秘密の部屋編 49
マクゴナガル先生に校長室に連れてこられ、マクゴナガル先生はハリーとをその場に残してそのまま行ってしまった。
ダンブルドアの姿は校長室には見られない。
はここに来るのは初めてではない。
だが、ハリーは周りにおいてあるものが珍しいのかきょろきょろしている。
歴代校長の写真が並んでおり、写真の中の人物はすやすやと寝ているか、どこかに遊びに行っているのか姿が見えない。
ハリーは組み分け帽子の置いてある場所に視線を移していた。
「ポッター君?」
ハリーは組み分け帽子をそっと手に取る。
「僕……組み分けで、スリザリンに相応しいって言われたんだ」
でも、ハリーの寮はグリフィンドールである。
ハリーの組み分けは他の生徒と比べて比較的長かった。
「確認してみたい……。僕はグリフィンドールで本当によかったのかな…?」
「どうして…?」
は問う。
ハリーが何を言いたいのかなんとなく分かる。
サラザールの血を引く者に現われるはずのパーセルマウス。
ハリーにはそれがある。
もし、本当にサラザールの子孫だと言うのなら…グリフィンドールではなく……。
「僕はパーセルタングなんだよ…」
「うん、知ってる、それで?」
「本当はスリザリンに行くべき……だったのかもしれない……」
「でも、スリザリンには行きたくなかったんでしょう?」
はハリーの手から組み分け帽子をそっと取る。
その組み分け帽子をハリーの頭にそっと被せ、
「自分で確認してみればいいよ、ポッター君」
でも、その帽子が答えをくれるとは限らないけどね…。
帽子の答えは恐らく今も昔も変わりがないだろうから。
帽子を再び被ることで納得できるのならば、もう一度聞いてみればいい。
はじっとハリーを見る。
ハリーは目をつむって帽子を被り帽子と会話をしているようだ。
そういえば、私の時は問答無用でグリフィンドールだったな…。
は自分の組み分けを思い出す。
組み分け帽子の問答無用さに思わず帽子を放り投げたほどだった。
「違う……!…間違っているのはあなただ…」
ハリーは組み分け帽子を複雑そうな表情で頭からとり眺めていた。
ゆっくり顔を上げてに目を向ける。
心細そうな表情だ。
「、僕はグリフィンドール生だよね。スリザリンになんか相応しくないはずだ!僕がスリザリンで上手くやれるなんて…!」
「ポッター君…」
「僕はパーセルマウスだけど、スリザリン生じゃないんだ」
「うん」
「だから、僕じゃない…。僕はグリフィンドール生だ。スリザリン生になんかなりたくない、スリザリンの継承者なんかじゃ…!」
「うん、分かってるよ」
はハリーの頭をなでてやる。
身長はとハリーはそれほど変わりがない。
今のはもとの姿の身長と同じ高さであるが、比較的小柄なハリーとそう変わらないとなると複雑な気分だ。
ハリーから組み分け帽子を受け取って、元の場所に戻す。
くけっ
おかしな泣き声が聞こえてハリーがぱっと表情を驚きのものに変える。
もハリーもその声の聞こえた方を見る。
そこには羽のいくつかがボロボロになった深紅の鳥…不死鳥フォークスの姿。
ぼぅっ
突然フォークスが火に包まれる。
ハリーは驚いて一歩後ろに下がる。
もその光景には驚いていた。
ただ、ハリーとは違う驚きだったが…。
「…。僕…どうしよう…?ダンブルドア先生の鳥…」
「大丈夫だよ、ポッター君。多分、燃焼日だから…」
「燃焼日…?」
不安そうなハリーにはにこっと笑みを見せる。
「そろそろじゃったからの…。早く済ませるようにとは言っておいたのじゃが…」
ゆっくりと校長室の扉が開き、ダンブルドアが入ってくる。
いや、戻ってきたと言うべきか。
がちらっとフォークスのいたところに積もっている灰を見ていると、その灰がもこもこと動き出す。
「ハリー、不死鳥は死期が来ると自らの体を炎で浄化して、そしてまた新たな命として蘇るのじゃよ」
「ほら、ポッター君、見て」
が灰の方を指す。
もこもこと動いている灰の山から小さな、まだ羽根の生えてない小鳥が一匹。
不死鳥は死期が近づくと、最後の命を燃やすかのように灰となる。
そして灰の中から蘇るのだ。
きゅぃっ
小さな鳴き声を上げる小さなフォークス。
確かに生きて、生まれてきた声。
ハリーの表情が明るくなる。
「不死鳥は非常に美しい鳥じゃ。見事な紅と金色の羽に、自分よりも重いものを軽々と運ぶ。涙には癒しの力があり、相棒としてはどんな時でも信用に値する相手じゃよ」
ただのペットではなく、信用する相棒。
ダンブルドアにとってフォークスは大切なパートナーなのだろうと思う。
「さて…」
ダンブルドアはは部屋にある背もたれのある椅子にゆったりと座る。
まっすぐな視線でハリーとを見る。
その視線にハリーははっと、自分がどうしてここに来たのかを思い出す。
スリザリンの継承者かもしれないと疑われているかもしれないのだ。
不安に感じていたハリーだが…
ばたんっ!
