秘密の部屋編 45
かつかつっと足音がしてはっとなるとヴォル。
ヴォルは急いで猫の姿になり、といえば…石化した少年、コリンの側にまだしゃがみこんでいた。
「ミスター・…、何を、しているのです?」
かつんっと足音が止まったと思えば震えたような声がかけられる。
はゆっくりと声の主を見る。
そこには目を開き驚いたようにを見るマクゴナガル先生。
「先生…、コリン=クリービー君は石化しているようです」
はゆっくりと立ち上がりマクゴナガル先生に向き合う。
この状況では確実に疑われているだろうと思う。
「どうして、ここにいるのですか?」
マクゴナガル先生は驚きを抑えて落ち着いたように問う。
目には恐怖などの感情はない。
いつもの淡々とした様子だ。
「眠れないで起きていたら、側にいたはずの僕の猫がいなくなっていたんで探しに来たんです。そしたら何か倒れる音と光が見えてきてみたらクリービー君が倒れていたと言うわけです」
「そう…ですか…」
どこかほっとした様子のマクゴナガル先生。
やはり不安があったのだろう。
「どうしたのかね?ミネルバ」
突然の声に驚くとマクゴナガル先生。
ヴォルは気付いていたのかすっと冷めた目で声の主を見ていた。
そこにはやはりというか、穏やかな笑みを浮かべたダンブルドア。
マクゴナガル先生はダンブルドアをみてから、ちらっとコリンのほうに目配せをする。
ダンブルドアにはそれだけで十分だったようで、
「ミネルバ、彼を医務室に…」
「ええ、そうですね…」
「それから、。こんな時間に出歩いてはいかんよ、君も医務室に戻りなさい」
「はい、分かりました」
マクゴナガル先生がひょいっと軽くコリンを抱き上げたのに少し驚くが、恐らく何かの魔法を使ったのだろうとも思う。
医務室までコリンを運ぶマクゴナガル先生についていく、ダンブルドア、そしてヴォル。
「、無理はいかんと言ったじゃろう?」
「分かってますよ」
歩きながら話すダンブルドアと。
心配してくれるのは嬉しい。
でも、やはり動かざるを得ないのだ。
「今回は特に怪我をしていませんし、大丈夫です」
にこっとが笑みを見せればダンブルドアは首を横に振る。
怪我ないとかという問題ではないと言いたいのだろう。
「もう少し危機感を持ってくれると助かるんじゃがの…」
「十分危機感は持ってますよ」
「それじゃあ、足りないんじゃよ。慎重すぎるくらいがいいんじゃ、。自分を過信してはいかん」
「過信などしていませんよ。でも、知っているのに動かないのは後で後悔する事になるから……」
そこで丁度医務室に到着する。
マクゴナガル先生がコリンをベッドに寝かせ、マダム=ポンフリーを呼びに行った。
カメラを構えたまま、瞳を開きピクリとも動かないコリン。
はじっとコリンを見る。
コリンとは殆ど面識がない。
ハリーの写真を元気よく取りまくって追っかけ回っているのをちらっと見たことはある。
「まぁまぁ…どうしたのですか?」
マダムがどうやら来たようで駆け寄ってくる。
がコリンの寝ているベッドの横に立っていることに驚き
「まぁ!!!何をやっているのですか?!!貴方は自分のベッドに戻りなさい!!」
びくっとなり、は慌てたように自分のベッドに戻る。
さすがのでも怖かった。
これだけの迫力がなければ長年ホグワーツの医務室を預かってないだろうが…。
ベッドにもぐりこんでもやはり気になるので、コリンのいるベッドの方を見ている。
すでに隠しても意味ないと思っているのか、ダンブルドア達に隠す様子は見られない。
「アルバス…これは一体…」
マクゴナガル先生の言葉にダンブルドアは答えずにコリンのカメラをそっと手に取る。
かちっとフィルム部分を開こうとしたが…
ぼんっ
軽快な音がして中から煙のようなものが立ち上る。
完全に壊れているようだ。
「壊れておるようじゃの…。しかしこれで命を救われたようじゃな、コリンは…」
「アルバス…?」
「ミネルバ、気をつけねばならぬようじゃ。再びあの部屋が開かれたようじゃからの…」
マクゴナガル先生とマダムは驚いたように目を開く。
驚きだけでなく僅かに見える恐れ。
「『秘密の部屋』が開かれた…。でも誰が……?」
