマートルをちらっと見てからマートルが指した扉に近づいて、こんこんっと軽くノックする。
だが、返事はない。
小さなすすり泣き声が聞こえてくるだけ。
「グレンジャー…?」
僅かに聞こえてきたすすり泣き声がぴたりっと止まる。
やっぱり、失敗したんだ…。
は内心苦笑する。
「開けてもいい?」
「駄目!!帰って、!」
少し聞き取りにくいハーマイオニーの声。
泣いていたのか、涙声になっている。
「開けるよ、グレンジャー」
「嫌、駄目…!」
ハーマイオニーの声を無視しては扉を開ける。
そこには黒い毛で覆われ、金色の瞳になっているハーマイオニー。
目元が少し涙で濡れている。
手までが人の5本指でなくて猫の手になっている。
はそのままハーマイオニーをゆっくりと抱きしめる。
ぽんぽんっと落ち着くようにハーマイオニーの背中を撫でる。
「ま、間違えて…ポリジュース薬に猫の…猫の毛を使ってしまったの…!あの薬はっ…動物の変身には使っちゃいけなかった…のにっ」
しゃくりあげながらハーマイオニーが言葉を紡ぐ。
よほどショックだったのだろう。
「大丈夫だよ、グレンジャー。医務室に早く行こう?マダムならちゃんと治してくれるし、事情を話せば少し叱られるだけで済むよ」
『あ〜ら、でもお似合いよ〜。その尻尾を見たら皆があなたに注目!そしてあなたは大人気!悪い意味でね!!』
「マートル、黙ってて」
『これが黙っていられるかしら?もそう思うでしょう?可笑しいったらないわ!!』
ったく…。
普段、人見知りが激しい上に引っ込み思案なくせに、自分の立場が上になったとたんにこうなる。
子供だから仕方ないといえば仕方ないんだろうけど…。
「グレンジャー、医務室に行こう?」
「い、嫌よ…!だって、こんな姿、見られたくないもの!」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ」
「嫌よ、嫌!!」
顔を手で覆って首を横に振るハーマイオニー。
この状態はあまり好ましいものではないというのに、マートルの言葉でハーマイオニーが余計この姿を見られることが嫌になってきているようだ。
はため息をついて、自分のローブを脱ぐ。
そのローブをばさっとハーマイオニーに頭から被せる。
「行こう、ね?」
はそのままハーマイオニーを引っ張る形で連れて行く。
ローブに隠れているからハーマイオニーの姿は見えないはずだ。
マートルがまだ笑っている。
「マートル、悪いんだけど、ポッター君達が来たら医務室に来るように伝えてくれる?」
マートルの笑い声がぴたりっと止まる。
とたんに嫌そうに顔を顰める。
『冗談じゃないわ。どうして私がそんな伝言を…』
『ポッター君達が来たら医務室に来るように伝えてね、マートル』
ぴくりっとマートルが反応する。
人の不幸を笑うのは正直よくないことだ。
マートルが悪い子でないのはも分かってはいるが、これだけハーマイオニーを馬鹿にされると腹は立つ。
『力』を使って強制的に伝言を頼む。
こくこくと頷くマートルを見て、は医務室へと向かった。
幸い誰にハーマイオニーの姿は見られることなく医務室についた。
いくら姿を見られたくないといって言っても、ローブを頭から被っていたら怪しいだろう。
「まぁ!!なんてことを…これは数週間かかりますよ!」
マダムは驚いた表情をしたものの、ハーマイオニーの姿を見るや否や、すぐに治療にとりかかった。
特にこれに関しての事情を追求することなく。
昔からこの手の治療は多かったからなのか、マダム・ポンフリーは大怪我をしても、怪我をしたことに関して怒りはしても、他の教師と違ってその経緯について追求することはない。
だからこそ、生徒達も安心して医務室に来れるのだ。
生徒達が安心して医務室に来れるようにするために、そういう対処をしているのかもしれないが…。
「マダム、きちんと治りますよね…?」
「勿論ですとも!!」
ハーマイオニーの不安そうな声にマダムはきっぱりと言い切る。
その言葉にほっとするハーマイオニー。
まだいくらか不安があったのだろうか、ようやく落ち着いた様子になる。
「…、ローブありがとう。それから、この本…」
ハーマイオニーは『最も強力な魔法薬』の本を取り出した。
ハーマイオニーの扱い方が良かったのか、借りたままの状態で特に汚れはない。
はローブと本を受け取る。
なるべく早めに本は返したほうがいいだろう。
「グレンジャーの役に立てた?」
「ええ、とっても。ポリジュース薬の方は私だけ失敗しちゃったみたいだけど…ハリー達は上手くやっていると思うわ」
マダムに治ると聞いて安心したのか、ハーマイオニーの口調はいつものものに直っていた。
がハーマイオニーの姿を気にせずに普通の態度でいるのもひとつの理由だろう。
「がマルフォイを呼び出している間に、クラッブとゴイルをおびき寄せて入れ替わったの。は大丈夫だったの…?」
「うん、全然平気だよ。先に話しかけてきたのはマルフォイ君のほうだけど、大した用事じゃなかったし」
「本当に」
「本当だよ、グレンジャーは心配性。僕のことはいいから今は自分の体治すことを考えてね」
「………分かってるわ」
苦笑しながら言うに、ハーマイオニーは大人しく返事をした。
今はハーマイオニーの方が大変な状況なのだから…。
「じゃあ、僕はこの本を教授に返しにいってくるから。そのうちポッター君達も来ると思うし…」
「…」
「大丈夫だよ、グレンジャー。グリフィンドールに厳しい教授でも本を返すくらいで減点なんかしないって。それに減点されてもあとで取り返せばいいしね」
「スネイプ先生にそんな態度とれそうなのはだけよ」
くすりっとハーマイオニーが笑った。
ハリーやロンならば、あきれ返ったり顔を顰めたりするだろうが、ハーマイオニーはを信用しているようだ。
が大丈夫だと言えば、それを信用することが多い。
最も、の大丈夫はあまりアテにならないことが多い。
特に自身の事に関しては…。
は本を持って医務室を後にした。
次に向かう先はセブルスの部屋…なのだが…。
時間がズレはじめている…?
この後は、ジニーが日記をトイレに捨ててハリーが拾う。
そして………ハーマイオニーが石にされ……。
私は、それを平気で見ていられるだろうか…?