慌てて扉を開いて入ってきたのはハグリッド。
は正直驚いた。
はっきりいって、はハグリッドにあまりよく思われていない…らしい。
なにしろ、ノクターン横丁でばったり会ってしまったことがあるので。
「ダンブルドア先生!ハリーじゃねぇです!」
しかし、合言葉が必要なこの校長室にどうやって入ってきたのか、ハグリッドは。
もしや、教師陣とフィルチ、ハグリッドには合言葉を教えてあるのだろうか…?
「ハリーのはずねぇです!ハリーは少し前まで俺と一緒に話をしていたです。ハリーにそんなことをする時間なんて…」
「落ち着くんじゃ、ハグリッド。わしはハリーが犯人だとは思っとらんよ」
ダンブルドアが落ち着くようににっこりと笑顔を見せる。
ハグリッドはダンブルドアの言葉にほっとしたように言葉を止める。
ハリーをちらっと見てにこっと笑顔を見せ、に目を留めると複雑そうな表情になるハグリッド。
としては正直な表情をありがとう、という気分である。
「そうですかい…。すみませんで、俺は少し勘違いを…」
ハグリッドはそのまま気まずそうな様子で出ていった。
どうやらハリーの無実を訴える為だけに来たようだ。
それでも、ハグリッドが来てくれたことでハリーも幾分か安心した様子に見える。
「あの…、ダンブルドア先生は僕が犯人じゃないと思っているんですか?」
ハリーが遠慮しながらも聞く。
「思ってはおらんよ、ハリー。じゃが、君には話したいこと…尋ねたいことがひとつある」
「尋ねたいこと…ですか?」
「そうじゃ。には以前一度聞いたがの」
「え…?」
ハリーが驚いたようにを見る。
はダンブルドアが何を言いたいのか分かった。
おそらくあれだろう。
「ハリー、わしに何か言いたいことはないかの?どんな些細なことでもいいんじゃ」
ダンブルドアは強制しない。
ハリーはダンブルドアの言葉に考え込む。
ちらっとハリーがの方に視線を向ける。
「も…、にも同じ事を聞いたんですか?」
ハリーの言葉にダンブルドアは静かに頷いた。
「僕は特に何もないって答えたよ」
「……そう」
「ただ…」
「ただ?」
そう、ただ付け加えはしたけど。
「現時点で一番怪しいのは僕だ、僕がパーセルマウスでなくても状況証拠として僕が最も疑わしい。だから、疑うならばまず僕から疑って欲しいってね」
「!そんな、は犯人じゃないよ!」
「でも今の状況はそれを否定できないでいる。真犯人が捕まらない限り、誰かが疑われ続けるのは仕方ないことだよ」
ハリーは迷ったような表情になる。
思い出すのは今までのことだろう。
少し間をおいて、ハリーは何かを決めたように顔を上げてダンブルドアを見る。
「ダンブルドア先生…」
「なんじゃね?何か言いたいことでもあるかね?」
「いえ…」
ハリーは首をゆっくり横に振る。
「いえ、ダンブルドア先生……、何も、特に何もありません」
目を合わせようとせずにハリーはそう答えた。
ダンブルドアはそれに何も言わずに笑みを返しただけだった。
それはダンブルドアの優しさ。
それに、ここで大人が手を差し伸べてしまってはハリーの成長にも繋がらない。
今はまだ、ハリーはダンブルドアの手を必要としていないのだから無理に手を貸す必要なないとの判断なのだろう。