秘密の部屋編 48
くるくるっと羽ペン…ではなくシャープペンをまわしながら、は図書室で調べ物をしていた。
ルシウス対策である。
残りふたつのヒントが何なのか探らなくてはならない。
まだ明るいうちに禁書の棚に忍び込む訳にはいかず、適当な本を漁っている。
羽ペンは使いにくく、イースター休暇中に買ったペンとノートを使用している。
別に宿題じゃないからいいだろう。
「あ、!」
名前を呼ばれ顔を上げてみるとハリーが嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる。
「どうしたの?ポッター君。宿題の資料探し?」
「ううん、違う。ジャスティンを探しているんだ」
ハリーはの側できょろきょろと見回す。
はきょとんっと首を傾げていた。
ジャスティンという名に聞き覚えがない。
なんとか思い出そうと記憶を探るが…。
「えっと…ジャスティンって……誰?」
「え?!!」
思い当たらず問いかけてみる。
ハリーは驚いたようにを見る。
「…、ジャスティンのこと知らないんだっけ…?」
「とりあえず、そういう名前の生徒に心当たりはないけど…」
有名な人なのだろうか…?
でも、どこかで聞いたことあるような…。
あ…もしかして…。
ふと思い出す。
ジャスティン=フィンチ・フレッチリー。
ハッフルパフの生徒で…次のバジリスクの犠牲者だったはず。
「もしかして、ポッター君が止めた蛇の目の前にいた生徒のこと?」
「え?」
驚くハリー。
何か間違ったことでも言ったのかと思うが…。
「…は、他の皆と違うんだね…」
きょとんっとする。
違うって何が…?
「ロンもハーマイオニーも……僕があの時蛇を止めただなんて思ってなかったみたいだった。僕が違うって言ったから、それ以上はなにも言わなかったけど…。違うのに、信じてくれなかった気がしたんだ。僕は「やめろ!」って言っただけなのに…!」
魔法族のロン、勉強熱心のハーマイオニー。
二人ともパーセルタングが何を意味するかを知っている。
スリザリンの継承者が開くと言う秘密の部屋が開かれたこの時期に、パーセルタングだということが分かるのはタイミングが悪すぎる。
ハリーは自分がパーセルマウスであることを知らなかったとしても、最悪のタイミングで知られてしまったということだ。
「でも、ウィーズリー君もグレンジャーもポッター君がスリザリンの継承者だなんて疑ってないでしょ?」
「どうかな…?」
ハリーは自嘲気味な笑みを浮かべる。
「僕がパーセルマウスだって知ったときのロンとハーマイオニーは、どこか僕の事を恐れるような目をしてたよ」
「それは、誰もが持つ未知へのものへの恐怖だよ、ポッター君。別にポッター君自身のことが怖かったわけじゃないよ」
「でも!親友なのに!どんな時でも信じてくれるはずだよね?!どうして一瞬でも疑うような目をするんだ?!」
パーセルタングだからというだけで奇妙な目で、そして恐れられる目で見られるのがたまらないのだろう。
コリンという生徒の犠牲者がでている今、皆、スリザリンの継承者を恐れている。
パーセルタングを操るもの…その生徒こそがスリザリンの継承者なのではないか。
ハリーはそういう視線が嫌なのだろう。
はハリーの頭をぽんぽんっと撫でる。
「大丈夫。ウィーズリー君もグレンジャーもポッター君の事を疑ってないよ。僕だって、違うって分かってる」
投げやりにならないで欲しい。
に撫でられてハリーは落ち着いたのか、かるく息をついた。
少し笑みを浮かべてを見る。
「ってやっぱ不思議だ」
「そう?」
「うん…。時々すっごく怪しい言動とかあるけど…、僕が本当に困ってる時、僕が欲しい言葉をくれる」
「あ、怪しい言動って……」
確かに怪しい言動をしていることもあるかもしれないが…。
そう、さらっと言われると微妙な気分なんだけど。
「だから、僕はの事が好きだな」
にこっと笑みを浮かべるハリー。
純粋な笑顔にどきっとする。
何で、こうストレートに「好き」だって言えるのかな…?
