秘密の部屋編 43
魔法薬学の授業も終わり、今日はこの授業が最後なのだが…は医務室に向かわずにセブルスの元に向かった。
ちらっと、ハリー達に目配せをしてから…。
ハリー達がすごく不安そうにを見ていたがそれには苦笑を返しただけ。
「教授」
授業の片づけをしているセブルスに声をかける。
セブルスは不機嫌そうにだが、ちゃんとを振り返る。
そういうところが優しいのだが…、周囲には誤解されがちである。
「なんだね、。授業は終わった、早く医務室に戻りたまえ」
「用事が済んだら戻りますよ。ちょっと教授に頼みがあるんです」
「何だね?」
眉間にシワを寄せながらもきちんと尋ねてくれる。
は苦笑しながら、目的の事を言う。
「教授は『最も強力な魔法薬』の本を持ってますか?」
「……………持っているが、それがどうした?」
セブルスの眉間のシワが深くなる。
恐らくが次に言うだろう言葉など想像がついているだろう。
だからこそ不機嫌さが増している。
「その本を貸して…」
「駄目だ。」
が最後まで言う前に却下される。
即答されたことには少しむっとするが…すぐににやりと笑みを浮かべる。
セブルスのローブを掴み、少し背伸びをしてセブルスの顔を覗き込む。
「……オレンジ色のローブ」
「…、何を…?」
「真っ白なさらさら髪に、真っ黒タイツ……それから…紅いローブに変化した時にカエルチョコの大群が…全身チョコだらけでそれ以来カエルチョコを見るだけで…」
「っ!!!」
慌てたようにの言葉を遮るセブルス。
顔色は…もとからよくないがかなり焦っている様に見える。
はセブルスの反応ににっこりと笑みを浮かべる。
「それで、教授。『最も強力な魔法薬』の本、貸してくれますよね?」
「…っ!」
じろりっとを睨むセブルス。
だが、が持っている手段はこれだけではないので余裕がある。
まだまだネタはあるようだ。
「…………ルーピンか」
「さぁ、どうでしょう?」
リーマスも昔の話をたまにはしてくれるがやはり親友の裏切りが辛かったのか…いくらジェームズ達が記憶としているとしても…話すときにたまに辛そうな表情を見せるのではあまり聞かなかった。
つまりは、セブルスの弱みなどの情報源はジェームズである。
面白おかしく話してもらったのだ。
それはもう沢山の話を……。
「待っていろ」
「あ、ついでに二角獣の角の粉末と毒ツルヘビの皮の千切りも下さい」
本を取りにいこうとしたセブルスは立ち止まって、の方をぎろっとひと睨み。
その睨みが結構怖いと思っただったが、セブルスはそのまま何も言わずに奥の自分の部屋の方に言ってしまった。
流石に材料までは無理かな…?
こうなれば、私がノクターン横丁でちょっと調達してくるべきか…。
本来ならばハリー達が自力で手に入れるだろうが、本を借りる時点で借りる相手が違ってしまっていることから材料くらいの手助けなら構わないだろうと思う。
むしろ薬が完成しなかった時の方がやばい。
すぐにセブルスは戻ってきて本をの頭に置く。
ぽすんっ
「叩かないで下さいよ…。教授」
「いらんなら構わんが?」
「いえ!ありがたく借りさせていただきます!」
は頭の上から本を手に取ると、本の上に小さな袋が二つあることに気付く。
中に何かが入った小さな布袋は、皮の紐できちっと口が閉まっている。
袋に小さい字で書いてあるのは…
「『二角獣の角の粉末』と『毒ツルヘビの皮の千切り』…?って、教授これって…?!」
「必要なのだろう?」
驚いたように顔を上げる。
まさか本当に譲ってもらえるとは思わなかったのだ。
あの脅しがそんなに効いたのだろうか…?