「問題はそこじゃないんじゃ。誰が…ではなく、どうやってじゃよ」
マクゴナガル先生はわからないと言うように少し首をかしげた。
でも、にはその意味はなんとなく分かる。
ダンブルドアは50年前、誰が秘密の部屋を開いたのかを知っていた…知っていなくても検討はついていたはずだ。
過去に一度開いた相手がいるということはその相手、もしくはその知り合い。
今はホグワーツにいない過去の生徒が『秘密の部屋』をどうやって開けたのか。
だがそれを問うということは、ダンブルドアは『秘密の部屋』がどこにあってどのような方法で開くのかを知らないのだろうか…。
「…」
ダンブルドアに名前を呼ばれはっとるす。
ダンブルドアはの方に少し近づき、にこりっと笑みを見せる。
「わしに何か言うことはないかの?」
その問いには驚く。
ヴォルでさえもぴくりっと反応した。
それは後にダンブルドアがハリーに問いかける言葉であり、50年前にダンブルドアがリドルに問いかけた言葉と同じ。
はじっとダンブルドアを見て。
「いえ、特にありません」
首をゆっくりと横に振る。
ダンブルドアに言える事はなにもない。
「そうかの……」
「けど…」
「何じゃ?」
はちらりっとコリンに視線を移しすぐにダンブルドアをまっすぐ見る。
「現時点で一番怪しいのは僕。過去に『秘密の部屋』を開いたのが誰だと史実に残っていても、過去と同じ様に開けるとは限らない。過去の犯人を疑う前にまず僕を疑ってください」
は自分の胸に右手を当てる。
ダンブルドアはにこりっと微笑む。
「人を害そうとする者は、誰かをそうまっすぐな視線で見ることはないんじゃよ、。君は犯人ではない」
ダンブルドアはきっぱりとそう言い切った。
は驚いたように目を開く。
確かに人は何か後ろ暗いことがある時は相手に対してまっすぐな視線を向けない。
たとえ、相手をちゃんと見ていてもどこか気を散らせているように見えるものだ。
ダンブルドアは長年生きているからか、その点の違いや感覚はよく分かる。
隠し事をしている相手の事は分かるのだろう。
「他に何か言いたいことはあるかの?」
「いえ…特にありません」
ダンブルドアには敵わない。
はそう思って苦笑するしかなかった。
分かっているだろうに、が何かを知っていて隠しているだろう事が分かっているだろうに、ダンブルドアは問い詰めない。
だからこそ、ダンブルドアは皆に頼られる存在でいるのだろう。
マクゴナガル先生とダンブルドアはコリンの様子を少し見てから、ここから出て行った。
マダムも何か用を思い出したらしく、今医務室にはとヴォル、そしてハリーと石化したコリンだ。
「ところで、ポッター君。もうダンブルドア先生達はいないから寝た振りやめてもいいよ?」
は布団を被って背を向けているハリーに声をかける。
ハリーの肩がぴくりっと反応してもぞっと動きながら、体の向きを変える。
「どうしてわかったの…?」
少し驚いた様子でハリーが尋ねてくる。
どうして分かったというより知っていた、だ。
ハリーは寝た振りをしていて話を聞いていたのだろう、と。
「勘みたいなものだよ。でも、いい加減寝ないと明日が辛いよ?」
「う…ん」
寝る気がないようにもぞっと動くハリー。
何かを言いたそうにの方を見ている。
「どうしたの?ポッター君。何か……?」
「…分かったんだ」
「ポッター君?」
ハリーはゆっくりと上半身を起こす。
自分の怪我をした腕を眺めて、そして視線をに移す。
どこか困ったような表情をしている。
「ホグワーツ特急に乗れなかった…あの柵を抜けられなかった理由、ピクシー達が暴れた理由、今日のクィディッチで僕の箒とブラッジャーがおかしかった理由」
ハリーはぽつぽつと話し出す。
ドビーがつい先ほど来て、自分がハリーを家に帰す為にそれをやったのだということ、そしてドビーが『秘密の部屋』について何か知っているということ。
途切れ途切れだが、このことを知っていたには十分だった。
話し終えたハリーは黙り込んで俯く。
「ごめん、…」
「ポッター君?」
謝罪の言葉を述べたハリーには首をかしげた。
どうしてハリーが謝るのか?