多分純粋な好意だと思うんだけど…照れなく言えるのがすごいよ。
いや、嬉しいんだけどね。
ヴォルさんがひねくれてる分、ハリーがすごく純粋に見えるよ。
ヴォルさんに笑顔で「好き」とか言われたら、絶対に何か企んでるとしか思えないしね。
「…?」
黙ってしまったを覗き込むように見るハリー。
はハリーのストレートな言葉に照れていただけなのだが…。
ハリーの少し不安そうな表情に苦笑する。
「なんでもないよ。そのジャスティンって子を探しているんでしょ?」
「あ、うん。でも、ここにはいないみたいだから他を探してみるよ」
「頑張って、ポッター君」
「ありがとう、!」
笑顔で別の場所に向かうハリー。
先ほど本音を少し言ったからかどこかすっきりした表情だった。
は開いていたノートをパタンと閉じて、筆記用具を仕舞い込む。
せっかくなのでハリーと一緒にジャスティン探しでもしようかと思った。
何しろ彼は次の犠牲者なのだから…。
「追いかけますか」
図書館の本を棚に戻してノートと筆記用具をまとめる。
図書館にいる人も少なくなってくる。
元から少ないとも言えるが…。
テスト前でもないのに図書館に入り浸っているのは、宿題に追われている生徒か、勉強好きな生徒かのどちらかだ。
はゆっくりとグリフィンドール寮の方に向かっている。
ハリーの姿は影も形もなく、ハッフルパフ寮経由でグリフィンドール寮に向かえば会えるかと思って、のんびりと歩いていた。
いつもと違う道を歩いていると不思議な気分になる。
いつの間にか人気のない廊下に出てしまっていた。
少し警戒しながら進みながら、次の角を曲がる。
「…っ!!」
曲がり角の先にはふらふらと浮いている青白い幽体。
突然そんなものが目の前に現われれば驚くというものだ。
浮いていたのは首なしニック。
体がぴくりとも動かずふわふわと浮いているのは不思議な感じがする。
「あ………」
聞き覚えのある声にそちらを見れば、そこには一人倒れているハッフルパフの生徒と真っ青な顔で立つハリー。
「ぼ、僕じゃない……」
「うん、分かってる」
「え……?」
は倒れているハッフルパフの生徒の側にしゃがみこむ。
目を開いたまま硬直して体は冷たい。
開いた目をそっと閉じさせようとするが、表情までも固まっている。
完全な石化のようだ。
「ポッター君、何か見た?」
「え?あ………、僕が来た時にはもう…」
「そう…」
「あ、でも!」
「うん?」
「蜘蛛が……」
「蜘蛛?」
ハリーがちらっと視線を移動させる。
はハリーの視線を追うようにそちらに視線を移す。
そこには小さな蜘蛛とそれよりもう少し大きな蜘蛛が一列になってぞろぞろと外に逃げるように移動しているのが見えた。
その蜘蛛の数には顔を顰める。
うかつだった…。
今日だったとは…。
今日はヴォルを連れていなかった。
だからバジリスクの動きが全然分からなかった。
「おや〜?これはこれは…英雄ポッター。現行犯!!これは言い訳できないぞ〜!ポッターが犯人〜〜!」
愉快そうな声と共にばたんっと扉が開かれてでてきたのはピーブズ。
ピーブズはハリーをからかうようにハリーの周りをくるくると回りながら浮いている。
ピーブズの声が聞こえたのか、生徒達がなにかと集まってくる。
しまっていたはずの近くの教室のドアも開いて、実験途中だったのか、不思議な格好の生徒達も出てくる。
「ポッターがやった〜!この場にいたのはポッターだけ〜!犯人はポッター!」
「僕じゃない!!」
「次は石化じゃすまないぞ〜。気をつけろ〜、今度は絶対殺され…」
「五月蝿いよ、ピーブズ。」
ぴたっとピーブズのおしゃべりが止まる。
は無表情でピーブズを睨んでいた。
ピーブズが五月蝿いから怒っているわけではない、油断していた自分が許せないだけなのだ。
だがピーブズもハリーも他の生徒もそうだとは思わず、ピーブズの言葉には怒ったのだと思った。
「ポッター、、おいでなさい」
すっとマクゴナガル先生が前に出てくる。
ついてくるようにと視線で訴える。
ふぅ…とはため息をついて、ハリーに行こう、と肩を叩く。
マクゴナガル先生はその場にいたほかの先生達に目配せしてその場を任せる。
周りの生徒達の視線はハリーとに集中する。
ハリーは気まずそうに、は無表情のままマクゴナガル先生についていく。
「僕じゃない……。だっての方が僕より怪しいのに……」
ぽつりっとハリーが呟くのが聞こえた。
は苦笑しながら、ハリーの背中をぽんっと軽く叩く。
びくっとハリーは顔を上げてを見る。
「そう、一番怪しいの僕。ポッター君は違うよ、だから安心していい」
「あ……。」
にこっと笑みを浮かべて言ったにハリーはショックを受けたような表情になる。
自分が疑われている時に、自分よりも怪しい人物がいる。
そいう時により怪しい相手に全てを押し付けてしまおうと考えるのは当然の事だろう。
「ご、ごめん!僕、が犯人だなんて思ってない!」
少しでもを疑った自分をハリーは恥じた。
これでは、自分を疑っている人たちと変わりがなくなってしまう。
「いいんだ、別に。寧ろ僕を盲目的に信用しないで欲しい。怪しいときには調べて、疑って構わないんだ。それはポッター君自身の身を守ることに繋がるからね」
好意を抱いてくれることは嬉しい。
友人であるとも思っている。
けれど……この先は全てを知っていながらもハリーが悲しむ出来事が分かっていてもとめることはしない。
だから、の行動が正しいと信じないで欲しい。
私はハリーの味方であるとは言い切れない存在だから…。