「…」
「なんでしょう?」
ぽんっ
セブルスはの頭に手を置くとくしゃりっと頭を撫でた。
きょとんっとはセブルスを見る。
セブルスはを複雑そうな表情で見ていた。
不機嫌そうな、心配そうな…それでも優しそうな目で…。
「無茶だけはするな」
本当にのことを心配してくれているようである。
心配していても止めないのはの性格を思っての事だろう。
止めてもは止まらないと分かっているから。
「ありがとうございます、教授」
はそれに曖昧な笑みを返すだけ。
心配はかけていると思う。
放っておけばいいものを、セブルスはそんなことをしない。
でも、自分は危険を承知でもやらなければならないと思うことがある。
「グレンジャー、これ」
医務室に戻る前にグリフィンドールの談話室に寄った。
とりあえず渡す相手はハーマイオニーでいいだろう。
ハーマイオニーだけでなく、ハリーもロンも一緒にいるので丁度いい。
「!どうしたの?怪我はもういいの?」
「あ、うん…。まだ医務室通いしないとならないけどね、これ渡しにきただけだから…」
に差し出された本を見て驚く3人。
本来禁書の棚にあるはずの本である。
「…、まさか本当にあのスネイプから…?」
ハリーは信じられないように本を指す。
普段のいじめられようからはその反応は仕方ないだろうが、は苦笑しながら頷く。
「うん、だからあまり汚さないようにっていうのと、持ってるのを教授に見つからないようにしてね」
ハーマイオニーがゆっくりと、しかしいまだ信じられないように本を受け取る。
ロンはセブルスがよほど嫌いなのか顔を顰めている。
欲しかった本とはいえセブルスに借りたというのが嫌なのだろう。
「ハリーに聞いたんだよ、探してる本があるってね。魔法薬関係なら教授が一番詳しいからね。あと、これとこれもね」
はハーマイオニーに『二角獣の角の粉末』と『毒ツルヘビの皮の千切り』を渡す。
ハーマイオニーはそれを受け取り、さっそく『最も強力な魔法薬』の本をぱらぱらめくる。
比較的速読が得意なのか、ハーマイオニーはすぐに目的のページを見つけて、ぶつぶつと言いながら読み始める。
「それにしても、よくあのスネイプなんかから本を借りられたね…。僕は君を改めて尊敬するよ」
ロンがため息をつきながらを眺める。
ロンのセブルス嫌いは、ハリーがいじめられているからというのもあるが、双子の兄達に散々グリフィンドールのいじめぶりを聞かされていることと、自分もよく減点されてしまうからである。
「そう?教授も話してみると結構面白い人だよ?」
「そんなこと言うのは君だけだよ。信じられないよ、全く。グリフィンドール生のくせにスネイプから本を借りて…、しかも減点されないなんて…」
「ま、要領のよさ?」
「なんだよ、それ…」
「ロン、無駄だって。は変わってて特別だからだよ」
「うあっ、ポッター君、その変わっててってどういう意味さ?」
「そのままの意味だよ」
自覚ないの?とハリーは目で尋ねてくる。
ないわけではないが面と向かって言われると悲しいものがある。
「ちょ、ちょっと!!」
「わっ!な、何?グレンジャー…」
突然ぐいっと腕を引っ張られる。
ハーマイオニーが驚いたようにを見てるが…
驚いたのはこっちなんだけど…。
ぽつりっと心の中で呟いてみる。
「、私達がしたいことなんで分かったの?」
「へ…?何が?」
「この『二角獣の角の粉末』と『毒ツルヘビの皮の千切り』がなんで必要だってわかったの?」
ハーマイオニーは二つの小さな袋を掲げてみせる。
勿論この会話はちゃんと小声で話されている。
周りに聞かれていい話ではないからだ。
はにこっと笑みを浮かべる。
「さて、何ででしょう?」
知っていたからとは言えない。
の答えにハーマイオニーは少し顔を顰めたが…。
「まぁ、いいわ。どうせのことだからどこかで私達の話を聞いてそこから推理したかなんかでしょう?」
「あれ?いいの?問い詰めなくて…?」
「いいわよ。だって、この本みてこの二つの材料だけが入手困難なものだったもの。楽に手に入ってよかったわ」
「グレンジャーって、真面目一直線かと思っていたけど、意外とアバウトなんだね」
は意外そうにハーマイオニーを見る。
こそこそ話しているせいか、ハリー達には聞こえていないようだ。
ハリー…いやロンが聞いたならば、またに不振を抱くことになるだろう。
ハーマイオニーは一年の最初の頃、に友人として接してもらった嬉しさを忘れていない。だからを信用しているのだろう。