「ドビーは僕を狙ってピクシーたちを暴走させたのに…あの時は倒れなければならい程のことをした…。僕のせいで…ごめん」
ハリーに怪我をさせて家に帰そうと、ドビーが暴走させたピクシー達。
だが、それはには全く関係なかったはずの事。
ハリーは罪悪感を感じているのだろう。
「謝る必要なんてないよ。だってポッター君のせいじゃないでしょ?ポッター君が謝るなら僕も謝らないとならないよ」
「…?」
「だって、この間の『ファンダール』は僕がいたから皆が襲われそうになったんだからね」
「この間…?」
『ファンダール』の件はルシウスがへと与えた試練。
あんな危険な獣に誰も関わらせたくなかった。
でも時間と場所がそうさせなかった。
「あれ、ルシウスさんが僕を試す為にやったことらしいからね」
「ルシウス…マルフォイ?」
「うん、そう。……?ポッター君?」
ハリーがとたんに顔を顰めた。
「ねぇ、…」
「何?」
ハリーは顔を顰めたまま、どこか納得いかないような表情でを睨むように見る。
はにこっと笑顔で答える。
「って、何で大人の人だとファーストネームで呼ぶの?しかも!マルフォイの父親なんかを!!」
「なんか…って、ポッター君、それはちょっと酷…」
「それだけじゃなくて、ロンの両親もいつの間にかファーストネームで呼んでるし!しかもジョージもファーストネーム呼びだし!」
「モリーさんとアーサーさんは、そうしないと呼ぶのに区別がつきにくいからで…、ジョージ先輩は脅されたからってポッター君も知ってるはずだけど…?」
「でも、納得できない」
きっぱりとハリーは言い切る。
納得できないと言われても…。
困る。
どうしようもない。
「でもね、ポッター君。大人の人だからって全部が全部ファーストネーム呼びじゃないよ?ホラ、先生方とか」
「先生は先生だから別。」
「先生以外でもさ…えっと……」
よく考えてみれば学校外での大人の知り合いは少ない。
いるとすれば、先ほどハリーが言った3人のほかに、同居人のリーマス…くらいか?
ノクターン横丁の知り合いはこの際省こう。
リーマスに関しては脅され…もとい頼まれて、ファーストネーム呼びで丁寧語なしになっている。
やばい、先生方以外の大人の人って、皆ファーストネームで呼んでしまっている。
「ってやっぱり秘密多過ぎ。友達なんだから、隠さないで頼って欲しいよ…」
ハリーが寂しそうに呟く。
ファーストネームで呼んでくれないのも何か理由があるのだろうとハリーは気付いているのだろう。
でも、はその理由を話さない。
「それはポッター君にも言えることだよ。僕に隠れて何かやってることとかあるでしょ?お互い様」
は無理にハリー達の行動に首を突っ込むつもりはない。
だから『ポリジュース薬』のことは知らないことになっている。
「僕達が隠しても、は知ってるように見えるから全然お互い様じゃないよ……」
ハリーがぽつりっと小さな声で呟いた言葉はには届かず、しかしヴォルには聞こえたようだった。
二人の会話を黙って見ていたヴォルはその言葉に何の反応も示さなかった。
ハリーは「おやすみ」と短く言って布団にもぐりこんだ。
は苦笑しながらも「おやすみ」と返して布団にもぐりこむ。
次は何が起こるんだっけかな…と思いながら…。